48 / 125
3章 同性愛と崩壊する心
5 欲望の幻
しおりを挟む
「ーーーーっ⁉︎」
重ねられる唇、初めて感じるアンナの柔らかい熱。
私の両腕を掴むアンナの手にさらに力が加わり肌がひりつきます。
「……んっ……んむっ……」
初めての体験を前に私は対処法が分からず、ただその場に立ち尽くします。
立ち尽くしている中、せめてもの抵抗というか私もアンナの両腕を握り返します。
今まで誰とも経験のない事、そして経験のない距離感。
いつも羨ましく思っていたアンナの愛らしい顔がすぐ目の前に迫り、その輪郭がぼやけています。
甘い、いい香りが私の鼻孔を駆け抜けアンナの息遣いが私の頬をくすぐります。
私の身体は極度の緊張感から固まってしまい、先ほどから全くいうことを聞いてはくれません。
なので、近すぎるほどに目の前に迫ったアンナの顔をぼんやりと眺めていると、不思議な事にジェシカ嬢の顔がちらつきはじめました。
この国一番と称される美貌の持ち主で、全女性の憧れの的で、全男性の最終目的とも比喩される知らぬ人などいるはずもない超有名人、アヴァドニア公爵令嬢ジェシカ・ユリアン嬢。
外見、内面共に人並み外れた器の持ち主で、誰にも分け隔てなく接するその振る舞いから聖母との呼び声も高い人物。
いえ……人物、人間でさえないと囁かれる事もしばしば。この世界を創った女神の生まれ変わりとか、人類を導く聖母の生まれ変わりだとか噂は様々で、私がお母様の次に尊敬し憧れ手本とする人物ジェシカ・ユリアン嬢。
ジェシカ・ユリアン。名前を口にするだけでうっとりとしてしまいます。
そんな、本来なら雲の上の存在であるジェシカ嬢を私が恐れ多くも馴れ馴れしく、ジェシカ嬢と呼ぶようになったのは今からほんの数時間前の事なんですよね。
もはや神様とか聖母様のように思っていたジェシカ嬢が突然、高貴な威厳を放ちながら目の前に現れて私の隣に座ったかと思えば、可憐な口にクッキーをいっぱい頬張ってケラケラと笑う。そして、私なんかの事を知ってくれていた時点で驚きなのに、さらに私の口元にクッキーを差し出してくれた。今考えれば明らかにおかしい状況です。驚きと幸せのあまりショック死せずに済んだのが奇跡です。
そんなジェシカ嬢の初めて見る人間らしさに、私は強く心を打たれました。
私と同じ人間なんだって、一人の普通な女の子なんだって、嬉しいって思ったんです。
あれからずっと、私の心の中にはジェシカ嬢がいてどんなに辛い事があっても何とか耐える事が出来ました。
心の中でジェシカ嬢がずっと微笑んでくれていたから、強くも優しい光で照らしてくれていたから、私の心は壊れずに済んだ。
ジェシカ嬢の人間らしい一面を見たあの時からずっと胸が高鳴って、ジェシカ嬢の事ばかり考えてしまう。お茶会の最中なんて何度横目で盗み見たことか分かりません。ジェシカ嬢が私以外の人と話しているのを見ると急に不安になって、なんだかイライラしてしまって、なんとかこちらを振り向かせようと必死になって、それでだんだん胸が苦しくなって……自分自身が狂っていくのがはっきりと実感出来たんです。
ジェシカ嬢が欲しくて欲しくて仕方なかった。
抱きしめて離したくなかった。
私の存在なんて溶けて無くなって、ジェシカ嬢のほんの一部にでもなれるのならそれで良いと強く思ってしまった。
「…………」
やっぱり私、変になってしまったみたいですね。
だって、今の私の心境をそのまま言葉にするのならひとつしか当てはまらないんです。
そう、私はジェシカ嬢にーーーー恋をしてしまった。
アシュトレイ様にも向けた事のない強い感情を胸に抱いてしまったんですから。
重ねられる唇、初めて感じるアンナの柔らかい熱。
私の両腕を掴むアンナの手にさらに力が加わり肌がひりつきます。
「……んっ……んむっ……」
初めての体験を前に私は対処法が分からず、ただその場に立ち尽くします。
立ち尽くしている中、せめてもの抵抗というか私もアンナの両腕を握り返します。
今まで誰とも経験のない事、そして経験のない距離感。
いつも羨ましく思っていたアンナの愛らしい顔がすぐ目の前に迫り、その輪郭がぼやけています。
甘い、いい香りが私の鼻孔を駆け抜けアンナの息遣いが私の頬をくすぐります。
私の身体は極度の緊張感から固まってしまい、先ほどから全くいうことを聞いてはくれません。
なので、近すぎるほどに目の前に迫ったアンナの顔をぼんやりと眺めていると、不思議な事にジェシカ嬢の顔がちらつきはじめました。
この国一番と称される美貌の持ち主で、全女性の憧れの的で、全男性の最終目的とも比喩される知らぬ人などいるはずもない超有名人、アヴァドニア公爵令嬢ジェシカ・ユリアン嬢。
外見、内面共に人並み外れた器の持ち主で、誰にも分け隔てなく接するその振る舞いから聖母との呼び声も高い人物。
いえ……人物、人間でさえないと囁かれる事もしばしば。この世界を創った女神の生まれ変わりとか、人類を導く聖母の生まれ変わりだとか噂は様々で、私がお母様の次に尊敬し憧れ手本とする人物ジェシカ・ユリアン嬢。
ジェシカ・ユリアン。名前を口にするだけでうっとりとしてしまいます。
そんな、本来なら雲の上の存在であるジェシカ嬢を私が恐れ多くも馴れ馴れしく、ジェシカ嬢と呼ぶようになったのは今からほんの数時間前の事なんですよね。
もはや神様とか聖母様のように思っていたジェシカ嬢が突然、高貴な威厳を放ちながら目の前に現れて私の隣に座ったかと思えば、可憐な口にクッキーをいっぱい頬張ってケラケラと笑う。そして、私なんかの事を知ってくれていた時点で驚きなのに、さらに私の口元にクッキーを差し出してくれた。今考えれば明らかにおかしい状況です。驚きと幸せのあまりショック死せずに済んだのが奇跡です。
そんなジェシカ嬢の初めて見る人間らしさに、私は強く心を打たれました。
私と同じ人間なんだって、一人の普通な女の子なんだって、嬉しいって思ったんです。
あれからずっと、私の心の中にはジェシカ嬢がいてどんなに辛い事があっても何とか耐える事が出来ました。
心の中でジェシカ嬢がずっと微笑んでくれていたから、強くも優しい光で照らしてくれていたから、私の心は壊れずに済んだ。
ジェシカ嬢の人間らしい一面を見たあの時からずっと胸が高鳴って、ジェシカ嬢の事ばかり考えてしまう。お茶会の最中なんて何度横目で盗み見たことか分かりません。ジェシカ嬢が私以外の人と話しているのを見ると急に不安になって、なんだかイライラしてしまって、なんとかこちらを振り向かせようと必死になって、それでだんだん胸が苦しくなって……自分自身が狂っていくのがはっきりと実感出来たんです。
ジェシカ嬢が欲しくて欲しくて仕方なかった。
抱きしめて離したくなかった。
私の存在なんて溶けて無くなって、ジェシカ嬢のほんの一部にでもなれるのならそれで良いと強く思ってしまった。
「…………」
やっぱり私、変になってしまったみたいですね。
だって、今の私の心境をそのまま言葉にするのならひとつしか当てはまらないんです。
そう、私はジェシカ嬢にーーーー恋をしてしまった。
アシュトレイ様にも向けた事のない強い感情を胸に抱いてしまったんですから。
0
お気に入りに追加
132
あなたにおすすめの小説

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい
宇水涼麻
恋愛
ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。
「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」
呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。
王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。
その意味することとは?
慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?
なぜこのような状況になったのだろうか?
ご指摘いただき一部変更いたしました。
みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。
今後ともよろしくお願いします。
たくさんのお気に入り嬉しいです!
大変励みになります。
ありがとうございます。
おかげさまで160万pt達成!
↓これよりネタバレあらすじ
第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。
親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。
ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。
玖保ひかる
恋愛
[完結]
北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。
ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。
アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。
森に捨てられてしまったのだ。
南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。
苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。
※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。
※完結しました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

成り上がり令嬢暴走日記!
笹乃笹世
恋愛
異世界転生キタコレー!
と、テンションアゲアゲのリアーヌだったが、なんとその世界は乙女ゲームの舞台となった世界だった⁉︎
えっあの『ギフト』⁉︎
えっ物語のスタートは来年⁉︎
……ってことはつまり、攻略対象たちと同じ学園ライフを送れる……⁉︎
これも全て、ある日突然、貴族になってくれた両親のおかげねっ!
ーー……でもあのゲームに『リアーヌ・ボスハウト』なんてキャラが出てた記憶ないから……きっとキャラデザも無いようなモブ令嬢なんだろうな……
これは、ある日突然、貴族の仲間入りを果たしてしまった元日本人が、大好きなゲームの世界で元日本人かつ庶民ムーブをぶちかまし、知らず知らずのうちに周りの人間も巻き込んで騒動を起こしていく物語であるーー
果たしてリアーヌはこの世界で幸せになれるのか?
周りの人間たちは無事でいられるのかーー⁉︎
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる