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エピソード・オブ・タケル
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しおりを挟む 青年のベッドに横たわり秋のほのかに暖かい日差しを浴びながら、俺はあの青年の帰りをのんびりと待っている。
起きて動き回るわけにもいかないので、あくまで寝たまま視線だけを右へ左へ移動させて部屋の中を見渡す。
青年は一人暮らしなのか部屋の中はかなりこじんまりとしていてベットとテーブル、棚が一つと畑仕事で使うのであろう数本の農機具が乱雑に壁に立て掛けられていた。また床や農機具の一部に麦らしき植物が見てとれるので、もしかしたら麦などを育てて、それを売ったお金で生計を立てて暮らしているのかもしれない。
それにさっきあの青年におぶってもらっている時に村の中をちらりと見たけれど、寂しささえ感じてしまうほどに、かなりのどかな雰囲気の村だった。
汗水流して田畑を耕して、必要な分だけ大地の恵みを得て生活する。
きっとそういったスローライフな日々を過ごしているんだろう。
でも、変というか不思議に思うところもある。いくらのどかでスローライフとは言っても他の村人が一人も見当たらなかったのはさすがに不自然に思うけれど。
それこそ子供達くらいはどこかその辺りを走り回っていたりしそうなものなんだけどな……。
まあ、たまたまみんなで畑仕事に出ていたとか、そんなところだろう。
なには、ともあれ。
青年に抱えられてここまで連れてこられたが、どうやら《動いた判定》は、されなかったようだ。
本当に良かった、命拾いした。
そして、今。このベッドの所有者である、あの青年は毒消し草を調達しに行ってくれている。
本当にいい人なんだな、と心から思う。
初対面の名前も知らない俺の事を自分の利益を顧みずに助けてくれるなんて、なかなか出来る事じゃない。
「それにしても遅いな……あの青年」
家を出てから1時間は経とうとしているが、一向に帰ってくる気配がない。村の入り口付近まで様子を見に行きたい所ではあるけれど、一歩でも動いたら即死の俺は、ただただ毒消し草を待つ事しか出来ない。
その時ふと、クソ親父の事を思い出し次に天界に帰ったらあの青年の爪の垢を煎じて飲ませてやろうと思った。
親父に対する復讐に闘志を燃やしていると、
「すみません、お待たせしましたっ!」
あの青年が帰ってきた。手には緑と紫が鮮やかなそして、全体的にギザギザした雰囲気の、定番の毒消し草が握られていた。
かなり一般的な毒消し草だからこの村の道具屋にでも売ってるはずなのに、なぜこうも調達に時間が掛かったんだろう?
そんな疑問を抱きながらも俺は青年にお礼の言葉を口にする。
「本当にありがとうございます、助かります。しかし……随分と時間が掛かったようですが、何かトラブルでもありましたか?」
「いえいえ! あなたがあまりに多くの血を吐くので普通の猛毒より強い毒なのかもしれないと思い、ちょっと遠征してきました」
「…………ちょっと遠征?」
「ええ。この村のずっと北の方にあるサイラス城の道具屋まで行って、この毒消し草を買って来たんです!」
ん?
「え……それって。要するにお城の道具屋で売ってた、普通の毒消し草?」
「ええ。しかしお城の道具屋ですよ? 少し特別な感じがしませんか? 早く良く効くとか、HPも少し回復するとか、そんな特別な効果がありそうな気がしてなりません!」
そう言って、あの一般的な毒消し草を煎じて飲ませてくれた。
青臭く苦味と酸味のコラボレーションが口いっぱいに広がる。
苦手なんだよなあ……この味。
しかし、瀕死の人間を1時間程放置してわざわざ遠くにある城の道具屋にいってまで、普通の毒消し草を買いに行くあたりやっぱりこの青年、天然さんだな。
などと思っていると、毒消し草を飲んだ俺の身体から毒素がみるみる消滅し身体が羽根のように軽くなった。
紫に染まっていた俺の身体も、みるみる健康的な肌の色に変わっていきどうやら窮地は免れたようだ。
「どうやら無事に回復することが出来たようです! ありがとうございました」
「それは良かった! 一時はどうなる事かと」
「そうだ。申し遅れました、私は――勇猛と申します。もう長い事、勇者やらせてもらってます。本当、嫌になるくらいずっと……」
「なっ!? 勇者様ですって!?」
「あっ! そんな大したものじゃあないんですよ、うちは他とは違ってチートとか無いんで!」
「チート……とは?」
「あ……いや、何でもないです気にしないで、あははは……」
「しかしさすがは勇者様、なんだかご自身を取り巻く雰囲気が違いますねえ。っと、そうでした。私も自己紹介を、私はこの町で道具屋を営んでいますドーグといいますよろしくお願いします」
「道具屋の……ドーグさん」
なんか凄い。
たぶんこの人俺と同じ運命だ、この人は毎回道具屋に転生する感じの人だ。
そんな奴、天界にいたっけな?
というか、これも軽く衝撃的なんだけどこの青年、ドーグさんの仕事は農業じゃなくて道具屋さんだったのか。
あれらの農機具を見るに勝手に農家の人かと思っていたけど……違ったのか。
基本は主に道具屋で、なにか村全体で農業に取り組む時にあの農機具を使っているって事なのかな?
「…………」
基本が道具屋なら、なおさら手元に毒消し草くらいあっただろうに……。
ドーグさんに対してツッコミたい想いが膨れ上がってくる一方で、お互いに名前と職業に一体感がある、という勝手に芽生えた仲間意識に頬を緩ませながら、俺はドーグさんに改めて御礼をして更に道具の定期購入の約束もして村を出ることにした。
これでようやく100回目の勇者人生が始められる。
いや……始めたくはないんだが。極力なるべく絶対的に根本的に始めたくはないのだが……。
だが。それでもやらなければ。
消滅するのはさすがに嫌だ。
サッと行って、ササッと大魔王倒してしまおう。
そして次こそ、勇者以外の何かに俺はなってみせる!
そんな事を考えながら村の出口まで送る、というドーグさんをどうにかなだめて家の前でお別れし俺は一人村の出口へと向かった。
起きて動き回るわけにもいかないので、あくまで寝たまま視線だけを右へ左へ移動させて部屋の中を見渡す。
青年は一人暮らしなのか部屋の中はかなりこじんまりとしていてベットとテーブル、棚が一つと畑仕事で使うのであろう数本の農機具が乱雑に壁に立て掛けられていた。また床や農機具の一部に麦らしき植物が見てとれるので、もしかしたら麦などを育てて、それを売ったお金で生計を立てて暮らしているのかもしれない。
それにさっきあの青年におぶってもらっている時に村の中をちらりと見たけれど、寂しささえ感じてしまうほどに、かなりのどかな雰囲気の村だった。
汗水流して田畑を耕して、必要な分だけ大地の恵みを得て生活する。
きっとそういったスローライフな日々を過ごしているんだろう。
でも、変というか不思議に思うところもある。いくらのどかでスローライフとは言っても他の村人が一人も見当たらなかったのはさすがに不自然に思うけれど。
それこそ子供達くらいはどこかその辺りを走り回っていたりしそうなものなんだけどな……。
まあ、たまたまみんなで畑仕事に出ていたとか、そんなところだろう。
なには、ともあれ。
青年に抱えられてここまで連れてこられたが、どうやら《動いた判定》は、されなかったようだ。
本当に良かった、命拾いした。
そして、今。このベッドの所有者である、あの青年は毒消し草を調達しに行ってくれている。
本当にいい人なんだな、と心から思う。
初対面の名前も知らない俺の事を自分の利益を顧みずに助けてくれるなんて、なかなか出来る事じゃない。
「それにしても遅いな……あの青年」
家を出てから1時間は経とうとしているが、一向に帰ってくる気配がない。村の入り口付近まで様子を見に行きたい所ではあるけれど、一歩でも動いたら即死の俺は、ただただ毒消し草を待つ事しか出来ない。
その時ふと、クソ親父の事を思い出し次に天界に帰ったらあの青年の爪の垢を煎じて飲ませてやろうと思った。
親父に対する復讐に闘志を燃やしていると、
「すみません、お待たせしましたっ!」
あの青年が帰ってきた。手には緑と紫が鮮やかなそして、全体的にギザギザした雰囲気の、定番の毒消し草が握られていた。
かなり一般的な毒消し草だからこの村の道具屋にでも売ってるはずなのに、なぜこうも調達に時間が掛かったんだろう?
そんな疑問を抱きながらも俺は青年にお礼の言葉を口にする。
「本当にありがとうございます、助かります。しかし……随分と時間が掛かったようですが、何かトラブルでもありましたか?」
「いえいえ! あなたがあまりに多くの血を吐くので普通の猛毒より強い毒なのかもしれないと思い、ちょっと遠征してきました」
「…………ちょっと遠征?」
「ええ。この村のずっと北の方にあるサイラス城の道具屋まで行って、この毒消し草を買って来たんです!」
ん?
「え……それって。要するにお城の道具屋で売ってた、普通の毒消し草?」
「ええ。しかしお城の道具屋ですよ? 少し特別な感じがしませんか? 早く良く効くとか、HPも少し回復するとか、そんな特別な効果がありそうな気がしてなりません!」
そう言って、あの一般的な毒消し草を煎じて飲ませてくれた。
青臭く苦味と酸味のコラボレーションが口いっぱいに広がる。
苦手なんだよなあ……この味。
しかし、瀕死の人間を1時間程放置してわざわざ遠くにある城の道具屋にいってまで、普通の毒消し草を買いに行くあたりやっぱりこの青年、天然さんだな。
などと思っていると、毒消し草を飲んだ俺の身体から毒素がみるみる消滅し身体が羽根のように軽くなった。
紫に染まっていた俺の身体も、みるみる健康的な肌の色に変わっていきどうやら窮地は免れたようだ。
「どうやら無事に回復することが出来たようです! ありがとうございました」
「それは良かった! 一時はどうなる事かと」
「そうだ。申し遅れました、私は――勇猛と申します。もう長い事、勇者やらせてもらってます。本当、嫌になるくらいずっと……」
「なっ!? 勇者様ですって!?」
「あっ! そんな大したものじゃあないんですよ、うちは他とは違ってチートとか無いんで!」
「チート……とは?」
「あ……いや、何でもないです気にしないで、あははは……」
「しかしさすがは勇者様、なんだかご自身を取り巻く雰囲気が違いますねえ。っと、そうでした。私も自己紹介を、私はこの町で道具屋を営んでいますドーグといいますよろしくお願いします」
「道具屋の……ドーグさん」
なんか凄い。
たぶんこの人俺と同じ運命だ、この人は毎回道具屋に転生する感じの人だ。
そんな奴、天界にいたっけな?
というか、これも軽く衝撃的なんだけどこの青年、ドーグさんの仕事は農業じゃなくて道具屋さんだったのか。
あれらの農機具を見るに勝手に農家の人かと思っていたけど……違ったのか。
基本は主に道具屋で、なにか村全体で農業に取り組む時にあの農機具を使っているって事なのかな?
「…………」
基本が道具屋なら、なおさら手元に毒消し草くらいあっただろうに……。
ドーグさんに対してツッコミたい想いが膨れ上がってくる一方で、お互いに名前と職業に一体感がある、という勝手に芽生えた仲間意識に頬を緩ませながら、俺はドーグさんに改めて御礼をして更に道具の定期購入の約束もして村を出ることにした。
これでようやく100回目の勇者人生が始められる。
いや……始めたくはないんだが。極力なるべく絶対的に根本的に始めたくはないのだが……。
だが。それでもやらなければ。
消滅するのはさすがに嫌だ。
サッと行って、ササッと大魔王倒してしまおう。
そして次こそ、勇者以外の何かに俺はなってみせる!
そんな事を考えながら村の出口まで送る、というドーグさんをどうにかなだめて家の前でお別れし俺は一人村の出口へと向かった。
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