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エピソード・オブ・村長
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「ふむぅ……いったいどこから話したもんか。さっきタケル殿が言うた通りワシは確かに話し好きじゃが、かと言って特別に話しが上手いわけではないからのう……」
村長はそう言いつつぼんやりと大樹を眺めていてそして、まるで大樹にまつわる記憶からその会話の糸口を見つけ出したように語り出す。
「うむ。そうじゃな。パウロは、奴とワシは幼い頃からの付き合いでの、幼馴染というやつじゃな。一日中村の中を走り回って遊んでおったな、悪戯して近所のカミナリおやじに追いかけ回されて、毎日が充実しておったわい。ホッホッホ! そんなパウロは代々武器、道具を取り扱う店の子供でな、つまり今の店も先祖代々受け継いできた店という訳じゃ。多くの旅人に利用されてあれよあれよという間に村一番のお金持ちにもなった。それにパウロの家系が受け継いで来たものは店だけではない。パウロの先祖は代々このガネーシャ村の村長を務めてきた。店の利益を村に寄付して村を豊かにする、それはそれは素晴らしい人物達なのじゃよ。そして、そんな先祖達の教えをパウロ自身もしっかりと受け継いでおる。あやつも村の発展に尽力する素晴らしい人物じゃ。じゃがしかし……」
と、そこから村長の表情がまたも暗くなった。
「あれはもう……20年前になるのかのう。先代の村長であるカトルさん、つまりはパウロの父親が村長を次の者へと任せたいと言い出したので、村では次の村長を決めるために早急に会合が開かれた。誰が村長に相応しいか、誰が村長になるべきか、村のみんなで話し合った。もちろんワシを含めた数人はパウロこそ相応しいと主張した。じゃがしかし。みんなの意見は違ったようじゃ。みんなが村長に相応しいと主張した者はなぜかワシじゃった。まったく訳が分からんかった。夢を見とるとさえ思った。それもそのはず、パウロは村の発展に尽力し、ワシはただ普通に暮らしておっただけなのじゃから……。そしてワシはそのまま村長となった訳じゃが、その辺りからパウロとは疎遠になっていったんじゃ。代々受け継いできた村長という大事な仕事、それをワシに奪われたとパウロは思っておるのかもしれん。じゃからワシは村の上役にやはりパウロこそ村長に相応しい、会合をやり直してくれと何度も懇願したのじゃが村全体での取り決めなのでダメじゃと取り合ってはもらえなんだ」
「なるほどね……」
それでさっきパウロさんはトム村長の顔を見たとき露骨に嫌そうな顔をしたのか。
「ーーーーそして遂にはガネーシャ村を元々あった部分と自分達が発展させ広げた部分との2つに分けるとまで言い出したのじゃ。さっきパウロも言っておったがあそこの、新しく柵で仕切られたところから先をアネーシャ村と言いだしたのじゃ。当然、村のみんなも困惑し反対する声も多数あがったが村をここまで発展させたのは間違いなくパウロ達のお陰なのじゃから皆も渋々ながらパウロの考えにしたがっておる」
そういう事だったのね。
村のために、みんなのために、一番頑張っているのにみんなから正しく評価してもらえない。
手塩にかけて育てた飼い犬に手を噛まれた。みたいな、やり場のない感情が湧き上がりそうな話だ。
「じゃから……いったいどうしたもんかと頭をひねる日々なんじゃよ……ホッホッホ」
村長は無理矢理に作った笑顔で俺から視線を切って、足元のお墓の正面に向き直る。
墓石にはこう刻まれている。
《最愛の妻ジーナここに眠る》
村長はお墓の前にひざまずくと杖を身体の右側においてから、ホコリを落とすようにゆっくりと丁寧に墓石を撫でながら今日一日あった事を語りだした。
「今日はなあ、隣のミザがすごく体調が良いようでーーーー、それからシーザが畑で採れた野菜を山のようにーーーー、キールのところにはなんと三人目の子供がーーーー、そして村に全力疾走で入ってくる無礼極まりないダメ勇者ーーーー」
ダ……ダメ勇者⁉︎
《タケルの精神に42のダメージ》
「ぐはっ!」
「ーーーーという訳で、こちらのタケル殿に協力してもらいなんとか婆さんの仇を討てるようにやってみるよ」
村長は最後に両手を合わせて祈りを捧げた。図々しいかと思ったが俺も一緒に祈らせてもらう事にした。
「さて。すっかり、お待たせしたなタケル殿」
村長は迷いや恐れが無くなったかのような、妙に清々しい顔でそう言った。
村長はそう言いつつぼんやりと大樹を眺めていてそして、まるで大樹にまつわる記憶からその会話の糸口を見つけ出したように語り出す。
「うむ。そうじゃな。パウロは、奴とワシは幼い頃からの付き合いでの、幼馴染というやつじゃな。一日中村の中を走り回って遊んでおったな、悪戯して近所のカミナリおやじに追いかけ回されて、毎日が充実しておったわい。ホッホッホ! そんなパウロは代々武器、道具を取り扱う店の子供でな、つまり今の店も先祖代々受け継いできた店という訳じゃ。多くの旅人に利用されてあれよあれよという間に村一番のお金持ちにもなった。それにパウロの家系が受け継いで来たものは店だけではない。パウロの先祖は代々このガネーシャ村の村長を務めてきた。店の利益を村に寄付して村を豊かにする、それはそれは素晴らしい人物達なのじゃよ。そして、そんな先祖達の教えをパウロ自身もしっかりと受け継いでおる。あやつも村の発展に尽力する素晴らしい人物じゃ。じゃがしかし……」
と、そこから村長の表情がまたも暗くなった。
「あれはもう……20年前になるのかのう。先代の村長であるカトルさん、つまりはパウロの父親が村長を次の者へと任せたいと言い出したので、村では次の村長を決めるために早急に会合が開かれた。誰が村長に相応しいか、誰が村長になるべきか、村のみんなで話し合った。もちろんワシを含めた数人はパウロこそ相応しいと主張した。じゃがしかし。みんなの意見は違ったようじゃ。みんなが村長に相応しいと主張した者はなぜかワシじゃった。まったく訳が分からんかった。夢を見とるとさえ思った。それもそのはず、パウロは村の発展に尽力し、ワシはただ普通に暮らしておっただけなのじゃから……。そしてワシはそのまま村長となった訳じゃが、その辺りからパウロとは疎遠になっていったんじゃ。代々受け継いできた村長という大事な仕事、それをワシに奪われたとパウロは思っておるのかもしれん。じゃからワシは村の上役にやはりパウロこそ村長に相応しい、会合をやり直してくれと何度も懇願したのじゃが村全体での取り決めなのでダメじゃと取り合ってはもらえなんだ」
「なるほどね……」
それでさっきパウロさんはトム村長の顔を見たとき露骨に嫌そうな顔をしたのか。
「ーーーーそして遂にはガネーシャ村を元々あった部分と自分達が発展させ広げた部分との2つに分けるとまで言い出したのじゃ。さっきパウロも言っておったがあそこの、新しく柵で仕切られたところから先をアネーシャ村と言いだしたのじゃ。当然、村のみんなも困惑し反対する声も多数あがったが村をここまで発展させたのは間違いなくパウロ達のお陰なのじゃから皆も渋々ながらパウロの考えにしたがっておる」
そういう事だったのね。
村のために、みんなのために、一番頑張っているのにみんなから正しく評価してもらえない。
手塩にかけて育てた飼い犬に手を噛まれた。みたいな、やり場のない感情が湧き上がりそうな話だ。
「じゃから……いったいどうしたもんかと頭をひねる日々なんじゃよ……ホッホッホ」
村長は無理矢理に作った笑顔で俺から視線を切って、足元のお墓の正面に向き直る。
墓石にはこう刻まれている。
《最愛の妻ジーナここに眠る》
村長はお墓の前にひざまずくと杖を身体の右側においてから、ホコリを落とすようにゆっくりと丁寧に墓石を撫でながら今日一日あった事を語りだした。
「今日はなあ、隣のミザがすごく体調が良いようでーーーー、それからシーザが畑で採れた野菜を山のようにーーーー、キールのところにはなんと三人目の子供がーーーー、そして村に全力疾走で入ってくる無礼極まりないダメ勇者ーーーー」
ダ……ダメ勇者⁉︎
《タケルの精神に42のダメージ》
「ぐはっ!」
「ーーーーという訳で、こちらのタケル殿に協力してもらいなんとか婆さんの仇を討てるようにやってみるよ」
村長は最後に両手を合わせて祈りを捧げた。図々しいかと思ったが俺も一緒に祈らせてもらう事にした。
「さて。すっかり、お待たせしたなタケル殿」
村長は迷いや恐れが無くなったかのような、妙に清々しい顔でそう言った。
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