グレーな聖女の備忘録〜国や家族の歴史とかって本当に大切なんだからきちんと後世に伝えてよね!

清水花

文字の大きさ
上 下
10 / 19

9 騎士団長デイル

しおりを挟む
 涼は、散々人の体を弄び、雅哉の倍以上のキスマークをつけて満足したようだ。
 ベッドを背にして座り込み、背後から腕を回して俺を抱きこんでスリスリと肩に顔を埋めている。
 もちろんシャワーを浴びて服も着た後だ。

「ハル……」

 何度も名前を呼んではスリスリ……スリスリ……。

「ハルゥ……」

 スリスリ……スリスリ……。

 鬱陶しい。

「ハ……ル……」
「なんだよ!」
「ハル……」

 名前を呼ぶだけの涼に、がっくりと項垂れてから肩に乗せられている涼の頭をそっと撫でてやった。
 そうすると、涼は嬉しそうに肩を震わせた。

「ふふっ。ハル」
「はいはい、涼」

 スリスリ……。なでなで……。

「ハル」
「涼」

 スリスリ……。なでなで……。
 なんだこのやり取り。

「ねぇ、ハル。ハルは、誰のもの?」
「涼」
「ふふっ。ハルは、誰が一番なの?」
「……涼」
「雅哉のことはどう思ってるの?」
「…………」

 なんて言えってんだ……。 
 嫌いだなんて思ってないし、この後に及んでまだ友達に戻れないかと思っている。

「雅哉の事考えたね?」

 なんで不機嫌になるんだ。

「そりゃ、名前が出たら考えるって」
「今のなし。もう考えちゃダメ」

 なんだそりゃ。

「僕の事だけ考えて」
「……いつも考えてるよ」

 いつだって頭の中を涼でいっぱいにされて、涼の事を考えない日なんてない。

「ふふっ。ハル……」
「なんだよ……」

 スリスリ……。なでなで……。

「ハルゥ……」

 スリスリスリスリ……。
 ずっとやり続けそうだ。

「もういい加減にしろって。母さんが帰る前にご飯作るんだろ?」
「そうだね。ハルも手伝ってくれる?」
「手伝ってやるから行くぞ」

 ようやく解放されて、キッチンへ行く。
 エプロンをつけて、ごく普通の対面キッチンで、二人で手を洗う。

 ハンドソープを泡立てていたら、涼が隣に並んで手を重ねてきた。
 指と指の間を指先でなぞられる。
 俺の指先から手の平を涼の指の腹だけを使って上下に巧みに動かして丹念に洗われる。
 最後は恋人繋ぎをするように合わせようとする。
 なんか……エロい。

「やめろ」

 水を出してさっさと泡を流した。

「ちぇっ」

 不満顔の涼なんて無視するに限る。
 冷蔵庫を開けて二人で材料を取り出す。
 材料を見る限りでは、今日はごく一般的なカレーのようだ。

「玉ねぎ剥いて」

 そう言って渡されたのは、頭の部分を切り落とされた玉ねぎ。
 それをシンクの上で剥こうとしたら、背後から手が伸びてきて俺を抱き込むようにしながら玉ねぎに触れた。
 涼の指が玉ねぎの皮を掴んで、頭を切り落とされた部分から根元に向かってゆっくり丁寧に剥いていく。
 玉ねぎを優しく労るように、何度も涼の指が上下に行き来する。
 段々と茶色の皮を剥がされて玉ねぎが白くなっていく。
 その白くなった玉ねぎに指を這わせた。
 なんか……エロい。

「やめろ。涼がやったら俺が手伝う意味がないだろ?」
「ちぇっ」

 背後に立っていた涼を肘で小突けば、すぐに離れた。

「ハルは、炒める係だよ」

 俺は、鍋の前に立って、涼が入れる切り刻まれたカレーの材料を炒めるだけだった。
 全ての材料を入れ終わったらしい涼は、また俺の背後に立って手を伸ばしてきた。
 俺の木ベラを持つ手を包むように握られた。
 俺がガシガシと炒めていた木ベラを、円を描くようにグルーンッ、グルーンッとやさぁしく回す……。
 エロい……。

「だから、やめろって!」

 涼がやると全部エロく見える……。
 エロいカレーとかどんなだよ。

「ちぇっ」
「なんだよ……そのちぇってやつ……」

 材料が炒められれば、水を入れてそのまま煮込む。
 蓋を閉めた瞬間にギューッと背後から強く抱きしめられた。
 首筋にチュッと口付けられてゾクリとした。

「おい!」
「ダメ? 煮込む時間に色々できちゃうよ?」
「ダメに決まってんだろ!」

 何を考えているんだ。
 さっき散々俺を弄んだだろうが。

「キッチンでしようって約束したよね?」
「ざっけんな。」
「じゃあ、我慢するから少しだけ」

 抗議しようと涼の方へ顔を向ければ、キスで口を塞がれた。
 もがいても涼に抱き込まれていると逃げられない。

「んんっ──!ううんっ──はっ、ぷはっ──んんんっ──!」

 呼吸、呼吸をさせてくれ!
 しばらく続けられたディープキスの後に、酸欠で顔を真っ赤にし呼吸を荒くしていると、うっとりと呟かれた。

「可愛い……」

 いつも可愛いなんて言いやがって……。
 羞恥心で更に赤くなった顔を逸らす。

「はぁぁ……ハルゥ、愛してるぅぅぅ……」

 ギューッと抱きしめてきて苦しいぐらいだ。
 どうして恥ずかしくもなく毎回同じことが言えるんだ……。
 言われた方は恥ずかしいというのに。

 涼の手が胸をサワサワと触ってきて、尻に股間を押し付けてくる。
 勃ってやがる……。

「この! 変態!」
「ふふっ。真っ赤な顔でそんな事言うんだから、我慢できなくなりそう」

 罵られて喜ぶなんてやっぱり変態だ。
 カレーの具が煮えるまで、涼のいたずらと格闘していた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

【完結】「私は善意に殺された」

まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。 誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。 私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。 だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。 どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿中。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

その婚約破棄喜んで

空月 若葉
恋愛
 婚約者のエスコートなしに卒業パーティーにいる私は不思議がられていた。けれどなんとなく気がついている人もこの中に何人かは居るだろう。  そして、私も知っている。これから私がどうなるのか。私の婚約者がどこにいるのか。知っているのはそれだけじゃないわ。私、知っているの。この世界の秘密を、ね。 注意…主人公がちょっと怖いかも(笑) 4話で完結します。短いです。の割に詰め込んだので、かなりめちゃくちゃで読みにくいかもしれません。もし改善できるところを見つけてくださった方がいれば、教えていただけると嬉しいです。 完結後、番外編を付け足しました。 カクヨムにも掲載しています。

契約破棄された聖女は帰りますけど

基本二度寝
恋愛
「聖女エルディーナ!あなたとの婚約を破棄する」 「…かしこまりました」 王太子から婚約破棄を宣言され、聖女は自身の従者と目を合わせ、頷く。 では、と身を翻す聖女を訝しげに王太子は見つめた。 「…何故理由を聞かない」 ※短編(勢い)

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【試作】聖女の記憶は消し去った~婚約を破棄されたので、私は去ることを決めました~

キョウキョウ
恋愛
ある日、婚約相手のエリック王子から呼び出さた聖女ノエラ。 パーティーが行われている会場の中央、貴族たちが注目する場所に立たされたノエラは、エリック王子から婚約を破棄された。 さらにエリック王子は、ノエラが聖女には相応しくないと告げた後、一緒に居た女神官エリーゼを新たな聖女にすると宣言。 そんなことを言われたので、ノエラは計画を実行することに決めた。 この王国から、聖女ノエラに関する記憶を全て消し去るという計画を。 こうしてノエラは人々の記憶から消え去り、自由を得るのだった。 ※本作品は試作版です。完成版として書く前に、とりあえず思いつきで気楽に書いています。 ※試作なので、途中で内容を大きく変更したり、事前の予告なく非公開にすることがあります。ご了承ください。 ※不定期投稿です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

【完結】お飾り妃〜寵愛は聖女様のモノ〜

恋愛
今日、私はお飾りの妃となります。 ※実際の慣習等とは異なる場合があり、あくまでこの世界観での要素もございますので御了承ください。

リストラされた聖女 ~婚約破棄されたので結界維持を解除します

青の雀
恋愛
キャロラインは、王宮でのパーティで婚約者のジークフリク王太子殿下から婚約破棄されてしまい、王宮から追放されてしまう。 キャロラインは、国境を1歩でも出れば、自身が張っていた結界が消えてしまうのだ。 結界が消えた王国はいかに?

処理中です...