婚約破棄された男爵令嬢〜盤面のラブゲーム

清水花

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終章 私達の物語

16 普段の私

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「私……そんな事……絶対にしません」

 誠心誠意、私の中にある全てのモノを込めて殿下にそう伝えます。

「ーーそうか」

 私の言葉を聞いた殿下は瞳を閉じて、何やら思案顔でいます。

「ーー殿下っ! 私の事を信じてくださらないのですかっ⁉︎ あなたの婚約者である私の事を!」

 堰を切ったように、ジェシカ様は声を大にしてそんな事を口にします。

「もちろん信じている。だが……」

 私とジェシカ様の間でキングス殿下はこれからどうするべきか、決めかねているご様子です。

 その時、

「あの……少しよろしいでしょうか?」

 と、私達を取囲む人混みの中からそんな声が聞こえました。

 視線を走らせると、ジェシカ様のすぐ後ろの方で恐る恐る小さく手を上げた男性の姿を捉えました。

「あなたは……?」

「ーーはい。私はカーチスというものですが、以前からポーンドット卿と親交がありまして度々お屋敷にお邪魔する事があるのです」

 そう口にしたのは私がよく知っている人物でした。カーチスさん、お父様のお知り合いの方ですね。

「ふむ。それで?」

「お屋敷で見かけるローレライ嬢はいつも和かな笑みを浮かべ私を迎えてくださるのです。また、私のような老いぼれの話を本当に楽しそうに聞いてくれて、私としては何だか孫が出来たような気がしていつも嬉しく思っていたんです」

「…………」

「気配りが良くできるお嬢さんで、細かい所にも本当によく気が付く。私の解けかけていた靴の紐を危ないからと言って、私の代わりに結んでくれた事は今でも鮮明に覚えています。それと、殿下が先ほど申されましたローレライ嬢が嘘をつくとは思えないというのも、そういったローレライ嬢の内面から滲み出る優しい人間性を殿下は無意識の内に感じとられたからではないでしょうか?」

「…………」

「詰まる所ーー私の知る限り、ローレライ嬢はそんな嘘を付くようなお嬢さんではありません。それは私が保証します」

「…………」

「ーーふむ」

「あっ、あの……私も似たような事なのですが……年老いた老夫婦の話では、ローレライ嬢がいつも畑仕事を手伝ってくれるから本当に助かっているって聞いた事が……」

「あぁ……、それは結構有名な話だな。普段から領民に気を配っていて、仕事でも私生活でも何かしら困っている人を見たらすかさず手を差し伸べるらしい。だからきっと、困っている人を見たら助けずにはいられない性分なんだろう。まぁ……それを奇異の眼差しで見る輩も中にはいるようだが……」

「ようするに《うら若き聖母》って、そういう所を言われているんじゃないのか?」

「確かに、そうかも知れないな」

「そう言えばこんな話も聞いた事があるぞーー」

「ローレライ嬢はーー」

「父親そっくりな真面目で真っ直ぐなーー」

「チェスでいうところのポーンのように一つ一つ堅実にーー」

「まさにポーンそのものだな」

「そうだそうだーー」

「私もこの前ーー」

「私なんかーー」

「ローレライ嬢ーー」

「ローレライ嬢がーー」

「ローレライ嬢はーー」

「ローレライ嬢ーー」

「ローレライ嬢ーー」

「ローレライ嬢ーー」

 と、私達を取囲む人達が口々に話を始めたので、辺りはすっかり騒々しくなってしまいました。

「ーーうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさぁぁぁい!」

 ジェシカ様は両手で頭を抱え金の髪を左右に激しく揺らしながら、狂気に満ちた声でそう口にします。

 










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