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エピソード・オブ・少年
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「あいてっ」
闇の宿屋を後にした俺は再び流れに乗って彷徨い歩く。
ボッタクられはしたが村長の装備品を買うお金はまだまだある。大丈夫。
露店の前で腕組みしながら品定めをする人と左肩がぶつかり会釈する。流れに参入してきた若い男女にスペースを奪われ、追いやられたさきでお婆ちゃんの杖先が右足を刺した。
「いたっ!」
よくある事である。名物なのである。
「ふむ」
しかし、どこのお店で買うとか全く決めていないからな。どこで買うべきか。
と言うか、村長の装備品ってどこで買えばいいのだろう? やはり魔法使い用のローブなどを取り扱っているお店がいいのだろうか?
魔法が使えない村長が魔法使いのローブを着るのか……。でも、だからといって鎧を着て歩く訳にもいかないだろうしな。でもまあ、村長のあの強靭な足腰なら平気かも。
「あ……そうだ」
ここでふと、裏ワザというか知る人ぞ知るお得な情報を思い出した。
このベネツィの街に隠れ住む、とある魔族の男の事だ。
「久しぶりに行ってみようかな」
久しぶり。本当に久しぶりだ。今回はギリギリのバトルを楽しむような事はしないので武器は強力な方がいい。
目的地が定まり歩みを進めて行くと目指す路地が見えてきた。目標まで約300メートル、今いる流れのど真ん中から路地の方へ少しずつ寄っていく。肩や足が容赦なくぶつかる。
路地まで約20メートル手前にさしかかった所で予定通り、左端まで移動できた。そこからタイミングを見計らい素早く路地に滑り込む。
薄暗い路地は大通りとは対照的に人通りが少なく、使用方法もわからない物を売る怪しげな店が少なからずある。俺は更に路地を左に右に折れて、道端に座り込む真っ黒なフードを被った男に話し掛ける。
「おい、これなんだが……」
男はなにも言わず顎先を少しあげフード越しに上目遣いで俺の差し出した物をみる。
「これは……まさか」
「アンタがずっと探し求めてるもんだ」
男は何かに取り憑かれたように目を見開き、震える手でそれを受け取りのっそりと立ち上がる。フードを深く被りなおし、言う。
「ついてこい」
「…………」
俺は何も言わずに男の後ろを着いていく。
男は小民家の中に入り俺も後に続く。後ろ手に戸を閉め男の背中をジッと見つめ男の次の行動を待つ、そこで男がようやく口を開く。
「お前……これをどこで?」
「あるモンスターのドロップアイテムだ」
「そうか……」
「お願い出来るか?」
男は最初小さく震えていたがやがて、身体を激しく揺らし大声で笑い出した。
「当たり前だ! 俺はずっと、ずっと、ずっとこの《光の星屑》を探し求めていたんだ! ようやく、ようやく俺の夢が叶う! 生涯最高の一振りを完成させられる! ……ハハハハハ!」
男は気が狂ったように叫び、驚喜していた。この男、実は人間界に隠れ住む魔族でかなりの腕を持つ鍛冶屋だ。普通に冒険をしていたら、ただの怪しい男なのだが《光の星屑》を見せるとイベントが開始する。
「あんた、獲物は?」
「俺は剣なんだけど、この……木刀を媒体に使ってくれ。あと、杖が2本と細身の剣を1本頼む。材質は……適当に鋼あたりでいいから」
「木刀……?」
男は訝しみながら木刀を手に取り、矯めつ眇めつ眺める、やがて。
「確かに星屑の粒子が持つ特性を考慮したら、硬い物質よりは……しかし、相反する性質の物を共存させるには……いくら俺でも……」
俺はこの男の実力を知っている、誰よりも。だから確信に満ちたエールを贈る。
「アンタなら絶対出来る! 出来るよ!」
言葉は相手を元気にする為に使いたい。それが俺のポリシーだ。
男は面を食らったような顔をして、それから両頬をバシンと叩き決心したようだ。
「しばらく一人にしてくれないか? こんな大仕事は本当に久しぶりだ……集中したい。時間は掛かるが最高の逸品を造ってやるよ」
「ああ、頼んだぜ」
俺は背中にただならぬ熱い情熱と決意を感じながら戸を閉め、路地を宛もなくゆっくりと歩きだした。
闇の宿屋を後にした俺は再び流れに乗って彷徨い歩く。
ボッタクられはしたが村長の装備品を買うお金はまだまだある。大丈夫。
露店の前で腕組みしながら品定めをする人と左肩がぶつかり会釈する。流れに参入してきた若い男女にスペースを奪われ、追いやられたさきでお婆ちゃんの杖先が右足を刺した。
「いたっ!」
よくある事である。名物なのである。
「ふむ」
しかし、どこのお店で買うとか全く決めていないからな。どこで買うべきか。
と言うか、村長の装備品ってどこで買えばいいのだろう? やはり魔法使い用のローブなどを取り扱っているお店がいいのだろうか?
魔法が使えない村長が魔法使いのローブを着るのか……。でも、だからといって鎧を着て歩く訳にもいかないだろうしな。でもまあ、村長のあの強靭な足腰なら平気かも。
「あ……そうだ」
ここでふと、裏ワザというか知る人ぞ知るお得な情報を思い出した。
このベネツィの街に隠れ住む、とある魔族の男の事だ。
「久しぶりに行ってみようかな」
久しぶり。本当に久しぶりだ。今回はギリギリのバトルを楽しむような事はしないので武器は強力な方がいい。
目的地が定まり歩みを進めて行くと目指す路地が見えてきた。目標まで約300メートル、今いる流れのど真ん中から路地の方へ少しずつ寄っていく。肩や足が容赦なくぶつかる。
路地まで約20メートル手前にさしかかった所で予定通り、左端まで移動できた。そこからタイミングを見計らい素早く路地に滑り込む。
薄暗い路地は大通りとは対照的に人通りが少なく、使用方法もわからない物を売る怪しげな店が少なからずある。俺は更に路地を左に右に折れて、道端に座り込む真っ黒なフードを被った男に話し掛ける。
「おい、これなんだが……」
男はなにも言わず顎先を少しあげフード越しに上目遣いで俺の差し出した物をみる。
「これは……まさか」
「アンタがずっと探し求めてるもんだ」
男は何かに取り憑かれたように目を見開き、震える手でそれを受け取りのっそりと立ち上がる。フードを深く被りなおし、言う。
「ついてこい」
「…………」
俺は何も言わずに男の後ろを着いていく。
男は小民家の中に入り俺も後に続く。後ろ手に戸を閉め男の背中をジッと見つめ男の次の行動を待つ、そこで男がようやく口を開く。
「お前……これをどこで?」
「あるモンスターのドロップアイテムだ」
「そうか……」
「お願い出来るか?」
男は最初小さく震えていたがやがて、身体を激しく揺らし大声で笑い出した。
「当たり前だ! 俺はずっと、ずっと、ずっとこの《光の星屑》を探し求めていたんだ! ようやく、ようやく俺の夢が叶う! 生涯最高の一振りを完成させられる! ……ハハハハハ!」
男は気が狂ったように叫び、驚喜していた。この男、実は人間界に隠れ住む魔族でかなりの腕を持つ鍛冶屋だ。普通に冒険をしていたら、ただの怪しい男なのだが《光の星屑》を見せるとイベントが開始する。
「あんた、獲物は?」
「俺は剣なんだけど、この……木刀を媒体に使ってくれ。あと、杖が2本と細身の剣を1本頼む。材質は……適当に鋼あたりでいいから」
「木刀……?」
男は訝しみながら木刀を手に取り、矯めつ眇めつ眺める、やがて。
「確かに星屑の粒子が持つ特性を考慮したら、硬い物質よりは……しかし、相反する性質の物を共存させるには……いくら俺でも……」
俺はこの男の実力を知っている、誰よりも。だから確信に満ちたエールを贈る。
「アンタなら絶対出来る! 出来るよ!」
言葉は相手を元気にする為に使いたい。それが俺のポリシーだ。
男は面を食らったような顔をして、それから両頬をバシンと叩き決心したようだ。
「しばらく一人にしてくれないか? こんな大仕事は本当に久しぶりだ……集中したい。時間は掛かるが最高の逸品を造ってやるよ」
「ああ、頼んだぜ」
俺は背中にただならぬ熱い情熱と決意を感じながら戸を閉め、路地を宛もなくゆっくりと歩きだした。
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