授乳から始まる私とガウの異世界恋愛譚?〜私が抱いたこの感情は恋愛感情だと信じたい

清水花

文字の大きさ
上 下
5 / 6

最終話 特別な感情

しおりを挟む
「ん? なんーーどうしーー?」

 ガウとお母さんは歩みを止めて何かを話し始めた。

 その様子をぼんやりと眺めていると、ガウがお母さんを引っ張るようにしてこちらに向かって歩いてきた。

 私の目の前まで歩いてきたガウの耳は、今までにないくらいに力無く垂れ下がっており、その表情もかなり暗く悲しそうだ。

「なっ……ちょっと! どうしたってんだい⁉︎」

 私は状況が全く掴めず二人のやり取りを静かに見守る。

「がう……」

「あ? なんだって?」

「がう……」

 ガウは私といた時と同じようにぽつりぽつりと『がう……』と呟く。

「はあ? まだ遊びたいって言うのかい⁉︎」

 お母さんはうつむいてしまったガウの顔を覗き込みながら声を大きくする。当たり前と言えば当たり前の事なのだが、どうやらお母さんにはガウが何を言っているのか分かるようだ。

「はぁっ……困ったもんだね。この子がまだあんたと遊んでいたいんだってさ」

 困り果てた表情を浮かべたお母さんが私の顔を見ながら言う。

「それにしても、テリーが私以外に懐くなんて珍しい事もあるもんだ。よほどあんたと遊んだ時間が楽しかったんだろうね」

 ガウのお母さんは綻んだ表情で私にそう言う。

「私が迎えに来るまでテリーの面倒見てくれていたんだろ? それがきっと嬉しかったんだろうさ」

「め……面倒だなんてそんな……テリー君は行く当てのない私を気遣ってこの街まで一緖に……」

「あ? っははは! こんな赤ん坊が気遣いだなんて真似出来るわけがないじゃないのさ!」

「赤ん……えっ? あ、赤ちゃんっ⁉︎」

「ああ……そうか、そうだった。あんたら人間とは成長速度が違うからね、そんな反応になって当然か。まぁ、あんたら人間から見ればテリーはそこそこの大人に見えるかもしれないけれど、この子はまだ生後一年にも満たない赤ん坊なんだよ」

「あっ……だからあの時、私のおっぱいを吸って……」

「あ? あんたのおっぱいを⁉︎ っははははははははははははははははははははははははははははは!」

 ガウのお母さんは両手でお腹を抱えて大笑いする。

 そして、

「いやぁそりゃ傑作だ! だがあんたには悪い事をしたね。どこに走って行っちまったのかと思っていたら、まさかそんなーーーーっははははははははははは!」

「あの……こういう事ってよくある事なんですか?」

「ーーーーっはははは! いやいや、そんな事はないよ。この子は少しぼんやりとしている事はあるけれど私以外の、まして見ず知らずの他人のおっぱいを吸うだなんて事はまずあり得ない」

「じゃあ……いったい何で……?」

「私以外に懐いた事といい、あんたに対して特別な何かを感じ取ったのかも知れないね」

「特別な……何か?」

「ねーえ! お母ーさーん! 早く帰ろうよー!」

「ーーーーああ、そうだった。早く帰って食事の支度しなきゃだね」

 後方からの声にガウのお母さんはそう呟く。

「あんた、名前は?」

「菜緒です。三島菜緒」

「ナオか……。いい名前じゃないのさ。ナオは何か嫌いな食べ物とかあるかい?」

「嫌いな食べ物? いいえ。私、好き嫌いせず何でも食べられます」

「そうかい、そりゃ良かった。じゃあ、ナオが良ければ家で一緒にご飯食べないかい?」

「えっ? 良いんですか?」

「あんたにはお礼もしなきゃいけないし、それにーーーーあんたを連れて行かなきゃこの子がここから動いてくれそうにもないしね……」

 そう言って、ガウのお母さんは困り果てた表情でガウを見つめる。

 それから私はガウに手を引かれ、お母さんと三人並んで夕陽が照らす道を歩き始めた。

 ここがいったい何処なのか、私は今後どうなってしまうのか、今は何ひとつとして分からない。

 けれど、

 ひとつだけはっきりとしている事がある。

 ガウを見るたび私の中で大きくなるこの感情は、決して母性などではないのだ。

 私の中で芽生えたガウに対する熱いこの感情は、恋愛感情だと信じたい。



 終わり。








しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...