81 / 125
4章 おまじないがもたらすモノ
6 正体
しおりを挟む
ーーパフン。
そんな可愛らしい音をきっかけに閉じたままだった瞼を開けてみると、つい先ほどまで私を抱きしめてくれていたアリーお姉様が再びベッドの上に大の字で横になっています。
アリーお姉様はまるで大仕事をこなした後のような清々しくも疲れきったような表情でいて、今は静かに天井を見つめています。
ふと気が付くと、つい先ほどまで私の心を支配していた恐怖心はいつの間にか嘘のように消え去っています。
さすがはアリーお姉様です。あれほど恐怖に支配されていた私の心をいとも簡単に救ってくれました。幼い頃からお世話になっていますが、こうして久しぶりに抱きしめられるとその凄さを再認識出来ますね。ものすごい安心感です。
「ありがとうございます、アリーお姉様」
「いえいえ。私があなたにしてあげられるわずかな物事のひとつだもの気にしないで。必要とあらばいつでも。ただーー私の気持ちが整っているとき限定だけれどね」
アリーお姉様の気持ちが整っている。つまりはやる気の問題なのですが、そんな日はきっと一年間に一日あるかないかでしょう。でも、アリーお姉様は私がああなってしまえば自身の気持ちなど関係なく動いてくださるんです。
アリーお姉様はそういうお方なんです。
「ふふふっ、はい」
「なに? 何がそんなに可笑しいの?」
「何でもありません。ふふふっ」
「ーーレライ、あなたって本当に不思議な子よね。おまじないを掛けた時にもあなた何だか可笑しな反応を見せていたけれど……ほら、覚えてない? 私がおまじないを掛けた直後の事なのだけれど……」
そんなアリーお姉様の言葉を受け、私の頭の中では一つの記憶がゆっくりと浮上します。
数ある記憶の中で一番目立つ場所に今もなお痛々しく鎮座している、幼い日の記憶です。
それはまさに今、アリーお姉様がおっしゃっているおまじないの時の記憶です。当時おまじないだなんて知るはずもない私が、突如怪しげな事を始めたアリーお姉様に戸惑い、場の雰囲気を壊さないように必死に考えてリアクションをとったあの記憶です。
今、思い出すだけでも恐ろしくなる空気感です。
それにしても、アリーお姉様が事前にきちんと説明してくれていればあんな悲惨な事にはならなかったのに……。
「…………」
そう思いましたが、事前におまじないを掛けるからねって言われていたとしても単なるごっこ遊びだと思って、やはりそれ相応の反応を見せていただけなのかも知れません。
あの結末は変えられないのですね。運命はやはり不変という事なのでしょうか。
「……ん?」
と、それまで見落としていた重大な事柄が私の意識上にのぼりました。
見落としていたと言うよりも話の流れに逆らえずにそのまま放置してしまって、その結果忘れかけていた、と言った方が正確かもしれません。
だってアリーお姉様、当たり前のように話をどんどん進めていっちゃうんですから。
あの日あの時、アリーお姉様は私におまじないを掛けて私を守ろうとしてくれた。あの日のあれは決して、ごっこ遊びではなく正式な? おまじないの儀式だった。その結果、私に襲い掛かった悪意と危害は増幅しそれらをもたらした人物へと反射された。それがあの日のおまじないの効果だから、そういった結果が出た。
こうして考えてみれば、とても理にかなった物事です。なるべくしてなった。ごく自然で当たり前の事のように感じます。
ですが、
「あ……あのっ……」
「本当に忙しい子ね。今度は何?」
「アリー姉様は……その……魔法使い……なのですか?」
これです。
そんな可愛らしい音をきっかけに閉じたままだった瞼を開けてみると、つい先ほどまで私を抱きしめてくれていたアリーお姉様が再びベッドの上に大の字で横になっています。
アリーお姉様はまるで大仕事をこなした後のような清々しくも疲れきったような表情でいて、今は静かに天井を見つめています。
ふと気が付くと、つい先ほどまで私の心を支配していた恐怖心はいつの間にか嘘のように消え去っています。
さすがはアリーお姉様です。あれほど恐怖に支配されていた私の心をいとも簡単に救ってくれました。幼い頃からお世話になっていますが、こうして久しぶりに抱きしめられるとその凄さを再認識出来ますね。ものすごい安心感です。
「ありがとうございます、アリーお姉様」
「いえいえ。私があなたにしてあげられるわずかな物事のひとつだもの気にしないで。必要とあらばいつでも。ただーー私の気持ちが整っているとき限定だけれどね」
アリーお姉様の気持ちが整っている。つまりはやる気の問題なのですが、そんな日はきっと一年間に一日あるかないかでしょう。でも、アリーお姉様は私がああなってしまえば自身の気持ちなど関係なく動いてくださるんです。
アリーお姉様はそういうお方なんです。
「ふふふっ、はい」
「なに? 何がそんなに可笑しいの?」
「何でもありません。ふふふっ」
「ーーレライ、あなたって本当に不思議な子よね。おまじないを掛けた時にもあなた何だか可笑しな反応を見せていたけれど……ほら、覚えてない? 私がおまじないを掛けた直後の事なのだけれど……」
そんなアリーお姉様の言葉を受け、私の頭の中では一つの記憶がゆっくりと浮上します。
数ある記憶の中で一番目立つ場所に今もなお痛々しく鎮座している、幼い日の記憶です。
それはまさに今、アリーお姉様がおっしゃっているおまじないの時の記憶です。当時おまじないだなんて知るはずもない私が、突如怪しげな事を始めたアリーお姉様に戸惑い、場の雰囲気を壊さないように必死に考えてリアクションをとったあの記憶です。
今、思い出すだけでも恐ろしくなる空気感です。
それにしても、アリーお姉様が事前にきちんと説明してくれていればあんな悲惨な事にはならなかったのに……。
「…………」
そう思いましたが、事前におまじないを掛けるからねって言われていたとしても単なるごっこ遊びだと思って、やはりそれ相応の反応を見せていただけなのかも知れません。
あの結末は変えられないのですね。運命はやはり不変という事なのでしょうか。
「……ん?」
と、それまで見落としていた重大な事柄が私の意識上にのぼりました。
見落としていたと言うよりも話の流れに逆らえずにそのまま放置してしまって、その結果忘れかけていた、と言った方が正確かもしれません。
だってアリーお姉様、当たり前のように話をどんどん進めていっちゃうんですから。
あの日あの時、アリーお姉様は私におまじないを掛けて私を守ろうとしてくれた。あの日のあれは決して、ごっこ遊びではなく正式な? おまじないの儀式だった。その結果、私に襲い掛かった悪意と危害は増幅しそれらをもたらした人物へと反射された。それがあの日のおまじないの効果だから、そういった結果が出た。
こうして考えてみれば、とても理にかなった物事です。なるべくしてなった。ごく自然で当たり前の事のように感じます。
ですが、
「あ……あのっ……」
「本当に忙しい子ね。今度は何?」
「アリー姉様は……その……魔法使い……なのですか?」
これです。
0
お気に入りに追加
132
あなたにおすすめの小説

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい
宇水涼麻
恋愛
ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。
「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」
呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。
王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。
その意味することとは?
慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?
なぜこのような状況になったのだろうか?
ご指摘いただき一部変更いたしました。
みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。
今後ともよろしくお願いします。
たくさんのお気に入り嬉しいです!
大変励みになります。
ありがとうございます。
おかげさまで160万pt達成!
↓これよりネタバレあらすじ
第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。
親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。
ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。
森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。
玖保ひかる
恋愛
[完結]
北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。
ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。
アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。
森に捨てられてしまったのだ。
南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。
苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。
※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。
※完結しました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

成り上がり令嬢暴走日記!
笹乃笹世
恋愛
異世界転生キタコレー!
と、テンションアゲアゲのリアーヌだったが、なんとその世界は乙女ゲームの舞台となった世界だった⁉︎
えっあの『ギフト』⁉︎
えっ物語のスタートは来年⁉︎
……ってことはつまり、攻略対象たちと同じ学園ライフを送れる……⁉︎
これも全て、ある日突然、貴族になってくれた両親のおかげねっ!
ーー……でもあのゲームに『リアーヌ・ボスハウト』なんてキャラが出てた記憶ないから……きっとキャラデザも無いようなモブ令嬢なんだろうな……
これは、ある日突然、貴族の仲間入りを果たしてしまった元日本人が、大好きなゲームの世界で元日本人かつ庶民ムーブをぶちかまし、知らず知らずのうちに周りの人間も巻き込んで騒動を起こしていく物語であるーー
果たしてリアーヌはこの世界で幸せになれるのか?
周りの人間たちは無事でいられるのかーー⁉︎

婚約破棄された伯爵令嬢は錬金術師となり、ポーションを売って大金持ちになります〜今更よりを戻してくれと土下座したところでもう遅い〜
平山和人
恋愛
伯爵令嬢のフィーナは婚約者のラインハルトから真実の愛に目覚めたと婚約破棄される。そして、フィーナは家を出て王都からも追放される。
行く宛もなく途方に暮れていたところを錬金術師の女性に出会う。フィーナは事情を話し、自分の職業適性を調べてもらうとなんと魔法の才能があると判明する。
その才能を活かすため、錬金術師となりポーションを売ることに。次第にポーションが評判を呼んでいくと大金持ちになるのであった。
一方、ラインハルトはフィーナを婚約破棄したことで没落の道を歩んでいくことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる