繰り返される転生劇〜喜劇こそ、笑いこそ世界を救うたった一つの手立てではないかっ!〜

清水花

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エピソード・オブ・少年

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「端的に言おう!」

 俺は声を大にして少年に語りかける。(別にさっきの必殺技のくだりを無かった事にしたいわけじゃない)

「必殺技とは! 思いつきである!」

「重い突き……」

「違う、だ。活字にしないと伝わりづらいようなボケをするな!」

 もしスルーしてしまったら俺の沽券こけんに関わる重要な大問題になってしまう。

 下手すりゃ主人公降板だぜ。

「思いつき、思いつき。う……ん。全然分からない」

 腕組みしながら必死に考える少年パティ。

 可愛いじゃねえか。

「時に少年パティよ。君はどんな必殺技を編み出したい?」

「そりゃ……ズバーンって、ドカーンって、ボッカーンって、格好いいやつ」

「……もう少し具体的に言えんのかね……」

「そうだなー。僕は身体が小さいし力があまり強くないから今、頭の中で想像しているようなド派手な必殺技は使えないと思うんだよなー」

「ほうほう……ならばどうするね?」

「力じゃない……身軽さ、速さを活かした必殺技……例えば……目にも見えないようなスピードで一瞬のうちに相手を斬りつける、とか?」

「ーーーーそう。それがだよ!」

「……なるほどっ!」

「君の良さ、君らしさ、君のアイデンティティ、君だけの君。それこそが必殺技を作る材料なんだよ。材料さえ分かってしまえば、あとは……」

「材料を元にした、思いつき……」

 俺はドヤ顔で少年パティを見る。

「あぁ! そうかそうか。分かったぞ、分かってきたぞ!」

「どうやら君の頭の中にも必殺技工場が出来たみたいだね。おめでとう!」

「わぁ! ありがとう! 試してみたい必殺技がどんどん出てくるよっ!」

 少年パティは嬉々としてはしゃいでいる。

「あ、でもさ。必殺技の名前ってのはどうやってつけたらいいの? それも思いつきなの?」

「もちろんだとも。この世界の約9割は思いつきで出来ている。もちろん俺や君も例外ではない」

「そうなのっ⁉︎ じゃあ残りの1割は……?」

「……奇跡だね」

 と、かなり適当な事を言ってしまった。

 少年パティは驚愕の事実を知ってしまったと言わんばかりに辺りを見回している。

 あとでフォローしとかないとな……。

「で、名前についてだが……」

「あ、そうだ。名前だ名前!」

「先程も言ったように思いつきである。君がその必殺技に似合う名前を考えてつければよいよ」

「勇者様がさっき使った必殺技の名前は?」

「ああ、あれはだね。俺のタケルって名前は、とある国の偉い人からとった名前らしいんだ。だからその国の神様の名前をつけてみたんだ。思いつきでね」

「神様の名前かぁ……確かになんか格好いいよね。ゾクゾクする。あ、でも僕ずっと前から一つ考えてる名前があるんだよね」

「……ほぅ。なんだねそれは?」

 少年は目を閉じて何やら集中している。やがて、

「殺人剣! オーバーロード!」

 可愛いらしいドヤ顔で言い放った。

「殺人を犯すつもりかね……君は」

 騎士になる夢はどうした。騎士とは人を護るものだろう。

「あ、そっか。なんか響きが強そうで格好いいから……。じゃあ何がいいんだろう?」

 俺は腕組みして考える。そして、

世界的大運動会オリンピック! とか?」

「わあ! なんか良い響き! 今すぐ走り出したい気になる!」

月末最後の金曜日プレミアムフライデー! とか?」

「問題の先送りにしかならなそうな気がするね! しわ寄せが怖いよ」

お礼目当ての偽善行為ふるさと納税! とか?」

「ふるさとサイドもアピールが大変だね!」

劣悪な労働環境ブラックカンパニー! とか?」

「今から将来が心配だよ!」

 一連のかけ合いを終えた俺の胸に妙な爽快感が走る。

「「いえーい!」」

 つい、気持ちが高ぶり少年パティとハイタッチを交わす。

 よかった。パティも同じ気持ちだったみたいだ。

 気を取り直して、

「ま、とりあえずはこんなもんかな」

「なるほどなー。やっぱり難しいんだね」

「まあ、適当に修行でも勉強でもしてたら、不意にパッ! と思い浮かぶからさ、それをすぐにメモしておくと今後のやくにたつよ」

「なるほど。不意に、パッと、メモだね。よし覚えた!」

「うむうむ。よろしい。というか気になったんだが……さっき剣術道場で上手くいってないって言ってたけど、あれはどういう意味? てっきりみんなより弱いとか、稽古についていけないとか、そんな事だと思っていたけれど」

「……うん。だいたい合ってるよ」

 と、少年パティはうつむいて口にした。

「む? しかし、さっきの手合わせの手応えからして道場ではかなり強い位置にいるんじゃないのかい? まさか君以上の腕の持ち主が何人もいるわけではないだろう?」

「…………」

「試合の結果はどうなんだい? 今までどれくらいの人に勝ったことがある?」

 少年パティは重々しく口を開いて答えた。

「勝った事は一度もない」



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