38 / 125
2章 お茶会
29 価値観
しおりを挟む
それからどれだけの時間が経ったのか定かではありませんが、しばらくの間、足蹴にされ続けどうにか上体を起こす事が許された私は地面に力無く座り込んでいます。
私が見つめる視線の先にはテーブルについて紅茶を含み、せせら笑っている御三方の姿があります。
「…………」
私はただ無言でその様子をぼんやりと眺めています。あくまで感覚的な話なのですが、御三方をぼんやりと眺めている私を少し離れたところから別の私が眺めている、と言った具合でしょうか。
よく分からないですよね。こんな感覚。
どこか別の所を眺めていても構わないのですが、たまたますぐ目の前に知人の方三人がいらっしゃるので、それで……。
あとは、そうですね。視線を動かすのも面倒で、もうどうだっていいと言うかなんというか……。
抵抗する事も許されず、ただ玩具のように雑に扱われるだけなのですから。
「そう、そう。ローレライ、思い出したわ。こっちへいらっしゃい」
ベアトリック様に手招きされ、私は身体中に走る痛みに耐えてゆっくりと立ち上がりベアトリック様の元へと歩み寄ります。
「何でしょう……ベアトリック様」
「ええ。あなた、なぜこの様な酷い仕打ちを受けたのか、ちゃんと理解している?」
「理解……」
頭に浮かんだそんな言葉はゆっくりと私の頭の中でぐるぐると回転します。
理解、理解、理解。現在の状況の理由。私が受けた仕打ちの理由。
「それは……この薔薇園に足を踏み入れて……」
そう、言われた。ベアトリック様ご本人から、そう。
でも、そういう理由だとしても分からない。納得が出来ない。
だって、今日ここに私を呼んだのはベアトリック様ご自身なのに。ご自身で呼んでおいて、来てはダメだったと、立ち入ってはいけないと、そう言われた。
そんな事、矛盾していて理解出来る筈がない。
「そうね。それは確かにそう。でもね……本当は違う。本当の理由はあなたの価値観が原因なの」
「価値観……」
「ええ。そうよ。ローレライ」
ベアトリック様のおっしゃった価値観という言葉が、私の中でふわふわと漂い行き場を無くしています。価値観とは何でしょう? それが原因でこんな仕打ちを? 私の価値観?
「よく分からない、といった風ね。じゃあ特別に説明してあげるわ。あなた、先程から貧乏貴族や弱小貴族、崖っぷち貴族にお情け貴族と言われているわね?」
「はい……」
「それらにはどれも共通点があるじゃない?」
私は頭の中で繰り返しそれらの言葉を呟き、ひとつの言葉に気付きました。
「貴族……」
「そう、そうよ、ローレライ! 正解よ! あなたは貴族なのよ! あなたは決して平民などではない、れっきとした貴族なのよ!」
興奮したご様子のベアトリック様は声を大にしてそう言うと、どんなに端くれでもね……と最後に付け加えました。
「なのにあなた……ちゃんと貴族として振舞えていないじゃない?」
「そっ、それは……」
それはどうなんでしょう? 私は自身がポーンドット男爵の娘であると、どんなに端くれでも貴族であると認識しています。それに得意ではないですがお勉強もちゃんとしていますし、ルールやマナーを守って貴族として恥ずかしくないよう誠実に生きていると思いますが、そう思っているのは私だけで他の方々はそうは思ってくれていないと言う事なのでしょうか?
全部私の思い込みや勘違いであって、最低限の貴族たるレベルに達する事が出来ていないと。
そう考え答えを出した私でしたが、ベアトリック様のお考えは少し違っていたようでした。
「貴方……昨日、お庭で何をしていたの?」
「え……?」
昨日、お庭。そんな言葉から連想されるものは私の中にはひとつしかありませんでした。
「アップルパイ、パーティー……」
「そう……。アップルパイパーティーをしていたの。なんだかとても楽しそうだったわね」
ベアトリック様はとても不機嫌そうにそう呟きます。そして、
「誰と、パーティーをしていたの?」
「それは……うちの使用人や領民の方々と……」
「それよ! 平民と同じテーブルを囲むなんて汚ならしい! いったい何を考えているの⁉︎ 信じられない!」
ベアトリック様は今日一番の興奮状態で身体を激しく震わせ言います。
私が見つめる視線の先にはテーブルについて紅茶を含み、せせら笑っている御三方の姿があります。
「…………」
私はただ無言でその様子をぼんやりと眺めています。あくまで感覚的な話なのですが、御三方をぼんやりと眺めている私を少し離れたところから別の私が眺めている、と言った具合でしょうか。
よく分からないですよね。こんな感覚。
どこか別の所を眺めていても構わないのですが、たまたますぐ目の前に知人の方三人がいらっしゃるので、それで……。
あとは、そうですね。視線を動かすのも面倒で、もうどうだっていいと言うかなんというか……。
抵抗する事も許されず、ただ玩具のように雑に扱われるだけなのですから。
「そう、そう。ローレライ、思い出したわ。こっちへいらっしゃい」
ベアトリック様に手招きされ、私は身体中に走る痛みに耐えてゆっくりと立ち上がりベアトリック様の元へと歩み寄ります。
「何でしょう……ベアトリック様」
「ええ。あなた、なぜこの様な酷い仕打ちを受けたのか、ちゃんと理解している?」
「理解……」
頭に浮かんだそんな言葉はゆっくりと私の頭の中でぐるぐると回転します。
理解、理解、理解。現在の状況の理由。私が受けた仕打ちの理由。
「それは……この薔薇園に足を踏み入れて……」
そう、言われた。ベアトリック様ご本人から、そう。
でも、そういう理由だとしても分からない。納得が出来ない。
だって、今日ここに私を呼んだのはベアトリック様ご自身なのに。ご自身で呼んでおいて、来てはダメだったと、立ち入ってはいけないと、そう言われた。
そんな事、矛盾していて理解出来る筈がない。
「そうね。それは確かにそう。でもね……本当は違う。本当の理由はあなたの価値観が原因なの」
「価値観……」
「ええ。そうよ。ローレライ」
ベアトリック様のおっしゃった価値観という言葉が、私の中でふわふわと漂い行き場を無くしています。価値観とは何でしょう? それが原因でこんな仕打ちを? 私の価値観?
「よく分からない、といった風ね。じゃあ特別に説明してあげるわ。あなた、先程から貧乏貴族や弱小貴族、崖っぷち貴族にお情け貴族と言われているわね?」
「はい……」
「それらにはどれも共通点があるじゃない?」
私は頭の中で繰り返しそれらの言葉を呟き、ひとつの言葉に気付きました。
「貴族……」
「そう、そうよ、ローレライ! 正解よ! あなたは貴族なのよ! あなたは決して平民などではない、れっきとした貴族なのよ!」
興奮したご様子のベアトリック様は声を大にしてそう言うと、どんなに端くれでもね……と最後に付け加えました。
「なのにあなた……ちゃんと貴族として振舞えていないじゃない?」
「そっ、それは……」
それはどうなんでしょう? 私は自身がポーンドット男爵の娘であると、どんなに端くれでも貴族であると認識しています。それに得意ではないですがお勉強もちゃんとしていますし、ルールやマナーを守って貴族として恥ずかしくないよう誠実に生きていると思いますが、そう思っているのは私だけで他の方々はそうは思ってくれていないと言う事なのでしょうか?
全部私の思い込みや勘違いであって、最低限の貴族たるレベルに達する事が出来ていないと。
そう考え答えを出した私でしたが、ベアトリック様のお考えは少し違っていたようでした。
「貴方……昨日、お庭で何をしていたの?」
「え……?」
昨日、お庭。そんな言葉から連想されるものは私の中にはひとつしかありませんでした。
「アップルパイ、パーティー……」
「そう……。アップルパイパーティーをしていたの。なんだかとても楽しそうだったわね」
ベアトリック様はとても不機嫌そうにそう呟きます。そして、
「誰と、パーティーをしていたの?」
「それは……うちの使用人や領民の方々と……」
「それよ! 平民と同じテーブルを囲むなんて汚ならしい! いったい何を考えているの⁉︎ 信じられない!」
ベアトリック様は今日一番の興奮状態で身体を激しく震わせ言います。
0
お気に入りに追加
132
あなたにおすすめの小説

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい
宇水涼麻
恋愛
ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。
「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」
呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。
王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。
その意味することとは?
慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?
なぜこのような状況になったのだろうか?
ご指摘いただき一部変更いたしました。
みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。
今後ともよろしくお願いします。
たくさんのお気に入り嬉しいです!
大変励みになります。
ありがとうございます。
おかげさまで160万pt達成!
↓これよりネタバレあらすじ
第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。
親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。
ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。
森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。
玖保ひかる
恋愛
[完結]
北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。
ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。
アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。
森に捨てられてしまったのだ。
南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。
苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。
※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。
※完結しました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

成り上がり令嬢暴走日記!
笹乃笹世
恋愛
異世界転生キタコレー!
と、テンションアゲアゲのリアーヌだったが、なんとその世界は乙女ゲームの舞台となった世界だった⁉︎
えっあの『ギフト』⁉︎
えっ物語のスタートは来年⁉︎
……ってことはつまり、攻略対象たちと同じ学園ライフを送れる……⁉︎
これも全て、ある日突然、貴族になってくれた両親のおかげねっ!
ーー……でもあのゲームに『リアーヌ・ボスハウト』なんてキャラが出てた記憶ないから……きっとキャラデザも無いようなモブ令嬢なんだろうな……
これは、ある日突然、貴族の仲間入りを果たしてしまった元日本人が、大好きなゲームの世界で元日本人かつ庶民ムーブをぶちかまし、知らず知らずのうちに周りの人間も巻き込んで騒動を起こしていく物語であるーー
果たしてリアーヌはこの世界で幸せになれるのか?
周りの人間たちは無事でいられるのかーー⁉︎

婚約破棄された伯爵令嬢は錬金術師となり、ポーションを売って大金持ちになります〜今更よりを戻してくれと土下座したところでもう遅い〜
平山和人
恋愛
伯爵令嬢のフィーナは婚約者のラインハルトから真実の愛に目覚めたと婚約破棄される。そして、フィーナは家を出て王都からも追放される。
行く宛もなく途方に暮れていたところを錬金術師の女性に出会う。フィーナは事情を話し、自分の職業適性を調べてもらうとなんと魔法の才能があると判明する。
その才能を活かすため、錬金術師となりポーションを売ることに。次第にポーションが評判を呼んでいくと大金持ちになるのであった。
一方、ラインハルトはフィーナを婚約破棄したことで没落の道を歩んでいくことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる