60 / 125
3章 同性愛と崩壊する心
17 アレク様、お帰りに
しおりを挟む
「あの日、私は朝からずっとそわそわしていました。何かは分かりませんがきっと何かが起きる、私の近辺を慌ただしくする何かがきっと起きると不思議とそんな予感がしていたのです。そして茶会の会場で遠くからあなたの事を眺めていると、私の予感していた事が起きたのです。そうーーアシュトレイ卿がまさかまさかの婚約破棄。私は自身の目を疑いました。こんなにも美しいローレライ嬢が婚約を破棄されるだなんて信じられませんから。その時わたしは悟りました。これは神々が私に下さった最大のチャンスであり、ローレライ嬢を幸せにする為の試練なのだと。だから私はあなたをお救いするため、身を清め相応の覚悟を持って今日ここに出向いたという訳なのです! さあ、ローレライ嬢! 私があなたを救ってあげます! あなたは安心して私に身を委ねているだけでいいのです! ともに行きましょう、私達だけの夢の世界へ!」
屋敷の隅々まで響き渡るのではないかと言うほどの声量でそうおっしゃると、アレク様は得意そうな表情で私を見つめます。
そんなアレク様に見つめられていると、何だか何かしらの舞台が私の知らないところで勝手に始まってどんどんとそのストーリーが進んでいってしまっているような錯覚を覚えます。
私とアレク様はさながら、舞台を演じる主役とヒロインのようですね。そして、すっかりと舞台袖にはけそびれてしまった可哀想な街娘のアンナといったところでしょうか。
そう考えると今のこの突飛な状況は面白くもありますね。私もアレク様のように演じるべきでしょうか?
そう考え、すんでのところで思いとどまります。舞台のようであると感じたのは私の勝手な感想であって当のアレク様はお遊びでは無く本気で行動しているのでしょうから軽率な行動は慎まないといけませんね。
なので、
「アレク様、繰り返しになりますがお気持ちは大変嬉しく思います。ですが、少し落ち着かれてはいかがでしょう。アレク様はまだ私の事をよくご存じではないでしょうし、私はアレク様に見合うような立派な淑女であるとは思えません。一旦、落ち着かれて少し離れた場所から私の事をよくご覧になってくださいまし。きっとアレク様御自身の勘違いであるとお分かりになる筈です」
そんな私の言葉を聞いてアレク様はようやくその場に立ち上がり、ずっと差し出したままだった赤い薔薇の花束を自身の胸元へと引き寄せました。
私は内心ホッとします。
「なんと謙虚で健気なお方だ……。まるで私の母上を見ているようだ。はっは! はっは! いや間違いなくあなたは私に相応しいお方だ、ローレライ嬢! ますます気に入った! はっは! はっは! 今すぐにでも我が屋敷へと連れ帰りたいところではあるが、あなたのいじらしい想いを尊重して今日はここで引き取らせていただこう! 私の熱い想いをあなたに受け止めて頂いただけで十分に僥倖だ! はっは! はっは! それではローレライ嬢! 今日はこれにて失礼する。次、会う時までにその美貌に更に磨きをかけておいてくれたまえ!」
アレク様はご機嫌な様子でそうおっしゃると、数歩こちらへと歩み寄り私のすぐ隣に並んで小さな袋を私の方へと差し出しました。
「私の母上が作った焼き菓子だ。とても甘くて美味しい。君にもこれくらい美味しい焼き菓子が作れるようになってくれないと私が困るからね。よく味わって、しっかりとその味を覚えておくといい」
アレク様はそう言うと私の肩を数回叩き、自身の顔を私の方へと近づけ鼻から大きく酸素を吸い込みました。
「うむ……いい香りだ。この香りに包まれる日を楽しみにしているよ、ローレライ」
アレク様はまた数歩分歩くと立ち止まり、
「ふむ。メイドの君も実にかわいい。私がローレライと結婚したあかつきには君も我が屋敷へと来るといい」
「ひぃっ!」
「はっは! はっは! そう照れなくてもいい。だが、あまり君に構っているとローレライが嫉妬してしまうだろうから今日はここまでだね。見送りを頼む」
軽快な足取りで外へと向かうアレク様に続いて、私とアンナは何だかぎこちない足取りでそれに続きます。
「では、また! はっは! はっは!」
アレク様を乗せた馬車は軽快な足取りで走り去って行きます。
「…………」
「…………」
屋敷に残された私とアンナの間に妙な沈黙が続きます。
「アンナ、よかったらコレ……食べない?」
「絶対、嫌です!」
アンナは苦笑いを浮かべ、そう言いました。
屋敷の隅々まで響き渡るのではないかと言うほどの声量でそうおっしゃると、アレク様は得意そうな表情で私を見つめます。
そんなアレク様に見つめられていると、何だか何かしらの舞台が私の知らないところで勝手に始まってどんどんとそのストーリーが進んでいってしまっているような錯覚を覚えます。
私とアレク様はさながら、舞台を演じる主役とヒロインのようですね。そして、すっかりと舞台袖にはけそびれてしまった可哀想な街娘のアンナといったところでしょうか。
そう考えると今のこの突飛な状況は面白くもありますね。私もアレク様のように演じるべきでしょうか?
そう考え、すんでのところで思いとどまります。舞台のようであると感じたのは私の勝手な感想であって当のアレク様はお遊びでは無く本気で行動しているのでしょうから軽率な行動は慎まないといけませんね。
なので、
「アレク様、繰り返しになりますがお気持ちは大変嬉しく思います。ですが、少し落ち着かれてはいかがでしょう。アレク様はまだ私の事をよくご存じではないでしょうし、私はアレク様に見合うような立派な淑女であるとは思えません。一旦、落ち着かれて少し離れた場所から私の事をよくご覧になってくださいまし。きっとアレク様御自身の勘違いであるとお分かりになる筈です」
そんな私の言葉を聞いてアレク様はようやくその場に立ち上がり、ずっと差し出したままだった赤い薔薇の花束を自身の胸元へと引き寄せました。
私は内心ホッとします。
「なんと謙虚で健気なお方だ……。まるで私の母上を見ているようだ。はっは! はっは! いや間違いなくあなたは私に相応しいお方だ、ローレライ嬢! ますます気に入った! はっは! はっは! 今すぐにでも我が屋敷へと連れ帰りたいところではあるが、あなたのいじらしい想いを尊重して今日はここで引き取らせていただこう! 私の熱い想いをあなたに受け止めて頂いただけで十分に僥倖だ! はっは! はっは! それではローレライ嬢! 今日はこれにて失礼する。次、会う時までにその美貌に更に磨きをかけておいてくれたまえ!」
アレク様はご機嫌な様子でそうおっしゃると、数歩こちらへと歩み寄り私のすぐ隣に並んで小さな袋を私の方へと差し出しました。
「私の母上が作った焼き菓子だ。とても甘くて美味しい。君にもこれくらい美味しい焼き菓子が作れるようになってくれないと私が困るからね。よく味わって、しっかりとその味を覚えておくといい」
アレク様はそう言うと私の肩を数回叩き、自身の顔を私の方へと近づけ鼻から大きく酸素を吸い込みました。
「うむ……いい香りだ。この香りに包まれる日を楽しみにしているよ、ローレライ」
アレク様はまた数歩分歩くと立ち止まり、
「ふむ。メイドの君も実にかわいい。私がローレライと結婚したあかつきには君も我が屋敷へと来るといい」
「ひぃっ!」
「はっは! はっは! そう照れなくてもいい。だが、あまり君に構っているとローレライが嫉妬してしまうだろうから今日はここまでだね。見送りを頼む」
軽快な足取りで外へと向かうアレク様に続いて、私とアンナは何だかぎこちない足取りでそれに続きます。
「では、また! はっは! はっは!」
アレク様を乗せた馬車は軽快な足取りで走り去って行きます。
「…………」
「…………」
屋敷に残された私とアンナの間に妙な沈黙が続きます。
「アンナ、よかったらコレ……食べない?」
「絶対、嫌です!」
アンナは苦笑いを浮かべ、そう言いました。
0
お気に入りに追加
132
あなたにおすすめの小説

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい
宇水涼麻
恋愛
ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。
「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」
呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。
王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。
その意味することとは?
慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?
なぜこのような状況になったのだろうか?
ご指摘いただき一部変更いたしました。
みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。
今後ともよろしくお願いします。
たくさんのお気に入り嬉しいです!
大変励みになります。
ありがとうございます。
おかげさまで160万pt達成!
↓これよりネタバレあらすじ
第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。
親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。
ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。
森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。
玖保ひかる
恋愛
[完結]
北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。
ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。
アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。
森に捨てられてしまったのだ。
南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。
苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。
※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。
※完結しました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

成り上がり令嬢暴走日記!
笹乃笹世
恋愛
異世界転生キタコレー!
と、テンションアゲアゲのリアーヌだったが、なんとその世界は乙女ゲームの舞台となった世界だった⁉︎
えっあの『ギフト』⁉︎
えっ物語のスタートは来年⁉︎
……ってことはつまり、攻略対象たちと同じ学園ライフを送れる……⁉︎
これも全て、ある日突然、貴族になってくれた両親のおかげねっ!
ーー……でもあのゲームに『リアーヌ・ボスハウト』なんてキャラが出てた記憶ないから……きっとキャラデザも無いようなモブ令嬢なんだろうな……
これは、ある日突然、貴族の仲間入りを果たしてしまった元日本人が、大好きなゲームの世界で元日本人かつ庶民ムーブをぶちかまし、知らず知らずのうちに周りの人間も巻き込んで騒動を起こしていく物語であるーー
果たしてリアーヌはこの世界で幸せになれるのか?
周りの人間たちは無事でいられるのかーー⁉︎

婚約破棄された伯爵令嬢は錬金術師となり、ポーションを売って大金持ちになります〜今更よりを戻してくれと土下座したところでもう遅い〜
平山和人
恋愛
伯爵令嬢のフィーナは婚約者のラインハルトから真実の愛に目覚めたと婚約破棄される。そして、フィーナは家を出て王都からも追放される。
行く宛もなく途方に暮れていたところを錬金術師の女性に出会う。フィーナは事情を話し、自分の職業適性を調べてもらうとなんと魔法の才能があると判明する。
その才能を活かすため、錬金術師となりポーションを売ることに。次第にポーションが評判を呼んでいくと大金持ちになるのであった。
一方、ラインハルトはフィーナを婚約破棄したことで没落の道を歩んでいくことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる