繰り返される転生劇〜喜劇こそ、笑いこそ世界を救うたった一つの手立てではないかっ!〜

清水花

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エピソード・オブ・お嬢ちゃん

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 キラーアントとの壮絶なバトルを終えて俺達はまた一歩確実に強くなった。

「ふむ。そういえば久し振りにステータスを確認してみようか」

「あっ! そうだね! すっかり忘れてたよ、その設定」

 設定とかいうな。

「スッテーイタース!」

 色んな言い方で飽きるのを予防している。意味は特にない。

「スッテーイタース!」

 意味はないが、子供には悪影響なようだ。

「にゃー!」

 さすがに子猫にまで影響はないようだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 勇猛いさみたける

 Lv 57
 HP 579/579
 MP 79/79
 力  212
 守り 174
 早さ 138
 魔力 31
 職業 コメディアン勇者
 装備 木の棒
    旅人の服
    旅人の靴
 お金 384247G
 状態 ソワソワしている


 パティ

 Lv  19
 HP  136/136
 MP  5/5
 力   43
 守り  25
 早さ  236
 魔力  2
 職業  子供騎士
 装備  木の棒
     旅人の服
     旅人の靴
 お金  1000G
 状態  厨二病
 召喚獣 じろう

 
 じろう

 Lv 1
 HP 3/3
 MP 1/1
 力  1
 守り 1
 早さ 3
 魔力 1
 職業 がーでぃあん
 装備 ぶらっでぃーくろう
 お金 0G
 状態 やや眠い


ーーーーーーーーーーーーーーーーー

「……よ……よしっ! 珍しく変なところも無かったな! サクサク進めよう!」

「アニキ、何でソワソワしてるの? 状態のところに書いてあるけど」

「へぇっ⁉︎ ソワソワっ⁉︎ してない、してない! 至って通常営業だよ」

 とは、言ったものの。職務放棄をしているような、胃が消化不良を起こしているような、何とも言い表しようのない気持ち悪さが俺を襲っていた。

「ぐぬぬ……。俺についてはもうこの際どうでもいいだろう。パティもレベルが上がって全体的に能力が向上した感じだな。しかし……じろうとは……。ひらがな表記で可愛らしく表現されてはいるが、何だか物騒なものが見え隠れしているな。まあ、気のせいだろう……」

「へぇ……。じろうもステータスとかあるんだね」

「ほっほっほっほっほっ! おほほー!」

 じろうは何だか楽しそうにステータス画面に猫パンチーーーーぶらっでぃーくろうを繰り出している。

 楽しんでいるのなら、それでいいんだけれどね。
 
 そんな楽しい時間を過ごしていると、突如として辺りの空気を凍てつかせるような悲鳴が聞こえてきた。

「キャーッ!」

 俺達は互いの顔を見るや否や、すぐさま悲鳴が聞こえた方へと走り出した。

 すると少し開けた場所でフード付きマントを深々とかぶった少女らしき人物が見事に模範的な山賊数名に取り囲まれていた。

「さあさあ! 金目の物、全部置いていきな! お嬢ちゃん」

「嫌よ! これは……これは仕事の為のとても大切なお金なんだからっ!」

「そうかそうか仕事の為か、そりゃご苦労なこった。しかし俺達山賊も金品巻き上げるのが仕事なもんでな、まあ今回は諦めてくれや」

「くっ……」

 荷物袋を必死に守るようにして胸に抱える少女はじりじりと後ずさる。

 典型的なシーンである。ここで俺が飛び出してあの少女を助ければ、あの少女は『ありがとうございます、好きです! もう結婚してください!』と、言い出す例の奴だ。

「ぬっふっふっふっふっ」

「アニキ、何で笑ってるの? しかもかなり悪そうな顔で……」

 俺は今にも飛び出していきそうなパティを『危ないから』と、説得してから頃合いを見計らい茂みの中から一歩踏み出す。

「おい山ーーーー」

 パァンッーーーーと、突如。空気を激しく叩く音が鳴り響く。

 そして、

「……つこいんだよ……ダメって……だろが! ああコラッ!? 私が女だからってなめてんのかコラッ!? ああん⁉︎」

「なっ……」

 少女のあまりの変貌ぶりに言葉を失う山賊と俺の姿がそこにはあった。

 少女は自らの頭をフードの上からガシガシと掻いて舌打ちをしながら不満をぶちまける。

「ったく、どうして男は……ああ、もう腹立つ……殺す、殺そう。いや殺すまでもない、さっさと死ね、自分で死ね。うがああああああああああー!」

 完全に狂気と化した少女を見て凍り付いていた俺の思考が、だんだんと溶け始め、最優先でとるべき行動は救助ではなく退であると判断した。

 踏み出していた右足を慎重に引っ込めて、何事も無かったように茂みの中へ座り込んだ。途中、小枝を踏んで弾けてしまい心臓が止まるかと思った。

「アニキ……あの人……なに?」

 パティは恐怖のあまり震える声で俺に問う。

「あれは……たぶん何かしらの戦闘民族的な女の子じゃないかな……たぶん」

 少女のあまりの剣幕に、変貌ぶりにもはや人間ではない、未知なる存在なのかも知れない説が浮上し始めた。

「痛っ! うわあ! 止めろ!」

 逃げ惑う山賊達の悲鳴が響き渡る。

「てめぇらが悪いんだろ!? 私は……私はなあ! 私はお前等と違って……死にくされー!」

「俺らと違って……何なんだよっ! 気になるだろ!? 痛っ! 痛いって! 何だこの女、本当やばいぞ。 痛い痛い痛いって!」

 鞭を巧みに操り罵声と共に山賊達を打ちのめす、悪魔のような少女の姿がそこにはあった。
 
「にっ……逃げろー! 痛っ!」

 山賊達は自身の荷物を置いて逃げ去り先程までの喧騒は木々の隙間をすり抜け去っていく。土煙も落ち着き、辺りは静けさを取り戻した。ようやく自分達の出番かと虫達は一斉にさざめきだす。

 虫は歌い、樹は奏で、風がそれらを運んでいく。
 
 ここは誰が呼んだか帰らずの森。慌ただしい喧騒と自然のハーモニーが織り成す魅力的な場所。

 俺達は無事に帰る事が出来るのだろうか……。



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