120 / 125
終章 私達の物語
17 プライド
しおりを挟む
「ーーうるさぁぁぁい!」
突如、ジェシカ様は頭を抱え大声でそんな事を口にしたのです。
再び様子が急変したジェシカ様に皆さんの視線が集中します。
「ーーうるさいうるさいうるさいうるさい! どこへ行ってもローレライ、何をしててもローレライ、いつだってどこだってローレライローレライローレライ! みんなして……みんなしてバカみたいに口を揃えてローレライ! ローレライが……ローレライがいったい何だって言うのよ! ローレライなんかただの下層貴族の娘じゃないっ! 私の方が高位な貴族なのにっ! 私の方が綺麗なのにっ! 私の方がみんなに愛されているのにっ! 私は未来の王妃様なのにっ! 私の方が……私の方が……私の方がっーーーー!」
「ーーもういい、やめなさいジェシカ」
「殿下っ! 殿下もローレライの方が良いとおっしゃるんですかっ⁉︎ 婚約者である私より、ローレライの方をお選びになるんですかっ⁉︎」
「やめないかジェシカッ! 見苦しいぞっ!」
「殿……下……」
「ーー少し頭を冷やしなさい。いったいどうしてしまったんだ、君らしくない」
「だって……だってみんなが……」
「ーージェシカ様。皆さんは……この国に住む人々なら誰だって知っています。この国でジェシカ様が一番綺麗で美しいって……。そんなの当たり前なんです。だって、あのジェシカ・ユリアン様なんですから」
「…………」
「今、この瞬間だけは確かに私の事が少し話題になっているようです。でもそれはほんの一瞬の間だけのものなんです。あと数分、数秒もすれば皆さんの意識は別のものへと向いて私の名前なんて二度と聞こえてこないでしょう。でも、それぞれの家に帰り食卓を囲めばジェシカ様の名前は当たり前のように食卓に、屋敷中に飛び交うんです。今日も美しいお姿だった。国の誇りだ。まさに女神様だって……」
「…………」
「私も当然ジェシカ様の事が大好きで、ジェシカ様みたいに綺麗になりたいってずっと思っていました。毎日毎日ジェシカ様のお姿を思い浮かべては胸を高鳴らせていましたし、まるで友人のように振る舞ってくださる事がとってもとっても嬉しくて、恥ずかしくて……私の中でジェシカ様に対する気持ちがどんどんどんどん大きくなっていって……私、いつからかジェシカ様に恋をしていたんだって……ずっと、そう思っていたんです」
「…………」
「私の一番の友人から言われたんです。お嬢様は私の憧れの存在だって……。その友人は私なんかより全然可愛くって素敵なのに、私にそんな事を言ってくれて……私に恋をしていた、とも言ってくれました」
「…………」
「私に対する強い執着心が自身の心を惑わせ、私に恋をしているとーーそう錯覚させた、と」
「…………」
「そして、それはきっと私も同じなんです。同じ年齢の女の子としてジェシカ様みたいに可愛く、綺麗に、可憐に、上品になりたかっただけなんです。永遠に届かない目標であり、終着点であり、憧れーーそのものだったんです!」
「…………」
「ーーけれど、ジェシカ様が私の事を嫌いなのは……分かりました。とても悲しいですけど……仕方ありませんよね……」
「…………」
「…………」
「…………」
「あの……私が……私が変われば……少しだけでも好きになってもらえませんか……? 仲良くなれませんか? 私達……」
「…………」
「だめ……でしょうか……?」
「ーージェシカ。どうなんだい?」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「私はーーーー私一人でいい。半分は嫌。全部じゃなきゃだめ。この国の一番は私だけ。ローレライ、あなたの居場所はここには無い……」
「ーーはぁっ……。まったく今日はいったい何がどうなっているんだ……ジェシカ、君の言った事が本当なら僕達の結婚について、もう一度よく考えなおす必要があるようだね……」
キングス殿下は肩を竦めてそう言うと、踵を返しジェシカ様の側から離れていきます。
私はそんなキングス殿下の背中を一目見てから、小さく深呼吸をし決心をします。
私も殿下と同じように、
大好きだった、憧れだった、最愛のジェシカ様と決別しなくてはーー。
「……今まで……ありがとうございました……」
そう呟いて、私も踵を返しジェシカ様の側から離れます。
一歩、また一歩と歩くたびにジェシカ様と過ごしたほんの僅かな記憶が私の脳裏にゆっくりと浮かんでは消えていきます。
ずっとーーずっと遠くから眺めていた憧れの存在。
ジェシカ様みたいになりたくて、いつも鏡の前でため息をついていましたっけ……。
仲良くなれて、嬉しかったな。
もっと仲良くなりたかったな。
もっと、ずっと側に居たかったな……。
なんで……嫌われちゃったのかな……。
考えれば考えるほど次第に感情が高ぶり、涙が込み上げます。
思い返せば私っていつも泣いてばかりですね。アシュトレイ様から婚約を破棄されたあの時から今日まで、いったい何度泣いた事でしょう。
もっと言えば、その前からでしょうか。
いい加減、すぐ泣くのも止めなくてはいけませんね。
私も、もう大人なんですから。
そう思い、込み上げる涙を拭い空を見上げると西の森から飛んできたのであろうシンクロバードの群れが真っ直ぐこちらに向かって飛んできている事に気付きました。
すごい数です。群れのリーダーのわずか後方には数百羽ほどのシンクロバードが翼を広げ空を滑空しています。
これほどの大きな群れは珍しく、私も見るのは初めてです。
シンクロバードに気付いた他の方々が空を見上げ、次々と驚きの歓声をあげます。
私も空を飛べたら、あの自由な空を飛び回れたらどれほど……。
突如、ジェシカ様は頭を抱え大声でそんな事を口にしたのです。
再び様子が急変したジェシカ様に皆さんの視線が集中します。
「ーーうるさいうるさいうるさいうるさい! どこへ行ってもローレライ、何をしててもローレライ、いつだってどこだってローレライローレライローレライ! みんなして……みんなしてバカみたいに口を揃えてローレライ! ローレライが……ローレライがいったい何だって言うのよ! ローレライなんかただの下層貴族の娘じゃないっ! 私の方が高位な貴族なのにっ! 私の方が綺麗なのにっ! 私の方がみんなに愛されているのにっ! 私は未来の王妃様なのにっ! 私の方が……私の方が……私の方がっーーーー!」
「ーーもういい、やめなさいジェシカ」
「殿下っ! 殿下もローレライの方が良いとおっしゃるんですかっ⁉︎ 婚約者である私より、ローレライの方をお選びになるんですかっ⁉︎」
「やめないかジェシカッ! 見苦しいぞっ!」
「殿……下……」
「ーー少し頭を冷やしなさい。いったいどうしてしまったんだ、君らしくない」
「だって……だってみんなが……」
「ーージェシカ様。皆さんは……この国に住む人々なら誰だって知っています。この国でジェシカ様が一番綺麗で美しいって……。そんなの当たり前なんです。だって、あのジェシカ・ユリアン様なんですから」
「…………」
「今、この瞬間だけは確かに私の事が少し話題になっているようです。でもそれはほんの一瞬の間だけのものなんです。あと数分、数秒もすれば皆さんの意識は別のものへと向いて私の名前なんて二度と聞こえてこないでしょう。でも、それぞれの家に帰り食卓を囲めばジェシカ様の名前は当たり前のように食卓に、屋敷中に飛び交うんです。今日も美しいお姿だった。国の誇りだ。まさに女神様だって……」
「…………」
「私も当然ジェシカ様の事が大好きで、ジェシカ様みたいに綺麗になりたいってずっと思っていました。毎日毎日ジェシカ様のお姿を思い浮かべては胸を高鳴らせていましたし、まるで友人のように振る舞ってくださる事がとってもとっても嬉しくて、恥ずかしくて……私の中でジェシカ様に対する気持ちがどんどんどんどん大きくなっていって……私、いつからかジェシカ様に恋をしていたんだって……ずっと、そう思っていたんです」
「…………」
「私の一番の友人から言われたんです。お嬢様は私の憧れの存在だって……。その友人は私なんかより全然可愛くって素敵なのに、私にそんな事を言ってくれて……私に恋をしていた、とも言ってくれました」
「…………」
「私に対する強い執着心が自身の心を惑わせ、私に恋をしているとーーそう錯覚させた、と」
「…………」
「そして、それはきっと私も同じなんです。同じ年齢の女の子としてジェシカ様みたいに可愛く、綺麗に、可憐に、上品になりたかっただけなんです。永遠に届かない目標であり、終着点であり、憧れーーそのものだったんです!」
「…………」
「ーーけれど、ジェシカ様が私の事を嫌いなのは……分かりました。とても悲しいですけど……仕方ありませんよね……」
「…………」
「…………」
「…………」
「あの……私が……私が変われば……少しだけでも好きになってもらえませんか……? 仲良くなれませんか? 私達……」
「…………」
「だめ……でしょうか……?」
「ーージェシカ。どうなんだい?」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「私はーーーー私一人でいい。半分は嫌。全部じゃなきゃだめ。この国の一番は私だけ。ローレライ、あなたの居場所はここには無い……」
「ーーはぁっ……。まったく今日はいったい何がどうなっているんだ……ジェシカ、君の言った事が本当なら僕達の結婚について、もう一度よく考えなおす必要があるようだね……」
キングス殿下は肩を竦めてそう言うと、踵を返しジェシカ様の側から離れていきます。
私はそんなキングス殿下の背中を一目見てから、小さく深呼吸をし決心をします。
私も殿下と同じように、
大好きだった、憧れだった、最愛のジェシカ様と決別しなくてはーー。
「……今まで……ありがとうございました……」
そう呟いて、私も踵を返しジェシカ様の側から離れます。
一歩、また一歩と歩くたびにジェシカ様と過ごしたほんの僅かな記憶が私の脳裏にゆっくりと浮かんでは消えていきます。
ずっとーーずっと遠くから眺めていた憧れの存在。
ジェシカ様みたいになりたくて、いつも鏡の前でため息をついていましたっけ……。
仲良くなれて、嬉しかったな。
もっと仲良くなりたかったな。
もっと、ずっと側に居たかったな……。
なんで……嫌われちゃったのかな……。
考えれば考えるほど次第に感情が高ぶり、涙が込み上げます。
思い返せば私っていつも泣いてばかりですね。アシュトレイ様から婚約を破棄されたあの時から今日まで、いったい何度泣いた事でしょう。
もっと言えば、その前からでしょうか。
いい加減、すぐ泣くのも止めなくてはいけませんね。
私も、もう大人なんですから。
そう思い、込み上げる涙を拭い空を見上げると西の森から飛んできたのであろうシンクロバードの群れが真っ直ぐこちらに向かって飛んできている事に気付きました。
すごい数です。群れのリーダーのわずか後方には数百羽ほどのシンクロバードが翼を広げ空を滑空しています。
これほどの大きな群れは珍しく、私も見るのは初めてです。
シンクロバードに気付いた他の方々が空を見上げ、次々と驚きの歓声をあげます。
私も空を飛べたら、あの自由な空を飛び回れたらどれほど……。
0
お気に入りに追加
132
あなたにおすすめの小説

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい
宇水涼麻
恋愛
ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。
「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」
呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。
王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。
その意味することとは?
慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?
なぜこのような状況になったのだろうか?
ご指摘いただき一部変更いたしました。
みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。
今後ともよろしくお願いします。
たくさんのお気に入り嬉しいです!
大変励みになります。
ありがとうございます。
おかげさまで160万pt達成!
↓これよりネタバレあらすじ
第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。
親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。
ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。
玖保ひかる
恋愛
[完結]
北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。
ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。
アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。
森に捨てられてしまったのだ。
南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。
苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。
※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。
※完結しました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

成り上がり令嬢暴走日記!
笹乃笹世
恋愛
異世界転生キタコレー!
と、テンションアゲアゲのリアーヌだったが、なんとその世界は乙女ゲームの舞台となった世界だった⁉︎
えっあの『ギフト』⁉︎
えっ物語のスタートは来年⁉︎
……ってことはつまり、攻略対象たちと同じ学園ライフを送れる……⁉︎
これも全て、ある日突然、貴族になってくれた両親のおかげねっ!
ーー……でもあのゲームに『リアーヌ・ボスハウト』なんてキャラが出てた記憶ないから……きっとキャラデザも無いようなモブ令嬢なんだろうな……
これは、ある日突然、貴族の仲間入りを果たしてしまった元日本人が、大好きなゲームの世界で元日本人かつ庶民ムーブをぶちかまし、知らず知らずのうちに周りの人間も巻き込んで騒動を起こしていく物語であるーー
果たしてリアーヌはこの世界で幸せになれるのか?
周りの人間たちは無事でいられるのかーー⁉︎
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる