婚約破棄された男爵令嬢〜盤面のラブゲーム

清水花

文字の大きさ
上 下
30 / 125
2章 お茶会

21 無茶なお願い

しおりを挟む
 うつむいて首を横に振る私を見てジェシカ様は、それまで覗き込むようにしていた姿勢を真っ直ぐに伸ばし額に手を当て言います。

「あー……ごめん。それはそうだよね。辛い事があったばかりなんだから今は一人になりたいよね。本当、私ったらデリカシーのかけらもないんだから……ごめんね、ローレライ」

「そんなっ! 謝らないでくださいジェシカ様! ジェシカ様は何も悪くありません! ジェシカ様のそのお優しいお気持ちだけありがたく頂きます!」

「そ、そう……?」

「はい!」

 咄嗟の事だったとは言え、かなり語気が強くなってしまいました。ジェシカ様が若干びっくりしています。

「ーーーーあ、それとさローレライ」

「はい、何でしょう。ジェシカ様」

「うん。そのジェシカ様ってやめない? 私達って同じ年なんだし普通にジェシカって呼んーーーー」

「ダメです! 絶対にダメです! どう考えたってダメです! ジェシカ様は高貴なお方で、同じ貴族とはいえ私は男爵家の娘で、身分が大違いで、本来ならこんな素敵なお茶会に参加しているのもおこがましいくらいで、男爵家の中でも特に力も何もなくて、財力を少し得ただけの平民の方々と同じで、見た目も全然……比べる事自体が不遜なくらいです。そんな私とジェシカ様が、無礼にも、程遠く、そんな事は決して誰も許してくれなくて、お父様にだってすごく叱られて、ジェシカ様がお喋りになっている途中に口を挟むようなとんでもない無礼者で、それに、それにーーーー」

「ちょっ! ちょっと、ちょっと! 落ち着いて、ローレライ! どうしたの? 後半の方なんて、何言ってるのか全く分かんないよ……」

 ジェシカ様は私の両腕を掴んで呆れたような苦笑いを浮かべています。

 テーブルの向こうではベアトリック様達も呆気にとられたような表情でこちらの様子を見ています。

「ごっ、ごめんなさい……」

「もう……。別にあんなに興奮する事ないでしょう? たかが呼び捨てにするくらいなんだから」

 私は今すぐ反論したくなる気持ちをグッと堪えて、首を力強く横に振って意思を示します。

 ジェシカ様を呼び捨てにするなんて絶対に無理です。してはいけないんです。それだけは。

「えー……。なんでよーいいじゃない、同じ年なんだしー。ねーえー、ローレライー」

「ジェ、ジェシカ様、さすがにそれは……」

「こういう時だけよ? さすがに公の場で呼び捨てにしちゃったらローレライが非難されちゃうだろうけど、こういった仲良しだけが集まった秘密のお茶会だけだったら問題ないんじゃない?」

「しかし……」

「よしっ、じゃあ決定! さっそく呼んでみて、ローレライ」

 ジェシカ様は得意げに腕組みしながらそう言うと、私に催促します。困り果てた私は覚悟を決めてジェシカ様を呼ぼうとしますが、呼ぼうとすればするほどうつむいてしまいます。

 なのできっと、ベアトリック様達からは私がものすごくジェシカ様から叱られているように見えているのかも知れません。

「ジェ……ジェシ……ジェシカ……様」

「様は要らない。禁止なの!」

「ジェシカ……陛下」

「いつから私は女王様になったのよ……」

「ジェシカ……殿下」

「だから私は王族じゃないってば!」

「アヴァドニア公爵令嬢……ジェシカ」

「んー、なんか違う。そういうんじゃない」

「レディージェシカ」

「うーん……もうちょっと! 頑張って!」

 ジェシカ様は可憐なその両手をグッと握りしめて応援してくれました。

 ベアトリック様達も嬉々としてこちらの様子を伺っています。

 身体が熱いです。変な汗が出ます。心臓が爆発してしまいそうです。そして、

「ジェシ……カ嬢」

「え?」

 ジェシカ様は可愛いらしく小首を傾げて聞き返してきました。

「ジェシカ嬢、これ以上は本当に無理です。許してください……」

「そっかー。うーん……まあ仕方ないか。無理に呼ばせるのも可哀想だもんね」

「ごめんなさい……」

「まあ、いいわ。でも、慣れてきたらジェシカって呼んでね?」

「は……はい……努力します……」

「じゃあ、ローレライ。私の事、ベアトリックって呼んでね」

「ーーーー無理ですっ!」

 その後、しばらくみなさんから同じ内容の事を催促され、たじたじするしか無かった私でした。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。

玖保ひかる
恋愛
[完結] 北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。 ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。 アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。 森に捨てられてしまったのだ。 南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。 苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。 ※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。 ※完結しました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

成り上がり令嬢暴走日記!

笹乃笹世
恋愛
 異世界転生キタコレー! と、テンションアゲアゲのリアーヌだったが、なんとその世界は乙女ゲームの舞台となった世界だった⁉︎  えっあの『ギフト』⁉︎  えっ物語のスタートは来年⁉︎  ……ってことはつまり、攻略対象たちと同じ学園ライフを送れる……⁉︎  これも全て、ある日突然、貴族になってくれた両親のおかげねっ!  ーー……でもあのゲームに『リアーヌ・ボスハウト』なんてキャラが出てた記憶ないから……きっとキャラデザも無いようなモブ令嬢なんだろうな……  これは、ある日突然、貴族の仲間入りを果たしてしまった元日本人が、大好きなゲームの世界で元日本人かつ庶民ムーブをぶちかまし、知らず知らずのうちに周りの人間も巻き込んで騒動を起こしていく物語であるーー  果たしてリアーヌはこの世界で幸せになれるのか?  周りの人間たちは無事でいられるのかーー⁉︎

処理中です...