繰り返される転生劇〜喜劇こそ、笑いこそ世界を救うたった一つの手立てではないかっ!〜

清水花

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エピソード・オブ・お嬢ちゃん

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「お父さんとお母さんって結婚してないのっ⁉︎」

「お……おぅ。してない」

「そうなの⁉︎ 何で⁉︎」

「何でって……そんなに驚く事かよ……」

「普通、驚くでしょう! 一緒にいないのは、まぁ、夫婦同士で色々あるのかも知れないなって子供ながらに思ってたし、エルフの里の掟もあるんだろうなって思ってた。でも! 結婚してないって、夫婦じゃないって、どういう事⁉︎ 説明しろクソ親父!」

「クーークソ親父⁉︎ てんめぇ、誰に向かって口聞いてやがる⁉︎ 可愛いからって調子に乗んじゃねぇぜ! 俺だって本気出せば、手は出なくとも口くらいは出るぜ⁉︎ クソ愛娘!」

「「うがぁぁぁー!」」

 親子は互いに立ち上がり、両手を重ねて押し合っている。

「っちょ、何で喧嘩してんのぉぉぉー⁉︎」

 大事な親子の会話に他人が口出しすまいと思ってずっと喋らずに我慢していたけれど、さすがに限界だ。

 ドイルさんは相変わらず本心語り過ぎていまいち迫力に欠けるし(クソ愛娘なんて言葉がありますものか)、アリシアも親に向かって言い過ぎだし(俺も人の事、言えないか)、さすが親子と言うべきか二人共感情の起伏が激しすぎなんだよ。

 こういった部分も一種のワイルドに含まれるのだろうか?

「ちょっと、落ち着いて下さい! ドイルさん!」

 俺はドイルさんのすぐ横に立って仲裁に入る。

「てめぇ! やっぱりアリーと離婚してぇ、なんてぬかすんじゃねぇだろうな!」

「離婚の前にまず結婚の許しを貰いますし、それよりももっと前に交際の許しを貰います! それくらいの常識は俺にだってーーって、違いますっ!」

 また、勝手に頭の中でストーリー進めてるな、ドイルさん。

「「ふー、ふー、ふー」」

 親子は互いに肩で息をしていて、自身の中で爆発しそうな感情を必死に抑え込んでいるようだった。

「ったく、俺に似て馬鹿力だしよぉ。性格もだんだん俺に似てきやがって可愛いくって仕方がねぇぜ、こん畜生が!」

「仕方がないのはこっちのセリフよ、見た目に関しては全力でお母さんのパーツだけを選んで産まれて来たけど、性格だけはお父さんのを選ぶしかなかったんだから!」

「へっ! そりゃワイルドな話じゃねぇかよ」

「だ、か、ら、何で結婚をしてないのよっ!」

「あぁん? 結婚? ああ、なんかそんな話してたな。えーっと、あの、あれだ。恋仲になった俺とアイシャは20歳になったとある満月の夜、結婚の許しを貰うためにエルフの里へ向かう事にしたんだ。だが、人間はエルフの里へは入れねぇ。だから里の側まで二人で行って、里の中へはアイシャ一人で入っていったんだ。俺は辺り一面木しかない場所でしばらく一人で待ってると俺の視界にとんでもねぇもんが飛び込んでやがった」

「なになに⁉︎」

 ついさっきまでドイルさんと喧嘩をして怒鳴り散らしていたアリシアは、さっきの剣幕はどこへいったのやら今は幼い子供みたいな声色で続きを聞きたがっている。

「森の景色のある一部分に縦にすぅっと切れ目が入ってよ、その切れ目がゆらゆらと揺らめきながらゆっくりと開きだしたんだ。昔、アイシャが言ってたおまじないってあれの事なんだろうな。あんな隠れ方してたらそりゃ人間に見つかりゃしねぇわ。そんでちょうど人一人が通れるくらいの広さになったところで切れ目の向こう側からアイシャの父親が現れてこう言ったんだ『話は娘から聞いた。人間とエルフの結婚などあり得ない、これ以上娘に関わるな』とな。だから、というかなんというか。その言葉を聞いた瞬間に俺はーーーー」

「怒鳴り散らしたんでしょう?」

 みなまで言うなとばかりにアリシアは言う。

「ばっか違えよ。何でお願いにいってキレてんだよ。それじゃあワイルドじゃなく、ただのアホじゃねぇか。そうじゃなくって、やったんだよ」

「何をやったの?」

「土下座。お願いしますって頼んだんだよ」

「お父さんがっ⁉︎」

「そ……そんなに意外か? まぁ、土下座って言っても俺らしくかなりワイルドなやつだったけどな」

「ワイルドな土下座?」

「おぅ。一週間その場で土下座しっぱなしよ。はたしてエルフ族に土下座の真の意味が通じるかは正直言って賭けではあったがな」

「それで……どうなったの?」

「分からん」

「分からんって……」

「地面しか見てなかったからな。アイシャ達がすぐに帰ったのか、ずっと見てたのか見当もつかねぇ」

「いや、そこは少し見てから帰ったんじゃない……? お爺ちゃん。さすがに土下座を一週間も見続けないでしょう……?」

「ふむ」

「お父さんが顔を上げた時はどういう状況だったの?」

「ん? そういやどうだったか……あー……ダメだ、覚えてねぇな。どうにかこうにか家に帰ったんだろうが……かなり記憶があやふやだな」

「はぁ……肝心なところで何よそれ。それで最終的にどうなったの?」

「アイシャの父親にはそれっきり会ってねぇからな。当然、結婚の許しはまだ貰ってねぇ」

「そうなんだ……。ん? じゃあそれっきりお父さんとお母さんは会ってないの⁉︎ あ、違うか。会ってないなら私はいない筈だもんね。でも、お爺ちゃんとしてはお父さんとお母さんを会わせたくない筈だから、お母さんをどこかに閉じ込めてでも会うのを阻止した筈……どうして二人はまた会える事になったの?」

 ドイルさんは鼻から息をふんっと漏らしてから、

「お前のおかげだよ。アリー」



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