婚約破棄された男爵令嬢〜盤面のラブゲーム

清水花

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2章 お茶会

11 海のオーソリティ

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「もう来ちゃったんですか……」

 彼の放った言葉の真意が掴めない偵察隊は彼を問いただした。彼こそが今、自分達の目の前で繰り広げられている異様な光景を作り上げた張本人なのだから。

 答えを急ぐあまりについつい声を荒げてしまいます。

「これはいったいどういう事なんだ⁉︎ 何が起きた⁉︎ あ、あいつらは……か、海賊だろう⁉︎」

 若者は苦笑いを浮かべて言います。
 
「あはは……元、ですけどね」

 その後、ゆっくり話を聞いてみると若者は半年前のあの日、この港へと訪れて海賊達相手にある質問をしたのだとか。

「あなた方はなぜ人から食料や金品を奪うのですか?」

 と、

 あまりに突飛で予想外で、そして答えの分かりきった質問に当時の海賊達のほとんどが大笑いしてこう言ったらしいのです。

「持ってねえから奪うんだ。そうしなきゃいけないから奪うんだ。んな事、当たり前だろ?」

「欲しいのなら買えばいいでしょう?」

「買うにしても金がねえ。だから奪う」

「お金がなければ働けばいいでしょう?」

「俺達みてぇなゴロツキを雇いたがる物好きがどこにいるってんだよぉ」

 そんな海賊の言葉に若者はしばらく思案顔をしていましたが、やがてこう言ったそうです。

「つかぬ事をお伺いしますが、あなたは海賊達を束ねているいわゆる海賊船の船長さんですか?」

「おおよ。泣く子も黙る大海賊、人呼んで海賊黒ひげ様よ」

「ふむ。ではあなたが雇う側になればいいのではありませんか?」

「あ? 俺が雇う側に?」

「ええ。ここにいる他の方達と同じ境遇で育ち、一番の良き理解者である。そして、信頼出来る唯一無二の存在。それがあなたで、それが雇い主だ」

「まあ、確かにこいつらとは血の繋がりもねえし、一番理解してやれんなあ同じ立場の人間だろうな。俺がこうして船長やってんのもそういったところがでかいだろう」

「だから、あなたなんです」

「だがお前、それはさすがに無理だろう。こいつらをまとめんなぁ、わけねぇが俺がこいつら雇って何やんだ? 海賊ぐれえしかあるめぇよ」

「いえいえ。あなた方は我々と違って海のプロフェッショナルでいらっしゃる。荒れる大波を乗り越える航海術。恵まれた体格を使って日々を逞しく生きていらっしゃる」

「まあ、海賊だからな」

「時に、海に出ている際のお食事はどのように? 長い航海では食料が底を尽きませんか?」

「木ノ実や動物の肉なんかはすぐに無くなるな。だが、海にいるんだから魚は取り放題だろうがよ」

「それは一匹一匹釣り上げるのですか?」

「はっ! バカか! んな事やってちゃ日が暮れちまうぜ。網放り込んで文字通り一網打尽よ」

「さすがは海のプロフェッショナル。優れた航海術と魚の捕獲法に長けていらっしゃる」

「で? それがなんだってんだ?」

「大陸では魚がほとんど捕れません。小さな川魚がちらほらといるだけで、そのほとんどがみんなの口には行き渡らないのです」

「…………」

「もしあなたが中心となり大海原へとでて、海で大量の魚達を捕まえてきてくれるのならば大陸の者達は喜んで金を差し出しその魚を買い求めるでしょう」

「…………」

「そうすればあなた方は命を危険に晒してまで略奪行為をする事なく、安定した収入を得る事が出来る」

「…………」

「これはあなた達にしかできない事なんです。お願いします。共に協力し合って生きていきましょう!」

「…………」

 そんな若者の言葉に海賊船の船長は黙考した後、こう言ったそうです。

「生きていく為とは言え略奪するその度に傷付き捕らえられていく仲間達を見るのは、たとえそいつと血が繋がっていなくても辛いもんだ。一番大切なのはーーーー仲間が傷付かねえ事だ」

 そうして若者は元海賊達と協力して港を造り発展させ、共に生きていく道を切り開いたのでした。






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