婚約破棄された男爵令嬢〜盤面のラブゲーム

清水花

文字の大きさ
上 下
42 / 125
2章 お茶会

33 終わる本当のお茶会

しおりを挟む
「……ひっ……ひぐっ……」

 こんなに泣いたのはいつぶりでしょう……。今まで色々な事があってすごく大変な思いをしてきましたが、こんなにも泣いたのはそうありません。

 そうですね……。八年前、お母様がお亡くなりになった、あの時以来でしょうか?

 当時の私はまだ七歳でしたし、お父様が何故あんなにも泣いているのか? お母様は何故いつまで経ってもベッドから起きてこないのか? 何故、使用人の皆さんが珍しくお母様の寝室にお集まりになっているのか? その全てが全く理解出来ずにいました。

 そんな私は部屋全体を包むいつもと違う雰囲気を子供ながらに感じ戸惑いながらも、お母様と遊びたくってベッドに駆け寄りお母様の手を握ったんです。しかし、その時に衝撃を受けました。

 あんなにも温かくて柔らかかったお母様の手が信じられないほど、冷たくなってしまっていたのです。

 それはまるでお母様の姿形をした全くの別のものであるかのように、異質なものでした。

 その事で私は大泣きしてしまいました。

 悲しかった訳ではありません。

 ただ、怖くて不安だったんだと思います。

 私のお母様が今までとは違う別の何かになってしまったんだって……、もう会えないんだって……、だからお父様も皆さんもあんなに悲しそうなんだって……、そんな風に感覚的に思ってしまったんです。

 あの時以来、ですかね……。

「ーーーーさて、アレンビー嬢、ルークレツィア嬢。お茶会をお開きにしますわよ! 二人とも集まって!」

 ベアトリック様のお声掛けに御二方はすぐにこちらへと歩み寄り、四人で小さな輪になります。

 それは、奇しくもお茶会開始時の光景にそっくりなものでした。ただ一人、ジェシカ様の姿はありませんが。

 ベアトリック様は私達三人の顔を順番に見つめると、こくりと一度うなずき、口を開きます。

「では、これにて本日のお茶会は終了とします。皆さん、よろしいですね?」

「「「…………」」」

 アレンビー様とルークレツィア様は無言のまま、こくりとうなずきました。

 やっとーーーーやっと、終わった。

 痛みと恐怖が渦巻く本当のお茶会が……。

 やっと、お家に帰る事が出来る。

 私は内心、ホッと胸を撫で下ろす思いでした。

 ですが、

「ーーーーそれで、ローレライ嬢? その姿はいったいどうしたのですか?」

 と、ベアトリック様から想像だにしない質問を投げかけられました。

 その姿とは、今の私の身なりの事でしょう。

 どうしたの? とは、私の今の姿がどうしてそうなったのか、という事でしょうか?

 つまり。

 いつ、どこで、誰が、何をして、どうなったから、そうなったのかーーーーその理由を聞いているのでしょうか?

 それはつまり、

 私の身体が傷だらけの理由。

 私の心が傷だらけの理由。

 お母様のドレスが傷だらけの理由。

 まさか、それらについて質問しているのでしょうか。私はまたしても状況がよく理解出来ません。

 というか、状況なんて本当のお茶会が始まってからずっと理解出来ていません。

 いえ。それを言うならお茶会開催のお手紙を頂いた時点から、状況なんてまるっきり分からないままです。

 でも、ベアトリック様はいったい何が聞きたいのでしょう? 今日、ここであった事は全部その目ではっきりと見ている筈なのに。どころか、主犯ーーーーいいえ。もしかして、何かの理由で少し変になってしまっていたのが今やっといつもの状態に戻って、でも記憶が曖昧になっていて……みたいな事でしょうか。

 なのであればベアトリック様には真実をお伝えしなくては……とてもお伝えしづらい事ではありますが……。

 私は最後の勇気をふりしぼって言いました。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。

玖保ひかる
恋愛
[完結] 北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。 ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。 アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。 森に捨てられてしまったのだ。 南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。 苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。 ※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。 ※完結しました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

処理中です...