繰り返される転生劇〜喜劇こそ、笑いこそ世界を救うたった一つの手立てではないかっ!〜

清水花

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エピソード・オブ・お嬢ちゃん

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「あぁ……フードか。確かにさっきの話を聞く限りにおいて、全くと言っていいほど関係なさそうだが実は関係あるっちゃあるんだな、これが」

「? どういう事?」

「エルフ族については色々と言い伝えはあるが、俺が中でも最も気にかけてんなぁ、魅了という能力よ」

「「「魅了?」」」

「そうだ。エルフ達には自分の魅力で相手を骨抜き状態に、自分の虜にしちまうって能力があるとされている。まぁ、それも当然根も葉もない噂でしかないんだが……。それに俺がアイシャに惚れたのは絶対に能力のせいなんかじゃないと信じたいところではあるわな。まぁ、俺が初めてアイシャと会ったのはまだほんの子供の頃だったから、魅了の能力が本当に発揮されたのかどうかもよくわからねぇしよ。そもそもアイシャ自身が俺が惚れ込む程にワイルドすぎるべっぴんさんだからな。だがまぁ、そんな能力があるにせよ無いにせよ用心するに越した事はねぇ」

「失礼な言い方ですが、アイシャさんはそんなに美人なんですか?」

「「とんでもなく!」」

「じゃあ、そんな美人なアイシャさんの娘であるアリシアもその……美人なんですか?」

「とんでもなく!」

 と、ドイルさんは自信に満ちた表情で鼻息を大きく漏らしながら腕組みして言う。

「お母さんは確かに美人だけど、私は美人ではないでしょ……普通でしょ」

「いやアリーお前本当、半端ないって! めっちゃ美人やって! フード無しで町行ったらめっちゃ男寄ってくるって!」

「ド……ドイルさん?」

 いったいドイルさんはどうなされたのだろう……。

「いけねぇ、いけねぇ。取り乱しちまった」

 言って、ドイルさんは首をぶんぶんと横に振る。

「まぁ、とにかくそう言う事だ。魅了って能力とアイシャ譲りの端正な顔立ちが相まって、アリーに変な虫が着いちまう可能性があるからな。可能性っつうか、決定事項っつうかな。最近じゃストーカーだの何だのと物騒だからな」

「バカみたい。そんな事あるはずないじゃない。何でお父さんはそこだけ心配性なのよ、そこも普段みたいに『お前にゃ虫は寄りつかねぇ!』でいいのに。あ、でもそれだと意味合いがちょっと……」

 なるほど。じゃあ、あのフードは娘を心配する親心の現れってところなのかな?

 変な虫が着かないように、愛娘の身に危険が生じないようにする為の措置。

 大事な愛娘に対する愛情しか見えない心温まる話だ。

 だけど、ドイルさんちょっと大袈裟な気がするなぁ。いくら目に入れても痛くないほど可愛い可愛い愛娘だとしても、それはドイルさんの立場、視点から見たアリシアであって世間の男性からしたら意外とアリシアの外見は一般のそれって事はなくもない話だ。

 試しにドイルさんの視点に立って考えてみると、まず自分の愛する妻に似ているってだけでアリシアの持ち点は50点という高ポイントからのスタート。更にそれが自分の可愛い可愛い大事な愛娘ともなれば更に50点が追加されてもはや持ち点は100点に、そしてトドメとばかりにありもしないような魅了の能力が上乗せされれば180点くらいは優に叩き出す結果となるのである。

 誰でも自分の子供が一番可愛いのである。

 まして、一人娘ともなれば余計に世間に対して盲目的になりがちなのである。

 つまるところ、こう言っては何だがアリシアの外見は本人も言っている通り恐らく普通であり、平凡なのだ。

 ちなみに俺も嫌になるほど長年旅をしてこの世界の各地を隅々まで見て回って、様々な人達と出会い触れ合って来たが、自分好みの一番可愛い女の子っていうのはベネツィの町の武具屋でアルバイトをしているカトレアちゃんなのだ。

 いつも元気で店に活気と華を添えていて、武具を買いに来る怖い顔つきのゴッツイお客さんもカトレアちゃんの笑顔を視線の端で見たときでさえ、途端に二度見を決め込んで凝視してしまう。そうなってしまうともはや手遅れで、次第に屈強な顔面の筋肉が次々に弛緩し始め、そして長きに渡って深く深く刻み込まれた崖の如き眉間の縦皺たてじわも天変地異クラスの地殻変動にてすっかりとその溝を埋めて今やうっすらとその名残を残すのみとなる。鼻の下も限界を軽く超えて伸びきってしまい、ややしゃくれ気味となってしまう。そうして変化し出来上がった男達の顔は来店前の時とは当然のごとく別人で、もはや誰が誰だか判別できない状態となってしまう。

 それについてこんな話がある。その昔、確か49回目あたりの転生の際、ベネツィの町を俺があてもなくふらふらと歩いているとギルドの仕事を請け負った仕事人が手付け金だけを受け取って行方をくらませるという事件が起こった。ギルド職員の若者数名は走って逃げる仕事人をもう目と鼻の先まで追い詰めたのだが、路地を折れた先の大通りにてその姿を見失った。正確に言えば見失ってはいないのだろうが、目の前にいるはずなのだろうがどうにも判別出来ない。ごったがえす大勢の男達が邪魔で手付け金を奪った男を見つけることができないのだ。一人の職員は叫ぶ『皆! 顔は覚えているよな⁉︎ 蛇のように鋭い目つきの大柄な男だ!』その言葉に他の職員達は自身の記憶の中にある顔を再確認して捜索を開始するがどうにも見つけられない。ごったがえす大勢の男達とは言ってもたかが数十人である、時間は掛かれど必ず見つけられる筈なのだ。焦りが見て取れるギルド職員の顔は次々と青ざめていく。確認しても確認しても皆、一様に同じ顔なのだ。顔面の筋肉が消え失せたかのようなしまらない顔付きで、とても幸せそうで、こちらのモチベーションさえ削ぐほどにほっこりとしているのである。奪われ失われていくモチベーションを何とか奮い立たせ大勢の男達をかき分け一歩一歩進んでいくギルド職員。だがそんなギルド職員に残されていた最後の力がついに失われたように動きが止まった。

 俺は彼等の背中を凝視する。

 とてもゆっくりとした動きで振り返ったギルド職員達。

 その様子といえば、青ざめた表情でもなく、肩を落とすでもなく、とても幸せそうなだらしなく伸びきったしゃくれ顔でいて、のらりくらりとその近辺を漂うようにして歩くゾンビのようであった。

 つまりこれがベネツィ七不思議の一つ《町に湧く幸せ顔の腐男子ハピネスゾンビ》の正体である。

 その後、興味本位でギルド職員が見たものを覗きに行った俺の意識はなぜだか失われ、次に気付いた時には闇の宿屋のベットの上だった。

「とにかく! だいたい家にお客さん呼んどいて、顔も見せないってかなり失礼な事だからね!」

 言って、アリシアは深々と被っていたフードを自ら取った。



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