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エピソード・オブ・お嬢ちゃん
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「私のおかげ……?」
「実は俺がワイルド土下座を決め込んだ時には、アイシャのお腹にはもうお前がいたんだよ」
俺も全く知らなかったが、と付け加えるドイルさん。
「え……」
「俺はな、ワイルド土下座やった後の満月の夜も約束の場所に通い続けてたんだ。アイシャはずっと姿を見せねぇけど、朝になるまでずっと待ってた。アイシャとの関係をどんな形でだって終わりにしたくなかったからな。それから何度目かの満月の夜、約束の場所にやってきてみりゃアイシャが花畑の中に座ってお腹をさすりながら幸せそうな顔してたんだ」
ドイルさんは天井を遠い目で見つめながら穏やかに語る。
「俺は走ってアイシャに駆け寄り訳を聞こうとした。だが、アイシャは俺の口の前に指を立ててこう言った『起きちゃうから』ってな。俺は何がなんだか訳が分からなかったが、黙ってアイシャの隣に座ってしばらく二人で満月を眺めてた」
「…………」
「しばらくしてから、妊娠している事を告げられたんだ。今まで一度だって見たことも無いようなとっても嬉しそうな笑顔でな」
「お父さんも……嬉しかった?」
「お? 当たり前だろ! なっはははははは!」
ドイルさんは声高らかに笑う。
「…………」
「アイシャが言うにはよ、父親にもう里から抜け出せないように家の中に閉じ込められていたらしい。毎日毎日泣いてばかりいたってよ。でもある日、お腹にお前がいる事をアイシャは知った。その事を父親に告げると父親は怒るでもなく、明らかに取り乱した様子で家から出て行ったらしい。その夜、父親はアイシャの部屋に訪れこう告げた『覚悟は出来ているのか』とな。アイシャはその問いに無言で強く頷くと
父親も無言のまま部屋を後にしたらしい。次の日の朝からアイシャは今まで通りの自由を手に入れ、あの日の満月の夜、俺と再開したってことだな。だからアリー!」
ドイルさんはアリシアの顔を覗き込むようにして、
「お前が再び俺とアイシャを引き合わせてくれたんだよ。ありがとうな! なっはははははは!」
「そんな……私は、別に何も……」
「いやいや、凄ぇ事だって本当!」
なっはははは! と、ドイルさんは豪快に笑う。
「そんでな、俺はそのままなし崩し的にこの森に住み着き、やがてお前は無事に産まれてエルフの里とこの家を行き来し始め、アイシャは今まで通りエルフの里に留まった。だからと言うか、エルフ達には少なからず迷惑をかけちまったから、木こりとしてこの森の保全活動を日々行ってんだよ、俺は」
「そう……だったんだ」
「いつか話さなきゃならねぇってずっと思っていたが、ようやく話せた。まぁ、変なきっかけではあったがな」
全てを話終えて安堵したようにドイルさんはやや仰け反ったようにして椅子に座り直す。
木製の椅子がドイルさんの重みでぎしりと音を立てた。
「ありがとう、お父さん」
「あぁ?」
「ずっと私の事を思ってくれてたんだね」
「へっ、子供の事を考えねぇ親がいるかよ」
「ーーーー私、頑張ってみる!」
「あぁん? 何を?」
「内緒!」
フードの奥から広角の上がった、形の良い唇が少し覗いた。
「そうかよ。あぁ、そうだ、兄ちゃんとボウズ。勝手にあれこれ話しといてなんだが、今聞いた話は他言無用で頼む」
「もちろん分かってますよ。こんなに素晴らしい家族の物語は本来、他人である僕達が知るべきではなかった。だから、僕達以外には内緒です」
俺は口の前に指を立てて言う。
「だね! 僕も絶対、誰にも教えてあげない。今、ここにいる四人と……あそこで寝てる、じろうだけの秘密だね!」
「すまねぇ。恩にきる」
ドイルさんは俺とパティに深々と頭を下げてから低い声で言う。
「本当、良いお父さんをもって良かったね、アリシア」
「タケルさん……パティ君もごめんなさい。お礼するために家に呼んだのに家族の問題に巻き込んじゃって……」
「そんな事はないよ。さっきも言ったけど、とても心が温まるハートウォーミングな話を聞けてこちらとしてもお礼がしたいくらいだよ」
「うん! お姉ちゃんが嬉しいなら僕も嬉しいや! 良かったね! お姉ちゃん!」
「本当……ありがとう。ごめんなさい」
「俺からも改めて言わせて貰うぜ、ありがとよ二人共」
何だかよく分からないままにここに来て今に至るけど、何だか皆ハッピーエンドを迎えたようで安心した。
皆、笑顔が一番だ。
そう、思っていたのだけれど……。問題はまだ残っていたらしい。
「ん? でも……お父さん」
「あぁ?」
「さっきの話と私が人前でフードを外しちゃいけないって事は、関係ない気がするんだけれど……」
親子の会話はまだまだ尽きそうにない。
「実は俺がワイルド土下座を決め込んだ時には、アイシャのお腹にはもうお前がいたんだよ」
俺も全く知らなかったが、と付け加えるドイルさん。
「え……」
「俺はな、ワイルド土下座やった後の満月の夜も約束の場所に通い続けてたんだ。アイシャはずっと姿を見せねぇけど、朝になるまでずっと待ってた。アイシャとの関係をどんな形でだって終わりにしたくなかったからな。それから何度目かの満月の夜、約束の場所にやってきてみりゃアイシャが花畑の中に座ってお腹をさすりながら幸せそうな顔してたんだ」
ドイルさんは天井を遠い目で見つめながら穏やかに語る。
「俺は走ってアイシャに駆け寄り訳を聞こうとした。だが、アイシャは俺の口の前に指を立ててこう言った『起きちゃうから』ってな。俺は何がなんだか訳が分からなかったが、黙ってアイシャの隣に座ってしばらく二人で満月を眺めてた」
「…………」
「しばらくしてから、妊娠している事を告げられたんだ。今まで一度だって見たことも無いようなとっても嬉しそうな笑顔でな」
「お父さんも……嬉しかった?」
「お? 当たり前だろ! なっはははははは!」
ドイルさんは声高らかに笑う。
「…………」
「アイシャが言うにはよ、父親にもう里から抜け出せないように家の中に閉じ込められていたらしい。毎日毎日泣いてばかりいたってよ。でもある日、お腹にお前がいる事をアイシャは知った。その事を父親に告げると父親は怒るでもなく、明らかに取り乱した様子で家から出て行ったらしい。その夜、父親はアイシャの部屋に訪れこう告げた『覚悟は出来ているのか』とな。アイシャはその問いに無言で強く頷くと
父親も無言のまま部屋を後にしたらしい。次の日の朝からアイシャは今まで通りの自由を手に入れ、あの日の満月の夜、俺と再開したってことだな。だからアリー!」
ドイルさんはアリシアの顔を覗き込むようにして、
「お前が再び俺とアイシャを引き合わせてくれたんだよ。ありがとうな! なっはははははは!」
「そんな……私は、別に何も……」
「いやいや、凄ぇ事だって本当!」
なっはははは! と、ドイルさんは豪快に笑う。
「そんでな、俺はそのままなし崩し的にこの森に住み着き、やがてお前は無事に産まれてエルフの里とこの家を行き来し始め、アイシャは今まで通りエルフの里に留まった。だからと言うか、エルフ達には少なからず迷惑をかけちまったから、木こりとしてこの森の保全活動を日々行ってんだよ、俺は」
「そう……だったんだ」
「いつか話さなきゃならねぇってずっと思っていたが、ようやく話せた。まぁ、変なきっかけではあったがな」
全てを話終えて安堵したようにドイルさんはやや仰け反ったようにして椅子に座り直す。
木製の椅子がドイルさんの重みでぎしりと音を立てた。
「ありがとう、お父さん」
「あぁ?」
「ずっと私の事を思ってくれてたんだね」
「へっ、子供の事を考えねぇ親がいるかよ」
「ーーーー私、頑張ってみる!」
「あぁん? 何を?」
「内緒!」
フードの奥から広角の上がった、形の良い唇が少し覗いた。
「そうかよ。あぁ、そうだ、兄ちゃんとボウズ。勝手にあれこれ話しといてなんだが、今聞いた話は他言無用で頼む」
「もちろん分かってますよ。こんなに素晴らしい家族の物語は本来、他人である僕達が知るべきではなかった。だから、僕達以外には内緒です」
俺は口の前に指を立てて言う。
「だね! 僕も絶対、誰にも教えてあげない。今、ここにいる四人と……あそこで寝てる、じろうだけの秘密だね!」
「すまねぇ。恩にきる」
ドイルさんは俺とパティに深々と頭を下げてから低い声で言う。
「本当、良いお父さんをもって良かったね、アリシア」
「タケルさん……パティ君もごめんなさい。お礼するために家に呼んだのに家族の問題に巻き込んじゃって……」
「そんな事はないよ。さっきも言ったけど、とても心が温まるハートウォーミングな話を聞けてこちらとしてもお礼がしたいくらいだよ」
「うん! お姉ちゃんが嬉しいなら僕も嬉しいや! 良かったね! お姉ちゃん!」
「本当……ありがとう。ごめんなさい」
「俺からも改めて言わせて貰うぜ、ありがとよ二人共」
何だかよく分からないままにここに来て今に至るけど、何だか皆ハッピーエンドを迎えたようで安心した。
皆、笑顔が一番だ。
そう、思っていたのだけれど……。問題はまだ残っていたらしい。
「ん? でも……お父さん」
「あぁ?」
「さっきの話と私が人前でフードを外しちゃいけないって事は、関係ない気がするんだけれど……」
親子の会話はまだまだ尽きそうにない。
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