繰り返される転生劇〜喜劇こそ、笑いこそ世界を救うたった一つの手立てではないかっ!〜

清水花

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エピソード・オブ・少年

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 パティのお母さん、ティナさんの料理は抜群に美味しかった。何で飲食店を経営していないのかが不思議なくらいである。個人的には野菜とお肉のさっぱり蒸しがとてつもない破壊力を持っていたと思う。じっくり蒸された野菜はしんなりと、とろっとろになっていて柔らかく甘みがひき立っていた。そこに薄切りにされたお肉の臭みのない上質な脂が良い仕事をするのである。野菜の甘みと脂の甘みが合わさり幸せの絶頂へと誘ってくれる。一噛みするごとに口の中では、会心の一撃のオンパレードだ。

 食事を頂いていると、パティのお父さんのパールさんもご帰宅なされて、四人でテーブルを囲んだ。一家団欒タイムである。(おまけ一人付き)

 食事を終えてパールさんが口を開く。

「パティ。せっかく勇者様に手ほどきを受けたのなら、試合に出てみたらどうだ? 確か来週じゃなかったか? 毎年恒例のベネツィ剣術道場合同試合は。相手の技術を間近で見たり、実際に体験したりするのは一人で稽古するのでは出来ない経験だからな。勉強になるぞ」

 パティはパールさんの言葉にうつむいてしまう。

「あなた……」

「ああ……分かってる」

 家の中に重苦しい空気が流れ始めた頃、ティナさんが空気を入れ替えるように明るい声で、

「さあっ! 勇者様。今日はもう泊まっていってくださいな! ほらっ、パティも早くお風呂入って寝なさい!」

 パティは若干肩を落として、とぼとぼ歩いて部屋を後にした。

「あの……勇者様」

 パールさんは思いつめたように話し出す。

「息子の、パティの過去の事は……」

「はい。聞きました。とても辛い目にあったようで……。勝負に負ける事でまた辛い目に合うんじゃないかって思ってるようですね。だから勝負の舞台に立つことが出来ないでいる」

「やはりそうですか……。私達もどうにか自信を取り戻してもらおうと色々やってみてはいるのですが、さっきのように……」

 洗い物を済ませたティナさんもテーブルに着いて、

「勇者様、あの子が早く立ち直れるような良い方法は何かないでしょうか……?」

「……難しいでしょうね。どんな言葉を投げかけても彼の心の傷は癒えないと思います。過去を振り切るには、過去の、弱い自分に打ち勝つしかないと思います。その為にはやはり、彼が勝負の舞台に立たなければ……」


 結局。答えは出ないまま夜は更けて、眠りについた。

 翌朝。

「おはよう! 勇者様!」

「ああ、おはよう! 今日も元気がいいね!」

「昨日はたくさん寝たからね。元気全回復だよ!」

 気持ちのいい朝日が部屋に差し込む中、パティはそう言って笑う。

 その後、ありがたいことに朝食までご馳走になりパティと一緒に家を出た。

 今日は昼過ぎから夕方までが剣術道場でのお稽古らしいので、今から昼まで昨日と同じように必殺技を含めた稽古をしよう! とのことだった。

 昨日と同じ広場に出向き、パティの繰り出す枝を弾いて、流して、躱していく。その逆もまた然り。

 このまま、試合に出られれば間違いなく優勝だとは思うのだが……。いざ試合、勝負となると身構えてしまって気が引けてしまう。

 ふう。さてさて、どうしたものか。

 などと考えているうちに時間が経つのは早いもので、あっと言う間にお昼である。

「パティ、そろそろじゃないか?」

「え? もうそんな時間⁉︎ 大変だ! 遅刻遅刻」

 走り出したパティの後をこっそりとついていく。広場から出て流れに乗って三番街を時計回りに半周した辺り、黒っぽく古い木造の建物の中にパティは入っていった。築何年経つのか壁に使用されている木材のそのほとんどが朽ち果てていて所々割れていたり、また尋常ではない量の蜘蛛の巣が張られていて、一目見ただけでは廃屋か、お化け屋敷と思われても仕方のない風貌である。しかし、正面入り口には大きな木を縦に切って作られた、堂々とした看板が掲げられている。師範が大きな筆で書き記したのか、そこにはこう書いてある。

《ベネツィ剣術道場三番街支部》

 俺は静かに近付いて、窓から中の様子を伺う。

 古びた木の香りが優しく香った。




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