繰り返される転生劇〜喜劇こそ、笑いこそ世界を救うたった一つの手立てではないかっ!〜

清水花

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エピソード・オブ・少年

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 村長と別れて数分後。

「もういいかな? もう村長の近辺整理とやらは終わったかな? 村長の修行も終わったかな? 俺の方もあれから立て続けにスライム4匹蹴り飛ばしたし、修行は完了した筈だ。あと……どれくらい待てばいいのかな? まだかな? まだかな?」

 急に一人になった事で耐えられない程の孤独感に苛まれていた。

 絶妙なタイミングでボケが来る事もないし、振りが飛んでくる事もない。

 なので、ツッコミ発動の条件が整わない。


 つまりーーーー暇なのである。


 小気味の良い会話、ネタなくしてこの物語は、大冒険は成立しないのだ。

 何という緊急事態。村長とほんの数分別れただけでここまでの事態に陥るとは……。

 これが噂に名高い《ヴィレッジヘッドマンシック》というやつなのだろうか?

 恐ろしい。大魔王よりも恐ろしい。

 この最悪の状況を打破する為に、今こそあの《無条件ツッコミ》の奥義を極めなければならないようだ。

 世界に星の数ほど存在するツッコミ担当キャラが、マジ泣きして喉から何やかんや出る程に欲しがる究極奥義、それが《無条件ツッコミ》である。

 ツッコミを発動する為にボケや振りを必要としない、変幻自在の自由自在な奥義。

 つまり、やりたい放題。完全無双状態なのだ。

 だが、その究極奥義習得にはかなりの鍛錬が必要であり、皆一様に悲惨な運命を辿り朽ち果てていく。

「いや、紅葉かよっ!」

 辺りの紅葉は葉を揺らし、一枚一枚地に落ちていく。

「って、太陽! お前眩しいなっ!」

 秋空の太陽は優しい笑みで世界を暖かく照らしている。

「お……俺、一人かよっ!」

 のどかな静寂が辺りを包んでいる。今日は絶好の冒険日和である。

「つ……次の……次の町、まだかよっ!」

《タケルにトータル896の精神的ダメージ!》

「うべらっ!」

 俺を襲う不快感に、ついその場で片膝をついてしまった。

 特に痛みなどはないのだが、胸の中に大量に形成された羞恥心や脱力感や自己嫌悪といった負のエネルギーが俺から生きる希望や活力といったエネルギーを奪い去る。

 さすがに半端じゃないな。全く笑いが起きる気配さえ無いこの状況での一人ツッコミは地獄としか言いようがない。そりゃ、みんな途中で諦めるよ。

 本格的に精神がやられそうだ。

 というか、精神的ダメージ食らい過ぎだろう。あんだけ食らって死んでないのが不思議なくらいだ。

 いったい最大値いくらあるんだよ。

 俺は散々迷ったがさっきの精神的ダメージ量を見て色々と不安だったので、パウロさんから頂いた薬草を念のため使用しておく事にした。

《タケルのHPが30回復した!》

 ドーグさんの毒消し草のように奇跡が起こって全回復とはいかなくても、少しくらいは精神的ダメージが回復してくれていればいいのだが。

「はあ……」

 俺は未だうずく胸を優しくさすりながら立ち上がり、ため息を漏らす。

 突如、

「タケルーーーーだったか?」

「ーーーーえっ⁉︎」

 思いがけない呼び掛けに飛び上がりそうになるほど驚いて、瞬時に声の主を確認する。

 目元が見えなくなるほど深く被った大きな黒いウィザードハット、口元を覆い隠すような白く長いひげ、痩躯を包む黒のローブが風でひらりと揺れた。

「…………」

 誰だ?

 なぜ俺の名前を知っている?

 様々な可能性を探ってみたが、ガネーシャ村などで会った記憶は全くない。

「お前は……先程からいったい何をやっているんだ?」

 更に問いかけられて、ようやく本当の声の主を認識する。

 ウィザードハットの陰から現れた人物。

「あ……デューク」



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