上 下
20 / 125
2章 お茶会

11 海のオーソリティ

しおりを挟む
「もう来ちゃったんですか……」

 彼の放った言葉の真意が掴めない偵察隊は彼を問いただした。彼こそが今、自分達の目の前で繰り広げられている異様な光景を作り上げた張本人なのだから。

 答えを急ぐあまりについつい声を荒げてしまいます。

「これはいったいどういう事なんだ⁉︎ 何が起きた⁉︎ あ、あいつらは……か、海賊だろう⁉︎」

 若者は苦笑いを浮かべて言います。
 
「あはは……元、ですけどね」

 その後、ゆっくり話を聞いてみると若者は半年前のあの日、この港へと訪れて海賊達相手にある質問をしたのだとか。

「あなた方はなぜ人から食料や金品を奪うのですか?」

 と、

 あまりに突飛で予想外で、そして答えの分かりきった質問に当時の海賊達のほとんどが大笑いしてこう言ったらしいのです。

「持ってねえから奪うんだ。そうしなきゃいけないから奪うんだ。んな事、当たり前だろ?」

「欲しいのなら買えばいいでしょう?」

「買うにしても金がねえ。だから奪う」

「お金がなければ働けばいいでしょう?」

「俺達みてぇなゴロツキを雇いたがる物好きがどこにいるってんだよぉ」

 そんな海賊の言葉に若者はしばらく思案顔をしていましたが、やがてこう言ったそうです。

「つかぬ事をお伺いしますが、あなたは海賊達を束ねているいわゆる海賊船の船長さんですか?」

「おおよ。泣く子も黙る大海賊、人呼んで海賊黒ひげ様よ」

「ふむ。ではあなたが雇う側になればいいのではありませんか?」

「あ? 俺が雇う側に?」

「ええ。ここにいる他の方達と同じ境遇で育ち、一番の良き理解者である。そして、信頼出来る唯一無二の存在。それがあなたで、それが雇い主だ」

「まあ、確かにこいつらとは血の繋がりもねえし、一番理解してやれんなあ同じ立場の人間だろうな。俺がこうして船長やってんのもそういったところがでかいだろう」

「だから、あなたなんです」

「だがお前、それはさすがに無理だろう。こいつらをまとめんなぁ、わけねぇが俺がこいつら雇って何やんだ? 海賊ぐれえしかあるめぇよ」

「いえいえ。あなた方は我々と違って海のプロフェッショナルでいらっしゃる。荒れる大波を乗り越える航海術。恵まれた体格を使って日々を逞しく生きていらっしゃる」

「まあ、海賊だからな」

「時に、海に出ている際のお食事はどのように? 長い航海では食料が底を尽きませんか?」

「木ノ実や動物の肉なんかはすぐに無くなるな。だが、海にいるんだから魚は取り放題だろうがよ」

「それは一匹一匹釣り上げるのですか?」

「はっ! バカか! んな事やってちゃ日が暮れちまうぜ。網放り込んで文字通り一網打尽よ」

「さすがは海のプロフェッショナル。優れた航海術と魚の捕獲法に長けていらっしゃる」

「で? それがなんだってんだ?」

「大陸では魚がほとんど捕れません。小さな川魚がちらほらといるだけで、そのほとんどがみんなの口には行き渡らないのです」

「…………」

「もしあなたが中心となり大海原へとでて、海で大量の魚達を捕まえてきてくれるのならば大陸の者達は喜んで金を差し出しその魚を買い求めるでしょう」

「…………」

「そうすればあなた方は命を危険に晒してまで略奪行為をする事なく、安定した収入を得る事が出来る」

「…………」

「これはあなた達にしかできない事なんです。お願いします。共に協力し合って生きていきましょう!」

「…………」

 そんな若者の言葉に海賊船の船長は黙考した後、こう言ったそうです。

「生きていく為とは言え略奪するその度に傷付き捕らえられていく仲間達を見るのは、たとえそいつと血が繋がっていなくても辛いもんだ。一番大切なのはーーーー仲間が傷付かねえ事だ」

 そうして若者は元海賊達と協力して港を造り発展させ、共に生きていく道を切り開いたのでした。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】冷酷な悪役令嬢の婚約破棄は終わらない

アイアイ
恋愛
華やかな舞踏会の喧騒が響く宮殿の大広間。その一角で、美しいドレスに身を包んだ少女が、冷ややかな笑みを浮かべていた。名はアリシア・ルミエール。彼女はこの国の公爵家の令嬢であり、社交界でも一際目立つ存在だった。 「また貴方ですか、アリシア様」 彼女の前に現れたのは、今宵の主役である王子、レオンハルト・アルベール。彼の瞳には、警戒の色が浮かんでいた。 「何かご用でしょうか?」 アリシアは優雅に頭を下げながらも、心の中で嘲笑っていた。自分が悪役令嬢としてこの場にいる理由は、まさにここから始まるのだ。 「レオンハルト王子、今夜は私とのダンスをお断りになるつもりですか?」

お姉様のお下がりはもう結構です。

ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
侯爵令嬢であるシャーロットには、双子の姉がいた。 慎ましやかなシャーロットとは違い、姉のアンジェリカは気に入ったモノは手に入れないと気が済まない強欲な性格の持ち主。気に入った男は家に囲い込み、毎日のように遊び呆けていた。 「王子と婚約したし、飼っていた男たちはもう要らないわ。だからシャーロットに譲ってあげる」 ある日シャーロットは、姉が屋敷で囲っていた四人の男たちを預かることになってしまう。 幼い頃から姉のお下がりをばかり受け取っていたシャーロットも、今回ばかりは怒りをあらわにする。 「お姉様、これはあんまりです!」 「これからわたくしは殿下の妻になるのよ? お古相手に構ってなんかいられないわよ」 ただでさえ今の侯爵家は経営難で家計は火の車。当主である父は姉を溺愛していて話を聞かず、シャーロットの味方になってくれる人間はいない。 しかも譲られた男たちの中にはシャーロットが一目惚れした人物もいて……。 「お前には従うが、心まで許すつもりはない」 しかしその人物であるリオンは家族を人質に取られ、侯爵家の一員であるシャーロットに激しい嫌悪感を示す。 だが姉とは正反対に真面目な彼女の生き方を見て、リオンの態度は次第に軟化していき……? 表紙:ノーコピーライトガール様より

嫌われ者の悪役令嬢の私ですが、殿下の心の声には愛されているみたいです。

深月カナメ
恋愛
婚約者のオルフレット殿下とメアリスさんが 抱き合う姿を目撃して倒れた後から。 私ことロレッテは殿下の心の声が聞こえる様になりました。 のんびり更新。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【 完結 】「婚約破棄」されましたので、恥ずかしいから帰っても良いですか?

しずもり
恋愛
ミレーヌはガルド国のシルフィード公爵令嬢で、この国の第一王子アルフリートの婚約者だ。いや、もう元婚約者なのかも知れない。 王立学園の卒業パーティーが始まる寸前で『婚約破棄』を宣言されてしまったからだ。アルフリートの隣にはピンクの髪の美少女を寄り添わせて、宣言されたその言葉にミレーヌが悲しむ事は無かった。それよりも彼女の心を占めていた感情はー。 恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい!! ミレーヌは恥ずかしかった。今すぐにでも気を失いたかった。 この国で、学園で、知っていなければならない、知っている筈のアレを、第一王子たちはいつ気付くのか。 孤軍奮闘のミレーヌと愉快な王子とお馬鹿さんたちのちょっと変わった断罪劇です。 なんちゃって異世界のお話です。 時代考証など皆無の緩い設定で、殆どを現代風の口調、言葉で書いています。 HOT2位 &人気ランキング 3位になりました。(2/24) 数ある作品の中で興味を持って下さりありがとうございました。 *国の名前をオレーヌからガルドに変更しました。

婚約者の座は譲って差し上げます、お幸せに

四季
恋愛
婚約者が見知らぬ女性と寄り添い合って歩いているところを目撃してしまった。

夫は帰ってこないので、別の人を愛することにしました。

ララ
恋愛
帰らない夫、悲しむ娘。 私の思い描いた幸せはそこにはなかった。 だから私は……

処理中です...