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エピソード・オブ・少年
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「背中のひと押しか……」
さて。良いアドバイスを貰ったはいいが俺はどの場面で、どのタイミングで、どのようにしてパティの背中を押してあげればいいのだろう。
正解は……解らない。
現状から一歩進んだような、進んでいないような……だな。
「タケル。その……なんだ、ありがが……とう。とても美味しかった」
「……うむ。馳走になった」
「いいえ。こちらこそ相談に乗ってくれてありがとう。それに困った時はお互い様だよ」
言って、俺は二人に微笑む。
「あ。あと、財布の事はもう諦めてさ街の外に出てモンスターでも倒してお金を稼いだら? せっかくお腹もいっぱいになった事だしさ」
そんな俺のごく当たり前な提案にデュークとシドは二人して目を見開いて、その手があったと言わんばかりに右手で左手を打った。
全くこの二人は……。
「では、さらばだ。タケルよ」
「達者での……メッシーよ」
ん? メッシー?
まさかとは思うけれど、ご飯を定期的に奢ってくれる人という意味ではないよな。
もし本当にそうなら、あの恩知らずは今すぐスライムと同じカテゴリーに分類して今後、出会うたびに蹴り飛ばすという処置を取らなくてはならないが……まあ、さすがにそれはないだろう。聞き間違えだ、聞き間違え。
なんだか腑に落ちない感じではあるけれど、俺はデュークとシドに手を振って別れた。
「ふぅむ……」
現在時刻はおおよそ十六時あたりといったところか。青空はいつのまにかすっかり朱色に染まっており夜はもうすぐそこまで来ているようだ。本当に、楽しい時間はあっという間に過ぎ去るなぁ。
しかし、何はともあれ。あの二人のお陰ですっかりリフレッシュする事が出来た。
ではさっそく、本業に戻ろう。
俺は急ぎ足でパティの通う剣術道場へと向かった。
ベネツィ剣術道場三番街支部。
空が暗く濃い青に変わる頃、俺はパティの通う剣術道場前へとたどり着いた。
窓から中を覗き込む。
小さな子供達ははしゃぎながら床の掃除に取り組み、少し大きな子供は注意を呼びかけている。
しばらくし、道場の掃除を終えた子供達が荷物を持ってぞろぞろと出てきた。
三人グループ。同い年くらいの集まりのその中にパティはいた。友達と何やら語らいながら帰路をいく。
俺は少し離れた位置についてパティの様子を伺う。
ゆっくりと歩き、笑いながら三人は流れに合流した。流れに乗って少しした所で一人の友達と別れた。
パティ達は手を振って別れ、再び各々の家に向かい歩いていく。
家が近付いてきたところで、流れから抜け出し路地に入る。向かう先には住宅街が軒を連ねている。
辺りは仕事帰りの大人や、パティ達と同じく習い事からの帰りの子供の姿がちらほら。道の隅の方では一匹の猫が伸びをしている。どうやら今からが活動本番のようだ。
そんな中、突然聴こえてきた若い男の笑い声。
笑い声に含まれた独特の悪意が辺りにはびこっている。パティ達はそんな笑い声に気付き辺りを見渡す。やがてパティが動き友達もそれに続く。路地をいくつか折れた先、パティと初めて出会った場所に行き着く。
広場は昼間とは大きく違い薄闇に飲まれており、暗く視界が悪い。
広場の隅では二人組みの若者が何やらはしゃいでいて、若者の足元に広がる闇の中では何かがうずくまっている。
そんな光景を後ろから観察するパティ達。まだ状況を理解していないのか目を凝らし闇の中に意識を集中している。
少しして、友達がパティの右腕を引っ張り広場を後にしようとする。
が、
パティはその場から動こうとしない。友達に揺さぶられ、声を掛けられても一向に動こうとしない。悪意に満ちた笑い声は尚も続いている。
「どうちたの子猫ちゃん⁉︎ ママとはぐれちゃったでちゅか⁉︎ お兄さんが会わせてあげようか⁉︎ あっははは!」
俺はパティ達の更に後方にある植え込みへと静かに移動して、身を隠す。
「ーーーーティ」
「…………」
連れの言葉に耳を貸そうともせず、パティは真っ直ぐに若者を見つめている。
恐らくだが、パティは今現在動けないでいる。頭では今すぐ助けるべきだと理解はしているが、あの日の記憶が身体を支配してその場に縛り付けてしまっている。
異変を嗅ぎつけた三十代くらいのおじさんが一人、俺の後方から小走りで近付いてきた。
俺は植え込みから上半身を乗り出しおじさんの口元を押さえ、植え込みの中へと引きずり込む。
「んー! んー!」
当然だがおじさんはパニックに陥りジタバタとする。俺は片手でおじさんの口元を塞いだまま空いた方の手の人差し指を口の前に立てて合図を送る。
すると、おじさんは意外にもすぐに理解してくれて『何だどうした?』と小声で聞いてきたので、俺も小声で答える。
「おじさん。ごめんなさい。気持ちは分かるんだけど、少し待って。あそこにいる子、知り合いなんだけど今トラウマを乗り越えようと頑張ってる最中なんだ、だから少しの間でいいから見守ってあげて?」
そんな俺の言葉におじさんはすぐさま納得してくれたようで、
「はぁん。男になろうってんだな。おっしゃ、あの子が男になる所この目でしっかりと見届けさせて貰うぜ!」
俺はおじさんと並んで少年パティの様子を伺う。
さて。良いアドバイスを貰ったはいいが俺はどの場面で、どのタイミングで、どのようにしてパティの背中を押してあげればいいのだろう。
正解は……解らない。
現状から一歩進んだような、進んでいないような……だな。
「タケル。その……なんだ、ありがが……とう。とても美味しかった」
「……うむ。馳走になった」
「いいえ。こちらこそ相談に乗ってくれてありがとう。それに困った時はお互い様だよ」
言って、俺は二人に微笑む。
「あ。あと、財布の事はもう諦めてさ街の外に出てモンスターでも倒してお金を稼いだら? せっかくお腹もいっぱいになった事だしさ」
そんな俺のごく当たり前な提案にデュークとシドは二人して目を見開いて、その手があったと言わんばかりに右手で左手を打った。
全くこの二人は……。
「では、さらばだ。タケルよ」
「達者での……メッシーよ」
ん? メッシー?
まさかとは思うけれど、ご飯を定期的に奢ってくれる人という意味ではないよな。
もし本当にそうなら、あの恩知らずは今すぐスライムと同じカテゴリーに分類して今後、出会うたびに蹴り飛ばすという処置を取らなくてはならないが……まあ、さすがにそれはないだろう。聞き間違えだ、聞き間違え。
なんだか腑に落ちない感じではあるけれど、俺はデュークとシドに手を振って別れた。
「ふぅむ……」
現在時刻はおおよそ十六時あたりといったところか。青空はいつのまにかすっかり朱色に染まっており夜はもうすぐそこまで来ているようだ。本当に、楽しい時間はあっという間に過ぎ去るなぁ。
しかし、何はともあれ。あの二人のお陰ですっかりリフレッシュする事が出来た。
ではさっそく、本業に戻ろう。
俺は急ぎ足でパティの通う剣術道場へと向かった。
ベネツィ剣術道場三番街支部。
空が暗く濃い青に変わる頃、俺はパティの通う剣術道場前へとたどり着いた。
窓から中を覗き込む。
小さな子供達ははしゃぎながら床の掃除に取り組み、少し大きな子供は注意を呼びかけている。
しばらくし、道場の掃除を終えた子供達が荷物を持ってぞろぞろと出てきた。
三人グループ。同い年くらいの集まりのその中にパティはいた。友達と何やら語らいながら帰路をいく。
俺は少し離れた位置についてパティの様子を伺う。
ゆっくりと歩き、笑いながら三人は流れに合流した。流れに乗って少しした所で一人の友達と別れた。
パティ達は手を振って別れ、再び各々の家に向かい歩いていく。
家が近付いてきたところで、流れから抜け出し路地に入る。向かう先には住宅街が軒を連ねている。
辺りは仕事帰りの大人や、パティ達と同じく習い事からの帰りの子供の姿がちらほら。道の隅の方では一匹の猫が伸びをしている。どうやら今からが活動本番のようだ。
そんな中、突然聴こえてきた若い男の笑い声。
笑い声に含まれた独特の悪意が辺りにはびこっている。パティ達はそんな笑い声に気付き辺りを見渡す。やがてパティが動き友達もそれに続く。路地をいくつか折れた先、パティと初めて出会った場所に行き着く。
広場は昼間とは大きく違い薄闇に飲まれており、暗く視界が悪い。
広場の隅では二人組みの若者が何やらはしゃいでいて、若者の足元に広がる闇の中では何かがうずくまっている。
そんな光景を後ろから観察するパティ達。まだ状況を理解していないのか目を凝らし闇の中に意識を集中している。
少しして、友達がパティの右腕を引っ張り広場を後にしようとする。
が、
パティはその場から動こうとしない。友達に揺さぶられ、声を掛けられても一向に動こうとしない。悪意に満ちた笑い声は尚も続いている。
「どうちたの子猫ちゃん⁉︎ ママとはぐれちゃったでちゅか⁉︎ お兄さんが会わせてあげようか⁉︎ あっははは!」
俺はパティ達の更に後方にある植え込みへと静かに移動して、身を隠す。
「ーーーーティ」
「…………」
連れの言葉に耳を貸そうともせず、パティは真っ直ぐに若者を見つめている。
恐らくだが、パティは今現在動けないでいる。頭では今すぐ助けるべきだと理解はしているが、あの日の記憶が身体を支配してその場に縛り付けてしまっている。
異変を嗅ぎつけた三十代くらいのおじさんが一人、俺の後方から小走りで近付いてきた。
俺は植え込みから上半身を乗り出しおじさんの口元を押さえ、植え込みの中へと引きずり込む。
「んー! んー!」
当然だがおじさんはパニックに陥りジタバタとする。俺は片手でおじさんの口元を塞いだまま空いた方の手の人差し指を口の前に立てて合図を送る。
すると、おじさんは意外にもすぐに理解してくれて『何だどうした?』と小声で聞いてきたので、俺も小声で答える。
「おじさん。ごめんなさい。気持ちは分かるんだけど、少し待って。あそこにいる子、知り合いなんだけど今トラウマを乗り越えようと頑張ってる最中なんだ、だから少しの間でいいから見守ってあげて?」
そんな俺の言葉におじさんはすぐさま納得してくれたようで、
「はぁん。男になろうってんだな。おっしゃ、あの子が男になる所この目でしっかりと見届けさせて貰うぜ!」
俺はおじさんと並んで少年パティの様子を伺う。
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