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エピソード・オブ・少年
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「シーン10、カット1、よぉぉぉい……アクション!」
よく分からないがこんな感じだろうか? もし正解していたらたくさん褒めて欲しい。
路地を適当にいくつか折れていい感じに迷子になり、すっかり涙目になった所で少し開けた場所に行き当たる。そこは居住区域の小さな公園のようで、広場の真ん中には陽の光を独占するように小振りの木が一本立っていて隅の方に小さなベンチが置かれているだけの簡素な広場だった。
そこに少年が一人、佇んでいた。
年齢は10代前半くらいで、綺麗に切り揃えられた黒髪で、未だ成長過程の幼さ溢れる小さな痩躯で、活発的な印象と悲壮感が相まっていて、不思議な雰囲気を持つ少年だった。
素早く近付いて、ご機嫌をとるように下から下からお声掛けし奉る。
「あの……君は? 何やってるの?」
「ん? お兄さんは誰?」
振り返った少年は額に汗をかいていて、まるで不思議な物でもみるように幼く無邪気な瞳で俺を見る。
うおぉぉ……何かすげぇ。さっきの少年とはまるで別人だ。1話挟んだ間にいったい何が起きたんだ。
「…………」
少年は幼く無邪気で、それでいて瞳の奥に火を思わせるような熱量をもった目で俺を真っ直ぐに、真っ直ぐに、にら……見つめている。
「あっ! えっと……えっと……オレノナマエハ、イサミタケルキミハココデナニヲーーーー」
少年の目が限界を遥かに超えて見開かれ、青く発光しだしており目からは今にもビーム的なものが発射されそうな雰囲気が漂っていた。
え⁉︎ 何これ⁉︎ 何が始まったの⁉︎ 何か分かんないけど緊張して上手く喋れないし、少年は出会った瞬間からずっと様子が変だし、何これ⁉︎ 俺が悪いの⁉︎ 俺がダメなの⁉︎
うろたえる俺をよそに、少年の目はもはや青から赤へと取って代わり、激しく点滅までしだしたので俺の身体は完全に恐怖心に支配された。
「はわわ……」
「3……2……1……」
「ちょいちょいちょい! 待てっ! ルール! せめてルールぐらいはっ!」
「ぜぇーーーー」
「聞けぇぇぇ! あぁ、もう! こうなりゃやけくそだ! 俺の名前は勇猛! 訳あって旅をしているのだが、君はここでいったい何をしているのかね?」
鼻にかかった声で少し気取って、訳も分からずその場で二回転して、聞いてみる。
「僕の名前はパティ。この街に住んでる12才の男の子だよ。僕の父さんはあのタイクーン城で護衛騎士団の団長をやってるんだよ! だから僕もいつか父さんみたいな立派な騎士になるために、強くなるために、剣術道場に通ったりしてるんだけどなかなか上手くいかなくて……。だから僕はこの場所でいつも秘密の特訓をしてるんだ。もちろん道場のみんなには内緒でね」
そう言うと、パティと名乗った少年は照れ笑いを浮かべてみせた。
俺は衣服の乱れを軽く整えて、右膝を地面にそっとつけて、そして、
「不肖、勇猛こう見えても私、実は勇者なのです。なので剣術には多少の覚えがありまして、よろしければお手合わせお願いできませんか?」
「ーーーーえっ⁉︎ お兄さん勇者様なのっ⁉︎」
うんうん。やはり子供は良いリアクションをくれる。
「まあ、何をもって勇者とするのかは知らないけどね。それでも一応、大魔王を倒すために旅をしているのだよ」
「へぇ……。じゃあもしかして父さんより強いのかな?」
「どうだろう? 俺もそこそこ強いとは思うけど、お父さん団長さんなんでしょ? 普通に負けちゃうかもよ? 俺」
「でも、お兄さん。勇者様なのに剣、持ってないんだね」
左の腰に差してある木刀を掴もうとした手が空を切る。
「あれ? ああ、そうか。今、鍛冶屋さんに預けてるんだ」
「鍛冶屋さんに?」
「ああ。愛用の木刀を2本鍛えて貰っているんだ」
「……え? 剣を2本も使うのっ⁉︎」
今日一番の驚きの表情でパティは言う。
「そっ! 俺は二刀流の勇者なんだよ」
「ニトウリュウ……?」
小首を傾げて考える少年パティに愛嬌を感じたので、その辺に落ちていた手頃な枝を2本手に取って構えて見せる。
「俺の知り合いの流派でね……こうやって両手に剣を持って戦うすごく強い剣士がいるんだ。今は確か魚屋ーーーーあ、いや。なんでもない。とにかくその人に少しだけ剣術を教えてもらったから、俺もその人の真似をして二刀流ってわけ」
「ふぅん……剣を両手に持って戦うなんて考えた事もなかったよ。でも確かに剣が2本あった方が強そうだね。ある意味、二対一だし」
「うーん。まあ、良いところもあるし、悪いところもあるのかな。俺に教えてくれた人くらい強くなれば悪いところなんて無くなるのかもしれないけどね」
「ふむふむ」
少年パティは興味津々に俺の話を聞いている。勉強熱心な良い子だ。
「じゃあ……ちょっとお手合わせお願いしようかな。ねえ、お兄さん。ちゃんと手加減してよ?」
そう言うと少年パティは、手頃な枝を拾い上げて構えてみせた。
よく分からないがこんな感じだろうか? もし正解していたらたくさん褒めて欲しい。
路地を適当にいくつか折れていい感じに迷子になり、すっかり涙目になった所で少し開けた場所に行き当たる。そこは居住区域の小さな公園のようで、広場の真ん中には陽の光を独占するように小振りの木が一本立っていて隅の方に小さなベンチが置かれているだけの簡素な広場だった。
そこに少年が一人、佇んでいた。
年齢は10代前半くらいで、綺麗に切り揃えられた黒髪で、未だ成長過程の幼さ溢れる小さな痩躯で、活発的な印象と悲壮感が相まっていて、不思議な雰囲気を持つ少年だった。
素早く近付いて、ご機嫌をとるように下から下からお声掛けし奉る。
「あの……君は? 何やってるの?」
「ん? お兄さんは誰?」
振り返った少年は額に汗をかいていて、まるで不思議な物でもみるように幼く無邪気な瞳で俺を見る。
うおぉぉ……何かすげぇ。さっきの少年とはまるで別人だ。1話挟んだ間にいったい何が起きたんだ。
「…………」
少年は幼く無邪気で、それでいて瞳の奥に火を思わせるような熱量をもった目で俺を真っ直ぐに、真っ直ぐに、にら……見つめている。
「あっ! えっと……えっと……オレノナマエハ、イサミタケルキミハココデナニヲーーーー」
少年の目が限界を遥かに超えて見開かれ、青く発光しだしており目からは今にもビーム的なものが発射されそうな雰囲気が漂っていた。
え⁉︎ 何これ⁉︎ 何が始まったの⁉︎ 何か分かんないけど緊張して上手く喋れないし、少年は出会った瞬間からずっと様子が変だし、何これ⁉︎ 俺が悪いの⁉︎ 俺がダメなの⁉︎
うろたえる俺をよそに、少年の目はもはや青から赤へと取って代わり、激しく点滅までしだしたので俺の身体は完全に恐怖心に支配された。
「はわわ……」
「3……2……1……」
「ちょいちょいちょい! 待てっ! ルール! せめてルールぐらいはっ!」
「ぜぇーーーー」
「聞けぇぇぇ! あぁ、もう! こうなりゃやけくそだ! 俺の名前は勇猛! 訳あって旅をしているのだが、君はここでいったい何をしているのかね?」
鼻にかかった声で少し気取って、訳も分からずその場で二回転して、聞いてみる。
「僕の名前はパティ。この街に住んでる12才の男の子だよ。僕の父さんはあのタイクーン城で護衛騎士団の団長をやってるんだよ! だから僕もいつか父さんみたいな立派な騎士になるために、強くなるために、剣術道場に通ったりしてるんだけどなかなか上手くいかなくて……。だから僕はこの場所でいつも秘密の特訓をしてるんだ。もちろん道場のみんなには内緒でね」
そう言うと、パティと名乗った少年は照れ笑いを浮かべてみせた。
俺は衣服の乱れを軽く整えて、右膝を地面にそっとつけて、そして、
「不肖、勇猛こう見えても私、実は勇者なのです。なので剣術には多少の覚えがありまして、よろしければお手合わせお願いできませんか?」
「ーーーーえっ⁉︎ お兄さん勇者様なのっ⁉︎」
うんうん。やはり子供は良いリアクションをくれる。
「まあ、何をもって勇者とするのかは知らないけどね。それでも一応、大魔王を倒すために旅をしているのだよ」
「へぇ……。じゃあもしかして父さんより強いのかな?」
「どうだろう? 俺もそこそこ強いとは思うけど、お父さん団長さんなんでしょ? 普通に負けちゃうかもよ? 俺」
「でも、お兄さん。勇者様なのに剣、持ってないんだね」
左の腰に差してある木刀を掴もうとした手が空を切る。
「あれ? ああ、そうか。今、鍛冶屋さんに預けてるんだ」
「鍛冶屋さんに?」
「ああ。愛用の木刀を2本鍛えて貰っているんだ」
「……え? 剣を2本も使うのっ⁉︎」
今日一番の驚きの表情でパティは言う。
「そっ! 俺は二刀流の勇者なんだよ」
「ニトウリュウ……?」
小首を傾げて考える少年パティに愛嬌を感じたので、その辺に落ちていた手頃な枝を2本手に取って構えて見せる。
「俺の知り合いの流派でね……こうやって両手に剣を持って戦うすごく強い剣士がいるんだ。今は確か魚屋ーーーーあ、いや。なんでもない。とにかくその人に少しだけ剣術を教えてもらったから、俺もその人の真似をして二刀流ってわけ」
「ふぅん……剣を両手に持って戦うなんて考えた事もなかったよ。でも確かに剣が2本あった方が強そうだね。ある意味、二対一だし」
「うーん。まあ、良いところもあるし、悪いところもあるのかな。俺に教えてくれた人くらい強くなれば悪いところなんて無くなるのかもしれないけどね」
「ふむふむ」
少年パティは興味津々に俺の話を聞いている。勉強熱心な良い子だ。
「じゃあ……ちょっとお手合わせお願いしようかな。ねえ、お兄さん。ちゃんと手加減してよ?」
そう言うと少年パティは、手頃な枝を拾い上げて構えてみせた。
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