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エピソード・オブ・少年
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皆の視線が集まる先。
タイクーン城側面部の小窓には見るからに上等そうな衣服に身を包んだ老人がいて皆の期待に応えるように右手をひらひらと振って、そして、
「…………れ」
「…………」
辺りはカルロス陛下のお言葉を拝聴しようと静まり返っており、まだかまだかとはやる気持ちがざわつき始め、誰かの腹がぐるると鳴った。
しばらくしてカルロス陛下の側に控えていた付き人がはるか高みの小窓から地面に向かって何かを落とした。
落とされた何かは、特殊な形状をしているのか下へ下へと落ちるにつれてぐるぐると回転して空中での落下姿勢を安定させており、非常にゆっくりとした速度で地面にぽとんっと落下した。
騎士団員の一人がそれを非常にきびきびとした動きで拾い上げ、副団長デイルさんへと手渡した。
デイルさんは手渡された物を広げて左から右へ視線をさっと送りそして、
「えー。カルロスちゃんよりお言葉です……」
辺りは今日一番の静けさに包まれていて、カルロス陛下のお言葉にみんな固唾を飲んでいる。
「えー。『みんながんばれ』との事です」
デイルさんはカルロス陛下のお言葉が書かれた書面を堂々と大衆に向けており、その行動からは『私が適当に言っているわけではない』という自身の身の潔白を証明する為の行動にしか見えない。
辺りにクスクスと笑い声が上がり始める。
あんな高い所からじゃ、どうせ聞こえないんだし最初から手紙を渡しとけばいいのに。と、俺としては思わざるを得ないのだが、カルロス陛下には強いこだわりがあって毎年この方法を選択しているらしい。それにベネツィに暮らす人々もどうやらこのカルロス陛下の一連の流れを毎年楽しみにしているらしく、武道大会の前日、当日の朝刊にはデカデカと『カルロスちゃんの今年の一言はなんだ⁉︎』という記事が一面を飾るらしい。
タイクーン城主カルロス。
かつてこの地を治めていたドウェイン家の末裔であり、稀代の変わり者として広く知られる。その変わり具合ときたら当然の如く常軌を逸していて、人類史上類を見なく、空前絶後に破天荒な程、ぶっ飛んだ持論の持ち主である。
カルロス陛下の過去の仰天行動について語りだしてしまえば、枚挙に暇がないが街の人々を、あるいは近隣諸国の連中の度肝を抜いた発言といえば大きく二つに絞られる。
まずは一つ目。それは今から10数年前に突如として起こった。それはもはや一つの事件といってもいい。当時のカルロス陛下は玉座に座り何やら不機嫌でいたらしく、側近の者でもおいそれと話しかけられぬほどに激昂していて城で働く見張り役の兵士の間では『敬礼の際に1ミリばかり動いてしまったのがお気に召さなかったのだ』等の噂が立ち、シェフの間では『塩加減を間違ってしまったのだ』等の噂が立ち、護衛騎士団の間では『訓練時の号令が騒がしすぎたのだ』等の噂が瞬時にして立った。
また、街で暮らす人々の間では『……とにかく、なんやかんやダメだったんだ』と、かなり漠然とした理由の自己嫌悪に陥る人々が後を絶たない騒ぎとなった。
その後、明らかになった激昂の理由とは『なぜ皆、自分の事を陛下としか呼んでくれないんだ!」という、陛下しか分かり得ない悩みが原因だった事を知り皆一様に安堵した。
その翌日。何を思ったのか、カルロス陛下の事を親しみを込めてカルロスちゃんと呼ぶようにと通達があった。
陛下をちゃん付けで呼ぶという、どこからどう見ても拷問としか思えない通達に街の人達よりも城の兵士達が一番被害を受けたようだ。
そして二つ目である。
タイクーン城側面部の小窓には見るからに上等そうな衣服に身を包んだ老人がいて皆の期待に応えるように右手をひらひらと振って、そして、
「…………れ」
「…………」
辺りはカルロス陛下のお言葉を拝聴しようと静まり返っており、まだかまだかとはやる気持ちがざわつき始め、誰かの腹がぐるると鳴った。
しばらくしてカルロス陛下の側に控えていた付き人がはるか高みの小窓から地面に向かって何かを落とした。
落とされた何かは、特殊な形状をしているのか下へ下へと落ちるにつれてぐるぐると回転して空中での落下姿勢を安定させており、非常にゆっくりとした速度で地面にぽとんっと落下した。
騎士団員の一人がそれを非常にきびきびとした動きで拾い上げ、副団長デイルさんへと手渡した。
デイルさんは手渡された物を広げて左から右へ視線をさっと送りそして、
「えー。カルロスちゃんよりお言葉です……」
辺りは今日一番の静けさに包まれていて、カルロス陛下のお言葉にみんな固唾を飲んでいる。
「えー。『みんながんばれ』との事です」
デイルさんはカルロス陛下のお言葉が書かれた書面を堂々と大衆に向けており、その行動からは『私が適当に言っているわけではない』という自身の身の潔白を証明する為の行動にしか見えない。
辺りにクスクスと笑い声が上がり始める。
あんな高い所からじゃ、どうせ聞こえないんだし最初から手紙を渡しとけばいいのに。と、俺としては思わざるを得ないのだが、カルロス陛下には強いこだわりがあって毎年この方法を選択しているらしい。それにベネツィに暮らす人々もどうやらこのカルロス陛下の一連の流れを毎年楽しみにしているらしく、武道大会の前日、当日の朝刊にはデカデカと『カルロスちゃんの今年の一言はなんだ⁉︎』という記事が一面を飾るらしい。
タイクーン城主カルロス。
かつてこの地を治めていたドウェイン家の末裔であり、稀代の変わり者として広く知られる。その変わり具合ときたら当然の如く常軌を逸していて、人類史上類を見なく、空前絶後に破天荒な程、ぶっ飛んだ持論の持ち主である。
カルロス陛下の過去の仰天行動について語りだしてしまえば、枚挙に暇がないが街の人々を、あるいは近隣諸国の連中の度肝を抜いた発言といえば大きく二つに絞られる。
まずは一つ目。それは今から10数年前に突如として起こった。それはもはや一つの事件といってもいい。当時のカルロス陛下は玉座に座り何やら不機嫌でいたらしく、側近の者でもおいそれと話しかけられぬほどに激昂していて城で働く見張り役の兵士の間では『敬礼の際に1ミリばかり動いてしまったのがお気に召さなかったのだ』等の噂が立ち、シェフの間では『塩加減を間違ってしまったのだ』等の噂が立ち、護衛騎士団の間では『訓練時の号令が騒がしすぎたのだ』等の噂が瞬時にして立った。
また、街で暮らす人々の間では『……とにかく、なんやかんやダメだったんだ』と、かなり漠然とした理由の自己嫌悪に陥る人々が後を絶たない騒ぎとなった。
その後、明らかになった激昂の理由とは『なぜ皆、自分の事を陛下としか呼んでくれないんだ!」という、陛下しか分かり得ない悩みが原因だった事を知り皆一様に安堵した。
その翌日。何を思ったのか、カルロス陛下の事を親しみを込めてカルロスちゃんと呼ぶようにと通達があった。
陛下をちゃん付けで呼ぶという、どこからどう見ても拷問としか思えない通達に街の人達よりも城の兵士達が一番被害を受けたようだ。
そして二つ目である。
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