117 / 125
終章 私達の物語
14 驚天動地
しおりを挟む
私の左の頬で衝撃が弾け、私の身体はその場に崩れ落ちます。
もともと、ジェシカ様から冷たい視線を浴びせられたあの時点で立っているのがやっとの状態だった私の身体は、まるで糸が切れた人形のように重力に逆らう事なく脆く、頽れました。
「ーー目障りなのよ! 耳障りなのよ! あんたの全てが! 身分も弁えない、弱小貴族が! 私の舞台に立たせてあげたって言うのに、厚かましくも私の場所を奪おうとして! 卑しいわ! あなたは名前の通り最弱のポーンなんだから、盤面を必死に逃げ回りながら隅の方で震えていればそれでいいのよ。他の駒の餌になっていればそれで良かったのよ。それなのに厚かましく図々しくも、ベオウルフに色目まで使ったりして……べオウルフに好きだって言われたのはそもそも私なのよ! それにさっき殿下から何だかいい感じに褒められて調子に乗っているようだし、身の程知らずもそこまでいけば気持ちがいいわ! けれど残念、男も権力も! 全てあんたの手には入らない! 殿下は私と結婚し、私は王妃となる。陛下がいないと何ひとつ自分で決められない殿下はゆっくりと時間をかけて私が丸め込んで見せるわ! そうなれば事実上この国の支配者は私って事よね! けれど全てが思い通りになった訳じゃない……殿下が、殿下の容姿があれじゃなく、ベオウルフだったなら完璧だった。むしろ、ベオウルフが王太子としてこの国に生まれていればそれで良かったのにっ! 私に相応しい容姿と力を持っていればそれで……でも、そんなに上手くはいかないものよね。国が、この国が手に入るのなら多少の我慢くらいはしてあげるわ。あっはははは! だからローレライ! あなたがどれほど頑張ろうと私には到底敵わないし、あなたが私に勝つだなんて事はこの先、絶対にあり得ないのよっ! あっははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははーー」
「…………」
私は自然と溢れ出る涙を拭い、立ち上がります。打たれた頬がひどく熱を帯びて鈍い痛みとともに疼きます。
すぐ目の前ではジェシカ様がアリーお姉様から頂いた例の黒く染まった扇子を宙で翻し楽しそうに笑います。
「ーーっ! 嫌っ!」
ですが、
次の瞬間、ジェシカ様はハッと我に帰ったような素振りを見せると扇子を放り投げ、胸の前で両手を握りなぜだか怯え始めました。
放り投げられた扇子が地面を滑り、私の元へと戻って来ました。
私はすぐさまその扇子を拾い上げ、付着した土埃を優しく手で振り払います。すると、先ほどまで怖いくらいに黒かった扇子は、今は元通りの落ち着いた大人の雰囲気を放つ至って普通の黒へと戻っていたのです。
目の……錯覚だったのでしょうか? あれほど、恐怖を覚えるほどに黒く染まっていたのに……いったい、なぜ?
扇子がもとの黒さを取り戻した事で、庭園の空気感も元の状態へと戻ったように感じます。そう思うのはどうやら私だけではなく、周辺の方々も空気感の変化を感じ取っているようで、皆さん少しずつ思い思いの行動を起こし始めました。
「ーーなっ、なんだったんだ……? 今の……」
「ジェシカ様が言っていたことは……あれはいったいどういう意味なんだ……」
「いったい、何がどうなって……」
「そうだロ……ローレライ嬢は……ローレライ嬢は無事なのか?」
「ジェッ……ジェシカ……?」
明らかにうろたえたご様子の殿下が一歩一歩、ゆっくりとジェシカ様の元へと歩み寄ります。
「あっ……あぁ……」
ジェシカ様は自身の身体を両手で抱きしめるようにしながら、小さく震えています。心底恐ろしい思いをした子供のようにカタカタと震えながら。
「ジェシカ……今のはいったい……」
「殿下……わ、私……今のは……今のは、その……」
ジェシカ様は怯えた瞳をあちらこちらへ落ち着きなく彷徨わせ、完全に混乱しているご様子です。
そして、ジェシカ様は私の顔を捉えるなりこう言い放ったのです。
「今のは……今のはローレライが無理やり私に言わせたんですーー」
もともと、ジェシカ様から冷たい視線を浴びせられたあの時点で立っているのがやっとの状態だった私の身体は、まるで糸が切れた人形のように重力に逆らう事なく脆く、頽れました。
「ーー目障りなのよ! 耳障りなのよ! あんたの全てが! 身分も弁えない、弱小貴族が! 私の舞台に立たせてあげたって言うのに、厚かましくも私の場所を奪おうとして! 卑しいわ! あなたは名前の通り最弱のポーンなんだから、盤面を必死に逃げ回りながら隅の方で震えていればそれでいいのよ。他の駒の餌になっていればそれで良かったのよ。それなのに厚かましく図々しくも、ベオウルフに色目まで使ったりして……べオウルフに好きだって言われたのはそもそも私なのよ! それにさっき殿下から何だかいい感じに褒められて調子に乗っているようだし、身の程知らずもそこまでいけば気持ちがいいわ! けれど残念、男も権力も! 全てあんたの手には入らない! 殿下は私と結婚し、私は王妃となる。陛下がいないと何ひとつ自分で決められない殿下はゆっくりと時間をかけて私が丸め込んで見せるわ! そうなれば事実上この国の支配者は私って事よね! けれど全てが思い通りになった訳じゃない……殿下が、殿下の容姿があれじゃなく、ベオウルフだったなら完璧だった。むしろ、ベオウルフが王太子としてこの国に生まれていればそれで良かったのにっ! 私に相応しい容姿と力を持っていればそれで……でも、そんなに上手くはいかないものよね。国が、この国が手に入るのなら多少の我慢くらいはしてあげるわ。あっはははは! だからローレライ! あなたがどれほど頑張ろうと私には到底敵わないし、あなたが私に勝つだなんて事はこの先、絶対にあり得ないのよっ! あっははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははーー」
「…………」
私は自然と溢れ出る涙を拭い、立ち上がります。打たれた頬がひどく熱を帯びて鈍い痛みとともに疼きます。
すぐ目の前ではジェシカ様がアリーお姉様から頂いた例の黒く染まった扇子を宙で翻し楽しそうに笑います。
「ーーっ! 嫌っ!」
ですが、
次の瞬間、ジェシカ様はハッと我に帰ったような素振りを見せると扇子を放り投げ、胸の前で両手を握りなぜだか怯え始めました。
放り投げられた扇子が地面を滑り、私の元へと戻って来ました。
私はすぐさまその扇子を拾い上げ、付着した土埃を優しく手で振り払います。すると、先ほどまで怖いくらいに黒かった扇子は、今は元通りの落ち着いた大人の雰囲気を放つ至って普通の黒へと戻っていたのです。
目の……錯覚だったのでしょうか? あれほど、恐怖を覚えるほどに黒く染まっていたのに……いったい、なぜ?
扇子がもとの黒さを取り戻した事で、庭園の空気感も元の状態へと戻ったように感じます。そう思うのはどうやら私だけではなく、周辺の方々も空気感の変化を感じ取っているようで、皆さん少しずつ思い思いの行動を起こし始めました。
「ーーなっ、なんだったんだ……? 今の……」
「ジェシカ様が言っていたことは……あれはいったいどういう意味なんだ……」
「いったい、何がどうなって……」
「そうだロ……ローレライ嬢は……ローレライ嬢は無事なのか?」
「ジェッ……ジェシカ……?」
明らかにうろたえたご様子の殿下が一歩一歩、ゆっくりとジェシカ様の元へと歩み寄ります。
「あっ……あぁ……」
ジェシカ様は自身の身体を両手で抱きしめるようにしながら、小さく震えています。心底恐ろしい思いをした子供のようにカタカタと震えながら。
「ジェシカ……今のはいったい……」
「殿下……わ、私……今のは……今のは、その……」
ジェシカ様は怯えた瞳をあちらこちらへ落ち着きなく彷徨わせ、完全に混乱しているご様子です。
そして、ジェシカ様は私の顔を捉えるなりこう言い放ったのです。
「今のは……今のはローレライが無理やり私に言わせたんですーー」
0
お気に入りに追加
132
あなたにおすすめの小説

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい
宇水涼麻
恋愛
ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。
「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」
呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。
王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。
その意味することとは?
慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?
なぜこのような状況になったのだろうか?
ご指摘いただき一部変更いたしました。
みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。
今後ともよろしくお願いします。
たくさんのお気に入り嬉しいです!
大変励みになります。
ありがとうございます。
おかげさまで160万pt達成!
↓これよりネタバレあらすじ
第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。
親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。
ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。
森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。
玖保ひかる
恋愛
[完結]
北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。
ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。
アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。
森に捨てられてしまったのだ。
南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。
苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。
※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。
※完結しました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

成り上がり令嬢暴走日記!
笹乃笹世
恋愛
異世界転生キタコレー!
と、テンションアゲアゲのリアーヌだったが、なんとその世界は乙女ゲームの舞台となった世界だった⁉︎
えっあの『ギフト』⁉︎
えっ物語のスタートは来年⁉︎
……ってことはつまり、攻略対象たちと同じ学園ライフを送れる……⁉︎
これも全て、ある日突然、貴族になってくれた両親のおかげねっ!
ーー……でもあのゲームに『リアーヌ・ボスハウト』なんてキャラが出てた記憶ないから……きっとキャラデザも無いようなモブ令嬢なんだろうな……
これは、ある日突然、貴族の仲間入りを果たしてしまった元日本人が、大好きなゲームの世界で元日本人かつ庶民ムーブをぶちかまし、知らず知らずのうちに周りの人間も巻き込んで騒動を起こしていく物語であるーー
果たしてリアーヌはこの世界で幸せになれるのか?
周りの人間たちは無事でいられるのかーー⁉︎

婚約破棄された伯爵令嬢は錬金術師となり、ポーションを売って大金持ちになります〜今更よりを戻してくれと土下座したところでもう遅い〜
平山和人
恋愛
伯爵令嬢のフィーナは婚約者のラインハルトから真実の愛に目覚めたと婚約破棄される。そして、フィーナは家を出て王都からも追放される。
行く宛もなく途方に暮れていたところを錬金術師の女性に出会う。フィーナは事情を話し、自分の職業適性を調べてもらうとなんと魔法の才能があると判明する。
その才能を活かすため、錬金術師となりポーションを売ることに。次第にポーションが評判を呼んでいくと大金持ちになるのであった。
一方、ラインハルトはフィーナを婚約破棄したことで没落の道を歩んでいくことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる