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4章 おまじないがもたらすモノ

12 あなたは……

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 楽しい会話に顔を綻ばせながら馬車に揺られていると、馬車の速度が途端に失われてしまいました。

 不思議に思い、窓から顔を覗かせるとそこにはポーンドット家の馬車同様にあまり豪華ではなく、こじんまりとした小型の馬車が停まっていました。

 私達親子はいったいどうしたのかと互いの顔を見合わせ小首を傾げます。

 していると、

「如何なさいました? お困りですか?」

 と、御者のネイブルさんの声が窓の外から聞こえてきました。

 次いで、

「ーーああ、ええ。車輪の一部が破損してしまったようで……」

 知らない男性の声がネイブルさんに答えます。

 どうやら窓の外に見える馬車は故障してしまい、今現在動けなくなっているようです。

 その後、馬車の窓からネイブルさんが顔を覗かせお父様に問いかけます。

「旦那様、如何いたしましょう?」

「故障の程度はどれくらいのものなのだろう? 簡単な作業で済むのであれば何か力になれるかもしれないね」

「では、ご一緒に」

「うむ」

 お父様は馬車から降り、故障したという馬車の元へと向かいます。

「わざわざ申し訳ございません。私一人ではどうする事も出来ずに途方に暮れていました」

「いえいえ、お気になさらず。まだ力になれるかどうかも分かりませんし……それで、故障したというのはどこの部分でしょうか?」

「はい、実はここのーー」

「ほう、なるほどーー」

「旦那様、この程度であればーー」

「うむ。さっそくーー」

「こちらをお使いーー」

「せーのっーー」

「気を付けてーー」

「ご親切にありがとうございますーー」

「む? 君は?」

「あっーーハルト様ーー」

「ほう。宜しければしばらく我が馬車内にてーー」

「いえ、そんなーー」

「娘がいますがお気になさらず、どうぞーー」

 馬車の外が何だか賑やかになってきましたね。

 お父様はノルマンディー侯爵閣下ほどではないにせよ手先が器用な方で、屋敷のテーブルや椅子といった家具の簡単なメンテナンスくらいならばご自身でいつもやっています。

 それらの調子を崩した家具をまるで自身の子供のように大事に扱うお父様はいつも嬉しそうでいて、きっと物を造ったり修理したりするのが好きなのでしょうね。

 趣味、といったところなのでしょうか?

 そんなお父様だからこそ、ノルマンディー侯爵閣下とあれほど仲が良いのかもしれません。

 あるいはノルマンディー侯爵閣下の事を物造りの先生のように思っているのかもしれませんね。

 古びた木の軋む音や木を叩く音が窓の外から聞こえてきて、私の頭の中では馬車の修理に取り組むお父様とネイブルさんの姿がぼんやりと浮かび始めます。あと、まだ見ぬあちらの御者さんのお姿も。

 さっき聞いた声と喋り方から想像する私の勝手なイメージでは……あちらの御者さんはネイブルさんより少し年上の方で、艶やかな白髪が眩しくて、とても几帳面な性格が表情にもよく表れている優しそうなお爺さん、といった具合でしょうか。

 私がそんな妄想を脳内で勝手に膨らませていると、ポーンドット家の馬車の扉が開かれ強い陽の光が差し込みました。

 まだ数分も経ってはいないのに、もう修理が終わったのでしょうか? それとも、故障の程度が思ったよりも酷くて力になる事が出来なかったとかでしょうか?

 私は片手で陽の光を遮るようにして、扉の向こうに立つ人物に話しかけます。

「修理は無理そうでしたか?」

 そう、問いかけた私でしたが返ってきたのは思ってもみない返答でした。

「あっ、えっと……初めまして。あっ、いやっ、僕は修理の事とか全然分からなくて、その……あなたのお父上に中で待っていろと言われたので、それで……」

 すごく狼狽したご様子の男性がそう言います。

 声の感じからしてお若い男性のようです。

 私のお父様に中で待ていろと言われて来たとおっしゃいましたが、思い返してみると確かについ先ほど窓の外からそのような会話が聞こえていたような気がします。考え事をしながら、ぼんやりと聞いていたのでそこまで自信はないのですが……。

 とすると、お父様に言われたから仕方なく来たものの、この男性は今現在とても気まずい思いをしていらっしゃるのでしょうね。

 逆の立場であれば私もきっとこの男性のように狼狽してしまっていたことでしょう。

 であれば、ここは積極的に私から動いた方が親切ですね。

「はい。話はだいたい飲み込めています。どうぞ、遠慮なさらずに入ってくださいまし」

「あ、ありがとうございます。それでは失礼しますーー」

 言って、 

 女性のように艶やかな青髪を揺らしながらポーンドット家の馬車内に男性は入ってきました。

「馬車が故障してしまうだなんてとんだ災難でしたね。何か急ぎの御用があったのではないですか?」

「ああ、いえ。出先からの帰りだったもので、特に急ぎはしてしないのですが……」

 言いながら、男性は私の向かいの座席に腰を下ろしゆっくりと顔を上げていきます。

 男性にしてはやや線の細いおやかな身体付き、恐らくはどこか名のある家の令息なのでしょう。

 艶やかな青髪の隙間から覗く切れ長の目が私を捉え、肉付きの薄い唇の端が大きく上に持ち上げられます。

 そして、

「ーーえっ?」

「ーーあれ?」

「「あなたは……」」

「ナイト……ハルト……様?」

「ローレライ……嬢」

 






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