24 / 125
2章 お茶会
15 高貴な方々
しおりを挟む
ベアトリック・イーンゴット様。
年齢は私より二つ年上の十七歳。燃え上がる炎のような赤い髪にグッと力のこもった目元、すらりとした細身でいて高い位置から下される眼差しはまるで獲物を狙うかのように鋭い。
そんなベアトリック様がにこやかな笑みを浮かべてこちらに向かって手を降っています。
私は慌てて深くお辞儀をしてそれに答えます。
「それではローレライ様、どうぞごゆっくり」
そう言って深くお辞儀をしてメイドさんは踵を返して、今来た道を戻っていきました。
メイドさんの背中を見送って視線を薔薇園の方へと移し、ゆっくりと慎重にベアトリック様の元へと歩み寄ります。
テーブルには現在三名の方が座っています。
まずは当然、ベアトリック様。
この豪奢なお屋敷に住んでいらっしゃるニルヴァーナ公爵御令嬢です。
次に向かって右側に座っていらっしゃるのが、ウェルズリー侯爵御令嬢のアレンビー・ビショップマン様。年齢はベアトリック様と同じ一七歳。肩先まで伸びた青藍の髪は艶やかで陽の光を受けてまるで天使の輪のような光沢を浮かべています。
アレンビー様は身長があまり高くなく、私よりも少し低いくらいでそんな身長のせいもあってかいつも実年齢よりも幼く見られてしまうらしく、ご本人曰くこの身長と童顔が私の人生を限りなく狂わせたといつも嘆いていると聞いたことがあります。そのせいか、やや物事を斜に見る傾向があって侍女の方々を困らせている事も間々あるのだとか。
私と同じでチェスの駒が名前に入っているので、その影響かもしれませんね……。
それに向かって左側に座っていらっしゃるのが、ギネス伯爵御令嬢のルークレツィア・カトレット様。年齢はアレンビー様と同じく一七歳。この辺では珍しい黒髪の持ち主でいて、腰のあたりまで伸びた黒髪が妖艶な光沢を湛えて静かに、そして力強くその存在感を放っています。
ルークレツィア様はその黒髪と同様に真っ直ぐな性格でいて、自分が一度こうだと思ったのならなかなか考えを改めないこだわりの強い方です。どこまでも真っ直ぐで、前にぐんぐん進んでいく愚直なタイプなーーーー愚直はさすがに失礼ですね。自分に素直な方といえばいいのでしょうか。
そんな御三方が待つテーブルへと歩み寄り、視線を伏せてカーテシーをして簡単なご挨拶の言葉を述べます。
「ベアトリック様、本日はお招きくださり光栄に存じます。アレンビー様とルークレツィア様もご機嫌良う」
「ええ。よく来てくれたわねローレライ、そこ座って」
「はい。失礼します」
私はベアトリック様に座るよう促され空いていた椅子に慎重に腰掛けました。隣にはもう一つ誰も座っていない椅子が置いてあります。まだどなたかいらっしゃるのでしょうか?
そんな事をぼんやりと考えていると、後方から足音が聞こえてきて自然とそちらに視線が向きました。
視線の先には鮮やかなエメラルドグリーンのドレスに身を包み、周囲を照らすほどに光り輝く金色の髪を揺らしながらこちらに歩いてくる女性の姿が。
「ーーーージェッ、ジェッ、ジェシカ様⁉︎」
そう、つい先日開かれた盛大なお茶会の会場になったアヴァドニア公爵家。そのアヴァドニア公爵家の御令嬢でいらっしゃる王国一の美女と呼び声の高いジェシカ・ユリアン様がいらっしゃり、あろう事か私の隣の席にお座りになったのです。
「はわわわ……」
その事で私の脳内ではジェシカ様と同じテーブルに着いてはいけない、同じ高さにいてはいけない、今すぐ地べたに座りなおさなくてはいけないといった考えが瞬時に駆け巡りました。
「申し訳ありませんベアトリック嬢。お待たせしました」
「いいえ、皆つい先ほど集まったばかりですのでお気遣いなくジェシカ嬢」
そんなベアトリック様のお言葉にアレンビー様とルークレツィア様もうんうんと頷きます。
私も若干浮かしかけていた腰をどうしたものかと思いましたが、アレンビー様達と同様にうんうんと頷きながら慎重に慎重に元の位置へ腰を下ろしました。
私はつい自然と伏せがちになってしまう視線をどうにか持ち上げ恐る恐る前方を確認してみるとすぐ目の前には、
アヴァドニア公爵御令嬢ジェシカ・ユリアン様。
ニルヴァーナ公爵御令嬢ベアトリック・イーンゴット様。
ウェルズリー侯爵御令嬢アレンビー・ビショップマン様。
ギネス伯爵御令嬢ルークレツィア・カトレット様。
そうそうたる御顔ぶれのみなさんが私の目の前にお座りになっていて、にこやかな笑みを浮かべています。こんなすごい方々が一堂に集まっていったい何をするというのでしょう?
「さて、みんな集まりましたね。ではそろそろティータイムを始めましょうか」
そうでした。今日はティーパーティーにご招待頂いていたんでした。
やっぱり私ったらかなり動揺しているようですね……。
絶対に失礼がないようしっかりしないと。
私は背筋を伸ばし、気を引き締めます。
年齢は私より二つ年上の十七歳。燃え上がる炎のような赤い髪にグッと力のこもった目元、すらりとした細身でいて高い位置から下される眼差しはまるで獲物を狙うかのように鋭い。
そんなベアトリック様がにこやかな笑みを浮かべてこちらに向かって手を降っています。
私は慌てて深くお辞儀をしてそれに答えます。
「それではローレライ様、どうぞごゆっくり」
そう言って深くお辞儀をしてメイドさんは踵を返して、今来た道を戻っていきました。
メイドさんの背中を見送って視線を薔薇園の方へと移し、ゆっくりと慎重にベアトリック様の元へと歩み寄ります。
テーブルには現在三名の方が座っています。
まずは当然、ベアトリック様。
この豪奢なお屋敷に住んでいらっしゃるニルヴァーナ公爵御令嬢です。
次に向かって右側に座っていらっしゃるのが、ウェルズリー侯爵御令嬢のアレンビー・ビショップマン様。年齢はベアトリック様と同じ一七歳。肩先まで伸びた青藍の髪は艶やかで陽の光を受けてまるで天使の輪のような光沢を浮かべています。
アレンビー様は身長があまり高くなく、私よりも少し低いくらいでそんな身長のせいもあってかいつも実年齢よりも幼く見られてしまうらしく、ご本人曰くこの身長と童顔が私の人生を限りなく狂わせたといつも嘆いていると聞いたことがあります。そのせいか、やや物事を斜に見る傾向があって侍女の方々を困らせている事も間々あるのだとか。
私と同じでチェスの駒が名前に入っているので、その影響かもしれませんね……。
それに向かって左側に座っていらっしゃるのが、ギネス伯爵御令嬢のルークレツィア・カトレット様。年齢はアレンビー様と同じく一七歳。この辺では珍しい黒髪の持ち主でいて、腰のあたりまで伸びた黒髪が妖艶な光沢を湛えて静かに、そして力強くその存在感を放っています。
ルークレツィア様はその黒髪と同様に真っ直ぐな性格でいて、自分が一度こうだと思ったのならなかなか考えを改めないこだわりの強い方です。どこまでも真っ直ぐで、前にぐんぐん進んでいく愚直なタイプなーーーー愚直はさすがに失礼ですね。自分に素直な方といえばいいのでしょうか。
そんな御三方が待つテーブルへと歩み寄り、視線を伏せてカーテシーをして簡単なご挨拶の言葉を述べます。
「ベアトリック様、本日はお招きくださり光栄に存じます。アレンビー様とルークレツィア様もご機嫌良う」
「ええ。よく来てくれたわねローレライ、そこ座って」
「はい。失礼します」
私はベアトリック様に座るよう促され空いていた椅子に慎重に腰掛けました。隣にはもう一つ誰も座っていない椅子が置いてあります。まだどなたかいらっしゃるのでしょうか?
そんな事をぼんやりと考えていると、後方から足音が聞こえてきて自然とそちらに視線が向きました。
視線の先には鮮やかなエメラルドグリーンのドレスに身を包み、周囲を照らすほどに光り輝く金色の髪を揺らしながらこちらに歩いてくる女性の姿が。
「ーーーージェッ、ジェッ、ジェシカ様⁉︎」
そう、つい先日開かれた盛大なお茶会の会場になったアヴァドニア公爵家。そのアヴァドニア公爵家の御令嬢でいらっしゃる王国一の美女と呼び声の高いジェシカ・ユリアン様がいらっしゃり、あろう事か私の隣の席にお座りになったのです。
「はわわわ……」
その事で私の脳内ではジェシカ様と同じテーブルに着いてはいけない、同じ高さにいてはいけない、今すぐ地べたに座りなおさなくてはいけないといった考えが瞬時に駆け巡りました。
「申し訳ありませんベアトリック嬢。お待たせしました」
「いいえ、皆つい先ほど集まったばかりですのでお気遣いなくジェシカ嬢」
そんなベアトリック様のお言葉にアレンビー様とルークレツィア様もうんうんと頷きます。
私も若干浮かしかけていた腰をどうしたものかと思いましたが、アレンビー様達と同様にうんうんと頷きながら慎重に慎重に元の位置へ腰を下ろしました。
私はつい自然と伏せがちになってしまう視線をどうにか持ち上げ恐る恐る前方を確認してみるとすぐ目の前には、
アヴァドニア公爵御令嬢ジェシカ・ユリアン様。
ニルヴァーナ公爵御令嬢ベアトリック・イーンゴット様。
ウェルズリー侯爵御令嬢アレンビー・ビショップマン様。
ギネス伯爵御令嬢ルークレツィア・カトレット様。
そうそうたる御顔ぶれのみなさんが私の目の前にお座りになっていて、にこやかな笑みを浮かべています。こんなすごい方々が一堂に集まっていったい何をするというのでしょう?
「さて、みんな集まりましたね。ではそろそろティータイムを始めましょうか」
そうでした。今日はティーパーティーにご招待頂いていたんでした。
やっぱり私ったらかなり動揺しているようですね……。
絶対に失礼がないようしっかりしないと。
私は背筋を伸ばし、気を引き締めます。
0
お気に入りに追加
132
あなたにおすすめの小説

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい
宇水涼麻
恋愛
ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。
「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」
呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。
王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。
その意味することとは?
慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?
なぜこのような状況になったのだろうか?
ご指摘いただき一部変更いたしました。
みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。
今後ともよろしくお願いします。
たくさんのお気に入り嬉しいです!
大変励みになります。
ありがとうございます。
おかげさまで160万pt達成!
↓これよりネタバレあらすじ
第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。
親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。
ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。
森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。
玖保ひかる
恋愛
[完結]
北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。
ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。
アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。
森に捨てられてしまったのだ。
南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。
苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。
※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。
※完結しました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

成り上がり令嬢暴走日記!
笹乃笹世
恋愛
異世界転生キタコレー!
と、テンションアゲアゲのリアーヌだったが、なんとその世界は乙女ゲームの舞台となった世界だった⁉︎
えっあの『ギフト』⁉︎
えっ物語のスタートは来年⁉︎
……ってことはつまり、攻略対象たちと同じ学園ライフを送れる……⁉︎
これも全て、ある日突然、貴族になってくれた両親のおかげねっ!
ーー……でもあのゲームに『リアーヌ・ボスハウト』なんてキャラが出てた記憶ないから……きっとキャラデザも無いようなモブ令嬢なんだろうな……
これは、ある日突然、貴族の仲間入りを果たしてしまった元日本人が、大好きなゲームの世界で元日本人かつ庶民ムーブをぶちかまし、知らず知らずのうちに周りの人間も巻き込んで騒動を起こしていく物語であるーー
果たしてリアーヌはこの世界で幸せになれるのか?
周りの人間たちは無事でいられるのかーー⁉︎

婚約破棄された伯爵令嬢は錬金術師となり、ポーションを売って大金持ちになります〜今更よりを戻してくれと土下座したところでもう遅い〜
平山和人
恋愛
伯爵令嬢のフィーナは婚約者のラインハルトから真実の愛に目覚めたと婚約破棄される。そして、フィーナは家を出て王都からも追放される。
行く宛もなく途方に暮れていたところを錬金術師の女性に出会う。フィーナは事情を話し、自分の職業適性を調べてもらうとなんと魔法の才能があると判明する。
その才能を活かすため、錬金術師となりポーションを売ることに。次第にポーションが評判を呼んでいくと大金持ちになるのであった。
一方、ラインハルトはフィーナを婚約破棄したことで没落の道を歩んでいくことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる