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エピソード・オブ・少年
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「あ……お、おはよ……」
俺の言葉にデュークは上体を起こして辺りをぐるりと見て回り未だ眠るシドに視線を落として呟く。
「夢ではなかったか……」
残念そうに肩を落とすデューク。
そんなデュークの気持ちは痛いほどに分かってしまうので、応援というか励ましの言葉を掛けてあげたくなった。
「あの……さ、デューク。恥ずかしいだろうし、悔しい気持ちだってもしかしたらあるかもしれないけど、気を落とさないでって言うか……あんまり深く考えないで」
デュークは横目で俺を見て、
「タケル。仲間にしてやろうか?」
「いや、この状況でそれはおかしくない?」
その言葉を掛けてくれるのはすごく嬉しいし、ありがたい事なんだけど今は場面が場面だろ。何気に俺の言葉はフル無視だし……。
不満に思う俺をよそに、デュークは何事もなかったかのように続ける。
「ふむ。しかし、まさかあんな事になるだなんてな……思っても見なかったよ」
「だよね。ただ大通りを人がわんさか歩いているだけだもんね。自分も加わろうって簡単な感じで入っちゃうとめちゃくちゃにされちゃうもんね」
「……? タケル。お前先程から何を言っているのだ?」
「……えっ? デュークもあの流れにやられたんじゃないの?」
「流れ……?」
あれれ? 何だか急に話しが噛み合わなくなって来たぞ。変だな。ここにいるっていう事は、流れにやられて運ばれたとばかり思っていたけれど俺の認識ミスだったのか? じゃあいったいこの二人は何でここに?
「おぉ。デューク様、ご無事でしたか」
あちらではシドが目を覚まし、デュークの身を気遣っている。
「私は平気だ。お前はどうだ?」
「えぇ。私も気を失ってしまいましたが、別段ケガをしたという訳ではないので……」
「そうか。ならいい」
「しかし、本当にいたんですがねぇ。黄金色に輝く魚。いえ、魚というよりやはり蛇だったのか……」
「うむ。私も別にお前を疑っている訳ではないのだ。私はお前を信じている」
ぽつりぽつりと聞こえてくる二人の話しを聞いていると、どうやら黄金色の魚がいたとか、いなかったとか、そういう話らしい。
「しかし、ちょっと夢中になってしまいましたね。年甲斐もなく」
「ああ。そうだな」
「夢中で探すあまり、身体が手摺を超えて湖に落ちてしまうだなんて思いもしませんからね」
「ああ。うかつだった」
ーーーーこの二人バカなのっ⁉︎
何だよ、何してんだよこいつら。流れがどうとか言う前に、街に入る前の橋の部分で勝手に死にかけてんじゃねぇか!
しかも魚を探すのに夢中になって橋から落ちるだなんて間抜けすぎるだろ……。
これではデュークのイメージ崩壊を危惧していた自分がバカみたいだった。そして何だかデュークには裏切られたようなそんな気でいた。
まあ、見た目の雰囲気や性格はあんな感じでもそこはやはり同じ人間。ドジな一面もあって当たり前だ、むしろデュークのそんな一面を知った事で親近感さえ湧いてしまう。
「今後、黄金色の魚なのか蛇なのかを見た時は要注意だな」
「そのようですね」
あ、やっぱりダメだこの二人。何が原因でこうなったのかを全く理解していない。失敗を、教訓を生かせない人達のようだ。
次はきっと白金色の魚を探して橋から落っこちるな。
と、俺は心の中で確信した。
あるいは青い鳥を追っているうちに、崖の下へ真っ逆さま。
とか。
この二人なら普通にやりそうで怖い。
クールで根暗で大人しそうな二人ではあるけれど、彼等の旅路も意外と楽しいものがあるのかもしれない。基本は無言で歩き続けるのかとも思ったんだが、今回のように黄金色の魚を探したりして彼等なりに楽しんでいたみたいだし。
だからといって、行動が危なすぎて仲間に加わりたいとは思わないが……。
巻き込まれるのは正直いってごめんだ。
だがしかし。こう何度も顔を合わせていると情が移ってしまうもので……。
「あの……デューク?」
「ん? やはり仲間にして欲しいのか?」
「残念だけど、そうじゃない」
えっと……。彼等を傷付けないように、彼等の冒険が安全に楽しく行えるようにアドバイスを……。
「し……神父さん! 神父さんとか仲間に出来たら最高だよね⁉︎ だって、やられちゃってもすぐに蘇生してもらえるじゃん⁉︎」
「ふむ。それもそうだな」
「お前のような奴でも、たまにはまともな事も言えるんじゃな」
決してまともな案ではないと思うのだが、もし本当に神父さんを仲間に出来れば彼等の危険な行為を最前線で分かりやすく、やんわりと理解させてくれる筈だ。そうすれば彼等の身の安全が格段に向上する筈だ。
というかシドめ……俺は基本まともな事しか言わないっての!
ベッドから降りて身支度を整える二人を見て、俺も慌てて身支度を整える。
出入り口へと向い責任者の女性に笑顔でこう告げられる。
「大人1人、5000Gね」
俺は両肩を落として答える、
「はい……」
ここはケガ人の集まる、療養所。
ベッドで眠るだけで高額の支払いが待っている恐ろしい闇の宿屋。
人混み流れによる外傷と、この闇の宿屋のコラボレーション。
つまりこれがベネツィ七不思議の一つ《完膚なきまでに満身創痍な旅人とそれを癒す闇の堕天使》の正体である。
窓口の花瓶にはトゲトゲしい植物が生けられていて、代金を受け取る責任者の背後には、右手を氷で冷やす女性が嬉しそうに笑っていた。
俺は更なる身の危険を感じ、急ぎ出入り口から走って出てすぐに通りを左に折れた。
道端では薬草売りの露店の店主が『お仲間にどうですか』と声を張る。
俺の言葉にデュークは上体を起こして辺りをぐるりと見て回り未だ眠るシドに視線を落として呟く。
「夢ではなかったか……」
残念そうに肩を落とすデューク。
そんなデュークの気持ちは痛いほどに分かってしまうので、応援というか励ましの言葉を掛けてあげたくなった。
「あの……さ、デューク。恥ずかしいだろうし、悔しい気持ちだってもしかしたらあるかもしれないけど、気を落とさないでって言うか……あんまり深く考えないで」
デュークは横目で俺を見て、
「タケル。仲間にしてやろうか?」
「いや、この状況でそれはおかしくない?」
その言葉を掛けてくれるのはすごく嬉しいし、ありがたい事なんだけど今は場面が場面だろ。何気に俺の言葉はフル無視だし……。
不満に思う俺をよそに、デュークは何事もなかったかのように続ける。
「ふむ。しかし、まさかあんな事になるだなんてな……思っても見なかったよ」
「だよね。ただ大通りを人がわんさか歩いているだけだもんね。自分も加わろうって簡単な感じで入っちゃうとめちゃくちゃにされちゃうもんね」
「……? タケル。お前先程から何を言っているのだ?」
「……えっ? デュークもあの流れにやられたんじゃないの?」
「流れ……?」
あれれ? 何だか急に話しが噛み合わなくなって来たぞ。変だな。ここにいるっていう事は、流れにやられて運ばれたとばかり思っていたけれど俺の認識ミスだったのか? じゃあいったいこの二人は何でここに?
「おぉ。デューク様、ご無事でしたか」
あちらではシドが目を覚まし、デュークの身を気遣っている。
「私は平気だ。お前はどうだ?」
「えぇ。私も気を失ってしまいましたが、別段ケガをしたという訳ではないので……」
「そうか。ならいい」
「しかし、本当にいたんですがねぇ。黄金色に輝く魚。いえ、魚というよりやはり蛇だったのか……」
「うむ。私も別にお前を疑っている訳ではないのだ。私はお前を信じている」
ぽつりぽつりと聞こえてくる二人の話しを聞いていると、どうやら黄金色の魚がいたとか、いなかったとか、そういう話らしい。
「しかし、ちょっと夢中になってしまいましたね。年甲斐もなく」
「ああ。そうだな」
「夢中で探すあまり、身体が手摺を超えて湖に落ちてしまうだなんて思いもしませんからね」
「ああ。うかつだった」
ーーーーこの二人バカなのっ⁉︎
何だよ、何してんだよこいつら。流れがどうとか言う前に、街に入る前の橋の部分で勝手に死にかけてんじゃねぇか!
しかも魚を探すのに夢中になって橋から落ちるだなんて間抜けすぎるだろ……。
これではデュークのイメージ崩壊を危惧していた自分がバカみたいだった。そして何だかデュークには裏切られたようなそんな気でいた。
まあ、見た目の雰囲気や性格はあんな感じでもそこはやはり同じ人間。ドジな一面もあって当たり前だ、むしろデュークのそんな一面を知った事で親近感さえ湧いてしまう。
「今後、黄金色の魚なのか蛇なのかを見た時は要注意だな」
「そのようですね」
あ、やっぱりダメだこの二人。何が原因でこうなったのかを全く理解していない。失敗を、教訓を生かせない人達のようだ。
次はきっと白金色の魚を探して橋から落っこちるな。
と、俺は心の中で確信した。
あるいは青い鳥を追っているうちに、崖の下へ真っ逆さま。
とか。
この二人なら普通にやりそうで怖い。
クールで根暗で大人しそうな二人ではあるけれど、彼等の旅路も意外と楽しいものがあるのかもしれない。基本は無言で歩き続けるのかとも思ったんだが、今回のように黄金色の魚を探したりして彼等なりに楽しんでいたみたいだし。
だからといって、行動が危なすぎて仲間に加わりたいとは思わないが……。
巻き込まれるのは正直いってごめんだ。
だがしかし。こう何度も顔を合わせていると情が移ってしまうもので……。
「あの……デューク?」
「ん? やはり仲間にして欲しいのか?」
「残念だけど、そうじゃない」
えっと……。彼等を傷付けないように、彼等の冒険が安全に楽しく行えるようにアドバイスを……。
「し……神父さん! 神父さんとか仲間に出来たら最高だよね⁉︎ だって、やられちゃってもすぐに蘇生してもらえるじゃん⁉︎」
「ふむ。それもそうだな」
「お前のような奴でも、たまにはまともな事も言えるんじゃな」
決してまともな案ではないと思うのだが、もし本当に神父さんを仲間に出来れば彼等の危険な行為を最前線で分かりやすく、やんわりと理解させてくれる筈だ。そうすれば彼等の身の安全が格段に向上する筈だ。
というかシドめ……俺は基本まともな事しか言わないっての!
ベッドから降りて身支度を整える二人を見て、俺も慌てて身支度を整える。
出入り口へと向い責任者の女性に笑顔でこう告げられる。
「大人1人、5000Gね」
俺は両肩を落として答える、
「はい……」
ここはケガ人の集まる、療養所。
ベッドで眠るだけで高額の支払いが待っている恐ろしい闇の宿屋。
人混み流れによる外傷と、この闇の宿屋のコラボレーション。
つまりこれがベネツィ七不思議の一つ《完膚なきまでに満身創痍な旅人とそれを癒す闇の堕天使》の正体である。
窓口の花瓶にはトゲトゲしい植物が生けられていて、代金を受け取る責任者の背後には、右手を氷で冷やす女性が嬉しそうに笑っていた。
俺は更なる身の危険を感じ、急ぎ出入り口から走って出てすぐに通りを左に折れた。
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