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エピソード・オブ・タケル
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青年は言う。
「全身が……紫色ですよ……?」
紫に染まる俺の身体。そりゃそうだ。猛毒くらってんだから……あのクソ親父め!
「私の住む村はすぐそこなんです! 案内します、そこでぜひゆっくりと休んで下さい」
村人は雑草を掻き分けて近づき、俺の手を取ると『早く早く!』と力強くひっぱる。
俺は青年の手に引かれ一歩分前に歩いた。
「ぶへぁ!」
右足が地面を捉えた瞬間、俺の口から大量の血が噴き出た。
……やばい。マジでやばい。
俺の吐いた鮮血を全身に浴び、青年は戦慄の表情を浮かべて後ずさる。
「ひ……ひゃあ~!」
「ごばっ! ぶふぉ! ばはぁ!」
俺の口からほとばしる鮮血三連続。まさに出血大サービスだ。
……やめろ……やめてくれ。
驚くのは構わない。
逃げるのも構わない。
ーーーーただ。
俺をひっぱらないでくれ……。
一歩、歩く度にダメージを食らう例の奴だ。
あれなんだ。
吐血しまくる俺を見て、もはや錯乱状態の青年だったが一周回って少し冷静を取り戻したのか、
「あ、歩くと……歩くと血を吐くのですか?」
それ、大正解!
頭は意外と回るのだが、身体がまともに動かない。
精一杯首を縦に振るがちゃんと振れているだろうか? 全身の痙攣が邪魔をする。
口から血をとめどなく垂らしながら俺は、なんとか呟く。
「しゅ……しゅてーたしゅ」
見慣れたステータスが表示される。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
勇猛
Lv 1
HP 14/2
MP 9/9
職業 100回目の勇者
装備
お金 0G
状態 猛毒
ーーーーーーーーーーーーーーーー
2……2だと!?
HP2……って。
瀕死じゃねえか、あと一歩で死ぬわ。
プロの勇者半殺しにするなんて、この青年ひょっとして魔王より厄介なんじゃねえのか?
《勇者は村人によって葬り去られました》
笑えねえ! ってか、なんだよプロの勇者って……なりたくねぇし!
……なってんのか?
しかし、まずい。本当にまずい、プロの勇者の勘が告げる。
死亡フラグが立っていらっしゃる。
どう回避する? この状況。
「もしかして、身包み剥がされて更に口封じの為に毒まで盛られた……とか?」
この人、本当凄い! 大筋じゃ大正解だよ!
俺は気力を振り絞り何とか言葉を紡ぐ。
「ある……歩くとダメ……なんです。歩くとダメージを……くらっちゃうやつ……あれなんです」
「なんと……」
「だから……歩かなければ……大丈夫なんです。解毒薬を……持って来ては頂けま……せんか?」
「そんな漫画みたいな事が……」
「しかし……事実なのです……」
これで信じてくれなきゃ俺は終わりだ。
良い機会なので、ここで軽くこの転生物語の仕組みを説明すると。
転生後、ミッション=やるべき事を、
やり遂げたーー再転生。
やり遂げなかったーー消滅。
なのだ。
つまり、魔王を倒していない《今の状況》で死ぬと……本当に死ぬ。
魂が消滅する。
101回目の勇者人生は無し。
いや。だから、それはいらねえって。
1回目の冴えない会社員でいい。
「分かりました。私が命に代えてでも村にお運び致します!」
「いや……もう……普通に解毒薬を持ってきてくれれば……」
「さっ! 私の背中へ!」
村人の背中へと誘われる俺。
「あの……動いた判定されたら俺……死ぬんですけど……」
「アナタは絶対に死なせない! 私の命に代えても!」
青年は走り出す、我が村に向かって。
俺は走り出す、我が終焉へと向かって。
「解毒薬……持ってきてくれないかなぁ……」
俺の呟きは燃え盛るような紅葉が彩る秋の空へと溶けた。虫達のさざめきが一際大きく辺りを包んでいた。そんな冒険の初日だった。
「全身が……紫色ですよ……?」
紫に染まる俺の身体。そりゃそうだ。猛毒くらってんだから……あのクソ親父め!
「私の住む村はすぐそこなんです! 案内します、そこでぜひゆっくりと休んで下さい」
村人は雑草を掻き分けて近づき、俺の手を取ると『早く早く!』と力強くひっぱる。
俺は青年の手に引かれ一歩分前に歩いた。
「ぶへぁ!」
右足が地面を捉えた瞬間、俺の口から大量の血が噴き出た。
……やばい。マジでやばい。
俺の吐いた鮮血を全身に浴び、青年は戦慄の表情を浮かべて後ずさる。
「ひ……ひゃあ~!」
「ごばっ! ぶふぉ! ばはぁ!」
俺の口からほとばしる鮮血三連続。まさに出血大サービスだ。
……やめろ……やめてくれ。
驚くのは構わない。
逃げるのも構わない。
ーーーーただ。
俺をひっぱらないでくれ……。
一歩、歩く度にダメージを食らう例の奴だ。
あれなんだ。
吐血しまくる俺を見て、もはや錯乱状態の青年だったが一周回って少し冷静を取り戻したのか、
「あ、歩くと……歩くと血を吐くのですか?」
それ、大正解!
頭は意外と回るのだが、身体がまともに動かない。
精一杯首を縦に振るがちゃんと振れているだろうか? 全身の痙攣が邪魔をする。
口から血をとめどなく垂らしながら俺は、なんとか呟く。
「しゅ……しゅてーたしゅ」
見慣れたステータスが表示される。
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勇猛
Lv 1
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MP 9/9
職業 100回目の勇者
装備
お金 0G
状態 猛毒
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2……2だと!?
HP2……って。
瀕死じゃねえか、あと一歩で死ぬわ。
プロの勇者半殺しにするなんて、この青年ひょっとして魔王より厄介なんじゃねえのか?
《勇者は村人によって葬り去られました》
笑えねえ! ってか、なんだよプロの勇者って……なりたくねぇし!
……なってんのか?
しかし、まずい。本当にまずい、プロの勇者の勘が告げる。
死亡フラグが立っていらっしゃる。
どう回避する? この状況。
「もしかして、身包み剥がされて更に口封じの為に毒まで盛られた……とか?」
この人、本当凄い! 大筋じゃ大正解だよ!
俺は気力を振り絞り何とか言葉を紡ぐ。
「ある……歩くとダメ……なんです。歩くとダメージを……くらっちゃうやつ……あれなんです」
「なんと……」
「だから……歩かなければ……大丈夫なんです。解毒薬を……持って来ては頂けま……せんか?」
「そんな漫画みたいな事が……」
「しかし……事実なのです……」
これで信じてくれなきゃ俺は終わりだ。
良い機会なので、ここで軽くこの転生物語の仕組みを説明すると。
転生後、ミッション=やるべき事を、
やり遂げたーー再転生。
やり遂げなかったーー消滅。
なのだ。
つまり、魔王を倒していない《今の状況》で死ぬと……本当に死ぬ。
魂が消滅する。
101回目の勇者人生は無し。
いや。だから、それはいらねえって。
1回目の冴えない会社員でいい。
「分かりました。私が命に代えてでも村にお運び致します!」
「いや……もう……普通に解毒薬を持ってきてくれれば……」
「さっ! 私の背中へ!」
村人の背中へと誘われる俺。
「あの……動いた判定されたら俺……死ぬんですけど……」
「アナタは絶対に死なせない! 私の命に代えても!」
青年は走り出す、我が村に向かって。
俺は走り出す、我が終焉へと向かって。
「解毒薬……持ってきてくれないかなぁ……」
俺の呟きは燃え盛るような紅葉が彩る秋の空へと溶けた。虫達のさざめきが一際大きく辺りを包んでいた。そんな冒険の初日だった。
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