繰り返される転生劇〜喜劇こそ、笑いこそ世界を救うたった一つの手立てではないかっ!〜

清水花

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エピソード・オブ・少年

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 翌日。ベネツィ武道大会当日。

 今日は昨日の雨空が嘘のように晴れ渡り絶好の大会日和となった。

 街はこの日を待っていたと言わんばかりに活気付いており、街の至る所には飾り付けがされて家々の窓は開け放たれて小さな子供が何かを叫んでいる。そんな元気な街を歩いていると二階の窓から子供に手を振られ笑顔でそれに応えた、目の前にはベネツィ名物の人混み流れがあって、今日は剣術道場の稽古着を着た子供達でごった返しており、いつにも増して流れが速く皆、走って移動しているんじゃなかろうかと言うほど今日という日は最高に危険な匂いが漂っている。

 武道大会はタイクーン城敷地内の広場で行われるらしく、普段は護衛騎士団の訓練場として使用されているが今日は大会のために一般開放されているらしい。

 なので自分の父親が護衛騎士団に所属している子供達は、父親の職場を見学できる数少ない機会でもある。

 父親達も大会前のパレードにて子供達に自身の働きっぷりを見せる事が出来る数少ない機会とあって各々張り切っており、気合いが空回りして毎年数人の故障者が出ているらしい。

 俺は三番街から一番街まで一気に通り抜けて、住宅地が密集する一番街の所々波打ったレンガ造りの歩道を歩いてタイクーン城を目指して歩いた。

 途中、いい匂いに誘われて脇道にそれ、俺を迎え入れるように開け放たれた入り口から店内に入り、焼きたてのパンを買って食べながら歩いた。

「うま……」

 天然酵母の雑味のない香りと味がとても気に入った。

 帰りにまた買おう。

 タイクーン城へと掛かる鋼鉄製の橋を渡っていく。橋の幅は2メートルくらいで城へ行く人と帰る人がギリギリ通れるくらいの幅しかない。これは万が一城が攻め込まれた際、敵の進行速度を落とすためのものらしくよく考えられている。

 タイクーン城の正門前に到着。

 分厚い木を何層にも重ねて金具で固定し造られた正門は、タイクーン城の起こりから様々な人達や様々な物語を見てきているはずで、古く朽ちた年代ものの木目には何か特別な力が宿っていそうだったので優しく撫でてみた。

 門番を務める強靭な肉体のおじさん達に会釈して、正門をくぐり中へ入る。

 おじさんに掛けられた『ご武運を』という言葉に何だか今から自分が戦うように思えてきて身が引き締まった。

 門をくぐると正面は噴水広場となっていて草花が生い茂った地面にシートを敷いておじいさんとおばあさんが談笑している。その昔、護衛騎士団に入団していた若かりしおじいさんがお城で働くメイドさんに恋をしてーー的な事だろうか? ありそうな話である。

 噴水広場で思い思いにくつろぐ人々の邪魔にならないように、なるべく隅を歩いて武道大会会場に向かう。

 辺りをよく見ると、ある場所に向かって歩いていく行列を発見しそれに加わる。恐らく会場へ向かう為の行列なのだろう。

 左右に赤と白の薔薇が生い茂る花壇を見ながらしばらく歩いていると、タイクーン城の側面部に位置する一層ひらけた場所に出た。

 地面には縦5メートル、横10メートルくらいの大きさの長方形が白線で三つほど描いてあって、それを取り囲むように木材で造られた見物席がでかでかと設置されている。

 俺は見物席の二段目にぽつんと空いていた席に腰を下ろして腕組みしながら辺りを見回す。

 広場の隅では稽古着の子供達が模造刀を振ったり、精神統一していたり、師範と何やら話しをしていたりと皆、思い思いの時間を過ごしている。

 待機場なのか黄色っぽいレンガを積み上げて造られた長方形の建物から五人の子供達が出てきて各々練習を始めた。

 その中に少年パティの姿を発見する。

 パティは木刀を手にしたまま動かない。やがてゆっくりと動き出して突き、受け、躱し、飛び、斬る。そんな一つ一つの動きを丁寧に確認しているようだった。

 しばらくして、稽古着の子供達が城に向かって綺麗に整列し始めた。子供達の視線の先には木製の高台が設置されていて、その高台を中心にして左右には様々な鎧を身につけた護衛騎士団が横一列に並んでいて普段の厳格な雰囲気はどこかに置いてきたのか、皆一様にリラックスした様子で立っていて子供達の様子を伺っている。高台のすぐ右側に立っていた男性が子供達に向かって小さく手を振った。

 高台の左に位置していた男性がきびきびとした動きで一歩前に出て、右手を天高く掲げてまるで隊に命令を下すかのようなかしこまった声で言う、

「定刻となりました。只今よりベネツィ武道大会を開催致します。私は司会を務めます副団長のデイルです。よろしくお願いします。まずは開催にあたってのお言葉を護衛騎士団長のパール・ベルセリオスより頂きます。団長。お願いします」

 その言葉に高台すぐ右側にいた男性がその場で回れ右をして高台の上へと登り、着ている鎧から音がなるほど機敏な動きで右手を胸の前に掲げた。

 気付く。

 騎士団長ーーーーパール。

 つまりはパティの父親じゃないか。

 あの日。パティの家にお世話になった時に初めて出会った、優しそうな顔つきの男性。パールさん。

 しかし今のパールさんはあの時とはまるで違う。今のパールさんは自身の頭の先からぶっとい槍を刺し込んで全身を固定しているかのように真っ直ぐでいて、全くの別人である。

 それは街で突然、声を掛けられたとしてもしばらくは誰だか分からないほどに完璧に別人となっている。

 そのあまりの変貌ぶりに感心しつつも、さっきパールさんが手を振っていた子供達のあの辺りにパティがいるのかもしれないと、ふいに思った。

「本日は絶好の武道大会日和である。諸君らの日々の努力を今大会で遺憾無く発揮し、他の者の技術に触れ明日からの稽古の糧として頂きたい。また、将来は是非とも護衛騎士団に入団して頂き、街に住む人々の暮らしや笑顔を守って欲しい。それでは、いくら小さくとも騎士たる誇りを持って正々堂々戦われたし」

 最後に『君達の武運を祈る』と、いつか見た優しい笑顔で言って、パールさんは高台から降り元いた場所に戻った。

「騎士団長ありがとうございました。それでは次にタイクーン城、城主。カルロス陛下……もとい。カルロスちゃんよりお言葉を頂きたいと思います。カルロスちゃん……よろしくお願いします」

 そういうと、副団長デイルさんはタイクーン城側面部のはるか高みにある小窓へ向かって右手を掲げた。

 皆の視線は歓喜と共にはるか上空に集まる。



 
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