繰り返される転生劇〜喜劇こそ、笑いこそ世界を救うたった一つの手立てではないかっ!〜

清水花

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エピソード・オブ・村長

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 大樹の木陰で初めて聞く村長の話、世迷い言……とか言っていたが。

 村長はやや上目遣いに俺を見て申し訳なさそうに言う、

「……本当によいのか? 勇者殿。こんな老いぼれの戯言に付き合っておる場合ではないのではないか?」

「いいさ、別に急ぐ旅でもないし……で?」

「ホッホッホッ! こんな老人の話を聞きたいとは物好きじゃのう」

 紅葉した大樹の葉が舞い落ち辺りを色鮮やかに染めて行く。

 村長は大樹を見上げて語り出した。

「婆さんの話じゃ。今年の春先かの。あの日、婆さんはワシの腰の治療に使う薬草を採りに一人でウッディールの森へ出かけておったんじゃ、ウッディールの森には昔から数多くの薬草が自生しておってな、道具屋なんかで売られておる薬草類はだいたいがこのウッディールの森で採取されたものなんじゃよ。豊富な大地の恵みとモンスターが出現せん安全な環境で皆の憩いの場としても親しまれておったんじゃ。じゃが、あの日……」

 村長は急に言葉に詰まりうつむいた。

「…………」

「……あの日。夕方になっても帰ってこん婆さんを不思議に思い数人の村の若者を連れて森へと探しに行ったんじゃ。森へと入ったワシ達はすぐに婆さんを見つけた。森の入り口付近、採取した薬草は籠からこぼれ落ち、活き活きとした薬草の深い緑が見えなくなるほどの大量の血にまみれておった。背後から襲われたんじゃろう、衣服が激しく切り裂かれておって、背中には……深く刻まれた三本の爪痕があった」

 力強く握りしめられた村長の両の手の拳からは乾いた音が零れ落ちる。 

「村長……」

 言葉にするのも辛いのであろう、村長はいまにも消え入りそうな声で言う。

「ワシは……突然の事で全く理解が出来んかった、その場でただ立ち尽くし婆さんの名を何度も何度も呼んどった」

『結局、返事は返って来んかったが』と、村長。

「あの日以降、村の近隣やウッディールの森でのモンスターの目撃例が徐々に出始めたんじゃ。村の連中の話しじゃと大きな狼のようなモンスターが他のモンスター達を束ねておるようじゃと言っておった。荘厳で穏やかで神聖なウッディールの森はいつの間にかモンスター達の住処になってしまったんじゃな。そして運悪く婆さんはその被害者第一号になってしまった、というわけじゃ。ワシはすぐさま婆さんの仇を討とうと森の奥へと走り出したが、村の連中に連れ戻され結局、婆さんの仇をとる事もできずに今となっては婆さんの形見のクリスタルと一緒にお迎えを待つだけの日々を送っておる」

 そう言うと村長は自嘲にも似た笑みを浮かべた。

 なんと。

 村長にそんな過去が。しかもあの守りのクリスタルは形見の品だったのか……。今まで凄い悪い事をしていた。

 俺は罪滅ぼしと言うかなんと言うか、村長の話を聞いて変に感傷的になっていたのか、思いつきである事を提案してみる。

「村長……仇討ってみるかい?」

「勇者殿……そうしたいのはやまやまなのじゃが、しかしワシは見ての通りの老骨じゃ、モンスターと戦うなど夢のまた夢じゃよ」

 村長は顔の横で右手をひらひらとさせる。

「俺に考えがある。ちょっと来てくれ!」

 俺は強引に村長の手を引き村の出口へ向かう。

 と、その途中である事を思い出し青い屋根の小さな民家へと寄り道した。

 民家の中に入り部屋の一番奥にある胸の高さほどのタンスの一番上の引き出しを開けて、青く鈍く光るクリスタルを取り出し村長の目の前に差し出す。

「村長の格好いい所を見せてやろうじゃねえか!」

 守りのクリスタルはネックレスタイプなので村長の首に掛けてやる。

 村長の首に掛けられたクリスタルは、つい先程よりも深く青く輝かしく光を放ち出した。

 突然の事で少し驚いた表情でいた村長だったが左手の指先でクリスタルをつついていると徐々に口角が上がり始めやがて、白い歯むき出しの笑顔で、

「ホッホッホッ! 婆さんやワシをしっかりと見ておいておくれ」

 そう言い、村長の家を出た。

 家を出た直後、村長が婆さんのお墓にも一声かけて行きたいと言い出したので俺は村長の後について行く事にした。

 村長の家から北の方角に少し歩くとすぐに墓地が見えてきた。村の人々がみんなで使っているのであろう集合墓地は木材とロープで作られた低い柵で囲われている。お墓の地面は小高く土の山が作られていて厚さ10センチ程の四角い墓石が地面に垂直に立てられていて、ざっと見た限りお墓は40基程度あってにそれぞれが綺麗に並べられている。所々の墓石の前にはまだ摘んで間もない活き活きとした色とりどりの生花が供えてある。

 辺りには俺らの他に数人の人影があって、皆一様に墓石の前にひざまずいて故人に祈りを捧げている。中でも小さな子供がお母さんと並んで笑顔で祈りを捧げているのが強く印象に残った。そんなほっこりとした場面のおかげなのか、この墓地全体に漂う空気感は墓場独特の重苦しさといったものは全くなく、陽だまりの中の憩いの場のように感じられた。

 綺麗に並んだお墓の向かって左側の奥の方へと村長が歩き出したので、ついていく。

 お墓の間をいくつかするりと通り抜けたところで村長の足が止まった。

 どうやら目的の場所へと到着したようだ。

 しかし、目的の場所には先客がいたようで俺達の存在に気づくとゆっくりと立ち上がりそして、

「よう。トム」

「パウロ……」




 
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