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エピソード・オブ・少年
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「村長大丈夫かな……何してるかな……俺の事忘れてないかな……」
モンスタースポットでの修行をきりのいいところで終えて、俺は森林浴を楽しんでいた。
針葉樹林が生い茂る森《ディープフォレスト》
約10メートル級の木々が生い茂り、枝葉の隙間から射し込む陽の光が妙に幻想的で狐の嫁入りなどの摩訶不思議な出来事が起こりそうな気がしてくる。あるいはこのまま森から出られないとか、森を出るとそこは全てが逆になった鏡の世界だとか。
俺の胸をワクワクさせてくれるそんなありそうで無いような事を考えながら歩く。
ちなみに、ディープフォレストと言ってはいるがそれは俺が勝手に呼んでいるだけで、本当はちゃんとした名前があるにはあるんだろうけれど、今まで一度もその名前を耳にした事はない。
そもそも、名前自体が無いのかもしれない。
アップダウンをくり返す険しい山道を歩く俺は、遠く離れた村長に思いを馳せる。あれからずっと村長の事ばかり考えてる、何をしていても村長の事ばかり。俺は村長に恋をしてしまったんだろうか? と、本気で心配になる。村長の屈託のない笑顔を見る度に可愛いなあ、とか思っちゃったりして。
そんなバカな事を考えている間に険しい山道も残す所あと少し、この爽やかな森林浴も終わりという事だ、フィトンチッドをたっぷり吸収し気分もリフレッシュ出来た。次に来る時は村長も連れて来てあげようとか考えていると視界がだんだんと開けてきて、俺は駆け足気味に山道を下る。
生い茂る木々の間をすり抜けて俺の目に飛び込んできたものは、雄大に広がる光の大地だった。つい目を細めてしまう程に発光する大地に向かって最後の斜面を一気に駆け降りる。
小石が多く転がる砂利道を駆け抜け歩みを止める。足元に広がる光の大地は柔らかい風を受けて小刻みにうねりをあげ、光を乱反射させている。うねりはリズム良く岸にぶつかり水しぶきを宙へと舞い上げる、水しぶきは瞬く間に光の雫となり見る者全てを幻想の世界へ誘う。
風が俺の髪をとかし、風に運ばれた雫が俺の頬から顎先へと伝った。
宙へと舞い上がった雫が湖の中へと帰り、心地よい音と共にウォータークラウンを形成し、目で、耳で、肌で、全身で透き通るような癒やしを実感する。
ベネツィの町。別名、水の都ベネツィ。広大な湖の中心に位置し湖と共に歴史を刻んできた都。都市内部には大小何本もの水路が至る所に張り巡らせてあり、その流麗な流れが住む人の心を癒やし、和ませ、生活を支えている。
湖畔をゆっくりと歩き、町の正面へと回り込む。湖とベネツィの町を繋ぐ二本の大橋。石造りの大橋の脚部には肉付きの良いコケがもりもりと生えていて、表面に着飾った小さな水滴が煌めいている。風で舞った湖の水を浴びるたびにその色の濃さと、愛らしさを増しているように見える。
視線を下から上へと移動させる。ベネツィの中心部、天高く堂々とそびえ立つタイクーン城。その城からいくつも伸びる塔の頭頂部は夏の晴天を思わせるような鮮やかな青で染められており、湖の上にある城なのにどこか海にいるような気分にさせられるほど、鮮やかな青だった。
そんな真夏の青の更に上部では水を連想させる模様の旗が風になびいている。
この湖と共に長い歴史を積み上げてきた先人達の思いを形にしたようなそんな模様だ。
下からお城を見上げながら、手触りよく滑らかに加工された石橋を指先でそっと撫でるようにして渡っていく。俺の他にも大きな荷物を抱えた人々が多く往き来している。街で売る商品を運搬しているのだろうか。
石橋を渡り終え、目の前にはレンガを積み重ねて作ったアーチがあって、そのアーチの向こう側からは早くも活気溢れる街の音や声が響いてきている。高鳴る鼓動を抑えつつアーチをくぐりベネツィの町へと入っていく。
モンスタースポットでの修行をきりのいいところで終えて、俺は森林浴を楽しんでいた。
針葉樹林が生い茂る森《ディープフォレスト》
約10メートル級の木々が生い茂り、枝葉の隙間から射し込む陽の光が妙に幻想的で狐の嫁入りなどの摩訶不思議な出来事が起こりそうな気がしてくる。あるいはこのまま森から出られないとか、森を出るとそこは全てが逆になった鏡の世界だとか。
俺の胸をワクワクさせてくれるそんなありそうで無いような事を考えながら歩く。
ちなみに、ディープフォレストと言ってはいるがそれは俺が勝手に呼んでいるだけで、本当はちゃんとした名前があるにはあるんだろうけれど、今まで一度もその名前を耳にした事はない。
そもそも、名前自体が無いのかもしれない。
アップダウンをくり返す険しい山道を歩く俺は、遠く離れた村長に思いを馳せる。あれからずっと村長の事ばかり考えてる、何をしていても村長の事ばかり。俺は村長に恋をしてしまったんだろうか? と、本気で心配になる。村長の屈託のない笑顔を見る度に可愛いなあ、とか思っちゃったりして。
そんなバカな事を考えている間に険しい山道も残す所あと少し、この爽やかな森林浴も終わりという事だ、フィトンチッドをたっぷり吸収し気分もリフレッシュ出来た。次に来る時は村長も連れて来てあげようとか考えていると視界がだんだんと開けてきて、俺は駆け足気味に山道を下る。
生い茂る木々の間をすり抜けて俺の目に飛び込んできたものは、雄大に広がる光の大地だった。つい目を細めてしまう程に発光する大地に向かって最後の斜面を一気に駆け降りる。
小石が多く転がる砂利道を駆け抜け歩みを止める。足元に広がる光の大地は柔らかい風を受けて小刻みにうねりをあげ、光を乱反射させている。うねりはリズム良く岸にぶつかり水しぶきを宙へと舞い上げる、水しぶきは瞬く間に光の雫となり見る者全てを幻想の世界へ誘う。
風が俺の髪をとかし、風に運ばれた雫が俺の頬から顎先へと伝った。
宙へと舞い上がった雫が湖の中へと帰り、心地よい音と共にウォータークラウンを形成し、目で、耳で、肌で、全身で透き通るような癒やしを実感する。
ベネツィの町。別名、水の都ベネツィ。広大な湖の中心に位置し湖と共に歴史を刻んできた都。都市内部には大小何本もの水路が至る所に張り巡らせてあり、その流麗な流れが住む人の心を癒やし、和ませ、生活を支えている。
湖畔をゆっくりと歩き、町の正面へと回り込む。湖とベネツィの町を繋ぐ二本の大橋。石造りの大橋の脚部には肉付きの良いコケがもりもりと生えていて、表面に着飾った小さな水滴が煌めいている。風で舞った湖の水を浴びるたびにその色の濃さと、愛らしさを増しているように見える。
視線を下から上へと移動させる。ベネツィの中心部、天高く堂々とそびえ立つタイクーン城。その城からいくつも伸びる塔の頭頂部は夏の晴天を思わせるような鮮やかな青で染められており、湖の上にある城なのにどこか海にいるような気分にさせられるほど、鮮やかな青だった。
そんな真夏の青の更に上部では水を連想させる模様の旗が風になびいている。
この湖と共に長い歴史を積み上げてきた先人達の思いを形にしたようなそんな模様だ。
下からお城を見上げながら、手触りよく滑らかに加工された石橋を指先でそっと撫でるようにして渡っていく。俺の他にも大きな荷物を抱えた人々が多く往き来している。街で売る商品を運搬しているのだろうか。
石橋を渡り終え、目の前にはレンガを積み重ねて作ったアーチがあって、そのアーチの向こう側からは早くも活気溢れる街の音や声が響いてきている。高鳴る鼓動を抑えつつアーチをくぐりベネツィの町へと入っていく。
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