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終章 私達の物語
5 宮殿にて
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「ーーさて、心の準備はいいか? ローレライ」
「はい、大丈夫です。お父様」
時が経つのは早いもので、あれからあっという間に三日が過ぎ、とうとう召集の日が訪れました。
馬車から降りた私達ポーンドット親子は緊張の面持ちで案内されるまま、歩を進めます。
お父様は仕事で宮殿に足を運ぶ事が度々あるのでしょうが、私は恐らく人生初めての事で恐怖心にも似た緊張感を感じます。
私達の足音がとてつもなく広い通路で反響し続けています。
至る所に置かれた絢爛豪華な調度品は当たり前なのでしょうが、場に充満する独特な重苦しい空気感はいったいどこからやってくるものなのでしょう……。
なんだか呼吸するのが難しく感じます。
「ーーなっ、なんだ……緊張しているのか、ロッ、ローレライ?」
私の予想に反してお父様もしっかりと緊張なされているようです。
「ーーはい……少しだけ。なんだか感じたことのない空気感だなって……」
「だっ、だろうな、そうだろうな」
お父様は決して振り返る事なくそう言いながら歩を進めます。
「ーーポーンドット男爵閣下、時間までこちらの部屋でお待ち下さい」
「ああ、ありがとう」
数分間歩き辿り着いたのは大きな扉の前で、恐らくこの部屋はお客様に対応するための客間なのでしょう。ただ、うちの客間と比べるとここが客間であるとはとてもではありませんが信じられません。
中からは賑やかな話し声が聞こえているので、すでに多数の貴族達が集まっているのでしょうね。
扉がゆっくりと開かれ、床に光のラインが引かれていきます。
完全に開かれた扉の先にはこのチェスター王国でも有数の権力を持っている貴族達があちらこちらに見受けられます。
「……?」
「……?」
その方々はこちらを一瞥すると、何事も無かったかの様に視線を戻し再び会話を再開します。
「行くぞ、ローレライ」
「ーーはい」
私達親子はその隙を付くようにすぐさま部屋へと入り、なるべく隅の方へと歩を進め集団の一部と化します。
私達親子からわずかに遅れて入室した方は、部屋に入るなり数人の男性から声を掛けられ先ほどまで会話していた数人の輪の中へと加わりました。
「……ふぅ、もう安心だ」
お父様が一仕事終えたように小さく呟きます。
先ほど入って来た方と私達親子では入室後の周囲の対応が若干違っているので、その対応の違いから察するに私達親子にはまるで興味がないといったところなのでしょうか……。
しかし、もしあそこで扉から入ってきたのが私達のような力の無い貴族ではなく、ベアトリック様のような高位な貴族であれば皆さんもの凄い急いで集まってくるのでしょうね。
「ーーっ!」
「おいーー」
「ーーあれが」
「ーーほぅ」
「ーーくしい」
「…………?」
と、完全に周囲に溶け込むようにして集団の中へと忍び込んだ私達親子でしたが、なぜだか私達の事を見つめるいくつかの視線がある事に気付きました。
「…………?」
誰からも興味を持たれるような存在ではない筈なのにどうしてでしょう?
理由の分からない視線を不思議に思っていると、
「ーー数日ぶりね、レライ」
急に耳元でそう囁かれ、思わず肩が飛び跳ねるようにビクつきます。
「ーーアッ、アリーお姉様!」
「ーーふふっ、そんなにびっくりしなくても良いでしょうに。相変わらず反応がいいのね、レライ」
「おぉ……これはこれはアーリシア嬢、お久しぶりです。しばらく見ない間にご立派になられて……一瞬ジョリン様と見紛うところでした」
「ふふっーーお久しぶりです、ポーンドット卿。お会いできて嬉しいですわ」
私はアリーお姉様の近くへと歩み寄り小声で話しかけます。
「あの……アリーお姉様、その……平気なのですか?」
「平気か平気でないかで言えば……今にも死にそうね」
「ーー死っ⁉︎」
「ふふっーー冗談よ。けれど、こうして己が両足で立ち続けるというのは私にとって死と同じくらいの苦しみなのよ? はぁっ……どうして人間ってこうも歩きまわる生き物なのかしらね……寝たきりの方がずっと楽でしょうに……不憫だわ」
アリーお姉様はとても辛そうな表情でそう言います。
先ほど今にも死にそうだと言っていたのは案外本当の事なのかもしれませんね。
「レライーー肩、貸りるわね」
言って、アリーお姉様は私の肩に軽くよりかかりました。
「ーーふぅ。早く終わらないかしら……」
「まだ始まってもいませんよ……」
「レライ、あなた私として今日一日を過ごしてご覧なさいな。そうすれば私は今すぐにでも平穏な日々を取り戻す事が出来る」
「あはは……出来る事ならそうして差し上げたいのですが、今はどうか我慢なさってくださいアリーお姉様」
「まったくーー陛下もこんなところへ召集をかけずに私の部屋にでも召集をかけてくだされば、私はこんな辛い思いをしなくても済んだのに……」
アリーお姉様は誰が見ても分かるほどの不満顔でそう呟きます。
「はい、大丈夫です。お父様」
時が経つのは早いもので、あれからあっという間に三日が過ぎ、とうとう召集の日が訪れました。
馬車から降りた私達ポーンドット親子は緊張の面持ちで案内されるまま、歩を進めます。
お父様は仕事で宮殿に足を運ぶ事が度々あるのでしょうが、私は恐らく人生初めての事で恐怖心にも似た緊張感を感じます。
私達の足音がとてつもなく広い通路で反響し続けています。
至る所に置かれた絢爛豪華な調度品は当たり前なのでしょうが、場に充満する独特な重苦しい空気感はいったいどこからやってくるものなのでしょう……。
なんだか呼吸するのが難しく感じます。
「ーーなっ、なんだ……緊張しているのか、ロッ、ローレライ?」
私の予想に反してお父様もしっかりと緊張なされているようです。
「ーーはい……少しだけ。なんだか感じたことのない空気感だなって……」
「だっ、だろうな、そうだろうな」
お父様は決して振り返る事なくそう言いながら歩を進めます。
「ーーポーンドット男爵閣下、時間までこちらの部屋でお待ち下さい」
「ああ、ありがとう」
数分間歩き辿り着いたのは大きな扉の前で、恐らくこの部屋はお客様に対応するための客間なのでしょう。ただ、うちの客間と比べるとここが客間であるとはとてもではありませんが信じられません。
中からは賑やかな話し声が聞こえているので、すでに多数の貴族達が集まっているのでしょうね。
扉がゆっくりと開かれ、床に光のラインが引かれていきます。
完全に開かれた扉の先にはこのチェスター王国でも有数の権力を持っている貴族達があちらこちらに見受けられます。
「……?」
「……?」
その方々はこちらを一瞥すると、何事も無かったかの様に視線を戻し再び会話を再開します。
「行くぞ、ローレライ」
「ーーはい」
私達親子はその隙を付くようにすぐさま部屋へと入り、なるべく隅の方へと歩を進め集団の一部と化します。
私達親子からわずかに遅れて入室した方は、部屋に入るなり数人の男性から声を掛けられ先ほどまで会話していた数人の輪の中へと加わりました。
「……ふぅ、もう安心だ」
お父様が一仕事終えたように小さく呟きます。
先ほど入って来た方と私達親子では入室後の周囲の対応が若干違っているので、その対応の違いから察するに私達親子にはまるで興味がないといったところなのでしょうか……。
しかし、もしあそこで扉から入ってきたのが私達のような力の無い貴族ではなく、ベアトリック様のような高位な貴族であれば皆さんもの凄い急いで集まってくるのでしょうね。
「ーーっ!」
「おいーー」
「ーーあれが」
「ーーほぅ」
「ーーくしい」
「…………?」
と、完全に周囲に溶け込むようにして集団の中へと忍び込んだ私達親子でしたが、なぜだか私達の事を見つめるいくつかの視線がある事に気付きました。
「…………?」
誰からも興味を持たれるような存在ではない筈なのにどうしてでしょう?
理由の分からない視線を不思議に思っていると、
「ーー数日ぶりね、レライ」
急に耳元でそう囁かれ、思わず肩が飛び跳ねるようにビクつきます。
「ーーアッ、アリーお姉様!」
「ーーふふっ、そんなにびっくりしなくても良いでしょうに。相変わらず反応がいいのね、レライ」
「おぉ……これはこれはアーリシア嬢、お久しぶりです。しばらく見ない間にご立派になられて……一瞬ジョリン様と見紛うところでした」
「ふふっーーお久しぶりです、ポーンドット卿。お会いできて嬉しいですわ」
私はアリーお姉様の近くへと歩み寄り小声で話しかけます。
「あの……アリーお姉様、その……平気なのですか?」
「平気か平気でないかで言えば……今にも死にそうね」
「ーー死っ⁉︎」
「ふふっーー冗談よ。けれど、こうして己が両足で立ち続けるというのは私にとって死と同じくらいの苦しみなのよ? はぁっ……どうして人間ってこうも歩きまわる生き物なのかしらね……寝たきりの方がずっと楽でしょうに……不憫だわ」
アリーお姉様はとても辛そうな表情でそう言います。
先ほど今にも死にそうだと言っていたのは案外本当の事なのかもしれませんね。
「レライーー肩、貸りるわね」
言って、アリーお姉様は私の肩に軽くよりかかりました。
「ーーふぅ。早く終わらないかしら……」
「まだ始まってもいませんよ……」
「レライ、あなた私として今日一日を過ごしてご覧なさいな。そうすれば私は今すぐにでも平穏な日々を取り戻す事が出来る」
「あはは……出来る事ならそうして差し上げたいのですが、今はどうか我慢なさってくださいアリーお姉様」
「まったくーー陛下もこんなところへ召集をかけずに私の部屋にでも召集をかけてくだされば、私はこんな辛い思いをしなくても済んだのに……」
アリーお姉様は誰が見ても分かるほどの不満顔でそう呟きます。
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