36 / 125
2章 お茶会
27 汚れたドレス
しおりを挟む
「貧乏男爵の娘風情がこの神聖な薔薇園にいるのが気にくわないって、言っているのよ」
「ーーーーっ⁉︎」
ベアトリック様の言葉に私の身体は完全に石のように固まってしまい動く事はおろか、喋る事も出来ませんでした。
そんな私の耳元でアレンビー様が囁くように言います。
「そうね……。ニルヴァーナ公爵家に代々受け継がれ純愛の証とも言われる真っ赤な薔薇の花が咲き乱れる薔薇園。ここはこの公爵家の人達の完全なプライベート空間。ここで行われるプライベートなお茶会は本来、公爵家と所縁のある高位な貴族しか参加する事は許されない。だから身分の低い貴族達は、ここで開かれるプライベートなお茶会に参加するのを夢に見ている。参加し、同じテーブルにつく事がステータスとなるから、ね?」
「そんなお茶会に今日の主役とはいえ、男爵風情の娘が厚かましくも参加しているのはどう考えても業腹だわ。主役じゃなければ張り倒しているわね、きっと。いえ……主役だからーーーー」
ルークレツィア様は私の耳元でそう呟き、そのお言葉を途中で濁しました。
「分かっている。分かっているのよ、ローレライ? だって今日ここにあなたを呼んだのは私自身なのだから。ね? そうでしょう、ローレライ? 私が呼んだから来てくれたのよね?」
「は、はい……」
「うふっ。嬉しいわ、ありがとう。でもね、下層階級の貴方がここにいちゃダメじゃない? 呼ばれてちゃんと来たのは偉いけれど、ここにいちゃあいけないじゃない?」
「はい……」
「それじゃあ、どうするの?」
「い、今すぐ……失礼します」
「ーーーーダメじゃない。貴方は今日の主役なのだから。主役が帰ってはパーティーが出来ないじゃない」
「そうよ」
「何のために今まで我慢したと思っているのですか」
掴まれたままの両の腕がお二人によって、ぎゅっと力強く握られます。
「っ痛! では……私は、私はいったいどうすれば……」
「そうねぇ……どうすればいいと思う? 貴方達、何かいい考えはないかしら?」
「そうねぇ……。色々とやってみたい事はたくさんあるんだけど、どれがいいかしらね?」
「どれが、と言うより。どれからやるか、と言う問題ではなくって? アレンビー嬢」
「そうね、それがいいわ。では、ローレライ。まずは貴方この薔薇園に足を踏み入れた事を謝罪しなさいよ」
「はい……。この度は私のような下層階級の人間があろう事か由緒正しいこの薔薇園に足を踏み入れてしまいーーーー」
「違う、違う。違うわ、ローレライ! そうじゃない。謝罪をする時は地に頭を付けてからやるものよ。えっと、どこだったかしら……遠い国の謝罪方法だって前に本で読んだ事があるのだけれど……」
「ずっと東の方にある島国の文化ですわね、確か……」
「そうそう! それそれ! それで謝罪してちょうだいよ。この薔薇園を造ったお祖父様もきっとその方がお喜びになるわ! お祖父様は今はもう土に還ってしまってるから、地面に額を擦り付けながらお祖父様のすぐ耳元で謝罪してあげてちょうだいよ!」
「…………」
「聞こえなかったの? ローレライ? ベアトリック嬢が、ニルヴァーナ公爵閣下がお待ちよ。早くやりなさいよ、これ以上待たせては不敬罪に問われるわよ」
「ーーーーああ、教養が足りていないからやり方が分からないのですね。まあ、下層階級の人間じゃあ仕方のない事です。一口に貴族と言っても男爵の爵位なんてあって無いようなものですし、少し金持ちの平民と同じですものね。じゃあ、そんな可哀想なローレライには特別に私が教えてあげますわーーーー」
そう言うと、ルークレツィア様は私の首を後ろから掴み、地面に向かって押え付けるようにしてきます。アレンビー様もすぐにそれに加わり私は堪える事が出来ず、地面に両膝を着きました。なおも首を押さえ付けられ地面が徐々に目の前に迫ってきます。そこでふと目に入ったのは私自身の膝の辺り、土が付着してすっかり汚れてしまったお母様の形見のドレスでした。
唯一の形見というわけではありませんがそれでも唯一身に付けられる、常に一緒にいられる大切な形見の品です。
今まで汚した事なんて一度もなかったのに、それなのに……。
「ーーーーっ⁉︎」
ベアトリック様の言葉に私の身体は完全に石のように固まってしまい動く事はおろか、喋る事も出来ませんでした。
そんな私の耳元でアレンビー様が囁くように言います。
「そうね……。ニルヴァーナ公爵家に代々受け継がれ純愛の証とも言われる真っ赤な薔薇の花が咲き乱れる薔薇園。ここはこの公爵家の人達の完全なプライベート空間。ここで行われるプライベートなお茶会は本来、公爵家と所縁のある高位な貴族しか参加する事は許されない。だから身分の低い貴族達は、ここで開かれるプライベートなお茶会に参加するのを夢に見ている。参加し、同じテーブルにつく事がステータスとなるから、ね?」
「そんなお茶会に今日の主役とはいえ、男爵風情の娘が厚かましくも参加しているのはどう考えても業腹だわ。主役じゃなければ張り倒しているわね、きっと。いえ……主役だからーーーー」
ルークレツィア様は私の耳元でそう呟き、そのお言葉を途中で濁しました。
「分かっている。分かっているのよ、ローレライ? だって今日ここにあなたを呼んだのは私自身なのだから。ね? そうでしょう、ローレライ? 私が呼んだから来てくれたのよね?」
「は、はい……」
「うふっ。嬉しいわ、ありがとう。でもね、下層階級の貴方がここにいちゃダメじゃない? 呼ばれてちゃんと来たのは偉いけれど、ここにいちゃあいけないじゃない?」
「はい……」
「それじゃあ、どうするの?」
「い、今すぐ……失礼します」
「ーーーーダメじゃない。貴方は今日の主役なのだから。主役が帰ってはパーティーが出来ないじゃない」
「そうよ」
「何のために今まで我慢したと思っているのですか」
掴まれたままの両の腕がお二人によって、ぎゅっと力強く握られます。
「っ痛! では……私は、私はいったいどうすれば……」
「そうねぇ……どうすればいいと思う? 貴方達、何かいい考えはないかしら?」
「そうねぇ……。色々とやってみたい事はたくさんあるんだけど、どれがいいかしらね?」
「どれが、と言うより。どれからやるか、と言う問題ではなくって? アレンビー嬢」
「そうね、それがいいわ。では、ローレライ。まずは貴方この薔薇園に足を踏み入れた事を謝罪しなさいよ」
「はい……。この度は私のような下層階級の人間があろう事か由緒正しいこの薔薇園に足を踏み入れてしまいーーーー」
「違う、違う。違うわ、ローレライ! そうじゃない。謝罪をする時は地に頭を付けてからやるものよ。えっと、どこだったかしら……遠い国の謝罪方法だって前に本で読んだ事があるのだけれど……」
「ずっと東の方にある島国の文化ですわね、確か……」
「そうそう! それそれ! それで謝罪してちょうだいよ。この薔薇園を造ったお祖父様もきっとその方がお喜びになるわ! お祖父様は今はもう土に還ってしまってるから、地面に額を擦り付けながらお祖父様のすぐ耳元で謝罪してあげてちょうだいよ!」
「…………」
「聞こえなかったの? ローレライ? ベアトリック嬢が、ニルヴァーナ公爵閣下がお待ちよ。早くやりなさいよ、これ以上待たせては不敬罪に問われるわよ」
「ーーーーああ、教養が足りていないからやり方が分からないのですね。まあ、下層階級の人間じゃあ仕方のない事です。一口に貴族と言っても男爵の爵位なんてあって無いようなものですし、少し金持ちの平民と同じですものね。じゃあ、そんな可哀想なローレライには特別に私が教えてあげますわーーーー」
そう言うと、ルークレツィア様は私の首を後ろから掴み、地面に向かって押え付けるようにしてきます。アレンビー様もすぐにそれに加わり私は堪える事が出来ず、地面に両膝を着きました。なおも首を押さえ付けられ地面が徐々に目の前に迫ってきます。そこでふと目に入ったのは私自身の膝の辺り、土が付着してすっかり汚れてしまったお母様の形見のドレスでした。
唯一の形見というわけではありませんがそれでも唯一身に付けられる、常に一緒にいられる大切な形見の品です。
今まで汚した事なんて一度もなかったのに、それなのに……。
0
お気に入りに追加
132
あなたにおすすめの小説

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい
宇水涼麻
恋愛
ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。
「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」
呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。
王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。
その意味することとは?
慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?
なぜこのような状況になったのだろうか?
ご指摘いただき一部変更いたしました。
みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。
今後ともよろしくお願いします。
たくさんのお気に入り嬉しいです!
大変励みになります。
ありがとうございます。
おかげさまで160万pt達成!
↓これよりネタバレあらすじ
第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。
親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。
ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。
森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。
玖保ひかる
恋愛
[完結]
北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。
ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。
アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。
森に捨てられてしまったのだ。
南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。
苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。
※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。
※完結しました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

成り上がり令嬢暴走日記!
笹乃笹世
恋愛
異世界転生キタコレー!
と、テンションアゲアゲのリアーヌだったが、なんとその世界は乙女ゲームの舞台となった世界だった⁉︎
えっあの『ギフト』⁉︎
えっ物語のスタートは来年⁉︎
……ってことはつまり、攻略対象たちと同じ学園ライフを送れる……⁉︎
これも全て、ある日突然、貴族になってくれた両親のおかげねっ!
ーー……でもあのゲームに『リアーヌ・ボスハウト』なんてキャラが出てた記憶ないから……きっとキャラデザも無いようなモブ令嬢なんだろうな……
これは、ある日突然、貴族の仲間入りを果たしてしまった元日本人が、大好きなゲームの世界で元日本人かつ庶民ムーブをぶちかまし、知らず知らずのうちに周りの人間も巻き込んで騒動を起こしていく物語であるーー
果たしてリアーヌはこの世界で幸せになれるのか?
周りの人間たちは無事でいられるのかーー⁉︎

婚約破棄された伯爵令嬢は錬金術師となり、ポーションを売って大金持ちになります〜今更よりを戻してくれと土下座したところでもう遅い〜
平山和人
恋愛
伯爵令嬢のフィーナは婚約者のラインハルトから真実の愛に目覚めたと婚約破棄される。そして、フィーナは家を出て王都からも追放される。
行く宛もなく途方に暮れていたところを錬金術師の女性に出会う。フィーナは事情を話し、自分の職業適性を調べてもらうとなんと魔法の才能があると判明する。
その才能を活かすため、錬金術師となりポーションを売ることに。次第にポーションが評判を呼んでいくと大金持ちになるのであった。
一方、ラインハルトはフィーナを婚約破棄したことで没落の道を歩んでいくことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる