繰り返される転生劇〜喜劇こそ、笑いこそ世界を救うたった一つの手立てではないかっ!〜

清水花

文字の大きさ
上 下
51 / 135
エピソード・オブ・少年

26

しおりを挟む
 皆の視線が集まる先。

 タイクーン城側面部の小窓には見るからに上等そうな衣服に身を包んだ老人がいて皆の期待に応えるように右手をひらひらと振って、そして、

「…………れ」

「…………」

 辺りはカルロス陛下のお言葉を拝聴しようと静まり返っており、まだかまだかとはやる気持ちがざわつき始め、誰かの腹がぐるると鳴った。

 しばらくしてカルロス陛下の側に控えていた付き人がはるか高みの小窓から地面に向かって何かを落とした。

 落とされた何かは、特殊な形状をしているのか下へ下へと落ちるにつれてぐるぐると回転して空中での落下姿勢を安定させており、非常にゆっくりとした速度で地面にぽとんっと落下した。

 騎士団員の一人がそれを非常にきびきびとした動きで拾い上げ、副団長デイルさんへと手渡した。

 デイルさんは手渡された物を広げて左から右へ視線をさっと送りそして、

「えー。カルロスちゃんよりお言葉です……」

 辺りは今日一番の静けさに包まれていて、カルロス陛下のお言葉にみんな固唾を飲んでいる。

「えー。『みんながんばれ』との事です」

 デイルさんはカルロス陛下のお言葉が書かれた書面を堂々と大衆に向けており、その行動からは『私が適当に言っているわけではない』という自身の身の潔白を証明する為の行動にしか見えない。

 辺りにクスクスと笑い声が上がり始める。

 あんな高い所からじゃ、どうせ聞こえないんだし最初から手紙を渡しとけばいいのに。と、俺としては思わざるを得ないのだが、カルロス陛下には強いこだわりがあって毎年この方法を選択しているらしい。それにベネツィに暮らす人々もどうやらこのカルロス陛下の一連の流れを毎年楽しみにしているらしく、武道大会の前日、当日の朝刊にはデカデカと『カルロスちゃんの今年の一言はなんだ⁉︎』という記事が一面を飾るらしい。

 タイクーン城主カルロス。

 かつてこの地を治めていたドウェイン家の末裔であり、稀代の変わり者として広く知られる。その変わり具合ときたら当然の如く常軌を逸していて、人類史上類を見なく、空前絶後に破天荒な程、ぶっ飛んだ持論の持ち主である。

 カルロス陛下の過去の仰天行動について語りだしてしまえば、枚挙に暇がないが街の人々を、あるいは近隣諸国の連中の度肝を抜いた発言といえば大きく二つに絞られる。

 まずは一つ目。それは今から10数年前に突如として起こった。それはもはや一つの事件といってもいい。当時のカルロス陛下は玉座に座り何やら不機嫌でいたらしく、側近の者でもおいそれと話しかけられぬほどに激昂していて城で働く見張り役の兵士の間では『敬礼の際に1ミリばかり動いてしまったのがお気に召さなかったのだ』等の噂が立ち、シェフの間では『塩加減を間違ってしまったのだ』等の噂が立ち、護衛騎士団の間では『訓練時の号令が騒がしすぎたのだ』等の噂が瞬時にして立った。

 また、街で暮らす人々の間では『……とにかく、なんやかんやダメだったんだ』と、かなり漠然とした理由の自己嫌悪に陥る人々が後を絶たない騒ぎとなった。

 その後、明らかになった激昂の理由とは『なぜ皆、自分の事を陛下としか呼んでくれないんだ!」という、陛下しか分かり得ない悩みが原因だった事を知り皆一様に安堵した。

 その翌日。何を思ったのか、カルロス陛下の事を親しみを込めてカルロスと呼ぶようにと通達があった。

 陛下をちゃん付けで呼ぶという、どこからどう見ても拷問としか思えない通達に街の人達よりも城の兵士達が一番被害を受けたようだ。

 
 そして二つ目である。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

回帰した貴公子はやり直し人生で勇者に覚醒する

真義あさひ
ファンタジー
名門貴族家に生まれながらも、妾の子として虐げられ、優秀な兄の下僕扱いだった貴公子ケイは正妻の陰謀によりすべてを奪われ追放されて、貴族からスラム街の最下層まで落ちぶれてしまう。 絶望と貧しさの中で母と共に海に捨てられた彼は、死の寸前、海の底で出会った謎のサラマンダーの魔法により過去へと回帰する。 回帰の目的は二つ。 一つ、母を二度と惨めに死なせない。 二つ、海の底で発現させた勇者の力を覚醒させ、サラマンダーの望む海底神殿の浄化を行うこと。 回帰魔法を使って時を巻き戻したサラマンダー・ピアディを相棒として、今度こそ、不幸の連鎖を断ち切るために── そして母を救い、今度こそ自分自身の人生を生きるために、ケイは人生をやり直す。 第一部、完結まで予約投稿済み 76000万字ぐらい ꒰( ˙𐃷˙ )꒱ ワレダイカツヤクナノダ~♪

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

転生したら王族だった

みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。 レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...