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3章 同性愛と崩壊する心
19 言霊
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屋敷へと戻った私とアンナはそれぞれのやるべき事をやるため、足早に持ち場へと向かいました。
途中、アンナはマイヤーさんに捕まりなにやら問い質されていましたが、恐らくはアレク様の事を聞かれているのでしょう。あれだけ大声で騒いでいれば誰だって事態に気付くでしょうし、アンナが上手くマイヤーさんに説明してくれる事を祈るばかりです。
「はぁっ……」
私は言い知れぬ不安感が胸の奥で漂う中、自室へと戻り閉めた戸にもたれながらため息を漏らしました。
びっくりした……。
本当にびっくりしました。
アレク様はああ言ってましたけど、私からしてみればやはり初対面ですし、いきなり結婚してくれだなんて話が急すぎてついていけません……。
それにアレク様は私が婚約破棄をされたから急いで来たっておっしゃっていましたけれど、なぜ急いで来る必要があったのでしょうか?
もっと言うと、なぜ私に?
婚約破棄されるような女である私に……。
そこまで考えたところで、あのお方のあの言葉が鮮明に脳内へと蘇りました。
『言い忘れていたわ、ローレライ。私が言ったんだったわ、アシュトレイ卿にーーーーローレライとの婚約を破棄しなさいって。さもないと、大変な事になっちゃうって……』
私がアシュトレイ様に婚約破棄された理由ーーーーいえ。この表現は正確ではありませんね。
私とアシュトレイ様の婚約が破棄された理由、と言った方がより正確でしょうか。
ベアトリック様の言ったあのお言葉が真実だとするのなら、アシュトレイ様は私の事が嫌いだから婚約破棄をした訳ではなく、権力に負けて家と家族と自身を守る為に仕方なく婚約を破棄したという事になります。
だから、婚約破棄をしたのはアシュトレイ様ではなく、あくまでもそれを促したベアトリック様だと私は思うのです。
ベアトリック様によって、私達の婚約は破棄された。
しかし、それはあくまでも裏向きの、決して表には出ない本当の真実であって世間的にはやはり私がアシュトレイ様に婚約破棄をされた、というのが一般的な認識なのです。
婚約破棄をした薄情なアシュトレイ卿と婚約破棄をされた惨めなローレライ嬢の悲しい悲しい恋のお話、といったところでしょうか。
そして、裏で隠れて笑っているベアトリック様。
力が有るものと無いものの関係性。
世界の縮図、ですね。
お父様が言っていた、歴史の中に真実はほんのわずかしか存在しない。というお言葉が再び思い起こされます。
「…………」
かなり話が逸れてしまいましたが、そもそもなぜアレク様は婚約破棄された私のもとに突如現れたのでしょうか? しかも急ぎのご様子で。
アレク様のあのご様子を鑑みるにまるでこの時をずっと待っていた、みたいな印象を受けるのですが……。
「あ……」
まさかとは思いますがベアトリック様がアレク様に婚約を申し込めと口利きをなされたとか……そして私がそれを承諾し結婚間近となった瞬間に再び婚約破棄ーーーー。
ありそうな話ですね。
前回の実績がある分、かなり信憑性の高い可能性のように思えます。
そう考えると私は内心、ついつい身震いしてしまうほどの恐怖を感じたのですが、それとは逆に心のどこかでその可能性を否定している自分がいる事に気付きました。
なぜでしょう?
つい先日、あんなにひどい仕打ちを受けたばかりなので警戒しすぎるくらいでちょうど良いとは思うのですが、いったいどこからこの安心感にも似た自信のようなものが湧き出てくるのでしょう?
初めて会って、初めて言葉を交わした。そんな男性の事を信じる事が出来る理由ーー。
私の頭の中に緊張の色がありありと見てとれるアレク様のお顔が浮かびました。そんなアレク様は必死に口を開き言葉を紡ぎだします。
『うっ……美しき! 美しきローレライ嬢! 私とけっ……けっこ……結婚して下さい!』
あの時私は当然びっくりしましたし、初対面の人間に突然そんな事を言うアレク様の事を変な人だなって思いました。
けれど、
それと同時に、とても嬉しいという気持ちにもなりました。
誰かに、例えば名前も顔も知らない初めて会った誰かに、男性でも女性でも、大人でも子供でも、人間でさえない、そんな誰かにーーーー
好きだ。と言われる事はとても嬉しい事だと思います。
そんな想いが、アレク様の事を信じさせてやまないのかもしれません。
途中、アンナはマイヤーさんに捕まりなにやら問い質されていましたが、恐らくはアレク様の事を聞かれているのでしょう。あれだけ大声で騒いでいれば誰だって事態に気付くでしょうし、アンナが上手くマイヤーさんに説明してくれる事を祈るばかりです。
「はぁっ……」
私は言い知れぬ不安感が胸の奥で漂う中、自室へと戻り閉めた戸にもたれながらため息を漏らしました。
びっくりした……。
本当にびっくりしました。
アレク様はああ言ってましたけど、私からしてみればやはり初対面ですし、いきなり結婚してくれだなんて話が急すぎてついていけません……。
それにアレク様は私が婚約破棄をされたから急いで来たっておっしゃっていましたけれど、なぜ急いで来る必要があったのでしょうか?
もっと言うと、なぜ私に?
婚約破棄されるような女である私に……。
そこまで考えたところで、あのお方のあの言葉が鮮明に脳内へと蘇りました。
『言い忘れていたわ、ローレライ。私が言ったんだったわ、アシュトレイ卿にーーーーローレライとの婚約を破棄しなさいって。さもないと、大変な事になっちゃうって……』
私がアシュトレイ様に婚約破棄された理由ーーーーいえ。この表現は正確ではありませんね。
私とアシュトレイ様の婚約が破棄された理由、と言った方がより正確でしょうか。
ベアトリック様の言ったあのお言葉が真実だとするのなら、アシュトレイ様は私の事が嫌いだから婚約破棄をした訳ではなく、権力に負けて家と家族と自身を守る為に仕方なく婚約を破棄したという事になります。
だから、婚約破棄をしたのはアシュトレイ様ではなく、あくまでもそれを促したベアトリック様だと私は思うのです。
ベアトリック様によって、私達の婚約は破棄された。
しかし、それはあくまでも裏向きの、決して表には出ない本当の真実であって世間的にはやはり私がアシュトレイ様に婚約破棄をされた、というのが一般的な認識なのです。
婚約破棄をした薄情なアシュトレイ卿と婚約破棄をされた惨めなローレライ嬢の悲しい悲しい恋のお話、といったところでしょうか。
そして、裏で隠れて笑っているベアトリック様。
力が有るものと無いものの関係性。
世界の縮図、ですね。
お父様が言っていた、歴史の中に真実はほんのわずかしか存在しない。というお言葉が再び思い起こされます。
「…………」
かなり話が逸れてしまいましたが、そもそもなぜアレク様は婚約破棄された私のもとに突如現れたのでしょうか? しかも急ぎのご様子で。
アレク様のあのご様子を鑑みるにまるでこの時をずっと待っていた、みたいな印象を受けるのですが……。
「あ……」
まさかとは思いますがベアトリック様がアレク様に婚約を申し込めと口利きをなされたとか……そして私がそれを承諾し結婚間近となった瞬間に再び婚約破棄ーーーー。
ありそうな話ですね。
前回の実績がある分、かなり信憑性の高い可能性のように思えます。
そう考えると私は内心、ついつい身震いしてしまうほどの恐怖を感じたのですが、それとは逆に心のどこかでその可能性を否定している自分がいる事に気付きました。
なぜでしょう?
つい先日、あんなにひどい仕打ちを受けたばかりなので警戒しすぎるくらいでちょうど良いとは思うのですが、いったいどこからこの安心感にも似た自信のようなものが湧き出てくるのでしょう?
初めて会って、初めて言葉を交わした。そんな男性の事を信じる事が出来る理由ーー。
私の頭の中に緊張の色がありありと見てとれるアレク様のお顔が浮かびました。そんなアレク様は必死に口を開き言葉を紡ぎだします。
『うっ……美しき! 美しきローレライ嬢! 私とけっ……けっこ……結婚して下さい!』
あの時私は当然びっくりしましたし、初対面の人間に突然そんな事を言うアレク様の事を変な人だなって思いました。
けれど、
それと同時に、とても嬉しいという気持ちにもなりました。
誰かに、例えば名前も顔も知らない初めて会った誰かに、男性でも女性でも、大人でも子供でも、人間でさえない、そんな誰かにーーーー
好きだ。と言われる事はとても嬉しい事だと思います。
そんな想いが、アレク様の事を信じさせてやまないのかもしれません。
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