繰り返される転生劇〜喜劇こそ、笑いこそ世界を救うたった一つの手立てではないかっ!〜

清水花

文字の大きさ
上 下
71 / 135
エピソード・オブ・お嬢ちゃん

11

しおりを挟む
 明らかな怒気を孕んだぶっとい声が俺達の会話に参加する。

 散々無視され続けたけれど、会話と言ってしまって良かっただろうか?

「ーーーーっお父さん⁉︎」

「ーーーーったく、ひでぇ目に遭ったぜ。反抗期が終わるどころか、どんっどん加速してんじゃねぇか畜生め。喧嘩に武器を使うなとは言わねえが狭い部屋の中で鞭振り回されたんじゃ逃げ場ねぇじゃねぇか畜生め。本っ当、どんどんあいつに似てきやがって少しは女らしくしやがれってんだコラ。つーか、どうすんだこれ。俺はどうやってこの樽から抜け出しゃいいんだよ、足だけ出ててもよぉ……ほっ……よっ……ダメだ畜生。出られる気がしねぇ」

 低くぶっとい声の主は独り言なのか何なのかを口にして、足をもぞもぞと動かしている。

「ねえ、お姉ちゃん。ずっと気になってたんだけれど、あれは?」

 そう言ってパティは部屋の隅にある観葉植物の陰に隠された大樽を指差して言う。

 大樽からは成人男性のものと思しき太くしっかりとした両の足が天に向かって伸びていて時折、艶めかしく動いている。

「私のお父さんよ。しばらく目を覚まさないようにしたつもりだったんだけど……ちょっと浅かったかしら」

「ずいぶん変わったお父さんなんだね」

「パティ。君が本気でそのセリフを言っていると信じているからこそ言うけれど、あれがお父さんの通常じゃないからな。いつもはあんな事してないからな? 恐らくだけど」

 そしてアリシアときたら、ごく自然な流れでとんでもなく恐ろしい事をさらっと言ってたな。

 二人掛かりでボケ……というか、陽気な事を言われたらさすがに歴戦のツッコミ師であるところの俺でも対応が間に合わない。

 これで村長まで加わってしまったら、ボケが飽和状態になってしまうぞ。しかもこの場合、幸いにというか最悪な事に今やお友達パーティという謎のカテゴリーに君臨しつつあるデューク達もいる事だし、俺の周辺はツッコミの順番待ち状態になってしまいそうだ。考えただけでも恐ろしい……。

 勇者からお笑い芸人に転職しようかな……本気で。道化師の上位クラスになるのかな? お笑い芸人って……。《道化の悟り》とか特殊なアイテムが必要なのだろうか?

 勇者が嫌なら、転職すればいい。だなんて、この物語の根底を揺るがす事態になってきたので無理矢理に軌道修正する。

 俺はパティに軽く突っ込んでから、アリシアのお父さんを助けに向かうため立ち上がる。

 ふと、視線を下におとすとテーブルの隅にはじろうが両の前足だけでテーブルにぶら下がっていて『に……にゃあ……』と震える小さな声で鳴いている。

 どういう経緯を経てそうなったのかは知らないけれど、そんな光景を見ていると何かしらの事件に巻き込まれて崖の上から落とされそうになっている人を見ているような気になってしまい、ついつい助けてあげたくなってしまう。

 じろうの両脇を抱えて床にそっと降ろしてやる。すると、

「しゃー!」

 と、かなりご立腹のご様子で俺に対し威嚇をしたのち、粗めの鼻息をふんっと一つ漏らして低姿勢の構えからジャンプして再び両の前足だけでテーブルにぶら下がり『にゃ……にゃあ……』と、小さく震える声で鳴くのだった。

「…………」

 まあ、思う事は色々あるけれど何かしらのネコネコチャレンジ(あるいはじろうの職業である《がーでぃあん》としての仕事とか)が行われているのだろうと自分の中で納得をして、アリシアのお父さん救出へ向かう。

 俺は大樽の中を覗き込み、大樽が作り出した闇の中にあるであろうお父さんの顔を覗き見ながら緊張の面持ちで語りかける。

「えっと……はじめまして。僕はタケルといいます。よろしくお願いします」

 大樽の中で逆さまになってる大の大人に向かって自己紹介するのは、いくら100回目の勇者人生といえど初めての事である。

「若えな……そして男の声だ。だがアリーにダチなんている訳ねぇし……と、するとなるとバチ当たりにも最近この森を騒がせてる族か? 族の連中が事もあろうに俺の可愛い可愛い愛娘のアリーに手ぇ出しやがって、俺が言いつけてるフードを無理矢理にひっぺがして、さらけ出されたアリーの奇跡的な造形美を見ちまって一気に惚れ込んで、色んな手順すっ飛ばして俺の所に結婚の報告に来やがったんだな! だったらぶっ殺す! お父さんカチンときちゃったからぶっ殺す! おいテメエ! 誰がお前みたいな豚の骨にうちのアリーをくれてやるかってんだ! かかってこいよオラ! こちとらお前みたいな奴が来た時のイメトレはもう済んでんだよ。100回やったんだよ! 俺を倒さねえ限り、アリーは絶対にお前みたいなヘナチョコロン毛野郎にはやらねぇからな!」

 そう語って、お父さんは大樽を前後左右にガタンガタンと揺らす。

「はぁ……」

 またも大波乱の予感しかしない展開なのであった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

回帰した貴公子はやり直し人生で勇者に覚醒する

真義あさひ
ファンタジー
名門貴族家に生まれながらも、妾の子として虐げられ、優秀な兄の下僕扱いだった貴公子ケイは正妻の陰謀によりすべてを奪われ追放されて、貴族からスラム街の最下層まで落ちぶれてしまう。 絶望と貧しさの中で母と共に海に捨てられた彼は、死の寸前、海の底で出会った謎のサラマンダーの魔法により過去へと回帰する。 回帰の目的は二つ。 一つ、母を二度と惨めに死なせない。 二つ、海の底で発現させた勇者の力を覚醒させ、サラマンダーの望む海底神殿の浄化を行うこと。 回帰魔法を使って時を巻き戻したサラマンダー・ピアディを相棒として、今度こそ、不幸の連鎖を断ち切るために── そして母を救い、今度こそ自分自身の人生を生きるために、ケイは人生をやり直す。 第一部、完結まで予約投稿済み 76000万字ぐらい ꒰( ˙𐃷˙ )꒱ ワレダイカツヤクナノダ~♪

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

転生したら王族だった

みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。 レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

処理中です...