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エピソード・オブ・村長
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アネーシャ村を出て紅葉している辺りの景色を一望していると、すぐに草むらから奴が飛び出した。
《モンスターが現れた!》
草むらから飛び出したのは例によってスライムだった。
毎度毎度、なんて良いタイミングで現れてくれるのだろう。
俺は木刀の出来を確認したかったので、全力で右手に持った木刀を縦一線に振り下ろした。
何が起きたのか理解していないスライムは硬直したまま、その後ゆっくりと身体は左右に分かれ地面に転がった。その際にいつもの断末魔の叫びは無かった。
《戦闘に勝利した!》
「うん。すごくいい」
自分で作った木刀に心底惚れ惚れした、さすがプロの勇ーーーー木刀職人。
「さて……」
腰に二本の木刀を下げて村長のいるところを目指す。
腰に、たとえ木刀といえど刀を二本も下げているので勇者というよりも、どちらかというと侍よろしくのビジュアルになっているかもしれない。
まあ、そこは別にどうでもいいのだが。
少し歩いて、さっき村長と別れた場所にたどり着いた。
が、そこには村長の姿は無く代わりに、
ーーーーそこには棺桶が置かれていた。
一気に俺の身体を駆け巡る悪寒。一瞬で状況を理解し慌てて駆け寄る。
「そ……村長ぉぉぉ!」
重たい木製の棺桶の蓋を開けてみると両手を組み仰向けに眠る村長がそこにいた。
「ちょっ……これ、なにがあったぁぁぁ! 村長ぉぉぉ!」
俺はすぐさま村長の眠る棺桶を引きずって、アネーシャ村の教会へと向かう。
重い木製のドアを開けて教会内に入った俺の視界に飛び込んできたのは、正面の壁に設置された色鮮やかな大きなステンドグラスだった。そこへ陽の光がグラス越しに入ってきて薄暗い教会内の祭壇部分をスポットライトのように照らす。薄闇を飲み込む陽の光は舞い上がった小さな埃を、まるでダイヤモンドダストのように煌めかせ俺の心を捕らえて離さない。
「おお! 迷える仔羊よ! 神の前に――」
決まり文句を語り出す神父さんの声に、はっと我に返り教会に来た目的を思い出し大声で神父に訴える。
「蘇生だ! 村長を蘇生させてくれ!」
「では1ゴールド寄付してください」
「安っ!」
予想だにしない破格の寄付金を教会へ寄付し村長は無事に蘇生した。
「村長! 何があったんだ、村長!」
村長はゆっくりとまぶたを開いて陽の光に顔をしかめる。
「お、おお……タケル殿……ワシは……ここは?」
「モンスターにやられてたから教会で蘇生させたんだ」
「ああ……そうじゃ……スライム退治は順調だったんじゃが、二匹同時に現れてのう……あの戦法が通用せんかった」
ーーーーそうだ。
モンスターは複数で襲ってくる事もあるんだ。完全に忘れてた。
スライムだからって甘く見てた。
「あ、あの……ごめん……村長様。完全に……俺が悪かったです」
必死に謝る俺を横目で見ながら上体を慎重に起こして棺桶から出てくる村長。
「よっこらしょ……。ホッホッホッ! ちょっとビックリしたが、まあええわい」
そう言った村長は杖先で床をリズムよく何度か叩く、渇いた音が教会内で反響する。
村長の器の大きさに救われた俺は村長の為に買って来た装備品を手渡し身に付けさせる。
「これを装備したら素早さも防御力も上がってモンスターの攻撃を避けやすくなるよ。だからもう、死ぬ事も……ないはずだ。……たぶん」
「ホッホッホッ! 軽い! まるで身体が羽根のようじゃ。これなら、先程よりも上手く戦えそうじゃ」
「じゃ……じゃあ、もう一度行きます? スライム退治。いけそうですか? 村長様?」
「複数相手の時はきちんとサポートしてくれよ? タケル殿?」
「はい……我が命に代えても。本当にごめんなさい……」
二度と同じ轍は踏まぬと、俺は固く心に誓った。そして俺と村長は更なる高みを目指して修行に明け暮れた。
《モンスターが現れた!》
草むらから飛び出したのは例によってスライムだった。
毎度毎度、なんて良いタイミングで現れてくれるのだろう。
俺は木刀の出来を確認したかったので、全力で右手に持った木刀を縦一線に振り下ろした。
何が起きたのか理解していないスライムは硬直したまま、その後ゆっくりと身体は左右に分かれ地面に転がった。その際にいつもの断末魔の叫びは無かった。
《戦闘に勝利した!》
「うん。すごくいい」
自分で作った木刀に心底惚れ惚れした、さすがプロの勇ーーーー木刀職人。
「さて……」
腰に二本の木刀を下げて村長のいるところを目指す。
腰に、たとえ木刀といえど刀を二本も下げているので勇者というよりも、どちらかというと侍よろしくのビジュアルになっているかもしれない。
まあ、そこは別にどうでもいいのだが。
少し歩いて、さっき村長と別れた場所にたどり着いた。
が、そこには村長の姿は無く代わりに、
ーーーーそこには棺桶が置かれていた。
一気に俺の身体を駆け巡る悪寒。一瞬で状況を理解し慌てて駆け寄る。
「そ……村長ぉぉぉ!」
重たい木製の棺桶の蓋を開けてみると両手を組み仰向けに眠る村長がそこにいた。
「ちょっ……これ、なにがあったぁぁぁ! 村長ぉぉぉ!」
俺はすぐさま村長の眠る棺桶を引きずって、アネーシャ村の教会へと向かう。
重い木製のドアを開けて教会内に入った俺の視界に飛び込んできたのは、正面の壁に設置された色鮮やかな大きなステンドグラスだった。そこへ陽の光がグラス越しに入ってきて薄暗い教会内の祭壇部分をスポットライトのように照らす。薄闇を飲み込む陽の光は舞い上がった小さな埃を、まるでダイヤモンドダストのように煌めかせ俺の心を捕らえて離さない。
「おお! 迷える仔羊よ! 神の前に――」
決まり文句を語り出す神父さんの声に、はっと我に返り教会に来た目的を思い出し大声で神父に訴える。
「蘇生だ! 村長を蘇生させてくれ!」
「では1ゴールド寄付してください」
「安っ!」
予想だにしない破格の寄付金を教会へ寄付し村長は無事に蘇生した。
「村長! 何があったんだ、村長!」
村長はゆっくりとまぶたを開いて陽の光に顔をしかめる。
「お、おお……タケル殿……ワシは……ここは?」
「モンスターにやられてたから教会で蘇生させたんだ」
「ああ……そうじゃ……スライム退治は順調だったんじゃが、二匹同時に現れてのう……あの戦法が通用せんかった」
ーーーーそうだ。
モンスターは複数で襲ってくる事もあるんだ。完全に忘れてた。
スライムだからって甘く見てた。
「あ、あの……ごめん……村長様。完全に……俺が悪かったです」
必死に謝る俺を横目で見ながら上体を慎重に起こして棺桶から出てくる村長。
「よっこらしょ……。ホッホッホッ! ちょっとビックリしたが、まあええわい」
そう言った村長は杖先で床をリズムよく何度か叩く、渇いた音が教会内で反響する。
村長の器の大きさに救われた俺は村長の為に買って来た装備品を手渡し身に付けさせる。
「これを装備したら素早さも防御力も上がってモンスターの攻撃を避けやすくなるよ。だからもう、死ぬ事も……ないはずだ。……たぶん」
「ホッホッホッ! 軽い! まるで身体が羽根のようじゃ。これなら、先程よりも上手く戦えそうじゃ」
「じゃ……じゃあ、もう一度行きます? スライム退治。いけそうですか? 村長様?」
「複数相手の時はきちんとサポートしてくれよ? タケル殿?」
「はい……我が命に代えても。本当にごめんなさい……」
二度と同じ轍は踏まぬと、俺は固く心に誓った。そして俺と村長は更なる高みを目指して修行に明け暮れた。
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