33 / 125
2章 お茶会
24 薔薇の蔓
しおりを挟む
それから約一時間、私達だけの秘密のお茶会はより一層の盛り上がりをみせました。
そしてーーーー
突如、屋敷に繋がるドアがノックされました。
乾いた音がテラスの奥からこちらに向けて響いてきます。それと同時に今までの賑やかな薔薇園の雰囲気は一変し、気味が悪いくらい静まり返ってしまいました。
「…………」
ベアトリック嬢はそのノックに対し答えるでもなくテーブルの上を簡単に片付け始め、次に自身の着ているドレスの着崩れを手早く直し始めました。
ベアトリック嬢からわずかに遅れてジェシカ嬢、アレンビー嬢、ルークレツィア嬢も同じように簡単な身支度を開始したので、私も慌てて身支度を整えます。
いったいどうしたのでしょう?
全員の身支度が整い、お行儀よくテーブルについているとさっきまでの光景がまるで嘘のようでした。
ノックからちょうど一分が経つ頃、まるでタイミングを見計らっていたようにドアがゆっくりと開け放たれ、侍女の方が視線を伏せたまま入ってきてベアトリック嬢に小さな一枚の紙を差し出しました。
ベアトリック嬢は差し出された紙に視線を落とすと素早く紙面の上に視線を走らせ、また元の位置へと視線を戻しました。
ーーーー早い。
速読術もやはりかなりのものですね。速読が苦手な私には羨ましい限りです。文字数は不明ですが約一秒くらいしか経っていませんでした。私では文字の輪郭を掴む事すら出来ないでしょう。
「ーーーージェシカ嬢。アヴァドニア公爵閣下から連絡が入りました。至急帰宅せよ、との事ですわ」
ついさっきとは全く違う雰囲気のベアトリック様が抑揚を欠いた単調な声で仰いました。その様子はもはや全くの別人のようで怖いくらいです。
「…………」
ビックリしすぎて、様って言っちゃいました。でも、口に出した訳ではないから今回はいいですよね。
「ーーーーそうですか。ありがとうございます、ベアトリック嬢。それでは申し訳ございませんが私はお先に失礼させて頂きます。皆様、またお会い出来る日を楽しみにしています。それではご機嫌良う」
ジェシカ嬢は椅子から優雅に立ち上がると可憐なカーテシーと共に別れの挨拶を述べました。
「ご機嫌良う。ジェシカ嬢」
「近いうちに、またぜひお会いしましょう」
私はアレンビー嬢とルークレツィア嬢の挨拶に続いて慌てて別れのご挨拶を済ませます。
「ジェシカ嬢。今日は本当に有意義な時間を過ごす事が出来ました。ありがとうございました。またお会い出来る日を楽しみにしております」
「ええ、またね。ローレライ嬢」
つい抱きしめてしまいたくなるほど可憐な笑顔を残して、ジェシカ嬢は侍女の方と共に薔薇園を後にしました。
テラスの奥の方でドアの閉まる乾いた音が鳴り響きます。
「…………?」
と、ジェシカ嬢の背中を見送っていると私の右手がはっきりとした違和感を感じとりました。
それは冷たく、鋭く、なんとも言いようのない気持ち悪さを孕んだ違和感。
「ーーーーつっ⁉︎」
そんな違和感が右手に纏わりつき、やがてちくりとした僅かな痛みが私の右手を襲いました。
嫌な感覚に顔をしかめ、自身の右手に視線を落としてみると信じられない事に、そこには幾重にも織り重なる薔薇の蔓が巻きついていたのです。
「さて……そろそろ本当のお茶会を始めましょうか。ねえ? ローレライ?」
私の背後でベアトリック様が言います。
今まで一度も聞いた事のない、不気味な声で。
そしてーーーー
突如、屋敷に繋がるドアがノックされました。
乾いた音がテラスの奥からこちらに向けて響いてきます。それと同時に今までの賑やかな薔薇園の雰囲気は一変し、気味が悪いくらい静まり返ってしまいました。
「…………」
ベアトリック嬢はそのノックに対し答えるでもなくテーブルの上を簡単に片付け始め、次に自身の着ているドレスの着崩れを手早く直し始めました。
ベアトリック嬢からわずかに遅れてジェシカ嬢、アレンビー嬢、ルークレツィア嬢も同じように簡単な身支度を開始したので、私も慌てて身支度を整えます。
いったいどうしたのでしょう?
全員の身支度が整い、お行儀よくテーブルについているとさっきまでの光景がまるで嘘のようでした。
ノックからちょうど一分が経つ頃、まるでタイミングを見計らっていたようにドアがゆっくりと開け放たれ、侍女の方が視線を伏せたまま入ってきてベアトリック嬢に小さな一枚の紙を差し出しました。
ベアトリック嬢は差し出された紙に視線を落とすと素早く紙面の上に視線を走らせ、また元の位置へと視線を戻しました。
ーーーー早い。
速読術もやはりかなりのものですね。速読が苦手な私には羨ましい限りです。文字数は不明ですが約一秒くらいしか経っていませんでした。私では文字の輪郭を掴む事すら出来ないでしょう。
「ーーーージェシカ嬢。アヴァドニア公爵閣下から連絡が入りました。至急帰宅せよ、との事ですわ」
ついさっきとは全く違う雰囲気のベアトリック様が抑揚を欠いた単調な声で仰いました。その様子はもはや全くの別人のようで怖いくらいです。
「…………」
ビックリしすぎて、様って言っちゃいました。でも、口に出した訳ではないから今回はいいですよね。
「ーーーーそうですか。ありがとうございます、ベアトリック嬢。それでは申し訳ございませんが私はお先に失礼させて頂きます。皆様、またお会い出来る日を楽しみにしています。それではご機嫌良う」
ジェシカ嬢は椅子から優雅に立ち上がると可憐なカーテシーと共に別れの挨拶を述べました。
「ご機嫌良う。ジェシカ嬢」
「近いうちに、またぜひお会いしましょう」
私はアレンビー嬢とルークレツィア嬢の挨拶に続いて慌てて別れのご挨拶を済ませます。
「ジェシカ嬢。今日は本当に有意義な時間を過ごす事が出来ました。ありがとうございました。またお会い出来る日を楽しみにしております」
「ええ、またね。ローレライ嬢」
つい抱きしめてしまいたくなるほど可憐な笑顔を残して、ジェシカ嬢は侍女の方と共に薔薇園を後にしました。
テラスの奥の方でドアの閉まる乾いた音が鳴り響きます。
「…………?」
と、ジェシカ嬢の背中を見送っていると私の右手がはっきりとした違和感を感じとりました。
それは冷たく、鋭く、なんとも言いようのない気持ち悪さを孕んだ違和感。
「ーーーーつっ⁉︎」
そんな違和感が右手に纏わりつき、やがてちくりとした僅かな痛みが私の右手を襲いました。
嫌な感覚に顔をしかめ、自身の右手に視線を落としてみると信じられない事に、そこには幾重にも織り重なる薔薇の蔓が巻きついていたのです。
「さて……そろそろ本当のお茶会を始めましょうか。ねえ? ローレライ?」
私の背後でベアトリック様が言います。
今まで一度も聞いた事のない、不気味な声で。
0
お気に入りに追加
132
あなたにおすすめの小説
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい
宇水涼麻
恋愛
ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。
「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」
呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。
王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。
その意味することとは?
慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?
なぜこのような状況になったのだろうか?
ご指摘いただき一部変更いたしました。
みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。
今後ともよろしくお願いします。
たくさんのお気に入り嬉しいです!
大変励みになります。
ありがとうございます。
おかげさまで160万pt達成!
↓これよりネタバレあらすじ
第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。
親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。
ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。
森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。
玖保ひかる
恋愛
[完結]
北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。
ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。
アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。
森に捨てられてしまったのだ。
南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。
苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。
※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。
※完結しました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】
23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも!
そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。
お願いですから、私に構わないで下さい!
※ 他サイトでも投稿中

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる