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2章 お茶会
3 印章
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口へと運ばれた貴婦人は私から言葉を奪いました。
ドレスの裾が優しく私の舌を包み込み、濃厚で芳醇な甘みをもたらしました。ねっとりとしなやかに絡みつくドレスは簡単には私の舌を離してはくれません。そうしていつのまにか口いっぱいに広がった貴婦人に私の心はもう完全に鷲掴みにされてしまいました。
もはやメロメロです。
ですが、私を魅了し虜にした貴婦人はあれだけねっとりと私の舌に絡みつき決して離そうとはしてくれなかったのに、最後は鼻孔の奥を優しく撫で別れの言葉のような微かな残り香を残しあっけなく消えていってしまいました。
貴婦人の消えた私の口内はまるで主役のいない舞台のようで、妙な物悲しさだけが違和感となって延々と広がっています。
こうなってしまうともはや手遅れで、私は急いで新たな貴婦人を口内へと迎え入れ舞台に華を咲かせます。
途端に広がる魅力の華。
魅了され、虜にされ、骨抜きにされ、
そしてーーーーすぐに散ってしまう儚い華。
私もいつかそんな女性になりたいです。
そんな事を考えながら食べているうちに、すっかりお腹いっぱいになってしまいました。少し食べすぎてしまったかもしれません。
私がお水のグラスを傾けているとマイヤーさんが側へと近寄ってきて声を掛けてきました。
「いかがでしたか? お嬢様」
マイヤーさんはポーチドエッグの味の感想を聞いているのに、私ときたらまだ自分の世界に浸っていたのでヘンテコな回答をしてしまいました。
「まるで王妃様のようでとても美しかったです」
「王妃様?」
と、マイヤーさんは当然の反応を見せます。
「ああ、いえ。美味しいを通り越して美しい、それも王妃様のように気品漂う美しさだったなって……」
「それは良かった。ランドもきっと喜ぶ事でしょう」
「近いうちに、またぜひ」
「しっかりとランドに伝えておきます」
「お願いします。ご馳走さまでした」
大満足の私は席を立ち、自室に戻ってお勉強をする事にしました。
様々な本が並べられた本棚から数冊の本を取り出して机に向かいます。
しかし、お勉強を始めるとすぐに眠気が襲ってきました。やはり少し寝不足のようです。でも、寝ている場合ではありません。しっかりとお勉強しないと。
私がまぶたを擦りながら悪戦苦闘していると、部屋のドアがノックされました。
控えめな弱気のノックです。
「ーーーーはい」
「お嬢様、アンナです。お嬢様にお手紙が届いています」
ドアの向こうから聞こえてきたそんな言葉に、私が部屋のドアを開けるとアンナが両手に白い綺麗な封筒を持って立っていました。
封筒にはニルヴァーナ公爵様の印章がくっきりと押してあって、それを見ただけで背筋がぴんっと伸びる思いで眠気も吹き飛んでしまいました。
私は慎重にその手紙を受け取ると、すぐさま裏面を見て自分の名前が書いてあることに内心肩を落としました。
もしかしたら私ではない他の誰かに宛てられた手紙かもしれないと思って確認したのですが、そもそもアンナが私のもとに届けに来た時点でもうそんな可能性はあるはずないんですけどね。
しかしそれでも、この手紙が何かの間違いで私の手元に届いてしまった。という可能性はどうやっても捨てきれないものでした。
夢であってほしい。
間違いであってほしい。
つい、そう思ってしまうくらい強い影響力を持った手紙。いえーーーー印章と言った方が正確ですね。
ニルヴァーナ公爵様。
昨日行われた大規模なお茶会の会場となったアヴァドニア公爵様ほど絶大な力を持ってはいませんが、ニルヴァーナ公爵様もやはり私達ポーンドット男爵家からしてみれば雲の上の存在である事は間違い無いわけで……。
そんな高貴なお家柄から送られてくる手紙という物は、たとえどんな内容が書かれているにしても間違いなく自身を取り巻く環境が慌ただしくなる事は明白なので、あまりお目にかかりたい物ではないのです。
ドレスの裾が優しく私の舌を包み込み、濃厚で芳醇な甘みをもたらしました。ねっとりとしなやかに絡みつくドレスは簡単には私の舌を離してはくれません。そうしていつのまにか口いっぱいに広がった貴婦人に私の心はもう完全に鷲掴みにされてしまいました。
もはやメロメロです。
ですが、私を魅了し虜にした貴婦人はあれだけねっとりと私の舌に絡みつき決して離そうとはしてくれなかったのに、最後は鼻孔の奥を優しく撫で別れの言葉のような微かな残り香を残しあっけなく消えていってしまいました。
貴婦人の消えた私の口内はまるで主役のいない舞台のようで、妙な物悲しさだけが違和感となって延々と広がっています。
こうなってしまうともはや手遅れで、私は急いで新たな貴婦人を口内へと迎え入れ舞台に華を咲かせます。
途端に広がる魅力の華。
魅了され、虜にされ、骨抜きにされ、
そしてーーーーすぐに散ってしまう儚い華。
私もいつかそんな女性になりたいです。
そんな事を考えながら食べているうちに、すっかりお腹いっぱいになってしまいました。少し食べすぎてしまったかもしれません。
私がお水のグラスを傾けているとマイヤーさんが側へと近寄ってきて声を掛けてきました。
「いかがでしたか? お嬢様」
マイヤーさんはポーチドエッグの味の感想を聞いているのに、私ときたらまだ自分の世界に浸っていたのでヘンテコな回答をしてしまいました。
「まるで王妃様のようでとても美しかったです」
「王妃様?」
と、マイヤーさんは当然の反応を見せます。
「ああ、いえ。美味しいを通り越して美しい、それも王妃様のように気品漂う美しさだったなって……」
「それは良かった。ランドもきっと喜ぶ事でしょう」
「近いうちに、またぜひ」
「しっかりとランドに伝えておきます」
「お願いします。ご馳走さまでした」
大満足の私は席を立ち、自室に戻ってお勉強をする事にしました。
様々な本が並べられた本棚から数冊の本を取り出して机に向かいます。
しかし、お勉強を始めるとすぐに眠気が襲ってきました。やはり少し寝不足のようです。でも、寝ている場合ではありません。しっかりとお勉強しないと。
私がまぶたを擦りながら悪戦苦闘していると、部屋のドアがノックされました。
控えめな弱気のノックです。
「ーーーーはい」
「お嬢様、アンナです。お嬢様にお手紙が届いています」
ドアの向こうから聞こえてきたそんな言葉に、私が部屋のドアを開けるとアンナが両手に白い綺麗な封筒を持って立っていました。
封筒にはニルヴァーナ公爵様の印章がくっきりと押してあって、それを見ただけで背筋がぴんっと伸びる思いで眠気も吹き飛んでしまいました。
私は慎重にその手紙を受け取ると、すぐさま裏面を見て自分の名前が書いてあることに内心肩を落としました。
もしかしたら私ではない他の誰かに宛てられた手紙かもしれないと思って確認したのですが、そもそもアンナが私のもとに届けに来た時点でもうそんな可能性はあるはずないんですけどね。
しかしそれでも、この手紙が何かの間違いで私の手元に届いてしまった。という可能性はどうやっても捨てきれないものでした。
夢であってほしい。
間違いであってほしい。
つい、そう思ってしまうくらい強い影響力を持った手紙。いえーーーー印章と言った方が正確ですね。
ニルヴァーナ公爵様。
昨日行われた大規模なお茶会の会場となったアヴァドニア公爵様ほど絶大な力を持ってはいませんが、ニルヴァーナ公爵様もやはり私達ポーンドット男爵家からしてみれば雲の上の存在である事は間違い無いわけで……。
そんな高貴なお家柄から送られてくる手紙という物は、たとえどんな内容が書かれているにしても間違いなく自身を取り巻く環境が慌ただしくなる事は明白なので、あまりお目にかかりたい物ではないのです。
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