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最終話 特別な感情
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「ん? なんーーどうしーー?」
ガウとお母さんは歩みを止めて何かを話し始めた。
その様子をぼんやりと眺めていると、ガウがお母さんを引っ張るようにしてこちらに向かって歩いてきた。
私の目の前まで歩いてきたガウの耳は、今までにないくらいに力無く垂れ下がっており、その表情もかなり暗く悲しそうだ。
「なっ……ちょっと! どうしたってんだい⁉︎」
私は状況が全く掴めず二人のやり取りを静かに見守る。
「がう……」
「あ? なんだって?」
「がう……」
ガウは私といた時と同じようにぽつりぽつりと『がう……』と呟く。
「はあ? まだ遊びたいって言うのかい⁉︎」
お母さんはうつむいてしまったガウの顔を覗き込みながら声を大きくする。当たり前と言えば当たり前の事なのだが、どうやらお母さんにはガウが何を言っているのか分かるようだ。
「はぁっ……困ったもんだね。この子がまだあんたと遊んでいたいんだってさ」
困り果てた表情を浮かべたお母さんが私の顔を見ながら言う。
「それにしても、テリーが私以外に懐くなんて珍しい事もあるもんだ。よほどあんたと遊んだ時間が楽しかったんだろうね」
ガウのお母さんは綻んだ表情で私にそう言う。
「私が迎えに来るまでテリーの面倒見てくれていたんだろ? それがきっと嬉しかったんだろうさ」
「め……面倒だなんてそんな……テリー君は行く当てのない私を気遣ってこの街まで一緖に……」
「あ? っははは! こんな赤ん坊が気遣いだなんて真似出来るわけがないじゃないのさ!」
「赤ん……えっ? あ、赤ちゃんっ⁉︎」
「ああ……そうか、そうだった。あんたら人間とは成長速度が違うからね、そんな反応になって当然か。まぁ、あんたら人間から見ればテリーはそこそこの大人に見えるかもしれないけれど、この子はまだ生後一年にも満たない赤ん坊なんだよ」
「あっ……だからあの時、私のおっぱいを吸って……」
「あ? あんたのおっぱいを⁉︎ っははははははははははははははははははははははははははははは!」
ガウのお母さんは両手でお腹を抱えて大笑いする。
そして、
「いやぁそりゃ傑作だ! だがあんたには悪い事をしたね。どこに走って行っちまったのかと思っていたら、まさかそんなーーーーっははははははははははは!」
「あの……こういう事ってよくある事なんですか?」
「ーーーーっはははは! いやいや、そんな事はないよ。この子は少しぼんやりとしている事はあるけれど私以外の、まして見ず知らずの他人のおっぱいを吸うだなんて事はまずあり得ない」
「じゃあ……いったい何で……?」
「私以外に懐いた事といい、あんたに対して特別な何かを感じ取ったのかも知れないね」
「特別な……何か?」
「ねーえ! お母ーさーん! 早く帰ろうよー!」
「ーーーーああ、そうだった。早く帰って食事の支度しなきゃだね」
後方からの声にガウのお母さんはそう呟く。
「あんた、名前は?」
「菜緒です。三島菜緒」
「ナオか……。いい名前じゃないのさ。ナオは何か嫌いな食べ物とかあるかい?」
「嫌いな食べ物? いいえ。私、好き嫌いせず何でも食べられます」
「そうかい、そりゃ良かった。じゃあ、ナオが良ければ家で一緒にご飯食べないかい?」
「えっ? 良いんですか?」
「あんたにはお礼もしなきゃいけないし、それにーーーーあんたを連れて行かなきゃこの子がここから動いてくれそうにもないしね……」
そう言って、ガウのお母さんは困り果てた表情でガウを見つめる。
それから私はガウに手を引かれ、お母さんと三人並んで夕陽が照らす道を歩き始めた。
ここがいったい何処なのか、私は今後どうなってしまうのか、今は何ひとつとして分からない。
けれど、
ひとつだけはっきりとしている事がある。
ガウを見るたび私の中で大きくなるこの感情は、決して母性などではないのだ。
私の中で芽生えたガウに対する熱いこの感情は、恋愛感情だと信じたい。
終わり。
ガウとお母さんは歩みを止めて何かを話し始めた。
その様子をぼんやりと眺めていると、ガウがお母さんを引っ張るようにしてこちらに向かって歩いてきた。
私の目の前まで歩いてきたガウの耳は、今までにないくらいに力無く垂れ下がっており、その表情もかなり暗く悲しそうだ。
「なっ……ちょっと! どうしたってんだい⁉︎」
私は状況が全く掴めず二人のやり取りを静かに見守る。
「がう……」
「あ? なんだって?」
「がう……」
ガウは私といた時と同じようにぽつりぽつりと『がう……』と呟く。
「はあ? まだ遊びたいって言うのかい⁉︎」
お母さんはうつむいてしまったガウの顔を覗き込みながら声を大きくする。当たり前と言えば当たり前の事なのだが、どうやらお母さんにはガウが何を言っているのか分かるようだ。
「はぁっ……困ったもんだね。この子がまだあんたと遊んでいたいんだってさ」
困り果てた表情を浮かべたお母さんが私の顔を見ながら言う。
「それにしても、テリーが私以外に懐くなんて珍しい事もあるもんだ。よほどあんたと遊んだ時間が楽しかったんだろうね」
ガウのお母さんは綻んだ表情で私にそう言う。
「私が迎えに来るまでテリーの面倒見てくれていたんだろ? それがきっと嬉しかったんだろうさ」
「め……面倒だなんてそんな……テリー君は行く当てのない私を気遣ってこの街まで一緖に……」
「あ? っははは! こんな赤ん坊が気遣いだなんて真似出来るわけがないじゃないのさ!」
「赤ん……えっ? あ、赤ちゃんっ⁉︎」
「ああ……そうか、そうだった。あんたら人間とは成長速度が違うからね、そんな反応になって当然か。まぁ、あんたら人間から見ればテリーはそこそこの大人に見えるかもしれないけれど、この子はまだ生後一年にも満たない赤ん坊なんだよ」
「あっ……だからあの時、私のおっぱいを吸って……」
「あ? あんたのおっぱいを⁉︎ っははははははははははははははははははははははははははははは!」
ガウのお母さんは両手でお腹を抱えて大笑いする。
そして、
「いやぁそりゃ傑作だ! だがあんたには悪い事をしたね。どこに走って行っちまったのかと思っていたら、まさかそんなーーーーっははははははははははは!」
「あの……こういう事ってよくある事なんですか?」
「ーーーーっはははは! いやいや、そんな事はないよ。この子は少しぼんやりとしている事はあるけれど私以外の、まして見ず知らずの他人のおっぱいを吸うだなんて事はまずあり得ない」
「じゃあ……いったい何で……?」
「私以外に懐いた事といい、あんたに対して特別な何かを感じ取ったのかも知れないね」
「特別な……何か?」
「ねーえ! お母ーさーん! 早く帰ろうよー!」
「ーーーーああ、そうだった。早く帰って食事の支度しなきゃだね」
後方からの声にガウのお母さんはそう呟く。
「あんた、名前は?」
「菜緒です。三島菜緒」
「ナオか……。いい名前じゃないのさ。ナオは何か嫌いな食べ物とかあるかい?」
「嫌いな食べ物? いいえ。私、好き嫌いせず何でも食べられます」
「そうかい、そりゃ良かった。じゃあ、ナオが良ければ家で一緒にご飯食べないかい?」
「えっ? 良いんですか?」
「あんたにはお礼もしなきゃいけないし、それにーーーーあんたを連れて行かなきゃこの子がここから動いてくれそうにもないしね……」
そう言って、ガウのお母さんは困り果てた表情でガウを見つめる。
それから私はガウに手を引かれ、お母さんと三人並んで夕陽が照らす道を歩き始めた。
ここがいったい何処なのか、私は今後どうなってしまうのか、今は何ひとつとして分からない。
けれど、
ひとつだけはっきりとしている事がある。
ガウを見るたび私の中で大きくなるこの感情は、決して母性などではないのだ。
私の中で芽生えたガウに対する熱いこの感情は、恋愛感情だと信じたい。
終わり。
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