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2章 お茶会
15 高貴な方々
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ベアトリック・イーンゴット様。
年齢は私より二つ年上の十七歳。燃え上がる炎のような赤い髪にグッと力のこもった目元、すらりとした細身でいて高い位置から下される眼差しはまるで獲物を狙うかのように鋭い。
そんなベアトリック様がにこやかな笑みを浮かべてこちらに向かって手を降っています。
私は慌てて深くお辞儀をしてそれに答えます。
「それではローレライ様、どうぞごゆっくり」
そう言って深くお辞儀をしてメイドさんは踵を返して、今来た道を戻っていきました。
メイドさんの背中を見送って視線を薔薇園の方へと移し、ゆっくりと慎重にベアトリック様の元へと歩み寄ります。
テーブルには現在三名の方が座っています。
まずは当然、ベアトリック様。
この豪奢なお屋敷に住んでいらっしゃるニルヴァーナ公爵御令嬢です。
次に向かって右側に座っていらっしゃるのが、ウェルズリー侯爵御令嬢のアレンビー・ビショップマン様。年齢はベアトリック様と同じ一七歳。肩先まで伸びた青藍の髪は艶やかで陽の光を受けてまるで天使の輪のような光沢を浮かべています。
アレンビー様は身長があまり高くなく、私よりも少し低いくらいでそんな身長のせいもあってかいつも実年齢よりも幼く見られてしまうらしく、ご本人曰くこの身長と童顔が私の人生を限りなく狂わせたといつも嘆いていると聞いたことがあります。そのせいか、やや物事を斜に見る傾向があって侍女の方々を困らせている事も間々あるのだとか。
私と同じでチェスの駒が名前に入っているので、その影響かもしれませんね……。
それに向かって左側に座っていらっしゃるのが、ギネス伯爵御令嬢のルークレツィア・カトレット様。年齢はアレンビー様と同じく一七歳。この辺では珍しい黒髪の持ち主でいて、腰のあたりまで伸びた黒髪が妖艶な光沢を湛えて静かに、そして力強くその存在感を放っています。
ルークレツィア様はその黒髪と同様に真っ直ぐな性格でいて、自分が一度こうだと思ったのならなかなか考えを改めないこだわりの強い方です。どこまでも真っ直ぐで、前にぐんぐん進んでいく愚直なタイプなーーーー愚直はさすがに失礼ですね。自分に素直な方といえばいいのでしょうか。
そんな御三方が待つテーブルへと歩み寄り、視線を伏せてカーテシーをして簡単なご挨拶の言葉を述べます。
「ベアトリック様、本日はお招きくださり光栄に存じます。アレンビー様とルークレツィア様もご機嫌良う」
「ええ。よく来てくれたわねローレライ、そこ座って」
「はい。失礼します」
私はベアトリック様に座るよう促され空いていた椅子に慎重に腰掛けました。隣にはもう一つ誰も座っていない椅子が置いてあります。まだどなたかいらっしゃるのでしょうか?
そんな事をぼんやりと考えていると、後方から足音が聞こえてきて自然とそちらに視線が向きました。
視線の先には鮮やかなエメラルドグリーンのドレスに身を包み、周囲を照らすほどに光り輝く金色の髪を揺らしながらこちらに歩いてくる女性の姿が。
「ーーーージェッ、ジェッ、ジェシカ様⁉︎」
そう、つい先日開かれた盛大なお茶会の会場になったアヴァドニア公爵家。そのアヴァドニア公爵家の御令嬢でいらっしゃる王国一の美女と呼び声の高いジェシカ・ユリアン様がいらっしゃり、あろう事か私の隣の席にお座りになったのです。
「はわわわ……」
その事で私の脳内ではジェシカ様と同じテーブルに着いてはいけない、同じ高さにいてはいけない、今すぐ地べたに座りなおさなくてはいけないといった考えが瞬時に駆け巡りました。
「申し訳ありませんベアトリック嬢。お待たせしました」
「いいえ、皆つい先ほど集まったばかりですのでお気遣いなくジェシカ嬢」
そんなベアトリック様のお言葉にアレンビー様とルークレツィア様もうんうんと頷きます。
私も若干浮かしかけていた腰をどうしたものかと思いましたが、アレンビー様達と同様にうんうんと頷きながら慎重に慎重に元の位置へ腰を下ろしました。
私はつい自然と伏せがちになってしまう視線をどうにか持ち上げ恐る恐る前方を確認してみるとすぐ目の前には、
アヴァドニア公爵御令嬢ジェシカ・ユリアン様。
ニルヴァーナ公爵御令嬢ベアトリック・イーンゴット様。
ウェルズリー侯爵御令嬢アレンビー・ビショップマン様。
ギネス伯爵御令嬢ルークレツィア・カトレット様。
そうそうたる御顔ぶれのみなさんが私の目の前にお座りになっていて、にこやかな笑みを浮かべています。こんなすごい方々が一堂に集まっていったい何をするというのでしょう?
「さて、みんな集まりましたね。ではそろそろティータイムを始めましょうか」
そうでした。今日はティーパーティーにご招待頂いていたんでした。
やっぱり私ったらかなり動揺しているようですね……。
絶対に失礼がないようしっかりしないと。
私は背筋を伸ばし、気を引き締めます。
年齢は私より二つ年上の十七歳。燃え上がる炎のような赤い髪にグッと力のこもった目元、すらりとした細身でいて高い位置から下される眼差しはまるで獲物を狙うかのように鋭い。
そんなベアトリック様がにこやかな笑みを浮かべてこちらに向かって手を降っています。
私は慌てて深くお辞儀をしてそれに答えます。
「それではローレライ様、どうぞごゆっくり」
そう言って深くお辞儀をしてメイドさんは踵を返して、今来た道を戻っていきました。
メイドさんの背中を見送って視線を薔薇園の方へと移し、ゆっくりと慎重にベアトリック様の元へと歩み寄ります。
テーブルには現在三名の方が座っています。
まずは当然、ベアトリック様。
この豪奢なお屋敷に住んでいらっしゃるニルヴァーナ公爵御令嬢です。
次に向かって右側に座っていらっしゃるのが、ウェルズリー侯爵御令嬢のアレンビー・ビショップマン様。年齢はベアトリック様と同じ一七歳。肩先まで伸びた青藍の髪は艶やかで陽の光を受けてまるで天使の輪のような光沢を浮かべています。
アレンビー様は身長があまり高くなく、私よりも少し低いくらいでそんな身長のせいもあってかいつも実年齢よりも幼く見られてしまうらしく、ご本人曰くこの身長と童顔が私の人生を限りなく狂わせたといつも嘆いていると聞いたことがあります。そのせいか、やや物事を斜に見る傾向があって侍女の方々を困らせている事も間々あるのだとか。
私と同じでチェスの駒が名前に入っているので、その影響かもしれませんね……。
それに向かって左側に座っていらっしゃるのが、ギネス伯爵御令嬢のルークレツィア・カトレット様。年齢はアレンビー様と同じく一七歳。この辺では珍しい黒髪の持ち主でいて、腰のあたりまで伸びた黒髪が妖艶な光沢を湛えて静かに、そして力強くその存在感を放っています。
ルークレツィア様はその黒髪と同様に真っ直ぐな性格でいて、自分が一度こうだと思ったのならなかなか考えを改めないこだわりの強い方です。どこまでも真っ直ぐで、前にぐんぐん進んでいく愚直なタイプなーーーー愚直はさすがに失礼ですね。自分に素直な方といえばいいのでしょうか。
そんな御三方が待つテーブルへと歩み寄り、視線を伏せてカーテシーをして簡単なご挨拶の言葉を述べます。
「ベアトリック様、本日はお招きくださり光栄に存じます。アレンビー様とルークレツィア様もご機嫌良う」
「ええ。よく来てくれたわねローレライ、そこ座って」
「はい。失礼します」
私はベアトリック様に座るよう促され空いていた椅子に慎重に腰掛けました。隣にはもう一つ誰も座っていない椅子が置いてあります。まだどなたかいらっしゃるのでしょうか?
そんな事をぼんやりと考えていると、後方から足音が聞こえてきて自然とそちらに視線が向きました。
視線の先には鮮やかなエメラルドグリーンのドレスに身を包み、周囲を照らすほどに光り輝く金色の髪を揺らしながらこちらに歩いてくる女性の姿が。
「ーーーージェッ、ジェッ、ジェシカ様⁉︎」
そう、つい先日開かれた盛大なお茶会の会場になったアヴァドニア公爵家。そのアヴァドニア公爵家の御令嬢でいらっしゃる王国一の美女と呼び声の高いジェシカ・ユリアン様がいらっしゃり、あろう事か私の隣の席にお座りになったのです。
「はわわわ……」
その事で私の脳内ではジェシカ様と同じテーブルに着いてはいけない、同じ高さにいてはいけない、今すぐ地べたに座りなおさなくてはいけないといった考えが瞬時に駆け巡りました。
「申し訳ありませんベアトリック嬢。お待たせしました」
「いいえ、皆つい先ほど集まったばかりですのでお気遣いなくジェシカ嬢」
そんなベアトリック様のお言葉にアレンビー様とルークレツィア様もうんうんと頷きます。
私も若干浮かしかけていた腰をどうしたものかと思いましたが、アレンビー様達と同様にうんうんと頷きながら慎重に慎重に元の位置へ腰を下ろしました。
私はつい自然と伏せがちになってしまう視線をどうにか持ち上げ恐る恐る前方を確認してみるとすぐ目の前には、
アヴァドニア公爵御令嬢ジェシカ・ユリアン様。
ニルヴァーナ公爵御令嬢ベアトリック・イーンゴット様。
ウェルズリー侯爵御令嬢アレンビー・ビショップマン様。
ギネス伯爵御令嬢ルークレツィア・カトレット様。
そうそうたる御顔ぶれのみなさんが私の目の前にお座りになっていて、にこやかな笑みを浮かべています。こんなすごい方々が一堂に集まっていったい何をするというのでしょう?
「さて、みんな集まりましたね。ではそろそろティータイムを始めましょうか」
そうでした。今日はティーパーティーにご招待頂いていたんでした。
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