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エピソード・オブ・少年
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「シーン11、カッーーーー」
「よろしくお願いします」
構えから一転、礼儀正しくそう言うと少年パティは剣に見たてた枝を顔の前に掲げて目を閉じた。その後、深々と頭を下げてお辞儀した。
少年パティの頭が上がる前に俺も慌ててお辞儀を済ませる。
今回はアレ、いらないのね。そっかそっか。
さっき言っていた剣術道場の教えなのか、少年パティのその礼儀正しい行いに関心しているとパティの方はいつの間にか構えていて、いつでも来い! といった具合だった。
利き手なのだろう右手を前に出して枝先を俺に向けている。左手は肘で直角に折られ胸の高さに添えられている。足は両足が肩幅以上に開かれていて右足が前に出ている。なので、特攻をかけるような移動の多い戦闘スタイルではなく、どちらかといえば移動を極力少なくしてその場にとどまって相手を制する戦闘スタイルなのだろう。
俺は一瞬迷ったが、ここは相手に合わせず自分の戦闘スタイルを貫くことにする。
それがきっとこの子の為になる。
この子なら気付き、学んでくれる。
俺はいつも通り両手に枝を持って、握るか、握らないかくらいの脱力感の手の中で枝を遊ばせる。足は右が半歩前。全身から力を抜いてどのようなとっさの動きにも対応できるように備える。真っ直ぐに相手の目を見て、未だ脳内にある相手の思考を読み解く。
と、そこで少年が、
「無理っす……」
「ーーーーぬっ⁉︎ なぜかね⁉︎」
「いや……普通に目が怖いし、たぶん僕が動いたら枝を吹き飛ばされて肩に一撃食らうと思う……。そしたらきっとかなり痛いと思う。痛いのは嫌い。だから……無理っす」
ほっほう……。色々と驚かせてくれるなこの少年。まあ、痛いから嫌だというのはここでは触れないでおくとしても。
枝を飛ばされ肩に一撃、とは俺が頭の中でイメージしたものとほぼほぼ同じだ。
正確には肩ではなく頭だが。
しかしそれでも、この少年は俺の頭の中のイメージをかなりの精度で感じ取って、あの場面では攻撃しないという最善の行動を取れている。
とてつもなく素晴らしい事だ。
これは普段の稽古がどうとかいうものではなく、この子が生まれて持った才能というものだ。
少年の分析、評価を終えて俺は指摘のあった怖い目つきと、未来の予想をやめてから改めて少年と立ち合う。
少年の持つ枝先が小刻みに震えている。
俺は鼻息を小さく漏らして、
「じゃあ……お先にどうぞ」
なるべく優しそうに笑ってみせる。
「本当にものすごい手加減しながら、手加減してよ⁉︎」
「はいはいーーーー」
少年は一転して真剣な表情となり辺りの空気が張り詰めたように強張る。
少年が動いた。右手に握った枝をそのまま真っ直ぐ俺の胸に向かって突き出してきた。俺は左手の枝を上に振り上げそれの軌道を逸らす。少年は跳ね上げられた右手首を宙でくるりと回して次なる一手を仕掛ける。俺の右サイドから垂直に降りてくる少年の枝先を身体の向きを変えて回避。すると少年は回避されるのは分かっていたと言わんばかりに枝を一旦引いて、踏み込みからの強烈な突きを放った。迫り来る枝先がまるで陽炎のようにブレて見える。俺は後方へと下がって難を逃れた。結果、空を貫いた少年の枝先が宙でぴたりと止まり、もとの場所へと静かに帰った。
「ふぅ……やっぱりダメか」
一言漏らすと少年は肩を落とした。
「どうした? もう終わりかね?」
少しおどけて言ってみせる。
「ま……まだまだ!」
少年は再び枝を振るう。
「よろしくお願いします」
構えから一転、礼儀正しくそう言うと少年パティは剣に見たてた枝を顔の前に掲げて目を閉じた。その後、深々と頭を下げてお辞儀した。
少年パティの頭が上がる前に俺も慌ててお辞儀を済ませる。
今回はアレ、いらないのね。そっかそっか。
さっき言っていた剣術道場の教えなのか、少年パティのその礼儀正しい行いに関心しているとパティの方はいつの間にか構えていて、いつでも来い! といった具合だった。
利き手なのだろう右手を前に出して枝先を俺に向けている。左手は肘で直角に折られ胸の高さに添えられている。足は両足が肩幅以上に開かれていて右足が前に出ている。なので、特攻をかけるような移動の多い戦闘スタイルではなく、どちらかといえば移動を極力少なくしてその場にとどまって相手を制する戦闘スタイルなのだろう。
俺は一瞬迷ったが、ここは相手に合わせず自分の戦闘スタイルを貫くことにする。
それがきっとこの子の為になる。
この子なら気付き、学んでくれる。
俺はいつも通り両手に枝を持って、握るか、握らないかくらいの脱力感の手の中で枝を遊ばせる。足は右が半歩前。全身から力を抜いてどのようなとっさの動きにも対応できるように備える。真っ直ぐに相手の目を見て、未だ脳内にある相手の思考を読み解く。
と、そこで少年が、
「無理っす……」
「ーーーーぬっ⁉︎ なぜかね⁉︎」
「いや……普通に目が怖いし、たぶん僕が動いたら枝を吹き飛ばされて肩に一撃食らうと思う……。そしたらきっとかなり痛いと思う。痛いのは嫌い。だから……無理っす」
ほっほう……。色々と驚かせてくれるなこの少年。まあ、痛いから嫌だというのはここでは触れないでおくとしても。
枝を飛ばされ肩に一撃、とは俺が頭の中でイメージしたものとほぼほぼ同じだ。
正確には肩ではなく頭だが。
しかしそれでも、この少年は俺の頭の中のイメージをかなりの精度で感じ取って、あの場面では攻撃しないという最善の行動を取れている。
とてつもなく素晴らしい事だ。
これは普段の稽古がどうとかいうものではなく、この子が生まれて持った才能というものだ。
少年の分析、評価を終えて俺は指摘のあった怖い目つきと、未来の予想をやめてから改めて少年と立ち合う。
少年の持つ枝先が小刻みに震えている。
俺は鼻息を小さく漏らして、
「じゃあ……お先にどうぞ」
なるべく優しそうに笑ってみせる。
「本当にものすごい手加減しながら、手加減してよ⁉︎」
「はいはいーーーー」
少年は一転して真剣な表情となり辺りの空気が張り詰めたように強張る。
少年が動いた。右手に握った枝をそのまま真っ直ぐ俺の胸に向かって突き出してきた。俺は左手の枝を上に振り上げそれの軌道を逸らす。少年は跳ね上げられた右手首を宙でくるりと回して次なる一手を仕掛ける。俺の右サイドから垂直に降りてくる少年の枝先を身体の向きを変えて回避。すると少年は回避されるのは分かっていたと言わんばかりに枝を一旦引いて、踏み込みからの強烈な突きを放った。迫り来る枝先がまるで陽炎のようにブレて見える。俺は後方へと下がって難を逃れた。結果、空を貫いた少年の枝先が宙でぴたりと止まり、もとの場所へと静かに帰った。
「ふぅ……やっぱりダメか」
一言漏らすと少年は肩を落とした。
「どうした? もう終わりかね?」
少しおどけて言ってみせる。
「ま……まだまだ!」
少年は再び枝を振るう。
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