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終章 私達の物語
12 漆黒に染まる
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「…………」
私の目の前でジェシカ様の鮮やかな金色の髪がゆらゆらと揺れています。
ジェシカ様はいったいどうしてしまったのか今では全身に力を込めているご様子で、なんとなくですがジェシカ様の身体の内側から燃えるようなものすごい温度を感じるような気がします。
さっき、不機嫌そうな表情をしていたので単純に怒りの炎が燃えている、という事なのでしょうか……。
大嫌いな私を前にして機嫌を損ねてしまった、というーー。
けど……不思議なんですよね。私の姿を見て機嫌を損ねたのは分かるんですけど、ですがその後、わざわざ私に声をかけてくださいましたし、今もこうして……。
「ーーしを……誰れ……」
微かに聞き取れるくらいの声を口にしながら、ジェシカ様は首を大きく横に振ります。
甘い、良い香りが辺りに広がります。
「私を……私をいったい誰だと思って……いるのよ。私は、私はこの国一の、世界一の美女……ジェシカ・ユリアンなのよ……」
ジェシカ嬢はそんな事を口にします。
誰もが知っている、誰もが理解している、そんな当たり前の事を。
「なのに……それなのに……」
ジェシカ様の手にさらに力が加えられるので、必然的に燃え上がるような激しい痛みが私を襲います。
その直後、
「……あっ」
ジェシカ様は私が左手に持っていた扇子を取り上げると、おもむろにそれを広げ、私と自身の顔の側にそっと添えました。
私の視界全てがアリーお姉様に頂いた扇子の黒で覆われ、左の耳と首筋にジェシカ様の息遣いが感じられます。
息遣いに続いて、声ーー。
「嬉しいの? 嬉しいんでしょう? ローレライ。みんなに可愛いって、綺麗だって言われる事が、ちやほやされて、もてはやされるのが気持ち良くって仕方ないんでしょう? そうなんでしょう?」
「……っ⁉︎」
「でもね……あなたがどれほど頑張ったって私には勝てないのよ。私はあなたが持っていないものを全て持っているんだから。最近少しだけ人気が出てきているみたいだけれど、それはあくまでもいっときの流行のようなものよ。あまり浮かれないほうがいいわ、すぐにガッカリする事になるんだから……」
「そんなっ、私なんて……」
あまりの驚きに私は言葉を失います。
ジェシカ様はいったいどうしてしまったのでしょう……。
確かに最近、男性から声をかけていただく事がありますが、それはあくまでも挨拶程度のものであって間違っても人気が出ているとか、そういった事ではない筈です。
そもそもいったい何の勝負なのかさえ分かりませんが、私がジェシカ様に勝つだなんてそんな事、ひとつだってある筈がありませんし、たとえ天地がひっくり返ったとしても絶対にあり得ないことです。
なのに、なのになぜジェシカ様はそんな事を……。
「私はチェスター王国のアヴァドニア公爵の娘。いつだって王国一の美女で皆が憧れ羨む存在。殿下と婚約し、もうじき結婚だってする。私は未来の王妃様なのよ」
つい先ほどまで耳元で囁くように喋っていたジェシカ嬢ですが、なぜか突然声の大きさが増し、今や普通に会話する程度の声の大きさで喋っています。
なので若干、鼓膜が疼きます。
扇子で互いの顔を隠して、内緒話をしているような状態なのに、なぜ……。
なんだか様子のおかしいジェシカ様の事を不思議に思っていると、私のほんの目と鼻の先では更に不思議な事が起こっていました。
私とジェシカ様の顔を隠す扇子が、
アリーお姉様にいただいた扇子が、
目で見て分かるほど急速にその黒さが増していき、禍々しいほどの漆黒へと染まっていったのです。
私の目の前でジェシカ様の鮮やかな金色の髪がゆらゆらと揺れています。
ジェシカ様はいったいどうしてしまったのか今では全身に力を込めているご様子で、なんとなくですがジェシカ様の身体の内側から燃えるようなものすごい温度を感じるような気がします。
さっき、不機嫌そうな表情をしていたので単純に怒りの炎が燃えている、という事なのでしょうか……。
大嫌いな私を前にして機嫌を損ねてしまった、というーー。
けど……不思議なんですよね。私の姿を見て機嫌を損ねたのは分かるんですけど、ですがその後、わざわざ私に声をかけてくださいましたし、今もこうして……。
「ーーしを……誰れ……」
微かに聞き取れるくらいの声を口にしながら、ジェシカ様は首を大きく横に振ります。
甘い、良い香りが辺りに広がります。
「私を……私をいったい誰だと思って……いるのよ。私は、私はこの国一の、世界一の美女……ジェシカ・ユリアンなのよ……」
ジェシカ嬢はそんな事を口にします。
誰もが知っている、誰もが理解している、そんな当たり前の事を。
「なのに……それなのに……」
ジェシカ様の手にさらに力が加えられるので、必然的に燃え上がるような激しい痛みが私を襲います。
その直後、
「……あっ」
ジェシカ様は私が左手に持っていた扇子を取り上げると、おもむろにそれを広げ、私と自身の顔の側にそっと添えました。
私の視界全てがアリーお姉様に頂いた扇子の黒で覆われ、左の耳と首筋にジェシカ様の息遣いが感じられます。
息遣いに続いて、声ーー。
「嬉しいの? 嬉しいんでしょう? ローレライ。みんなに可愛いって、綺麗だって言われる事が、ちやほやされて、もてはやされるのが気持ち良くって仕方ないんでしょう? そうなんでしょう?」
「……っ⁉︎」
「でもね……あなたがどれほど頑張ったって私には勝てないのよ。私はあなたが持っていないものを全て持っているんだから。最近少しだけ人気が出てきているみたいだけれど、それはあくまでもいっときの流行のようなものよ。あまり浮かれないほうがいいわ、すぐにガッカリする事になるんだから……」
「そんなっ、私なんて……」
あまりの驚きに私は言葉を失います。
ジェシカ様はいったいどうしてしまったのでしょう……。
確かに最近、男性から声をかけていただく事がありますが、それはあくまでも挨拶程度のものであって間違っても人気が出ているとか、そういった事ではない筈です。
そもそもいったい何の勝負なのかさえ分かりませんが、私がジェシカ様に勝つだなんてそんな事、ひとつだってある筈がありませんし、たとえ天地がひっくり返ったとしても絶対にあり得ないことです。
なのに、なのになぜジェシカ様はそんな事を……。
「私はチェスター王国のアヴァドニア公爵の娘。いつだって王国一の美女で皆が憧れ羨む存在。殿下と婚約し、もうじき結婚だってする。私は未来の王妃様なのよ」
つい先ほどまで耳元で囁くように喋っていたジェシカ嬢ですが、なぜか突然声の大きさが増し、今や普通に会話する程度の声の大きさで喋っています。
なので若干、鼓膜が疼きます。
扇子で互いの顔を隠して、内緒話をしているような状態なのに、なぜ……。
なんだか様子のおかしいジェシカ様の事を不思議に思っていると、私のほんの目と鼻の先では更に不思議な事が起こっていました。
私とジェシカ様の顔を隠す扇子が、
アリーお姉様にいただいた扇子が、
目で見て分かるほど急速にその黒さが増していき、禍々しいほどの漆黒へと染まっていったのです。
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