婚約破棄された男爵令嬢〜盤面のラブゲーム

清水花

文字の大きさ
上 下
17 / 125
2章 お茶会

8 大地の子

しおりを挟む
 木製の車輪が回ってカラカラカラと小気味のいい音色が鳴っています。

 私はこの音色が大好きで、お父様が言うには私がまだ赤ん坊の頃はこのカラカラカラという車輪の音色を聞かせると、それまでどれほど泣きじゃくっていてもすぐに泣き止み機嫌が良くなっていたらしいです。

 もちろん私にはそんな記憶はないのですが、この音色を聞いていると気持ちが落ち着くのは事実です。

 目を閉じて聞いていると眠ってしまう事もしばしば。

 なので、私にとってこの音はさながら子守唄のようなものなのでしょうね。

 どんなに心が乱れていても穏やかにその心を癒してくれる魔法の音色。

 魔法、ですか。

 恥ずかしながら、私も幼い頃は魔法使いになりたいとずっと思っていましたね。

 もちろん、絵本で読んだ悪い魔女のような魔法使いではなく、みんなを幸せに出来るような可愛い魔法使いにですが。

 でも、幼い頃のそんな夢は現実を知れば知るほど遠ざかっていって絶対に叶わないと知る。色々ケースは違えどみなさんも当然、経験済みの事でしょうが。

 しかしそれでも魔法と呼べるものなのかは分かりませんが、呪術だとか呪いだとかいう恐ろしい不思議な力は本当にあるらしく、大昔にその力を使って王国を支配しようとした貴族もいたようです。なので絵本に出てきた悪い魔女はその貴族をモチーフにして作られたのだとかなんとか。

 もう何が本当で何が偽物なのか、魔法はあるのかないのか、分からなくなってしまいますね。

 それでも、たった15年という浅い経験と知識しかない私が出す答えは、魔法なんてないです。

 それくらいの常識は持ち合わせています。悪い貴族と魔女なんて、きっと幼い子供に言い聞かせるためのおとぎ話です。

 そんな事をつらつらと考えているうちに、馬車の揺れが次第に小さくなってきました。

 ポーンドット男爵領とダグラス子爵領を抜けてギネス伯爵領へと入ったと言う事でしょうか。そうなればニルヴァーナ公爵領ももうすぐですね。

 窓の外に視線をおくるとずっと続いていたのどかな畑の景色から一変して、木々が鬱蒼と生い茂る広大な森が辺り一面に広がっています。

 ギネス伯爵が治める領地にはとても巨大な森があって、その広さは領地の約八割を占めるほどとも言われています。そんな巨大な森の中で育った鳥獣類の狩猟が日頃から盛んに行われており、このチェスター王国に豊富な食材を送り届けています。

 また、狩猟で培った弓矢の腕前は他の追随を決して許さず、ギネス伯爵の次男さんを筆頭にした平民の方々を含めた数百人からなる大規模な狩猟集団はギネスの矢とも呼ばれ他国にもその名を轟かせています。

 逆に私達のポーンドット男爵領とお隣のダグラス子爵領では負けず劣らずの広大な畑が広がっていて、畑で採れる穀物やお野菜などを国中に届けています。

 しかしながら残念な事に、我々ポーンドット男爵領に住む人達はギネスの矢みたいな素敵な異名ではなく皮肉のこもった、大地の子と呼ばれる事もしばしば。

 大地の子、と聞けば大地から恵みを授かり大地と共に生きている。みたいな大層な印象を受けますがその実は、泥まみれの子供と言う意味合いで、つまり泥にまみれて生きている取るに足らない存在というものです。

 地面に這いつくばって、泥にまみれて、卑しく天を仰ぎ見ている。

 そうしなければ生きていけないほど脆弱な存在。

 それがーーーー私達。

 まあ、そんな事を言っているのは本当に一部の貴族の方々であって、目に見えるような酷い差別があるわけでもありませんからあまり気にはしていません。

 それに、ここギネス領に住む人達も僅かですが畑で野菜などを育てていますし。規模は違えど結局私達と同じ事をしているんです。

 なのに私達だけが大地の子と皮肉を言われる。

 同じなのにまるで別物扱い。ようするに権力による偏見ですね。きっと。

 偉い人がやっているから高尚だとか、低い身分の人がやっているから低俗だとか、そんな根拠も何もないそんな話。

 どうしてそんなに他人と比べたがるのでしょうか……。

 私にはよく理解出来ません。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。

玖保ひかる
恋愛
[完結] 北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。 ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。 アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。 森に捨てられてしまったのだ。 南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。 苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。 ※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。 ※完結しました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

誰もがその聖女はニセモノだと気づいたが、これでも本人はうまく騙せているつもり。

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・クズ聖女・ざまぁ系・溺愛系・ハピエン】 グルーバー公爵家のリーアンナは王太子の元婚約者。 「元」というのは、いきなり「聖女」が現れて王太子の婚約者が変更になったからだ。 リーアンナは絶望したけれど、しかしすぐに受け入れた。 気になる男性が現れたので。 そんなリーアンナが慎ましやかな日々を送っていたある日、リーアンナの気になる男性が王宮で刺されてしまう。 命は取り留めたものの、どうやらこの傷害事件には「聖女」が関わっているもよう。 できるだけ「聖女」とは関わりたくなかったリーアンナだったが、刺された彼が心配で居ても立っても居られない。 リーアンナは、これまで隠していた能力を使って事件を明らかにしていく。 しかし、事件に首を突っ込んだリーアンナは、事件解決のために幼馴染の公爵令息にむりやり婚約を結ばされてしまい――? クズ聖女を書きたくて、こんな話になりました(笑) いろいろゆるゆるかとは思いますが、よろしくお願いいたします! 他サイト様にも投稿しています。

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

処理中です...