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3章 同性愛と崩壊する心
17 アレク様、お帰りに
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「あの日、私は朝からずっとそわそわしていました。何かは分かりませんがきっと何かが起きる、私の近辺を慌ただしくする何かがきっと起きると不思議とそんな予感がしていたのです。そして茶会の会場で遠くからあなたの事を眺めていると、私の予感していた事が起きたのです。そうーーアシュトレイ卿がまさかまさかの婚約破棄。私は自身の目を疑いました。こんなにも美しいローレライ嬢が婚約を破棄されるだなんて信じられませんから。その時わたしは悟りました。これは神々が私に下さった最大のチャンスであり、ローレライ嬢を幸せにする為の試練なのだと。だから私はあなたをお救いするため、身を清め相応の覚悟を持って今日ここに出向いたという訳なのです! さあ、ローレライ嬢! 私があなたを救ってあげます! あなたは安心して私に身を委ねているだけでいいのです! ともに行きましょう、私達だけの夢の世界へ!」
屋敷の隅々まで響き渡るのではないかと言うほどの声量でそうおっしゃると、アレク様は得意そうな表情で私を見つめます。
そんなアレク様に見つめられていると、何だか何かしらの舞台が私の知らないところで勝手に始まってどんどんとそのストーリーが進んでいってしまっているような錯覚を覚えます。
私とアレク様はさながら、舞台を演じる主役とヒロインのようですね。そして、すっかりと舞台袖にはけそびれてしまった可哀想な街娘のアンナといったところでしょうか。
そう考えると今のこの突飛な状況は面白くもありますね。私もアレク様のように演じるべきでしょうか?
そう考え、すんでのところで思いとどまります。舞台のようであると感じたのは私の勝手な感想であって当のアレク様はお遊びでは無く本気で行動しているのでしょうから軽率な行動は慎まないといけませんね。
なので、
「アレク様、繰り返しになりますがお気持ちは大変嬉しく思います。ですが、少し落ち着かれてはいかがでしょう。アレク様はまだ私の事をよくご存じではないでしょうし、私はアレク様に見合うような立派な淑女であるとは思えません。一旦、落ち着かれて少し離れた場所から私の事をよくご覧になってくださいまし。きっとアレク様御自身の勘違いであるとお分かりになる筈です」
そんな私の言葉を聞いてアレク様はようやくその場に立ち上がり、ずっと差し出したままだった赤い薔薇の花束を自身の胸元へと引き寄せました。
私は内心ホッとします。
「なんと謙虚で健気なお方だ……。まるで私の母上を見ているようだ。はっは! はっは! いや間違いなくあなたは私に相応しいお方だ、ローレライ嬢! ますます気に入った! はっは! はっは! 今すぐにでも我が屋敷へと連れ帰りたいところではあるが、あなたのいじらしい想いを尊重して今日はここで引き取らせていただこう! 私の熱い想いをあなたに受け止めて頂いただけで十分に僥倖だ! はっは! はっは! それではローレライ嬢! 今日はこれにて失礼する。次、会う時までにその美貌に更に磨きをかけておいてくれたまえ!」
アレク様はご機嫌な様子でそうおっしゃると、数歩こちらへと歩み寄り私のすぐ隣に並んで小さな袋を私の方へと差し出しました。
「私の母上が作った焼き菓子だ。とても甘くて美味しい。君にもこれくらい美味しい焼き菓子が作れるようになってくれないと私が困るからね。よく味わって、しっかりとその味を覚えておくといい」
アレク様はそう言うと私の肩を数回叩き、自身の顔を私の方へと近づけ鼻から大きく酸素を吸い込みました。
「うむ……いい香りだ。この香りに包まれる日を楽しみにしているよ、ローレライ」
アレク様はまた数歩分歩くと立ち止まり、
「ふむ。メイドの君も実にかわいい。私がローレライと結婚したあかつきには君も我が屋敷へと来るといい」
「ひぃっ!」
「はっは! はっは! そう照れなくてもいい。だが、あまり君に構っているとローレライが嫉妬してしまうだろうから今日はここまでだね。見送りを頼む」
軽快な足取りで外へと向かうアレク様に続いて、私とアンナは何だかぎこちない足取りでそれに続きます。
「では、また! はっは! はっは!」
アレク様を乗せた馬車は軽快な足取りで走り去って行きます。
「…………」
「…………」
屋敷に残された私とアンナの間に妙な沈黙が続きます。
「アンナ、よかったらコレ……食べない?」
「絶対、嫌です!」
アンナは苦笑いを浮かべ、そう言いました。
屋敷の隅々まで響き渡るのではないかと言うほどの声量でそうおっしゃると、アレク様は得意そうな表情で私を見つめます。
そんなアレク様に見つめられていると、何だか何かしらの舞台が私の知らないところで勝手に始まってどんどんとそのストーリーが進んでいってしまっているような錯覚を覚えます。
私とアレク様はさながら、舞台を演じる主役とヒロインのようですね。そして、すっかりと舞台袖にはけそびれてしまった可哀想な街娘のアンナといったところでしょうか。
そう考えると今のこの突飛な状況は面白くもありますね。私もアレク様のように演じるべきでしょうか?
そう考え、すんでのところで思いとどまります。舞台のようであると感じたのは私の勝手な感想であって当のアレク様はお遊びでは無く本気で行動しているのでしょうから軽率な行動は慎まないといけませんね。
なので、
「アレク様、繰り返しになりますがお気持ちは大変嬉しく思います。ですが、少し落ち着かれてはいかがでしょう。アレク様はまだ私の事をよくご存じではないでしょうし、私はアレク様に見合うような立派な淑女であるとは思えません。一旦、落ち着かれて少し離れた場所から私の事をよくご覧になってくださいまし。きっとアレク様御自身の勘違いであるとお分かりになる筈です」
そんな私の言葉を聞いてアレク様はようやくその場に立ち上がり、ずっと差し出したままだった赤い薔薇の花束を自身の胸元へと引き寄せました。
私は内心ホッとします。
「なんと謙虚で健気なお方だ……。まるで私の母上を見ているようだ。はっは! はっは! いや間違いなくあなたは私に相応しいお方だ、ローレライ嬢! ますます気に入った! はっは! はっは! 今すぐにでも我が屋敷へと連れ帰りたいところではあるが、あなたのいじらしい想いを尊重して今日はここで引き取らせていただこう! 私の熱い想いをあなたに受け止めて頂いただけで十分に僥倖だ! はっは! はっは! それではローレライ嬢! 今日はこれにて失礼する。次、会う時までにその美貌に更に磨きをかけておいてくれたまえ!」
アレク様はご機嫌な様子でそうおっしゃると、数歩こちらへと歩み寄り私のすぐ隣に並んで小さな袋を私の方へと差し出しました。
「私の母上が作った焼き菓子だ。とても甘くて美味しい。君にもこれくらい美味しい焼き菓子が作れるようになってくれないと私が困るからね。よく味わって、しっかりとその味を覚えておくといい」
アレク様はそう言うと私の肩を数回叩き、自身の顔を私の方へと近づけ鼻から大きく酸素を吸い込みました。
「うむ……いい香りだ。この香りに包まれる日を楽しみにしているよ、ローレライ」
アレク様はまた数歩分歩くと立ち止まり、
「ふむ。メイドの君も実にかわいい。私がローレライと結婚したあかつきには君も我が屋敷へと来るといい」
「ひぃっ!」
「はっは! はっは! そう照れなくてもいい。だが、あまり君に構っているとローレライが嫉妬してしまうだろうから今日はここまでだね。見送りを頼む」
軽快な足取りで外へと向かうアレク様に続いて、私とアンナは何だかぎこちない足取りでそれに続きます。
「では、また! はっは! はっは!」
アレク様を乗せた馬車は軽快な足取りで走り去って行きます。
「…………」
「…………」
屋敷に残された私とアンナの間に妙な沈黙が続きます。
「アンナ、よかったらコレ……食べない?」
「絶対、嫌です!」
アンナは苦笑いを浮かべ、そう言いました。
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