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番外編
あら……そうなったの。
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「はぁっ……」
レライったら、いったいぜんたいどこに行ったのかしら?
室内から庭園へと移動した際に、ついうっかりあの子とはぐれてしまったわ。
困ったわね……。
私ったら、あの子がいないと今日という一日さえ生きていけそうにないわ……。
それくらいに重要なのよ、あの子。
だってほら、私が外出するってもはや一大イベントのようなものじゃない?
だから疲れちゃうのよ。こうやって歩いていると。
いえ……たとえ歩かなくてもただ立っているだけで、自重を支えているだけで地獄のような苦しみなのよ、私にとっては。
そんな時にほらっ、レライがいてくれれば助かるのよ。あの子って、ちょうど良い高さに肩があるから寄り掛かるのに最適なのよね。
あの子が私を支えてくれれば、私の体重の何割かを負担してくれれば、私は今日という一日を生きていけると思うのよ。
レライの、あの肩がなくちゃ、私に明日はやってこない。
ね?
そう考えると、レライって重要な子でしょ?
とてもすごい子でしょ?
しかも、そんな重要な子が私の妹分なのよ?
さらにすごいでしょ?
あんな重要な子を妹分に持つ私って、いったいどれほど重要な人物なのよって話よね……。
私、すごいでしょ?
閑話休題。
ともかくレライよ、レライを捜さなくちゃ。私のヒットポイントは急速に下がり続けていく一方だわ。このままの状態がこれ以上続くような事があれば、それこそ口から血を吐くような結果になってしまいかねない……あくまでも可能性の話なのだけれど。
「……?」
何だか周辺が妙に騒がしくなってきたわね。
私から見て右前方と左前方。
右前方からは男性が声を荒らげている様子が伺えるから、きっとお父様関連の騒ぎでしょうね。
依頼した物と戻ってきたものが違うーーあるいは違いすぎる、とか。そういったお話。
とすれば、私が向かうべきは左前方の騒ぎという事になるのかしら?
「ーーえっ? あぁ、やっぱりお父様だったのね……良かった。ありがとう知らせてくれて」
私が左前方の騒ぎのおよそ中心部へと辿り着いた時には思ってもみない事態になっていたわ。
「ーーあっはははははははは! 私はあのジェシカ・ユリアンーー」
アヴァドニア公爵の娘、ジェシカ・ユリアンちゃんが人目も憚らず一人、大笑いしていたの。
今日という日の主役であるあの子が、厳格な公爵家の娘であるあの子が、あれほど豪快に痛快に気が狂ったように大笑いしているというのは、あまりにも考えにくい事よね。
お腹でも壊したのかしら……?
不思議に思いながら辺りを見回していると、なにやら左の頬を押さえて地面に座り込んでいるレライの姿を発見したのよね。
はっけーん!
私の肩ーーいえ……心の支え発見よ。
けれど、何だか様子が変。
何?
あの子……泣いてる……?
なぜ泣いているの? レライ。
ふらつきながらも立ち上がったレライの側に若い男性が近付いていったわ。
あれは……王太子殿下、キングス君ね。(私が君付けで呼んでいるのは、私しか知らない事よ。だから誰にも内緒ね)
レライ、キングス君、ジェシカちゃん。珍しい三人組でいるのね。いったい何を話しているのかしら?
あら?
あらら?
あらららら?
ジェシカちゃんが今放り投げたアレ……もしかして、私がレライにあげた例の扇子かしら?
あぁ、
という事は……ふむふむ。
あぁ、なるほど。
そういう事になった訳ね。
それであれほどまでに禍々しく黒く染まったの、ね。
得心いったわ。
決して自分じゃ表舞台に立たないジェシカちゃんが、こんな公の場であれほど素直に胸の内を曝け出しているだなんて何かの間違いかと思っていたけれど、そういう状況ならば無理もない話だわ。
そう、あの扇子に掛けられたおまじないは《素直》というものーーーー普段は決して口に出して言えないような胸の奥に秘めたる素直な想いを相手に伝えるためのおまじないね。
レライったら本来自身が言いたい事ーーどころか、言わなくちゃいけない事まで胸の中に押し込んでしまう性格だから、いつかあの子の胸がそれらでいっぱいになって破裂してしまわないようにと思ってあの扇子をあげた訳なのだけれど……結果的にこうなった訳ね。
それにしてもジェシカちゃんがあんな事を考えていただなんて驚きね。何だか悪い事を企んでいるのは何となく分かってはいたけれど、まさかここまでとは……。
聞くに耐えないあんな本音を曝け出したのなら、この後の状況が考えるだけで怖いわね。とても見てられない状況になってしまいそうだわ……。
「ーーえっ? そんな危険な物を妹分に渡すな? 分かってるわよーーじろう。レライが扇子を使っていたのならほんのわずかな愚痴程度のモノしか出てきていないわよ。だって、あのレライよ? あの子の口からジェシカちゃんみたいな恐ろしい言葉が出てくる筈ないじゃない。出てくる言葉と言えば『嫌いになった』や『嘘付き』といった可愛らしい言葉しか出てこないわよ」
ん?
あぁ……最後はやっぱり涙で勝負なのね。
涙は女の最大の武器だから。
けれどこの場合、その武器を使う相手も女なのだからその効果は如何なものなのでしょうね。
ジェシカちゃんは若干、無理して絞り出した涙っていうのがそこはかとなく感じられるし、レライはすでに自然と涙を流しているし……ジェシカちゃんの婚約者という立場がどうキングス君の心を動かすか。可哀想だけれどレライには分が悪い勝負だわね。
おや?
おやや?
おやややや?
周囲がまたもや騒ぎ出したわね……。
これは……? レライの事……?
皆、口々にレライの事を話している? レライのーー普段の様子を。
しかし、驚いたものね。あそこにいる人達全員と面識がある訳でもないでしょうに、あれほどの信頼を得ているだなんて……あの子は、レライは私の知らない間に本当に大きく成長していたのね……。嬉しいわ。
みんなレライの為を思って言葉を尽くしている。
レライの誤解を晴らす為、レライの無実を証明する為、みんながひとつになってレライを後押ししている。
私もあの子の姉として背中を押してあげなきゃ、ね。
「レライは私の様々な面倒事を代行してくれる、可愛い可愛い妹分なのよ!」
よし、これでいいわ。みんな気持ちはひとつだわ。
「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいーー」
あぁ……ジェシカちゃん。あんなに『うるさい』を連呼してしまったら、うるさいのはむしろあなたの方よって冷静につっこまれてしまいそうだわ。私、心配。
あぁ、あぁ、あーあ……怒っちゃった。ジェシカちゃんがすごく怒っちゃった。目も当てられないほど酷い状況になっちゃった。
今は扇子を持ってはいないからあれは素直になったというよりも、ただ単に怒っちゃって我を忘れているってだけね。みんながレライの味方をするから面白くなかったんでしょうね。まだまだお子様ね。
うわっ、うわっ、うわぁ! うーわぁ……クロウったらなんて事を……確かに一糸乱れぬ芸術的行動だけれども、何もそこまで……。
ふぅっ……。
さてさて、レライはなにやら両陛下と対談中。ジェシカちゃんは……もうどうしようもないわね、あれは。
といったところで、事態は無事に収束を迎えたようね。
めでたし、めでたし、と。
まあ……私が今回の一件に一言、物申すとするのならそれはーーーー
「クイーンは絶対に動かすな。チェスの定石だわね」
ジェシカちゃん、あなたは絶対的なその力を過信し前線にノコノコと顔を出した。それがあなたの敗因よ。だからあなたは最弱のポーンにしてやられたのよ。
お疲れ、さん。
レライったら、いったいぜんたいどこに行ったのかしら?
室内から庭園へと移動した際に、ついうっかりあの子とはぐれてしまったわ。
困ったわね……。
私ったら、あの子がいないと今日という一日さえ生きていけそうにないわ……。
それくらいに重要なのよ、あの子。
だってほら、私が外出するってもはや一大イベントのようなものじゃない?
だから疲れちゃうのよ。こうやって歩いていると。
いえ……たとえ歩かなくてもただ立っているだけで、自重を支えているだけで地獄のような苦しみなのよ、私にとっては。
そんな時にほらっ、レライがいてくれれば助かるのよ。あの子って、ちょうど良い高さに肩があるから寄り掛かるのに最適なのよね。
あの子が私を支えてくれれば、私の体重の何割かを負担してくれれば、私は今日という一日を生きていけると思うのよ。
レライの、あの肩がなくちゃ、私に明日はやってこない。
ね?
そう考えると、レライって重要な子でしょ?
とてもすごい子でしょ?
しかも、そんな重要な子が私の妹分なのよ?
さらにすごいでしょ?
あんな重要な子を妹分に持つ私って、いったいどれほど重要な人物なのよって話よね……。
私、すごいでしょ?
閑話休題。
ともかくレライよ、レライを捜さなくちゃ。私のヒットポイントは急速に下がり続けていく一方だわ。このままの状態がこれ以上続くような事があれば、それこそ口から血を吐くような結果になってしまいかねない……あくまでも可能性の話なのだけれど。
「……?」
何だか周辺が妙に騒がしくなってきたわね。
私から見て右前方と左前方。
右前方からは男性が声を荒らげている様子が伺えるから、きっとお父様関連の騒ぎでしょうね。
依頼した物と戻ってきたものが違うーーあるいは違いすぎる、とか。そういったお話。
とすれば、私が向かうべきは左前方の騒ぎという事になるのかしら?
「ーーえっ? あぁ、やっぱりお父様だったのね……良かった。ありがとう知らせてくれて」
私が左前方の騒ぎのおよそ中心部へと辿り着いた時には思ってもみない事態になっていたわ。
「ーーあっはははははははは! 私はあのジェシカ・ユリアンーー」
アヴァドニア公爵の娘、ジェシカ・ユリアンちゃんが人目も憚らず一人、大笑いしていたの。
今日という日の主役であるあの子が、厳格な公爵家の娘であるあの子が、あれほど豪快に痛快に気が狂ったように大笑いしているというのは、あまりにも考えにくい事よね。
お腹でも壊したのかしら……?
不思議に思いながら辺りを見回していると、なにやら左の頬を押さえて地面に座り込んでいるレライの姿を発見したのよね。
はっけーん!
私の肩ーーいえ……心の支え発見よ。
けれど、何だか様子が変。
何?
あの子……泣いてる……?
なぜ泣いているの? レライ。
ふらつきながらも立ち上がったレライの側に若い男性が近付いていったわ。
あれは……王太子殿下、キングス君ね。(私が君付けで呼んでいるのは、私しか知らない事よ。だから誰にも内緒ね)
レライ、キングス君、ジェシカちゃん。珍しい三人組でいるのね。いったい何を話しているのかしら?
あら?
あらら?
あらららら?
ジェシカちゃんが今放り投げたアレ……もしかして、私がレライにあげた例の扇子かしら?
あぁ、
という事は……ふむふむ。
あぁ、なるほど。
そういう事になった訳ね。
それであれほどまでに禍々しく黒く染まったの、ね。
得心いったわ。
決して自分じゃ表舞台に立たないジェシカちゃんが、こんな公の場であれほど素直に胸の内を曝け出しているだなんて何かの間違いかと思っていたけれど、そういう状況ならば無理もない話だわ。
そう、あの扇子に掛けられたおまじないは《素直》というものーーーー普段は決して口に出して言えないような胸の奥に秘めたる素直な想いを相手に伝えるためのおまじないね。
レライったら本来自身が言いたい事ーーどころか、言わなくちゃいけない事まで胸の中に押し込んでしまう性格だから、いつかあの子の胸がそれらでいっぱいになって破裂してしまわないようにと思ってあの扇子をあげた訳なのだけれど……結果的にこうなった訳ね。
それにしてもジェシカちゃんがあんな事を考えていただなんて驚きね。何だか悪い事を企んでいるのは何となく分かってはいたけれど、まさかここまでとは……。
聞くに耐えないあんな本音を曝け出したのなら、この後の状況が考えるだけで怖いわね。とても見てられない状況になってしまいそうだわ……。
「ーーえっ? そんな危険な物を妹分に渡すな? 分かってるわよーーじろう。レライが扇子を使っていたのならほんのわずかな愚痴程度のモノしか出てきていないわよ。だって、あのレライよ? あの子の口からジェシカちゃんみたいな恐ろしい言葉が出てくる筈ないじゃない。出てくる言葉と言えば『嫌いになった』や『嘘付き』といった可愛らしい言葉しか出てこないわよ」
ん?
あぁ……最後はやっぱり涙で勝負なのね。
涙は女の最大の武器だから。
けれどこの場合、その武器を使う相手も女なのだからその効果は如何なものなのでしょうね。
ジェシカちゃんは若干、無理して絞り出した涙っていうのがそこはかとなく感じられるし、レライはすでに自然と涙を流しているし……ジェシカちゃんの婚約者という立場がどうキングス君の心を動かすか。可哀想だけれどレライには分が悪い勝負だわね。
おや?
おやや?
おやややや?
周囲がまたもや騒ぎ出したわね……。
これは……? レライの事……?
皆、口々にレライの事を話している? レライのーー普段の様子を。
しかし、驚いたものね。あそこにいる人達全員と面識がある訳でもないでしょうに、あれほどの信頼を得ているだなんて……あの子は、レライは私の知らない間に本当に大きく成長していたのね……。嬉しいわ。
みんなレライの為を思って言葉を尽くしている。
レライの誤解を晴らす為、レライの無実を証明する為、みんながひとつになってレライを後押ししている。
私もあの子の姉として背中を押してあげなきゃ、ね。
「レライは私の様々な面倒事を代行してくれる、可愛い可愛い妹分なのよ!」
よし、これでいいわ。みんな気持ちはひとつだわ。
「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいーー」
あぁ……ジェシカちゃん。あんなに『うるさい』を連呼してしまったら、うるさいのはむしろあなたの方よって冷静につっこまれてしまいそうだわ。私、心配。
あぁ、あぁ、あーあ……怒っちゃった。ジェシカちゃんがすごく怒っちゃった。目も当てられないほど酷い状況になっちゃった。
今は扇子を持ってはいないからあれは素直になったというよりも、ただ単に怒っちゃって我を忘れているってだけね。みんながレライの味方をするから面白くなかったんでしょうね。まだまだお子様ね。
うわっ、うわっ、うわぁ! うーわぁ……クロウったらなんて事を……確かに一糸乱れぬ芸術的行動だけれども、何もそこまで……。
ふぅっ……。
さてさて、レライはなにやら両陛下と対談中。ジェシカちゃんは……もうどうしようもないわね、あれは。
といったところで、事態は無事に収束を迎えたようね。
めでたし、めでたし、と。
まあ……私が今回の一件に一言、物申すとするのならそれはーーーー
「クイーンは絶対に動かすな。チェスの定石だわね」
ジェシカちゃん、あなたは絶対的なその力を過信し前線にノコノコと顔を出した。それがあなたの敗因よ。だからあなたは最弱のポーンにしてやられたのよ。
お疲れ、さん。
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