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3章 同性愛と崩壊する心
8 闇と恐怖
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翌朝、私はみんなが起床するよりも前に部屋を抜け出し洗い場へと向かいました。
使用人の方々より先に起床するのは本来なら中々に大変な事なのですが、昨夜は予想通りに上手く寝付けず結局一睡もする事なく今を迎える事になりました。
お母様のドレスを両手に抱えて物音を立てる事なく薄暗い廊下を慎重にゆっくりと歩きます。
場所によっては一歩踏みしめるだけで床板が軋み、乾いた音が廊下に反響し奥の方へと音が吸い込まれていきます。
床板が軋む度に足のつま先から頭の先までがゾワゾワとして、心臓がぎゅっと縮まる思いです。私としてはそんな緊張感に長い間、耐えられそうにはありません。もう、足音なんか気にしないで自室に走って帰りたいです。
泥棒さんはいつもこんな思いをしながら盗みを働いているのでしょうか? だとしたら、すごく強いメンタルを持っていらっしゃるのですね。私には絶対に真似できません。
絶対、しませんけどね。
しかし、今回ばかりは頑張らないと。お母様のドレスを綺麗にお洗濯しないと。
私は決意を新たに一歩一歩、慎重に歩を進めます。
どこかから隙間風が吹き、窓ガラスが小刻みに震えだしました。咄嗟に音のした方へ視線を送りますが薄暗い闇が広がっているだけで、何も見えません。
「…………」
まずいですね。
勝手知ったる我が家のお屋敷ですが、夜となると、一人きりとなると、その表情を一変させ全くの別物になってしまいますね。
暗闇が、雰囲気が、物音が、全部恐ろしく感じます。
洗い場へはこの廊下を真っ直ぐに行って、右側のドアへと入ればいいのですが、そこまで行ける自信がありません。
どうしましょう……。一旦引き返して作戦を練った方がいいでしょうか。
後方を振り返ると、そちらもそちらで不気味な闇がはびこっていて私を静かに見つめています。
どうしましょう……。前にも後ろにも行く事が出来ません。
視線を左側に移すとそこには地下への階段があって、ここよりも更に深い怪しげな闇が広がっています。しかし、この階段を降れば使用人の皆さんが使っている部屋がいくつもあるので、いずれかのドアを開ければ闇を克服するための心強い味方が出来る筈で……。
と、私はまたなんてバカな事を考えているのでしょう。人目を避けるためにこんな時間に一人きりでここまできたのに、そんな事をしてしまったら全く意味がないじゃないですか。
そもそも、私一人でこの夜の階段を降りる勇気は逆立ちしたって出てきません。階段のその先にジェシカ嬢が待ってくれているとするならーーーー無理ですね、やはり。
恐怖には打ち勝てません。
だとすると、どうしましょう……。行く事も、戻る事も出来ません。できる事があるとするなら、このまま動かずにじっとしている事ぐらい。
それくらいの事しか私には出来ません。
隙間風が吹いてまたしても窓ガラスが小刻みに震える音が響きます。
風が少し強いのか屋敷のとなりにある木々の葉が騒めき、枝が弾ける音が聞こえてきました。
「……ひっ……ひっ……」
「ーーーーっ⁉︎」
その時、私は間違いなくこの耳で聞きました。
どこからともなく聞こえてくる、女性の微かなすすり泣く声をーーーー。
その事で私の思考は一気に白に染まり、時間が停止したような錯覚にとらわれます。
前にも進めず、後ろにも戻れず、この場に居続ける事も困難なようです。
まさに八方塞がり、逃げ場なしです。
未だ微かに聞こえてくる謎の女性のすすり泣く声に、視界が歪み意識がふっつりと途絶えてしまいそうになっていると、
「お嬢……様……」
と、私のすぐ隣から謎の女性の声が聞こえてきました。
瞬間、心臓が跳ねるように激しく脈を打ち始め私の意識はふっつりと途絶えました。
使用人の方々より先に起床するのは本来なら中々に大変な事なのですが、昨夜は予想通りに上手く寝付けず結局一睡もする事なく今を迎える事になりました。
お母様のドレスを両手に抱えて物音を立てる事なく薄暗い廊下を慎重にゆっくりと歩きます。
場所によっては一歩踏みしめるだけで床板が軋み、乾いた音が廊下に反響し奥の方へと音が吸い込まれていきます。
床板が軋む度に足のつま先から頭の先までがゾワゾワとして、心臓がぎゅっと縮まる思いです。私としてはそんな緊張感に長い間、耐えられそうにはありません。もう、足音なんか気にしないで自室に走って帰りたいです。
泥棒さんはいつもこんな思いをしながら盗みを働いているのでしょうか? だとしたら、すごく強いメンタルを持っていらっしゃるのですね。私には絶対に真似できません。
絶対、しませんけどね。
しかし、今回ばかりは頑張らないと。お母様のドレスを綺麗にお洗濯しないと。
私は決意を新たに一歩一歩、慎重に歩を進めます。
どこかから隙間風が吹き、窓ガラスが小刻みに震えだしました。咄嗟に音のした方へ視線を送りますが薄暗い闇が広がっているだけで、何も見えません。
「…………」
まずいですね。
勝手知ったる我が家のお屋敷ですが、夜となると、一人きりとなると、その表情を一変させ全くの別物になってしまいますね。
暗闇が、雰囲気が、物音が、全部恐ろしく感じます。
洗い場へはこの廊下を真っ直ぐに行って、右側のドアへと入ればいいのですが、そこまで行ける自信がありません。
どうしましょう……。一旦引き返して作戦を練った方がいいでしょうか。
後方を振り返ると、そちらもそちらで不気味な闇がはびこっていて私を静かに見つめています。
どうしましょう……。前にも後ろにも行く事が出来ません。
視線を左側に移すとそこには地下への階段があって、ここよりも更に深い怪しげな闇が広がっています。しかし、この階段を降れば使用人の皆さんが使っている部屋がいくつもあるので、いずれかのドアを開ければ闇を克服するための心強い味方が出来る筈で……。
と、私はまたなんてバカな事を考えているのでしょう。人目を避けるためにこんな時間に一人きりでここまできたのに、そんな事をしてしまったら全く意味がないじゃないですか。
そもそも、私一人でこの夜の階段を降りる勇気は逆立ちしたって出てきません。階段のその先にジェシカ嬢が待ってくれているとするならーーーー無理ですね、やはり。
恐怖には打ち勝てません。
だとすると、どうしましょう……。行く事も、戻る事も出来ません。できる事があるとするなら、このまま動かずにじっとしている事ぐらい。
それくらいの事しか私には出来ません。
隙間風が吹いてまたしても窓ガラスが小刻みに震える音が響きます。
風が少し強いのか屋敷のとなりにある木々の葉が騒めき、枝が弾ける音が聞こえてきました。
「……ひっ……ひっ……」
「ーーーーっ⁉︎」
その時、私は間違いなくこの耳で聞きました。
どこからともなく聞こえてくる、女性の微かなすすり泣く声をーーーー。
その事で私の思考は一気に白に染まり、時間が停止したような錯覚にとらわれます。
前にも進めず、後ろにも戻れず、この場に居続ける事も困難なようです。
まさに八方塞がり、逃げ場なしです。
未だ微かに聞こえてくる謎の女性のすすり泣く声に、視界が歪み意識がふっつりと途絶えてしまいそうになっていると、
「お嬢……様……」
と、私のすぐ隣から謎の女性の声が聞こえてきました。
瞬間、心臓が跳ねるように激しく脈を打ち始め私の意識はふっつりと途絶えました。
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