40 / 125
2章 お茶会
31 引き裂かれた、
しおりを挟む
「分かってもらえた? ローレライ? あなたの貴族としての価値観のズレ。あなたは平民同然の貴族なのだけれど、それでもやはり貴族は貴族なのよ。なのであれば、それ相応の振る舞いをしないと他の貴族もあなたのように見られてしまう、貴族としての誇りが失われてしまうわ。とても由々しき事でしょう?」
「そうよ、そうよ。私達まであなたみたいに見られてしまっては、正直かなわないわ。それとも何? 私の身長が貴族らしくないとでも言いたい訳⁉︎ 平民の子供にしか見えないとか思ってる訳⁉︎」
「落ち着いてアレンビー嬢、そう興奮しないで。でも、そうですね。ベアトリック嬢やアレンビー嬢が言うように、そこはちゃんと一線引いておいた方がよろしいでしょうね。平民ごときに寝首をかかれる訳にもいきませんし」
「そうよね。あっ! それかあなた、お父様にお願いして男爵の爵位を返上してもらうって手もあるんじゃない? 返上してしまえばあなたはもう貴族ではないのだから、虫ケラと何してようとあなたの勝手よね? あっははは! それいい、それがいいわ! 返上なさいよ! 男爵の爵位!」
「ふむ。その手がありましたか……。確かにそうした方が、あなたの為にもなるかもしれませんね。ねぇ? ローレライ?」
「平民落ちのローレライちゃん……なんだか可愛い響きじゃない!」
「それは……」
「なに? 踏ん切りがつかないの? やはり貴族の方がいいのかしら? 私が直々に背中を押してあげてもいいのだけれど……さて、どうしたものかしらね……」
ベアトリック様は右手を顎に当てて私をしばらくの間見つめてやがて、
「ん? 今、気付いたのだけれどローレライ、貴方……いつも同じドレスを着ていない?」
「そう? 私の記憶が確かなら、先日アヴァドニア公爵邸で行われた茶会の時には別のドレスだったような……」
「そうですね。先日は確かに違っていました。けれど、その前は今日と同じドレスでしたわね」
「という事は……二着を交互に着回していると? そうなの? ローレライ?」
「は、はい……」
「はぁ……本当にあなたって不憫ね。そこまで無理して貴族でい続ける理由って何よ……。ドレスのデザインも何だか古臭いし……あっ! そうだわ! いい事を考えたわ! あなた達、ちょっと……」
ベアトリック様はアレンビー様とルークレツィア様になにやら耳打ちしています。耳打ちされた御二方は、次第に悪い笑みを浮かべて私の側まで歩み寄ると私の両腕を抱えてその場に立つよう指示しました。
「っ痛!」
さっき暴行を受けた箇所が鈍く痛みます。
御二方に支えられて何とか立ち上がった私は、支えが無いとその場に立つ事すらままならない状況でした。
私の視線の先、テーブルについたベアトリック様は扇子で口元を隠し、じっとこちらを見ています。目尻がわずかに下がっているので、扇子の向こうでは笑っているのでしょう。
そして、ベアトリック様が小さくコクンッと頷くと信じ難い事が起こりました。
私の両腕を抱えていたアレンビー様とルークレツィア様が私のドレスの両方の袖を思い切り引っ張ったのです。
「ーーーーあっ!」
もともと繊細なシルク素材で作られた薄手のドレスだったので袖部はいとも簡単に破れてしまい、今は私の手首の辺りからだらりと垂れ下がっています。
「あっははは! 良いわ、良いわ! 新しいドレスの完成よっ! あっははははは!」
「ごめんね、ローレライ。少し痛かったでしょう?」
「ハサミがあれば良かったんですけれど、ちょうど今、手元になかったものだから……でも、上手くいったようで安心しました」
散々足蹴にされ続けドレスも泥だらけにされた事で、もう全てどうでもいいと思っていた筈なのに、私の目からは反射的に大粒の涙が零れ落ちてきました。
それほど強いショックを受けました。
「なっ……なんで……こんな、こんな……酷い……事……」
「あっはは! だからずっと言っているじゃない……あなたが貴族の誇りを傷付けた罰だって」
「自業自得でしょ? それなのに何故泣いているの? まさか泣く事でか弱い可愛い女の子アピールしてるんじゃないでしょうね⁉︎ そこまでして私より目立ちたいの⁉︎ 本当に油断も隙もあったもんじゃない!」
「泣いても仕方がないじゃない。まさかあなた……こんな辛い目にあっている自分の事を可哀想だとか思っているんじゃない? 力のある私達から好き放題に散々罵られて可哀想だって、私こんなに頑張ってるのにって、そう思ってしまっているんじゃない? 悲劇のヒロイン気取りはやめなさいよ」
私は破れたドレスの袖をぎゅっと握りしめて、ただただ泣く事しか出来ませんでした。
「そうよ、そうよ。私達まであなたみたいに見られてしまっては、正直かなわないわ。それとも何? 私の身長が貴族らしくないとでも言いたい訳⁉︎ 平民の子供にしか見えないとか思ってる訳⁉︎」
「落ち着いてアレンビー嬢、そう興奮しないで。でも、そうですね。ベアトリック嬢やアレンビー嬢が言うように、そこはちゃんと一線引いておいた方がよろしいでしょうね。平民ごときに寝首をかかれる訳にもいきませんし」
「そうよね。あっ! それかあなた、お父様にお願いして男爵の爵位を返上してもらうって手もあるんじゃない? 返上してしまえばあなたはもう貴族ではないのだから、虫ケラと何してようとあなたの勝手よね? あっははは! それいい、それがいいわ! 返上なさいよ! 男爵の爵位!」
「ふむ。その手がありましたか……。確かにそうした方が、あなたの為にもなるかもしれませんね。ねぇ? ローレライ?」
「平民落ちのローレライちゃん……なんだか可愛い響きじゃない!」
「それは……」
「なに? 踏ん切りがつかないの? やはり貴族の方がいいのかしら? 私が直々に背中を押してあげてもいいのだけれど……さて、どうしたものかしらね……」
ベアトリック様は右手を顎に当てて私をしばらくの間見つめてやがて、
「ん? 今、気付いたのだけれどローレライ、貴方……いつも同じドレスを着ていない?」
「そう? 私の記憶が確かなら、先日アヴァドニア公爵邸で行われた茶会の時には別のドレスだったような……」
「そうですね。先日は確かに違っていました。けれど、その前は今日と同じドレスでしたわね」
「という事は……二着を交互に着回していると? そうなの? ローレライ?」
「は、はい……」
「はぁ……本当にあなたって不憫ね。そこまで無理して貴族でい続ける理由って何よ……。ドレスのデザインも何だか古臭いし……あっ! そうだわ! いい事を考えたわ! あなた達、ちょっと……」
ベアトリック様はアレンビー様とルークレツィア様になにやら耳打ちしています。耳打ちされた御二方は、次第に悪い笑みを浮かべて私の側まで歩み寄ると私の両腕を抱えてその場に立つよう指示しました。
「っ痛!」
さっき暴行を受けた箇所が鈍く痛みます。
御二方に支えられて何とか立ち上がった私は、支えが無いとその場に立つ事すらままならない状況でした。
私の視線の先、テーブルについたベアトリック様は扇子で口元を隠し、じっとこちらを見ています。目尻がわずかに下がっているので、扇子の向こうでは笑っているのでしょう。
そして、ベアトリック様が小さくコクンッと頷くと信じ難い事が起こりました。
私の両腕を抱えていたアレンビー様とルークレツィア様が私のドレスの両方の袖を思い切り引っ張ったのです。
「ーーーーあっ!」
もともと繊細なシルク素材で作られた薄手のドレスだったので袖部はいとも簡単に破れてしまい、今は私の手首の辺りからだらりと垂れ下がっています。
「あっははは! 良いわ、良いわ! 新しいドレスの完成よっ! あっははははは!」
「ごめんね、ローレライ。少し痛かったでしょう?」
「ハサミがあれば良かったんですけれど、ちょうど今、手元になかったものだから……でも、上手くいったようで安心しました」
散々足蹴にされ続けドレスも泥だらけにされた事で、もう全てどうでもいいと思っていた筈なのに、私の目からは反射的に大粒の涙が零れ落ちてきました。
それほど強いショックを受けました。
「なっ……なんで……こんな、こんな……酷い……事……」
「あっはは! だからずっと言っているじゃない……あなたが貴族の誇りを傷付けた罰だって」
「自業自得でしょ? それなのに何故泣いているの? まさか泣く事でか弱い可愛い女の子アピールしてるんじゃないでしょうね⁉︎ そこまでして私より目立ちたいの⁉︎ 本当に油断も隙もあったもんじゃない!」
「泣いても仕方がないじゃない。まさかあなた……こんな辛い目にあっている自分の事を可哀想だとか思っているんじゃない? 力のある私達から好き放題に散々罵られて可哀想だって、私こんなに頑張ってるのにって、そう思ってしまっているんじゃない? 悲劇のヒロイン気取りはやめなさいよ」
私は破れたドレスの袖をぎゅっと握りしめて、ただただ泣く事しか出来ませんでした。
0
お気に入りに追加
132
あなたにおすすめの小説
お姉様のお下がりはもう結構です。
ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
侯爵令嬢であるシャーロットには、双子の姉がいた。
慎ましやかなシャーロットとは違い、姉のアンジェリカは気に入ったモノは手に入れないと気が済まない強欲な性格の持ち主。気に入った男は家に囲い込み、毎日のように遊び呆けていた。
「王子と婚約したし、飼っていた男たちはもう要らないわ。だからシャーロットに譲ってあげる」
ある日シャーロットは、姉が屋敷で囲っていた四人の男たちを預かることになってしまう。
幼い頃から姉のお下がりをばかり受け取っていたシャーロットも、今回ばかりは怒りをあらわにする。
「お姉様、これはあんまりです!」
「これからわたくしは殿下の妻になるのよ? お古相手に構ってなんかいられないわよ」
ただでさえ今の侯爵家は経営難で家計は火の車。当主である父は姉を溺愛していて話を聞かず、シャーロットの味方になってくれる人間はいない。
しかも譲られた男たちの中にはシャーロットが一目惚れした人物もいて……。
「お前には従うが、心まで許すつもりはない」
しかしその人物であるリオンは家族を人質に取られ、侯爵家の一員であるシャーロットに激しい嫌悪感を示す。
だが姉とは正反対に真面目な彼女の生き方を見て、リオンの態度は次第に軟化していき……?
表紙:ノーコピーライトガール様より
拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様
オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
欠陥姫の嫁入り~花嫁候補と言う名の人質だけど結構楽しく暮らしています~
バナナマヨネーズ
恋愛
メローズ王国の姫として生まれたミリアリアだったが、国王がメイドに手を出した末に誕生したこともあり、冷遇されて育った。そんなある時、テンペランス帝国から花嫁候補として王家の娘を差し出すように要求されたのだ。弱小国家であるメローズ王国が、大陸一の国力を持つテンペランス帝国に逆らえる訳もなく、国王は娘を差し出すことを決めた。
しかし、テンペランス帝国の皇帝は、銀狼と恐れられる存在だった。そんな恐ろしい男の元に可愛い娘を差し出すことに抵抗があったメローズ王国は、何かあったときの予備として手元に置いていたミリアリアを差し出すことにしたのだ。
ミリアリアは、テンペランス帝国で花嫁候補の一人として暮らすことに中、一人の騎士と出会うのだった。
これは、残酷な運命に翻弄されるミリアリアが幸せを掴むまでの物語。
本編74話
番外編15話 ※番外編は、『ジークフリートとシューニャ』以外ノリと思い付きで書いているところがあるので時系列がバラバラになっています。
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる