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1章 婚約破棄
7 ワインの赤
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夕食の時間です。
私とお父様は四人掛けのテーブルを贅沢に二人だけで囲みます。
とは言っても当然、昔から二人きりだった訳ではありません。私がまだ幼い頃はお父様の隣にお母様がいらっしゃっていつも笑顔で今日私が何をしたのだとか、明日は一緒にどこに行こうだとか、そこで何をして遊びましょうだとか色々なことを話しながら楽しく食卓を囲んでいました。もちろんお話だけではなく正しく美しいテーブルマナーも教えて頂きました。
そして後数ヶ月も経てば待望の弟か妹が産まれて、そのうち私の横の席に座るようになって、ポーンドット家の食卓は更に賑やかで楽しいものになる筈でした。
ですが、当時多くの死者を出した流行り病のせいでお母様とお腹の子は命を失いました。
それからですね。このテーブルを二人で囲むようになったのは。
「…………」
「…………」
そんな広々とした寂しささえ感じてしまうテーブルの上には、給仕の方達が手際よく並べてくれたおかげで早くも美味しそうな料理がたくさんです。
とはいえアヴァドニア公爵家で頂いたような豪華な食事と違って、一般的な家庭で出されるような普通の食事内容ですがどれもこれも良い香りが立ち込めていてついつい食欲が刺激されてしまいます。そこはやはりポーンドット家のコックさんであるランドさんの手腕が光りますね。
それに豪華な食事も良いのですが食事に本当に必要なのは豪華さではなく、味と栄養ですからね。私はそう思います。
「…………」
「…………」
さて、お茶会から戻って数時間経ちますがお父様の表情は未だ暗くやはり元気がありませんし会話は全く弾みません。
ポーンドット家の食卓は普段からあまり賑やかなものではありませんが、今日の食卓ほど静まりかえってはいません。
たいていお父様がどことどこの家が婚約を発表しただとか、私達よりも高位な貴族の令息が婚約相手を探しているだなんて話をしてくるので、今みたいにずっと無言で食べ進めるなんて事はまずありません。
こんなにも静まりかえった食卓では、咀嚼するのもなんだか憚られてしまって食事もうまく喉を通りません。
私が食卓を包む重苦しい空気感に苛まれていると、明らかに緊張した様子のアンナがお父様のワインを注ぎ足しにやってきました。
私の真正面、顔の引きつったアンナが震える手でお父様のグラスにボトルを近づけます。
すると、ボトルを早く傾けすぎたせいでワインが勢いよく流れ出し、飛び散った数滴の赤がテーブルクロスを鮮やかに染めました。
「ーーーーあっ」
アンナは肩をビクつかせ凍り付いたように固まったまま、ワインが染めた赤を凝視しています。
ですが次の瞬間、透明の液体が勢いよくテーブルに広がりその赤は次第に輪郭を歪め鮮やかな鮮紅色はもはや見る影もないくらいにぼんやりと薄れていきました。
そう、私がついうっかりとお水の入ったグラスを倒してしまったのです。
「ーーーーあっ! ごめんなさい! 考え事をしていたので、ついうっかり……アンナ、ごめんなさいね。拭いてくださる?」
「あっ、えっ、はっ、はいっ! すぐに!」
アンナは手際よく私の零したお水を処理してくれました。そしてその事で、なんとなくですがさっきまでの重苦しい空気感も払拭されたようで、その後はいつものようにリラックスして食事を続ける事が出来ました。
食事を終えた私は自室へと戻ります。
私とお父様は四人掛けのテーブルを贅沢に二人だけで囲みます。
とは言っても当然、昔から二人きりだった訳ではありません。私がまだ幼い頃はお父様の隣にお母様がいらっしゃっていつも笑顔で今日私が何をしたのだとか、明日は一緒にどこに行こうだとか、そこで何をして遊びましょうだとか色々なことを話しながら楽しく食卓を囲んでいました。もちろんお話だけではなく正しく美しいテーブルマナーも教えて頂きました。
そして後数ヶ月も経てば待望の弟か妹が産まれて、そのうち私の横の席に座るようになって、ポーンドット家の食卓は更に賑やかで楽しいものになる筈でした。
ですが、当時多くの死者を出した流行り病のせいでお母様とお腹の子は命を失いました。
それからですね。このテーブルを二人で囲むようになったのは。
「…………」
「…………」
そんな広々とした寂しささえ感じてしまうテーブルの上には、給仕の方達が手際よく並べてくれたおかげで早くも美味しそうな料理がたくさんです。
とはいえアヴァドニア公爵家で頂いたような豪華な食事と違って、一般的な家庭で出されるような普通の食事内容ですがどれもこれも良い香りが立ち込めていてついつい食欲が刺激されてしまいます。そこはやはりポーンドット家のコックさんであるランドさんの手腕が光りますね。
それに豪華な食事も良いのですが食事に本当に必要なのは豪華さではなく、味と栄養ですからね。私はそう思います。
「…………」
「…………」
さて、お茶会から戻って数時間経ちますがお父様の表情は未だ暗くやはり元気がありませんし会話は全く弾みません。
ポーンドット家の食卓は普段からあまり賑やかなものではありませんが、今日の食卓ほど静まりかえってはいません。
たいていお父様がどことどこの家が婚約を発表しただとか、私達よりも高位な貴族の令息が婚約相手を探しているだなんて話をしてくるので、今みたいにずっと無言で食べ進めるなんて事はまずありません。
こんなにも静まりかえった食卓では、咀嚼するのもなんだか憚られてしまって食事もうまく喉を通りません。
私が食卓を包む重苦しい空気感に苛まれていると、明らかに緊張した様子のアンナがお父様のワインを注ぎ足しにやってきました。
私の真正面、顔の引きつったアンナが震える手でお父様のグラスにボトルを近づけます。
すると、ボトルを早く傾けすぎたせいでワインが勢いよく流れ出し、飛び散った数滴の赤がテーブルクロスを鮮やかに染めました。
「ーーーーあっ」
アンナは肩をビクつかせ凍り付いたように固まったまま、ワインが染めた赤を凝視しています。
ですが次の瞬間、透明の液体が勢いよくテーブルに広がりその赤は次第に輪郭を歪め鮮やかな鮮紅色はもはや見る影もないくらいにぼんやりと薄れていきました。
そう、私がついうっかりとお水の入ったグラスを倒してしまったのです。
「ーーーーあっ! ごめんなさい! 考え事をしていたので、ついうっかり……アンナ、ごめんなさいね。拭いてくださる?」
「あっ、えっ、はっ、はいっ! すぐに!」
アンナは手際よく私の零したお水を処理してくれました。そしてその事で、なんとなくですがさっきまでの重苦しい空気感も払拭されたようで、その後はいつものようにリラックスして食事を続ける事が出来ました。
食事を終えた私は自室へと戻ります。
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