婚約破棄された男爵令嬢〜盤面のラブゲーム

清水花

文字の大きさ
上 下
28 / 125
2章 お茶会

19 浮気は男の代名詞?

しおりを挟む
「浮気とか?」

 アレンビー様の放った一言が辺りに響き渡り、妙にしんとした空気になってしまいました。

 浮気……。

 浮ついた気持ち……。

 浮かれた状態……。

 それも当然、脳裏をよぎりましたがアシュトレイ様は本当に穏やかな人で私を常に気遣ってくださるお優しい方でした。結婚式を間近に控えお互いにそわそわして、それこそ浮かれていたのは事実です。ですが、浮気だなんてそんな事は……。

 ベアトリック様は唇を真横にして口をつぐんでおり、アレンビー様の方へちらり視線を送ると、うぅーっと低い声で唸ってみせた。

 それから少しして、重いため息と共にベアトリック様は口を開きました。

「浮気ねぇ……。アシュトレイ卿はそんなタイプの人間じゃないと思うんだけどなー」

「それについては私も同感です。ですが……」

 ルークレツィア様は途中までそう言いかけると私の方をちらりと見て、ごめんなさいねローレライと言いました。そして、

「所詮ーーーー男は男ですわ」

 ルークレツィア様は端的に、そして的確にそうおっしゃいました。

 どんなに優れた男性だろうと結局は男なのだと。

 様々な女性の元をふらりふらりと渡り歩く根無し草なのだと。

 分かっています。理解しています。そう考えれば全て辻褄が合うんです。理解できないあの状況にも説明がつくんです。

 でも、そう結論付けてしまったらアシュトレイ様にかけて頂いた数々のお言葉も、お手紙も全て偽りのものだったという事になってしまう。

 そうなってしまうと私はもう、人を信じられなくなる。

 あのアシュトレイ様の穏やかな笑顔が信じられなくなる。

 私が中から崩れていってしまう。

 だからーーーー真実は違うんです。

 きっと私が気付いていないだけで、大変な失礼を働いてしまいお優しいアシュトレイ様は怒る事なく、ただ単純に私の事を嫌いになってしまわれただけ。

 ただそれだけなんです。絶対。

「やっぱりアシュトレイ卿も紳士じゃなかったか……私の目に狂いはないと思ったんだけどねー」

「仕方ありません、ベアトリック嬢。やはり人間の本心を見抜くのは相当に困難なのです」

「はらわた引きずり出して見ないと分からないって言うくらいだし……こればっかりはどうしようもないわね。しっかし、あのアシュトレイ卿が浮気をねぇ……怖い怖い」

「うちのお父様は今でも複数の女性と関係を持っているようですし、それに関してお母様もさほど気にしてはいないようです」

「そうなの⁉︎ ルーク嬢のお母様すごいわね。達観してるというかなんというか。夫婦で上手くやっていくには見習うべきなのかも知れないわね」

「うちは少し特別なケースなのかも知れませんが……」

「アレンビー嬢。あなたのお父様はどうなの? あの寡黙なウェルズリー侯爵閣下も浮気なイメージがあまり無いと思うのだけれど……」

「そうねー。一見そう思いがちなんだけれど……」

「違うの⁉︎」

「ーーーーええ。数年前に少し……。その時、お母様はお父様の事をまるでゴミ屑でも見るような冷やかな目で見ていたわね。それがよほど辛かったんでしょうね……それからというもの、ずっとお父様は大人しくしているようだわ。身長もそうなんだけど、本当に情けないんだから。お父様がもっと身長が高ければ私もーーーー」

「なるほど、なるほど。そういう手もあるのか」

 ベアトリック様は真剣にアレンビー様の話を聞いて、その内容を記憶として頭に深く刻み込んでいるようでした。

「やっぱり男ってーーーー」

「ええ。間違いないですわ。真の紳士なんているわけーーーー」

「でしょ⁉︎ 所詮は見せかけだけーーーー」

 と、男女間の話に大盛り上がりの同年代御三方。

 さすがは二つ年上のお姉様方ですね。恋愛話には一家言あるようでお喋りが止まりません。

 対して、二つ年下の私とジェシカ様は完全に勢いに飲まれてしまいだんまり状態です。

 クッキーを食べ終え、両手でカップを持ちながら上目遣いでお姉様方のお喋りの応酬に視線を泳がせているジェシカ様の姿は、同性の目から見てもとても可愛いらしく、愛らしく、羨ましい限りでした。

 私もジェシカ様みたいに女の子らしく、可愛いくなりたいと切実に思ってしまいました。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。

玖保ひかる
恋愛
[完結] 北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。 ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。 アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。 森に捨てられてしまったのだ。 南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。 苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。 ※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。 ※完結しました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

処理中です...