繰り返される転生劇〜喜劇こそ、笑いこそ世界を救うたった一つの手立てではないかっ!〜

清水花

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エピソード・オブ・お嬢ちゃん

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「なっはははは! お? もうこんな時間か。兄ちゃんボウズ、今日はもう泊まってけよ」

「良いんですか?」

「さすがにこんな夜更けに森の中を歩いて帰れなんて、俺も言わねえぜ? とは言ってもだ。寝る場所がねぇんだなコレが」

「タケルさんとパティ君は、私の部屋を使って? 私はこのテーブルで眠るから」

 なんとまぁ。

 そんなに気を使わなくていいのに、パティはじろうと一緒にその辺の床にでも寝せておいて、俺とアリシアの二人で部屋を使えばなんの問題はないのに……アリシアは本当に気遣いのできる良い子だ。

「んじゃあよ、ちっと部屋作ってくっからよ、寝る準備でもしてて待っててくれや」

 言って、ドイルさんは家の外へと歩いて行った。

 部屋を作る、とは……?

 それから寝る準備を整え、アリシアとパティと三人でじろうを愛でながら遊んでいると、ドイルさんが帰ってきた。

「出来たぜー。急場しのぎだから細かいところは作り込めてねぇが、まぁ、一晩寝るくらいなら問題ないだろ」

 まだ、30分ほどしか経っていないと思うんだが……。

 そこはさすが現役の木こりとでも言うべきか、さすがの仕事の速さだ。

 話し合いの結果『年齢的にちょっと』という理由で俺だけが外の新築の部屋で眠ることになった。

 当初の計画とはかなり違った結果になってかなり悔しい思いだが、人生そう上手くはいかないものだ。今回は諦めよう。

 もし計画通り事が運んでいたとしても、俺は絶対に次の日の朝を迎えることが出来なかっただろうし……。

 それよりも、ちゃっかりアリシアの部屋で眠る事になったパティとじろうを横目で睨みながら、俺はおやすみなさい、っと感情を押し殺した笑顔で言って家の外に出た。

 正直言って今でも諦めはつかないが、うだうだ考えてたって仕方がない。ここはもう考え方を変えよう、木の温もりを感じながら、優しい木の香りを感じながら新築の部屋で眠れるんだ。

 こんな幸せな事はそうそうあるもんじゃない。

 むしろこっちの方が良かったのだ。新築の宿屋、しかも無料なのだ。

 大樹の中の通路を抜けて、森の夜の寒風と虫のさざめきを肌で感じながら辺りを見渡す。

 が、

 何も見当たらない。

「あっれーおかしいなぁ。てっきり家のすぐ隣に作ってくれたとばかり思っていたけれど、勘違いだったのかな……?」

 不思議に思いつつもドイルさんの家の周りをぐるりと一周して、俺が泊まる筈の新築物件を心配だけが込み上げる胸中で必死に探す。

「…………」

 えっ? えっ? 無くね?

 焦り、窓から家の中を覗いて助けを求めるがテーブルの上には小さなランプだけが置かれていて、今にも消え入りそうな心許ないぼんやりとした明かりを灯しているのみで、部屋の中は闇に包まれている。

 両目の涙腺から悲しみのそれなのか、恐怖のそれなのかが、勢いよく溢れ出す。

「パティくーん……アリシアちゃーん……ドイルさーん……じろうー……」

 静寂をかき消すように、みんなの名前を呼んではみたが当然の如く、返事はない。

 名前を口にした事で、むしろ俺の吐息で窓が曇り部屋を照らすランプさえ見えなくなってしまった。

 視界まで塞がれたか……。

 途方に暮れ、今度は反対周りにぐるりと一周して正面、玄関口に戻ってきた。

 と、そこで足元の暗がりのせいで何かにつまずき、バランスを崩した。

 二、三歩片足でトントンと前に進んでから振り返り、何につまずいたのか闇の奥を確認する。

 外に出て随分と時間も経っていたので、俺の瞳孔もそれなりに開いていたらしく闇の奥に潜むその正体を掴むのにそう多くの時間は掛からなかった。

「……箱?」

 町などでよく見かけるリンゴなどの果実が目一杯に詰め込まれている木製のコンテナ。あれを丁度半分ぐらいの長さで横一文字にぶった切ったかのようなシルエット。

 接近し、検証する。

 手触りと匂いから真新しい木材を使用したものだという事が分かった。

 片手で楽々と持ち上がる重量からかなり薄い木の板を使用している事が分かった。

 箱の周りをぐるりと一周した結果、だいたいではあるが箱のサイズ感も掴む事ができた。おおよそ高さ70センチ、幅70センチ、奥行き2メートルほどの長方形である事が分かった。

 また、天井1枚に壁3枚という妙な形であり一辺だけ壁が無く、大きく口を開けている。例えるならば角は立っているが遠い北の雪国などでよく見かける、かまくらのような形状。

 今、ここでかまくらと比喩したのは俺の深層心理の中で受け入れ難い思いがあるからである。

 それは、今、俺の目の前にある箱を俺は町の至るところで見た事があるからで、その使用方法というか、使用者と同じ扱いになってしまいそうなのでこの箱をかまくらと比喩したわけだ。

 恐らくは俺の気のせいであり、早とちりなのであろうが、俺が町でよく見かけるこの箱の使用者は常に愛くるしく飼い主に尻尾を振る御犬様ではなかったか?

 それこそ、ペット界においてじろうとその人気を二分する二大勢力の片割れ、御犬様では。

 しかし、これはいったいどういう事なのだろう?

 単純に時間的な制限があった為に、このような形の物しか作る事が出来なかったという事であろうか?

 うん。そうなんだろう。

 この森の現役の木こりであるところのドイルさんと言っても、あんな短時間で立派な一部屋を仕上げるなんてさすがに無理があるのだ。

 むしろ力の限り頑張った結果がこの犬ーーーーかまくらを模したこれなのだ。

 それによくよく見てみれば、ちゃんと雨風が塞げるではないか。それが、テントも何もない野宿に比べればどれだけ素晴らしいことか(素敵な木のお家がすぐ隣にありはするが)

 ドイルさんでなければ板を一枚地面に敷いただけのとても部屋とは呼べない代物になっていた筈なんだ。

 これは悪い中でも最高に良い、5ツ星の物件なのだ。 

 俺は邪念を押し殺し、足の方から箱の中へとずりずり入っていく。


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