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4章 おまじないがもたらすモノ
13 青空に浮かぶ雲のよう
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「ナイト……ハル……ト様?」
未だ私の頭の中では顔と名前が一致していないのに、自然と口からそんなお名前がこぼれ落ちました。
人の名前を間違えてしまうという大変失礼な行為になってしまう恐れがあるのにもかかわらず、どうしてそんな軽率な行動をとったのか自分自身でもびっくりしています。
ですが、そんな心配をよそに目の前の方はナイトハルト様で間違いはないようです。
先ほどの、私と目が合った時の反応からしても答えは明白ですね。
もしかすると、あの反応を見てこの方はナイトハルト様で間違いないと無意識に思っていたのかもしれませんね。
「あ、名前、覚えていてくれたんですね」
ナイトハルト様は右手を自身の頭にあて、意外そうな表情でそう言います。
「ーーはい。ナイトハルト様のおかげで、あの時はとても楽しい時間を過ごすことが出来ましたから」
「え? 僕のおかげ?」
またもナイトハルト様はびっくりしたような表情を浮かべ、かと思えば次は馬車の床面の一角を真剣な面持ちで見つめながら何やら考え事をしているご様子です。
表情がすごく豊かな方ですね。
「あの……僕、あの時何かしました?」
とても不安そうな表情でナイトハルト様はそう言います。見方によっては今にも泣き出してしまいそうにも見えます。
「はい? 素敵なお庭を眺めながら一緒に楽しくお喋りしたじゃないですか」
「え? ああ! そういう……。なんだ……てっきり僕、また何か失礼な事でもしでかしたのかと……ああ、良かった。あっははは! いやー! びっくりした、びっくりした!」
子供のような無邪気な表情でナイトハルト様は笑います。
ナイトハルト様は表情が短時間で次々に変わるので、見ていてとても楽しいです。
「あっははは、僕って会話の流れとか言葉に秘められた意味を察するのがどうも苦手で……会話が噛み合わないってよく怒られてしまうんですよね……大丈夫でした? 僕と話すの嫌気が差しませんでした?」
とても不安そうな色を浮かべた上目使いで私を下から覗きこみます。
「っふふふ。そんなに心配なさらなくても大丈夫ですよ。それよりも次々に変化するナイトハルト様の表情を見ているととても楽しいです」
「え? あっははは……参ったな。落ち着きがないってよく父上に叱られているんですけど、もうその事がバレちゃったかな、あっははは……」
肩を落とし、馬車の床面を見つめるようにしてそう言います。
「表現の仕方だと思いますけどね。ナイトハルト様のお父様は落ち着きがないとおっしゃったようですが、私の目には素直で明るい人に見えますよ?」
「素直で、明るい人?」
「はい。その時、その場所で感じた事をそのまま自身の身体全体を使って表現できる人と言えば伝わりやすいでしょうか? 楽しいと思えば笑って、嬉しいと思えば喜ぶ。それはすごく当たり前の事のように思いますが、そう出来ない人って結構多いんですよ?」
「そうなんですか?」
「ええ。単純に感情を表に出すのが苦手な人もいますし、感情を表に出さないようにするのが正しく美しいとする風潮もあるくらいですし。大人の女性が扇子で口元を隠すのも心の現れである表情を隠すためのものなんですよ」
「それはなんとなく聞いた事があります。でも……わざわざ表情を隠すだなんて僕には全く理解できませんね。笑いたければ笑えばいいのにって思ってしまいます」
「ふふふっ、本当ですね。人は笑っている時が一番輝いて見えるのにもったいないですよね」
「あっ! それもこの間お話しした際に言っていた事と似ていますね!」
「…………?」
「ほらっ! 人間として生きるか、貴族として生きるか、みたいな話をしたじゃないですか!」
「あぁ、そういえば確かにしましたね。そんなお話。だからでしょうか? ナイトハルト様の事を見ていると当たり前に人間なんだなって、いいなって、嬉しくなっちゃうんです」
「それは……褒められているんでしょうか?」
「もちろん。何かに縛られる事なく自由に生きる事は人間として当たり前の事で、最も大切なことかもしれません。だから、人間らしく表情豊かに振る舞えるナイトハルト様は、ほらっ! あの空に浮かぶ雲のように自由で、気ままで、私としては羨ましいくらいですよ」
「あの雲が……僕?」
会話の流れから二人で窓の外の空を見上げるかたちになった私達でしたが、不意に互いの距離が近くなりすぎていることに気づき、すぐさま上体を起こし互いに距離をとります。
「…………」
「…………」
なんだか急に気まずくなってしまい、沈黙が続きますがそれとはうらはらに私の胸は激しく高鳴っています。
このままでは、私の鼓動がナイトハルト様に聞こえてしまいそうです。
何も感じなく、壊れてしまったと思っていた私の心はどうやら僅かに息を吹き返したようですね。
アリーお姉様に抱きしめられ、懐かしいあの感覚を再び味わえたのが大きな要因と言えるでしょう。いつもお世話になっているアリーお姉様に何かお礼をしなくてはいけませんね。
「……ローレライ嬢、ご趣味などはありますか?」
気まずい沈黙を打ち破るように、ナイトハルト様は若干の苦笑いを浮かべてそう言いました。
私は笑顔でそれに答えます。ナイトハルト様に負けないくらいの人間らしい笑みを浮かべて。
未だ私の頭の中では顔と名前が一致していないのに、自然と口からそんなお名前がこぼれ落ちました。
人の名前を間違えてしまうという大変失礼な行為になってしまう恐れがあるのにもかかわらず、どうしてそんな軽率な行動をとったのか自分自身でもびっくりしています。
ですが、そんな心配をよそに目の前の方はナイトハルト様で間違いはないようです。
先ほどの、私と目が合った時の反応からしても答えは明白ですね。
もしかすると、あの反応を見てこの方はナイトハルト様で間違いないと無意識に思っていたのかもしれませんね。
「あ、名前、覚えていてくれたんですね」
ナイトハルト様は右手を自身の頭にあて、意外そうな表情でそう言います。
「ーーはい。ナイトハルト様のおかげで、あの時はとても楽しい時間を過ごすことが出来ましたから」
「え? 僕のおかげ?」
またもナイトハルト様はびっくりしたような表情を浮かべ、かと思えば次は馬車の床面の一角を真剣な面持ちで見つめながら何やら考え事をしているご様子です。
表情がすごく豊かな方ですね。
「あの……僕、あの時何かしました?」
とても不安そうな表情でナイトハルト様はそう言います。見方によっては今にも泣き出してしまいそうにも見えます。
「はい? 素敵なお庭を眺めながら一緒に楽しくお喋りしたじゃないですか」
「え? ああ! そういう……。なんだ……てっきり僕、また何か失礼な事でもしでかしたのかと……ああ、良かった。あっははは! いやー! びっくりした、びっくりした!」
子供のような無邪気な表情でナイトハルト様は笑います。
ナイトハルト様は表情が短時間で次々に変わるので、見ていてとても楽しいです。
「あっははは、僕って会話の流れとか言葉に秘められた意味を察するのがどうも苦手で……会話が噛み合わないってよく怒られてしまうんですよね……大丈夫でした? 僕と話すの嫌気が差しませんでした?」
とても不安そうな色を浮かべた上目使いで私を下から覗きこみます。
「っふふふ。そんなに心配なさらなくても大丈夫ですよ。それよりも次々に変化するナイトハルト様の表情を見ているととても楽しいです」
「え? あっははは……参ったな。落ち着きがないってよく父上に叱られているんですけど、もうその事がバレちゃったかな、あっははは……」
肩を落とし、馬車の床面を見つめるようにしてそう言います。
「表現の仕方だと思いますけどね。ナイトハルト様のお父様は落ち着きがないとおっしゃったようですが、私の目には素直で明るい人に見えますよ?」
「素直で、明るい人?」
「はい。その時、その場所で感じた事をそのまま自身の身体全体を使って表現できる人と言えば伝わりやすいでしょうか? 楽しいと思えば笑って、嬉しいと思えば喜ぶ。それはすごく当たり前の事のように思いますが、そう出来ない人って結構多いんですよ?」
「そうなんですか?」
「ええ。単純に感情を表に出すのが苦手な人もいますし、感情を表に出さないようにするのが正しく美しいとする風潮もあるくらいですし。大人の女性が扇子で口元を隠すのも心の現れである表情を隠すためのものなんですよ」
「それはなんとなく聞いた事があります。でも……わざわざ表情を隠すだなんて僕には全く理解できませんね。笑いたければ笑えばいいのにって思ってしまいます」
「ふふふっ、本当ですね。人は笑っている時が一番輝いて見えるのにもったいないですよね」
「あっ! それもこの間お話しした際に言っていた事と似ていますね!」
「…………?」
「ほらっ! 人間として生きるか、貴族として生きるか、みたいな話をしたじゃないですか!」
「あぁ、そういえば確かにしましたね。そんなお話。だからでしょうか? ナイトハルト様の事を見ていると当たり前に人間なんだなって、いいなって、嬉しくなっちゃうんです」
「それは……褒められているんでしょうか?」
「もちろん。何かに縛られる事なく自由に生きる事は人間として当たり前の事で、最も大切なことかもしれません。だから、人間らしく表情豊かに振る舞えるナイトハルト様は、ほらっ! あの空に浮かぶ雲のように自由で、気ままで、私としては羨ましいくらいですよ」
「あの雲が……僕?」
会話の流れから二人で窓の外の空を見上げるかたちになった私達でしたが、不意に互いの距離が近くなりすぎていることに気づき、すぐさま上体を起こし互いに距離をとります。
「…………」
「…………」
なんだか急に気まずくなってしまい、沈黙が続きますがそれとはうらはらに私の胸は激しく高鳴っています。
このままでは、私の鼓動がナイトハルト様に聞こえてしまいそうです。
何も感じなく、壊れてしまったと思っていた私の心はどうやら僅かに息を吹き返したようですね。
アリーお姉様に抱きしめられ、懐かしいあの感覚を再び味わえたのが大きな要因と言えるでしょう。いつもお世話になっているアリーお姉様に何かお礼をしなくてはいけませんね。
「……ローレライ嬢、ご趣味などはありますか?」
気まずい沈黙を打ち破るように、ナイトハルト様は若干の苦笑いを浮かべてそう言いました。
私は笑顔でそれに答えます。ナイトハルト様に負けないくらいの人間らしい笑みを浮かべて。
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