繰り返される転生劇〜喜劇こそ、笑いこそ世界を救うたった一つの手立てではないかっ!〜

清水花

文字の大きさ
上 下
42 / 135
エピソード・オブ・少年

17

しおりを挟む
 窓から中を覗いてみると多くの子供達が様々な木製の武器を手に取り稽古に励んでいる。

 表向きは剣術道場と名乗ってはいるが、取り扱う武器は槍や長斧など多岐にわたるようである。中でもやはり剣が一番人気なのか、ざっと見た限りでは30人中20人程度が木刀を手にしている。

 自然と自身の左腰を触る。左手は空を掴んで寂しげだ。

 道場内、壁には模造品なのか数多くの武器が綺麗に並べられている。あれだけ子供がいるのだ、さすがに本物の武器ではなかろう。

 また、妙に艶のある床板の上には大きな樽がいくつか置いてあって、子供達が使用している木刀類が乱雑に詰め込まれている。

 ここで学んでいる子供達が将来、この街を守るタイクーン城お抱えの護衛騎士団に入団して街の平和を守るんだろうな。

 そう考えると、もしかしたらこの剣術道場の師範達は以前、護衛騎士団として活躍していたこの子達の大先輩になるのかもしれない。年齢的に団員を引退して、次の時代を任せられる子供達を育成している、とか。

 ありそうな話である。

 と、少年パティを発見する。

 真剣な表情で稽古に取り組んでいる。いくつか汗の雫が垂れ煌めいている。

 どうやら稽古試合中らしく木製の棒、おそらく長槍を模したものを手にした相手と立ち合っている。相手は少し年上か、パティより一回り体が大きい。パティは肩で息をしているものの落ち着いている。やはり道場内で、見知った人間が相手ならば試合という形式でも、稽古という安心感、意識が前面にあるため取り乱さないようだ。しかしあの子の心の中にある、試合、勝負、決闘に対する許容範囲がある域値を超えた時に恐怖に支配され自身が崩壊する。

 木槍の相手が動いた。長いリーチを生かした突きをパティに向かって放つ。パティは突きを背にして避け、上体をかがめて槍の柄を潜りながら相手のすねに軽く一撃加え、上体を起こしながらくるりと身体を回転させ回転の勢いを利用して的確に相手の首に剣を添えた。

「勝負あり!」

 審判役の子供が叫ぶ。

 木槍の子供は首筋に触れるパティの木刀を目だけ動かして確認し、力なく木槍の先端を床に落とした。右手を上げてパティに何か喋りかけ、硬直状態を解いて二人とも元の位置へ戻り、丁寧に一礼を済ませた。

 道場の隅へと歩いていく二人は笑顔でじゃれついている。先程、試合が行われた場所では別の子供達がお辞儀をして試合を始めている。

 道場内から視線を切って、壁を背にして地面に座り込む。

「どうしたもんかね……」

 見上げた太陽はすでに落ち始めており、夜の気配はまだ薄いが着々と準備は進んでいるらしかった。

 答えは未だに出ないまま、俺はパティを立ち直らせるための方法を探してぶらりと剣術道場を後にした。

 きっとどこかに良い方法があるはずだと信じて歩き出す。俺は流れに乗って三番街と二番街を繋ぐ橋まで足を伸ばしていた。

 二番街。見た目はほぼほぼ三番街と変わらない。丸い円の中を多くの人達が歩いている。流れのリズムが少し違う、なんて事もない。ただ一つ言える事といえば、三番街が商業地中心の街であるのに対して、二番街は商業地と住宅地がおおよそ半々だと言うことくらい。一番街はそのほとんどが住宅地で商業地は生活に最低限必要なお店が数件あると言った具合である。中心のタイクーン城に近付くほど住宅地が多くなっているのは住民の安全性を考慮しての事かもしれない。

 二番街の流れに乗って、街並みを見て回る。途中、住宅の二階から子供が手を振っているのに気付き手を振り返した。はたして俺に向けて振ってくれていたのか。

 しばらく歩くと怪しい雰囲気が漂うお店を発見した。

 古びた真っ黒な布で作られたテントで、上から訳の分からない小動物の干物や植物や動物の骨などが吊るされていて、魔法陣が描かれた羊皮紙が風でなびいている。また、店先には魔法使いが使う杖などがいくつか置いてあった。

 瞬間、俺の脳裏に浮かぶ村長の顔。

 白い歯むき出しの笑顔で右手の親指をぐいと立てている。

「あ……村長の装備品」

 おバカな二人が湖で溺れたり、宿屋詐欺にあったりと、本当に色々な出来事があったせいでこの街に来た理由をすっかり忘れていた。

「怪しさ全開だが、ちょっと見てみよう」

 黒魔法使いとかって、結構こういう禍々しいところが本質って感じだしな。

 逆に白魔法使いは神聖なイメージが強い。

 だから、黒魔法使い専用のお店ともなればこのような雰囲気が普通なのだろう。といっても、村長はあくまで物理攻撃を主体とする戦士枠だから禍々しさとかは全く必要ないのだが……。

 吊るされた気持ちの悪い物達を避けてテント内へと入っていく。まるで魔界にでも通じているんじゃなかろうかというほどに、奥に行くほど闇が濃く支配している。

 テントの奥に入った俺は、急に妙な安心感を覚えた。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

回帰した貴公子はやり直し人生で勇者に覚醒する

真義あさひ
ファンタジー
名門貴族家に生まれながらも、妾の子として虐げられ、優秀な兄の下僕扱いだった貴公子ケイは正妻の陰謀によりすべてを奪われ追放されて、貴族からスラム街の最下層まで落ちぶれてしまう。 絶望と貧しさの中で母と共に海に捨てられた彼は、死の寸前、海の底で出会った謎のサラマンダーの魔法により過去へと回帰する。 回帰の目的は二つ。 一つ、母を二度と惨めに死なせない。 二つ、海の底で発現させた勇者の力を覚醒させ、サラマンダーの望む海底神殿の浄化を行うこと。 回帰魔法を使って時を巻き戻したサラマンダー・ピアディを相棒として、今度こそ、不幸の連鎖を断ち切るために── そして母を救い、今度こそ自分自身の人生を生きるために、ケイは人生をやり直す。 第一部、完結まで予約投稿済み 76000万字ぐらい ꒰( ˙𐃷˙ )꒱ ワレダイカツヤクナノダ~♪

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

転生したら王族だった

みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。 レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

処理中です...